雪の軌跡   作:玻璃

251 / 269
九州で地震に遭われた方のご無事をお祈りしています。
残念ながらお亡くなりになられた方はご冥福をお祈りしています。


※完全には貰われません。
那由多のタグはこのためにあったのだ。

では、どうぞ。


君を、貰う。(S.1204/12/13)

数日後。

ストレイは降下地点が見つかるまでに帝国に潜入しているメルから報告を受け取り、ようやく味方が全員集まったとの報告を受けた。

「そうか…では、数日後にそちらのカレイジャス艦長代理とやらと会談がしたい。それとなく持ちかけておいてくれるか?」

『分かりました、ストレイ卿。…では。』

メルはそう答えると慌てたように通信を切った。

その後、ストレイは降下地点の割り出しを再開した。

というのも、ロイドがやはりノエルを説得したいというのでベルガード門方面へと降りられる地点を探していたのだ。

ソーニャに話をつけるだけならば簡単なのだが、ノエル個人に、となるとどうしてもベルガード門に潜入する必要があった。

ソーニャはストレイの提案に首を縦に振った1人で、協力関係にはあるのだ。

無論秘密裏に、ではあるが。

今回はロイドとティオ、ランディ、リーシャのみが降下して潜入する予定である。

その作戦のために一日要し、そして。

ストレイはロイド達が出発したのを見届けてソーニャにある要請をした。

ノエルに地下で警備をさせ、なにがあろうと持ち場を離れさせないように、と。

その連絡が終わった後、ストレイは1人降下して幻獣を生み出した。

出来上がったのは、人間型の幻獣だった。

…全長5アージュ程の。

「じゃあ、行ってくるの!」

そう言って彼女はすべるようにベルガード門へと移動していった。

その陰に隠れてストレイはメルカバへと戻った。

そして、帝国にあるはずの《カレイジャズ》に通信を入れた。

「カレイジャスの諸君、初めまして。わたしはクロスベル駐在中の巡回神父ストレイだ。」

『初めまして、私はカレイジャス艦長代理のトワ・ハーシェルです。まだ会談の申し入れにはお返事をさせて頂いていないと思うんですが…』

通信先に立つのは、ロイド達とさほど年も変わらない少女だった。

トワの言葉にストレイは苦笑しながら返した。

「済まない、何分急を要するのでね。情報の伝達と要請があって連絡させて頂いた。」

そのストレイの言葉を聞いてトワは内心で眉をひそめた。

何故、今クロスベルから通信ができるのかはともかく、クロスベルからトワ達に伝えるべき情報があるとも思えなかったからだ。

ストレイはトワの内心を鑑みることなくこう告げた。

「《鉄血宰相》の残滓が帝国に仇なすべく動き始めている。」

それを聞いて、カレイジャスのブリッジにいた人間達は動揺した。

クロスベルにいて《鉄血宰相》の動向を知れたこともそうだが、その残滓がまさか帝国に弓引こうとはだれも思っていなかったからだ。

トワは辛うじて出た声を絞り出した。

『何故…貴方がその情報をご存じなのでしょうか?』

「こちらにも優秀な諜報員がいる、とだけ伝えておこう。」

そして、暫しトワとストレイはにらみ合った。

トワはその真意を探るべく。

ストレイはトワが本当に優秀なだけの学生なのかどうかを探るために。

トワはストレイの真意を測ることは出来なかった。

ストレイはトワについて疑念は残るものの一応はただの学生ということにしておこうと結論付けた。

そこで、トワはストレイにこう問うた。

『それで…要請、というのは?』

「ああ、簡単な話だ。この先、わたしの部下が帝国で殺人に見える行為を犯す。対象者は1人。そのことについて見逃してほしい。」

『なっ…!?』

トワの眼が見開かれた。

ブリッジの中にいる特科クラス《Ⅶ組》とやらもざわめいていた。

その中で1人だけ冷静な人間がいる。

彼女こそが、メル・コルティアだった。

『…相手が誰であれ、殺人を許容するわけにはいきません。』

「…そうか。では、メル。もう彼を見張る必要はない。その場より退避。しかる後に対象の殺害を実行せよ。」

明らかに自分たちの中の人間に発された言葉に、その場にいた人間は激しく動揺した。

ただ1人冷静だった彼女は、目を閉じてこう答えた。

『分かりました。これ以上ここにいても時間の無駄ですが…1つだけ。』

その言葉を発したメルに対して、クラスメイトと思しき人間達は信じられないというような眼を向けた。

凍りつくような沈黙ののちに、彼女は告げた。

『《翡翠の城将》はどうしますか?』

「正体が割れたか…放置して良い。どうせ《鉄血宰相》の敵討ちと言わんばかりに動くだろう。最後にわたし直々に叩き潰す。」

『…承知しました。では皆さん、今までありがとうございました。』

メルはその場で優雅に礼をしてカレイジャスの通信画面から外れた。

通信の向こうでは男の声で「待ってくれ、メル!」だとか女の声で「ちょっ…何してんのよメル!一応この船浮いてんのよ!?」だとか聞こえたが完全に無視である。

やがて、小さな悲鳴と共にメルは消えた。

そして、通信先のトワが震えるように声を絞り出した。

『どうして、ですか…どうして、メルさんが…!』

「ああ、心配はいらない。あれでもメルは優秀でね。飛び降りたくらいでは死なんさ。」

『そう言う意味ではありません…!』

トワはキッとストレイを睨みつけてこう叫んだ。

 

『メルさんを良いように使って何が楽しいんですか――!』

 

実際、ストレイはメルを良いように使っていたという事実はない。

帝国に行く際も要請という形で強制はしなかったし、とある人物を見張るために学校に通うと言われても許容した。

それに、いつだって抜けても構わないとさえ告げてあったのだ。

本当に嫌ならば、とっくの昔に彼女は逃げ出していただろう。

「良いように使ったつもりはない。彼女は自分の意思で行動しているよ。」

『なら…なら、どうしてメルさんは泣いていたんですか!』

「それは本人に聞くと良い。任務の性質上、彼女はまだしばらく帝国に滞在することになるだろうからな。…ただし、メルだけにかまけられても困るが。」

ストレイはトワを突き放した。

これ以上会話することに意味はない。

ただ、忠告を残して通信を切るつもりでいた。

「ああ、そうそう。周囲の有象無象は兎も角だ。…リィン・シュバルツァー。お前は自分の立場をしっかりと認識した方が良い。お前自身が自覚していない立場によってその場にいる全員が苦しむことになる。」

そうして、ストレイは通信を切った。

リィンと思しき男がどういうことですか、と詰め寄ってきていたのは完全に無視して、である。

小さく溜息を吐いたストレイは、モニターに外の様子を映し出した。

すると、ピンク色の髪をツインテールにした幻獣が、ベルガード門に着くと同時に足元の兵士に向かって手を振っていた。

「アイエエエエエっ!?ナンデ!?ノイナンデ!?」

「え、衛生兵、衛生兵―!?」

「もうっ、失礼しちゃうのっ!」

ぷんぷん怒りながら、彼女は蹂躙を始めた。

その蹂躙の音を聞きながら、ロイドはノエルと対峙していた。

「…ろ、ロイドさん。この音が気になるんですけど…」

「ノエル。気にしちゃダメだ。」

困惑した顔でそう言うノエルに、ロイドは疲れたように返した。

そして、ロイドはノエルに決闘を申し込んだ。

「…決闘をしてどうするんですか?」

「俺が勝ったら君を貰う!」

「ふ、ふえっ!?」

ノエルはロイドの唐突な発言に顔を紅潮させて硬直した。

この発言、どう聞いてもプロポーズである。

「このタラシめ…!」

「節操なさすぎです、ロイドさん。」

「あ、あはは…擁護できません…」

ランディ達はそれぞれ複雑な顔をしながらそう述べた。

それを聞いて遅まきながらロイドは気付いたようだった。

変な言葉を吐いてしまったことに。

ただ、今更取り消すのもどうかと思い、ロイドはそのままノエルと決闘を始めた。

ノエルはロイドの言葉に動揺したせいなのかどうなのかは分からないが、明らかに動きに精彩を欠いていた。

対するロイドは的確にノエルにダメージを与え続けた。

致命傷にはならないように急所は避けているので時間はかかったが。

その間にも地上は混乱を極めていた。

「ギアドライブなのっ!」

「ひ、ひいいいいっ!?」

「おらおら、邪魔なの!退かないと轢いちゃうのっ!」

少女型幻獣(今後はノイと呼称する)が謎の歯車になってぐるんぐるん兵士達を蹂躙したり。

「う、撃てーっ!」

「効くわけないのっ、ギアシールド!」

一斉射撃を謎の力場を出現させて防いでみたり。

「くっ…一端退くぞ!」

「逃がすと思うの?ギアホールド!」

逃げ出そうとする戦車に向けて緑色の糸を伸ばし、引き戻してみたり。

この戦場はノイが支配していた。

その様子を見ながら、ソーニャは溜息を吐いた。

「確かに気を引いて頂戴とはお願いしたけれど…ここまで派手にやるとは聞いてないわよ、ストレイ卿…」

ソーニャは胃薬を口に流し込むと、派手に戦闘しているらしい地下へと降りて行った。

階下に降りるにつれて激しくなる金属が金属を叩く音。

地下に降りきった時、ソーニャはとても複雑な顔をして特務支援課を出迎える羽目になった。

と、いうのも…

「はあっ、はあっ…」

「ノエル…俺の、勝ちだ…!」

息を切らしたノエルをロイドが取り押さえていたからだ。

ノエルの銃は地べたを転がっていて、ノエル自身は壁に抑え込まれている形だ。

ロイドはノエルの両手首をつかんで壁に押し付けている形になっていた。

「…あら、ノエル。今の貴女は貞操の危機に見えるのだけど…」

「ち、違います司令!」

「…まあ良いわ、バニングス捜査官、取り敢えずノエルを放してやって頂戴。」

ソーニャは頭に手を当ててそう言った。

もう一回胃薬を呑まないと効かないかしら、とソーニャは思ったとか。

ロイドから解放されたノエルは、顔を真っ赤にしながらソーニャの横に立った。

「…ふう、それで…バニングス捜査官。言いたいことは何となくわかるわ。ノエルを説得しに来たんでしょう?」

「え…はい。」

「だと思ったわ…」

全力でソーニャは溜息を吐いた。

そして、ソーニャはノエルにこう問いかけた。

「ああ、そうそう。ミシュラムにいる協力者の《赤い星座》からの報告をまだ貴女から受けていなかったわね、ノエル。」

「え…あ、はい!協力者《赤い星座》の皆さんはミシュラムに約半数を展開して演習を行っています。また、見張りの報告ではマクダエル元議長の健康状態に問題はないそうですが、ご令孫のエリィさんはショックで体調を崩されている模様です!」

ノエルはソーニャの意図を把握した。

今ここでエリィ達の情報をノエルが洩らすことで、ロイド達にエリィの居場所を伝えることが出来る。

そして…

「あ、あの…教えて頂いたのはうれしいんですけど、聞いてよかったんですか…?」

「あら、こんなところに外部の人間がいたようね。ノエルに処分を降さなくてはいけないわ。…ノエル・シーカー少佐。」

「はいっ!」

ソーニャは生き生きしたノエルを見て苦笑した。、

そして、これからも苦労するだろうな、と思いつつノエルにこう言い渡した。

「罰として特務支援課に出向することを命じます。期間はクロスベルの混乱が落ち着くまで。…良いわね?」

「はい!」

こうして、ノエルも特務支援課に復帰した。

ロイド達はノエルを連れてメルカバへと戻った。

「よく戻ったな、ロイド・バニングス。」

「ああ…って、何か疲れてませんか?ストレイ卿。」

「気にするな。」

ロイドはストレイの有無を言わせぬ雰囲気に黙らざるを得なかった。




三半規管丈夫すぎるぜ、ナユタェ…
と思った人はいるはずだって信じてる。

では、また。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。