雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
ノエルが合流して数日後。
未だエリィの救出には至っていないものの、作戦を練るためとろくに戦闘をしていない特務支援課のために時間が取られた。
特務支援課とリーシャはカリンとレオンハルトに交互に扱かれている。
なお、この間にツァイトが人語を介することがばれて大騒ぎになったのは完全に余談である。
ストレイはメルカバをウルスラ医大へと向かわせ、同時にウルスラ間道で居座っている幻獣みっしぃに国防軍を通さないように命令した。
完全に扱かれて疲れ果てているロイド達を休憩させるべく、ストレイは彼らを連れてウルスラ医大へと向かった。
すると、門の前でイリアが待ち構えていた。
「あ…」
「リーシャ。…取り敢えず、無事で良かったわ。今度時間がある時にたっぷり説教してあげるから、覚悟しておきなさいよ?」
「…はい。イリアさんも…無事で良かったです。」
そう言いながら、リーシャは自分からイリアに抱き着いた。
ランディは心の中で興奮したとか。
リーシャはひとしきり感動の再会を終わらせると、イリアと《アルカンシェル》の団員全員に心配をかけたことを謝罪すると約束した。
そのために、出来ることは何でもやる、とも。
イリアはそんなリーシャに苦笑しながら無茶だけはしないのよ、と釘を刺していた。
イリアとリーシャを放置して、ノエルはフランに会いに駆けた。
ノエルもフランと感動の再会を果たし、こっそりとロイドにアタックしちゃえ!と吹き込まれていた。
そして、ロイド達はつかの間の息抜きと訓練を終えたのだった。
◆◇◆
そして、数日間のレオンハルト達の地獄の特訓を生き抜いたロイド達は、メルカバでミシュラム近郊へと来ていた。
「では、作戦を確認する。」
ストレイはそう宣言した。
それに応えて、ロイドは告げた。
「俺とランディ、ノエルはビーチから強襲。」
「我は正面玄関で真の姿をさらして陽動を行う。」
ロイドの次に発言したのはツァイトである。
一番危険な陽動をツァイトは買って出ていた。
鉛玉をいくら打ち込まれようが、ツァイトならば防げるからである。
次に発言したのはティータだった。
「私とレンちゃんとティオさんは衛星さんに指令を送って《赤い星座》の撃墜です!」
「で、俺とレーヴェはメルカバの警護、と。」
ティータに続いてアガットが少し面白くなさそうにそう言った。
出来れば突入したかったのだが、ストレイが止めたのだ。
突入部隊に入れば依頼主から何をされるか分からないぞ、という脅し込みで。
アガットは自分から死地に足を踏み入れる気は失せたので大人しくメルカバの警護に着いた。
最後にストレイが発言した。
「そして、わたしとリーシャ、カリンは事前に潜入。テーマパーク方面からの強襲を行う。」
それが作戦だった。
作戦とも呼べないだろうが、それでも可能性は上がるだろう。
直接迎賓館からエリィ達を救出することが不可能な以上、彼らには自分で歩いてビーチまで出て貰わなければならないのだから。
ストレイ達は一端街道に降り立ち、泳いでテーマパークへの潜入を果たす。
そして、ツァイトが降り立って咆哮した。
それを合図に、ストレイ達は動き始めた。
テーマパーク内の敵は既に気絶して観覧車に詰めてある。
あまりの手際の良さにリーシャは絶句していたが。
テーマパーク内からストレイ達はホテル方面へと潜入を果たした。
柱の陰に隠れ、反対側から現れたノエルが《赤い星座》に銃口を向けた瞬間。
ストレイは目に見えぬ速さで発砲し、導力銃を懐へとしまった。
そして、槍を取り出して挟撃を開始した。
「おい、玄関に行った奴らを呼び戻せ!あっちは囮だ!」
そこで猟兵の一人がこちらの目的に気付いた。
玄関にほど近い猟兵にそう命じるが、もう時すでに遅し。
「行かせません!」
ノエルの発砲でそれを伝えに行こうとした猟兵は足を撃ちぬかれた。
数十分後。
その場にいた《赤い星座》は一掃された。
念のためにストレイは全員を縛り、テーマパーク内に運び込んでおいた。
そして、リーシャとカリンにロイド達を追うように命じ、ストレイは正面玄関の方へと向かった。
ストレイが正面玄関から出た瞬間。
「うわああああああっ!?」
「な、な…」
「あ、悪夢だあああああっ!?」
空から一条の光が降り注いだ。
それは幾度も降り注ぎ、猟兵達にではなく猟兵達所有の飛空艇だけを過たず破壊していった。
ストレイは苦笑しながら猟兵達の無力化を進めた。
突然の背後からの強襲に、猟兵達は恐慌状態に陥った。
前門のツァイト(巨大バージョン)。
後門のストレイ。
そして、上空の衛星。
彼らに逃げ道は残されていなかった。
実際に衛星は彼ら自身を狙うことはなかったのだが、気休めにもならない。
ストレイが槍を薙ぐたびに猟兵は吹き飛ばされ、ツァイトが足で薙ぐたびに猟兵は水面へと落下していった。
そして、ある程度数が減ったころ。
ストレイの背後をマクダエル元議長を担いだランディが通り過ぎて行った。
少し間をおいて、何故かロイドにお姫様抱っこされたエリィも。
そこからは猟兵達の無力化にリーシャとカリンも加わり、その場にいた《赤い星座》は全て無力化された。
そんな彼らをミシュラムに放置して、ストレイ達はメルカバへと戻った。
すると、意外としっかりしているらしいマクダエル元議長がストレイに話しかけた。
「…久し振りだね、ストレイ卿。」
「ああ、思ったよりも壮健そうで何よりだ、マクダエル元議長。ご令孫はお元気そうではないが。」
「…まだ、心の整理がついていないのだろう。私もとても驚いたよ。てっきり彼女が君だと思っていたものでね。」
マクダエル元議長の言葉に、ストレイは内心焦っていた。
まさか、そんなことを考えていたとは思いもしなかったのだ。
「まさか。…それで、マクダエル元議長。以前話した通り協力してくれるか?」
「ああ。私もディーター君の気持ちも分かるんだ。クロスベルは他国に任せられないという意見は分かる。…だが、これ以上火種を大きくしてしまうと戦争が起こりかねないだろう。君に任せきりになってしまうのも申し訳ないから、出来る限りの協力はしよう。」
「…感謝する。決行は明日になる。ゆっくり休んでくれ。」
ストレイは感謝の意を込めてマクダエル元議長に礼をした。
マクダエル元議長はカリンによって仮眠室へと案内されていった。
そこで、ロイドが口を挟んだ。
「あの、ストレイ卿…何をする気なんですか?」
「少なくとも明日には分かる。お前が疑問に思っていることも全てな。」
「…そう、ですか。」
ロイドは複雑な顔でストレイを見た。
ストレイは小さく溜息を吐いてこう告げた。
「さて、ロイド・バニングス。明日は少しばかり忙しくなるだろうから早目に寝ておけ。」
「は、はあ…」
そして、ロイド達は夕食を取った後に早めに就寝したのだった。
次回は穴だらけの演説回です。
では、また。