雪の軌跡   作:玻璃

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そんな理屈通らないやい!という突っ込みはナシでお願いします。

では、どうぞ。


クロスベル独立宣言の無効宣言、そして。(S.1204/12/20)

ストレイは、タングラム丘陵にある装置を利用してクロスベル市内へと通信を繋いでいた。

ロイド達は仮眠室に軟禁され、便宜上男が寝ている仮眠室の前にはレオンハルトが、女が寝ている仮眠室の前にはカリンがスタンバイしていた。

ただし、通信を繋ぐためにティオとレンだけはブリッジにいることを赦された。

マクダエル元議長も同じである。

これから行うことのために、彼は相手方に映るモニターによく映る位置に座っていた。

「準備は良いわね?」

レンが、全員に声を掛けた。

その場にいる全員は首肯した。

それを見て、ティオとレンはクロスベル市内へと通信を繋いだ。

そして、マクダエル元議長が話し始めた。

 

「皆さん、お久し振りです。私はヘンリー・マクダエル議長です。本日は皆さんにお話ししたいことがあってある方に協力を賜りました。」

 

クロスベル市内では、国防軍が設置したモニターからその映像が流れていた。

無論、それ以外にも導力ラジオやありとあらゆる端末にその映像はうつった。

映像の中のマクダエル元議長は続ける。

 

『まずは、私が姿を見せなかったことで不安を感じられた方がいらっしゃることと思います。クロスベル自治州から独立国になるという宣言の際、私は姿を見せられない状況にあったのです。』

 

映像から流れる声でも、彼の声はよく通った。

クロスベルの人間にはなじみ深い、誠実な彼の声はクロスベルに住む住民たちの心に響いていく。

 

『当時、私は不当な手段により軟禁されておりました。元来、クロスベルは合議制で成り立ってきたにもかかわらず、クロイス市長はそれを無視して独立宣言を行ったのです。』

 

クロスベルの住民の中には、それを薄々感じていたものが多かった。

いつだってマクダエル元議長は住民の前に姿を現してきていた。

不祥事があった時も、喜ぶべきことがあった時も。

なのに、独立宣言の際は全くと言っていいほど姿が見られなかったのだ。

だからこそ、マクダエル元議長に何かあったのでは、という不安が住民の間で広がっていた。

 

『よって、合議制に基づけば私が合意しない以上は独立宣言は無効であると宣言できます!』

 

その言葉は、驚き半分、困惑半分で受け入れられた。

今更そんなことを言ったとしても、クロスベルは独立しなければならないのだ。

帝国にも共和国にも脅かされないようにしなければ、また『不幸な事故』が起こりかねない。

そんなクロスベル市民の内心をよそに、マクダエル元議長は続けた。

 

『クロイス市長…いえ、敢えてクロイス大統領とお呼びしましょう。彼はあの後、とある少女に目を付けました。』

 

そこで、オルキスタワーでこの演説を聞いていたディーターは眉をひそめた。

キーアのことについては、マクダエル元議長は知らないはずだったのだ。

つまり、誰かが入れ知恵をした。

それは、彼の背後に映っている仮面の人物が関わっていると直感した。

 

『その少女は、太古の昔クロスベルをおさめていた女帝の子孫だということになっていたのです。あくまでも、彼らの中では。彼らはいずれ彼女を擁立してクロスベルという国を作り上げてしまうでしょう。』

 

マリアベルは嫌な予感を止められなかった。

ここまでマクダエル元議長が知っているわけがない。

何故彼が知っているのだ。

確かにマリアベルは今後キーアの力を旗頭にして世界を支配するつもりだった。

未だクロスベルの住民はそのことについては知らないはずなのだ。

なのに、何故。

はやる気持ちを抑えるマリアベルは、この放送の停止を命じられずにいた。

 

『しかし、それは大きな間違いと言わざるを得ません。彼らは女帝の子孫の誘拐を知りながら探そうともせず、どこの馬の骨とも知れない娘を保護して子孫であると宣言したのです。』

 

「ねえ、面白い作り話じゃない?パパ。」

「さて、どうかな。」

オルキスタワーのとある一室では、シグムントとシャーリィがそんな会話をしていた。

シャーリィは兎も角、シグムントはこの話が作り話であるとはどうしても思えなかった。

 

『そして、その女帝の子孫はどうにか生き延びてここにいます。』

 

そして、映像の中のマクダエル元議長は椅子から立ち上がり、ゆっくりと歩いて立ち位置をストレイと代わった。

ストレイの背後には椅子があったため、マクダエル元議長はそこに座って待機する。

そして、ストレイは話し始めた。

 

『お初にお目にかかる。わたしは先ほどマクダエル議長から話があった女帝の子孫だ。』

 

住民の多くは、仮面をかぶった胡散臭い人物を眉をひそめて見た。

そこにいたのはいかにも怪しい人物だったからだ。

その人物はそのまま演説を始めた。

 

『あなたたちはこれまで、散々エレボニア帝国とカルバード共和国の両国のいざこざで虐げられてきたことと思う。属国として、わたしたちは搾り取られるだけの存在だったのだ。』

 

そのことについてはディーターからも聞いた。

というよりも、そちらの方が詳しく話してくれた。

だから、何が話したいのか彼らには分からなかった。

 

『だが、考えてもみてほしい。今の、ディーター・クロイスの治めるクロスベルと以前のクロスベル、一体何が違う?』

 

その言葉に、アリオスは眉をひそめた。

何もかもが違うではないか。

そう思った。

しかし、目の前の人物はそれを否定した。

 

『クロスベル市外にいる住民たちは今、クロスベル市に入ることが出来ない。クロスベル市にいる人間は、クロスベル市外に出ることが出来ない。そのせいで害をこうむった人間がどれだけいると思う…?』

 

その言葉に、クロスベル市内にいた人間は思い当たることがあるかのように複雑な顔をした。

もしも、自分が今ここで風邪を引いたら?

もしも、マインツなどで誰かが怪我をしたら?

この場所が謎の結界で封じられている以上、ウルスラ医大に行くすべはないのだ。

あの結界は、一般市民を通しはしない。

通すのは国防軍だけだったのだ。

 

『そう、いつだってクロスベルの住民たちは形は違えど自由を奪われてきたのだ。』

 

確かにそうだった。

クロスベルの住民はいつも何かしら自由を奪われていたのだ。

地下にもぐっているクロスベル警察の刑事たちは歯噛みした。

いつだって、泣きを見るのはクロスベルの人間だけだった。

帝国や共和国の人間は罰せられることは少なかったのだ。

その状況に歯噛みしてきたのを、刑事たちは自覚していた。

 

『だからと言って、帝国民や共和国民の財産の自由を奪うのも間違っている。これまで割を食ったのだからと復讐をしていれば、最後には泥沼の戦争が残るだけだ。』

 

そして、ストレイは息を吸った。

マクダエル元議長には見えていた。

ストレイの手が震えている。

それは、怒りのためではないと何となくわかった。

 

「だから、わたしは提案したい。憎み合うのではなく、手を取り合う未来を。対等な立場で、過去の遺恨はあれども関係を修復する道を。今のわたしたちから、未来の子供達のために。これまでにとある女を通して見て来た、世の中の闇に呑まれないような国を!」

 

ストレイは言いながら仮面に手を掛けた。

そして、一気に取り払う。

 

「わたしは、ここにクロスベル中立国の建国を提案する!」

 

「なっ…」

軟禁された部屋で、ロイドは思わず立ち上がっていた。

まさか、ここでこんなことを宣言するとは思っても見なかったからだ。

しかも、彼女が。

ロイドは扉に駆け寄ろうとするが、扉は固く閉ざされたままだった。

 

「改めて名乗ろう。わたしは太古の昔、クロスベルを治めし《虚なる神(デミウルゴス)》の娘、《愚かなる偽神(アルコーン)》。」

 

「開けて下さい!開けて…!」

リーシャは扉を砕けんばかりにたたいた。

どうして。

何故。

何が起きたのか。

それを全て彼女から説明して貰わなければ。

そんな焦燥に駆られていた。

だが、扉は開かない。

硬くロックされた扉は、リーシャの前に立ちはだかっていた。

 

「今しばらく辛抱してほしい、クロスベルの民よ。わたしは、あなたたちをその場所から解放することを確約する!」

 

わあっ、とクロスベル市内が湧いた。

そんな中で、苦虫をかみつぶしたかのような顔をした人物は驚くほどに少なかったという。

その後、ストレイはマクダエル元議長とともにディーターが犯した罪を次々と暴露していった。

それに耳を傾けないものは、いなかった。

 




次回は修羅場です。

では、また。

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