雪の軌跡   作:玻璃

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自分のパソコンがほしいです。
冒頭注意です。

では、どうぞ。


アルモリカでの邂逅(S.1204/12/06)

夜が明けて。

ロイド達は準備もそこそこにメルカバを降ろした蓮華畑からアルモリカ村へと侵入した。

すると、そこにはクロスベル市内にいた商人が複数人いた。

物陰からロイドは何故かこの場にいたハロルドを呼んだ。

村の入り口にいる国防軍には気付かれないように、だ。

国防軍は街道には目を向けるもののアルモリカ村の中には目を向けなかった。

否、アルモリカ村の中には目を向けないように仕向けられていた。

と、いうのも、だ。

皆さんは覚えているだろうか。

前回出て来たみっしぃ型幻獣を。

 

彼が何故かアルモリカ村の前でキレっキレのブレイクダンスを踊っていたのだ。

 

いくら国防軍が攻撃を仕掛けても彼は避けてしまう。

国防軍は良いように彼に遊ばれていた。

因みにティオはその様子を写真に撮りまくっていた。

住民たちもそれに注目していた。

これ幸いとロイド達は宿屋に入り、ハロルドが止まっている部屋に入れさせてもらう。

すると…

「あら、意外と遅かったのね?ロイドお兄さんにティオ。」

そこには、レンがいた。

それも、何故かいつもの服の下にドロワーズを穿き足した格好で。

「ご、ごめん。でも…無事で良かった。」

「うふふ、レンが暴れたおかげで逃げやすかったでしょう?」

その言葉を聞いて、ロイドは不意に思い出した。

国防軍は半分に分かれてロイドを追って来たものの、結局は挟撃がなかったことを。

そのもう半分の部隊は恐らくレンを捕縛するために動いたのだろうと推測出来た。

「…ああ、ありがとう。」

「それで…状況はどうなの?ストレイ卿。」

「まだ情報収集の途中だ。それよりもレン、何故ドロワーズを穿いている…?」

ストレイは困惑していた。

レンはスカート姿でいることが多い。

そして、その下にはドロワーズではなくパニエを穿くことが多いのも知っていた。

「あら、だってあの草は眼でしょう?なら、下からのぞかれてるのと同じだわ。あの子ったら、相当な変態ね。」

その言葉にティオは沈黙した。

プレロマ草が本当にキーアの眼だとしたら、かなり複雑な気分である。

スカート姿で街道をうろついていれば、下から見られることになるのだ。

つまり、パンツ丸見え。

ティオはもう少し下着に見えないスパッツをどこかで取得しようと強く心に誓った。

そこで、ロイドが的外れな質問をした。

「あ、あの、ストレイ卿?ドロワーズって…」

「ああ、知らないか。ドロワーズとはいわばズボンのようなものだ。」

「因みにいつもスカートがもっと膨らんでいるのはパニエっていうスカートを膨らませる専用のスカートを穿いているからよ。」

その会話を聞いてロイドは思った。

ストレイ卿って実は変態じゃなかろうか、と。

ロイドの中では、勝手にストレイは男だと分類されていた。

髪は長いものの、立ち居振る舞いや何より絶壁の胸がそれを証明している、とロイドは思っている。

そもそも、ストレイの性別は男だと先入観で決めつけているためにその可能性には全く気付いてはいないのである。

閑話休題。

レンはロイドにこう告げた。

「ねえ、ロイドお兄さん。レンははっきり確認してないんだけど…どうも、古戦場に近い村の物置にとある人物が隠れているみたいなの。」

「とある人物…?」

ロイドは首を傾げた。

何故そんな場所に人間がいるのか、理解が出来なかったからである。

レンは真剣な顔でロイドにこう告げた。

「ええ。誰なのか確認したいの。行っても良いかしら?」

「…ああ。行こう。…外のみっしぃが部隊を遠ざけてくれたらな…」

ロイドはちらりと外を見た。

すると、みっしぃは戦車を片手にクロスベル市の方向へと凱旋している最中だった。

これならば、いけそうだ。

レンはハロルド達にアルモリカ村を離れる旨を伝えると、ロイド達と共にアルモリカ村の私有地へと向かった。

すると、物置から誰かが出て来た。

物凄い勢いで大剣を振り翳し、ストレイに襲い掛かる。

ストレイはそれを避けなかった。

にもかかわらず、その大剣はストレイの頸動脈すれすれで止まっていた。

「…どうして、ですか。」

そこにいたのは、憔悴した様子のリーシャだった。

ひび割れた声で、全身を震わせながら彼女はこう叫んだ。

「どうして避けないんですか!」

その声で国防軍が集まってくる様子はない。

相当遠くまでみっしぃは国防軍を掃討していったようだった。

リーシャの問いに、ストレイはこう答えた。

「済まない。わたしは彼女を救えるような状況にはなかったのだ。」

「どうして…っ!」

リーシャは眼に涙を浮かべながら大剣を突き付けている。

状況を呑みこめないロイドは、リーシャを宥めるべく声を発した。

「す、少し落ち着いて話さないか、リーシャ。あまり大声を出したら国防軍が来てしまうかもしれないし…」

「…ロイドさんには関係のない話です。口を挟まないで下さい…!」

ロイドの言葉は、リーシャには届かなかった。

リーシャを落ち着けるべく動いたのは、ティオだった。

「落ち着いてください、リーシャさん。今ここでこの人に剣を向けることを、エルが望むと思いますか?」

その言葉に、リーシャは分かりやすく反応した。

そして、ゆっくりと切っ先を下げる。

そして、震える声でティオに聞いた。

「貴女は、エルを知っているんですか…?」

「ええ、知っています。そして、今の反応で確信しました。私の知っているエルと貴女の知るエルは同一人物です。」

リーシャは歯を震わせながら息を吸った。

そして、声を漏らす。

「どう、して…貴女は、平然としていられるんですか…」

「平然とはしていません。ですが、同じ方法で復讐しようとも思いません。私達が人殺しになるのなんて、きっとエルは望みませんから。」

その言葉にリーシャは息を呑んだ。

そうだ。

何故そのことを忘れていたのだろう。

既にこの身は人殺しで、戻れない場所にいるのだ。

なのに…

リーシャがそう思った時だった。

「リーシャ・マオ。お前は思い違いをしているぞ。彼女は人殺しを忌避はしない。というより、彼女自身はそんな資格がないと思っている。」

そんなストレイの声が聞こえたのは。

リーシャは震える声で問うた。

「どういう…意味ですか…」

「簡単な話だ。彼女は既に人を殺したことがあったのだ。…リーシャ・マオ、お前と会う以前にな。」

それを聞いてリーシャは絶句した。

まさか、あの時点でエルが人を殺していたなど思っても見なかったのだ。

嘘だ、と断じることは出来なかった。

リーシャが出会った当時のエルは、全てに絶望した目をしていた。

それが、人殺しによるものだとすれば。

リーシャの父がエルを引き取ったことにも説明が付けられる。

「そんな…」

「あー、リーシャ・マオ。提案があるのだが。」

放心するリーシャに、ストレイは声を掛けた。

その声を聴いてリーシャは一気に警戒心を上げた。

「…何、ですか。」

一応質問の体を取ってはいるが、ストレイが妙な提案をした瞬間リーシャはストレイを斬るつもりでいた。

だからこそ、この提案はリーシャにとって驚くべきものだった。

「お前を保護したい。これ以上好き勝手やられて死なれると寝覚めが悪い。…何よりも、死んだアルシェムが悲しむだろう。」

そこで、ロイドは漸く話に追いつけたようだった。

つまり、アルシェム=エルの構造にやっと気付けたということだ。

リーシャはその提案を受けた。

それは、アルシェムを出汁にされたからではない。

本気でストレイはアルシェムを悼んでいるのだと感じたからである。

ストレイに言わせれば、もうアルシェムとして動けないことへの悔恨が含まれているだけなのだが。

その後、古戦場にいる《黒月》にはカリンがOHANASHIして丁重に共和国にお帰り頂いた。

その際、『《銀》か君かロイド君をくれるなら…』と提案したツァオはカリンから全力でOSHIOKIされたという…

そして、ロイド達はレンとリーシャというある意味屈指の戦力を手に入れ、メルカバへと戻った。

 

 

◆◇◆

 

 

深夜、誰もが寝静まっている時刻。

ストレイは、甲板で寝ずの番をしながら紅茶を飲んでいた。

すると、そこにレンが現れた。

「あら、まだ寝てなかったの?」

「それはこっちのセリフだ、レン。早く寝ないと明日に差し障るぞ?」

ストレイはレンをからかうようにそう言った。

今の時間の寝ずの番はストレイの番であり、レンの番は今夜はない。

このまま未明までがストレイの時間であり、他に誰も邪魔する者はいない。

それを知っていて、レンは来たのだ。

「分かってるわ。でも…ストレイ卿。ううん、アル。あまり、無茶はしないで。」

「…それを、言う為だけに起きていたのか…分かっているよ。既に無茶は押し通した後だから。」

やっぱり、とレンは心の中で毒づいた。

無茶をしているのは昼間のやり取りで分かっていた。

だからこそ、レンはこうしてストレイに向き合っているのだ。

少しでも無茶をしてほしくなくて。

「この先も恐らく無茶はするだろう。…そうするしか、わたしに道は残されていない。」

「…変えられないの?もう既に覚醒しようと思えばできるのに…?」

レンの問いに、ストレイはこう答えた。

「レンは勘違いしている。わたしは既に覚醒しているし、何度かの歴史改変をこの身で抑えている。…あの子は強情にも、とある人物の歴史改変だけは押し通してしまったが。」

「…そう…」

レンは、こみあげてくる何かを呑みこんだ。

そして、じっとストレイの目を見つめた。

「アルにはまだ心配する人がいるってこと、忘れないでよね。」

「…ありがとう。肝に銘じる。」

レンの真剣な目に押されて、ストレイはそう答えた。

そうして、レンは仮眠室へと戻って眠った。

その後は、寝ずの番の交代まで誰も起きて来ることはなかった。




何も言うまい。

では、また。

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