雪の軌跡   作:玻璃

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ストレイ イコール アルシェム。
これさえ分かれば読めます。

では、どうぞ。


反撃の狼煙(S.1204/12/01)

メルカバを駆る、1人の星杯騎士がいた。

仮面をかぶった彼、否彼女はやがて自らが従える獣に連絡を入れた。

「ツァイト、ロイド・バニングスを確保してくれ。」

『…我が主、本当にそれで良いのですか?』

「構わん。」

ツァイト、と呼ばれた白い狼はノックス樹海へと向けて駆けだした。

それを追うように、彼女はメルカバを動かす。

彼女の名は、アルシェム・シエル。

現在の名をエル・ストレイといった。

やがてツァイトはロイドを確保し、メルカバの方まで連行してくる。

ストレイはそれをみてメルカバから降りた。

それに連れ立ってメルカバから降りる1組の夫婦。

ロイドは先頭に立つストレイを見てこういった。

「あ、貴方は…」

「久方ぶりだな、ロイド・バニングス。逃げるのにずいぶん無茶をしたようだ。」

「ストレイ卿、ですよね…?どうしてここに…」

ロイドの疑問に答えるよりも前に、ストレイの背後にいた女がロイドに向けて法術を発した。

所謂、ホーリーブレスだ。

たちまちロイドの傷は全快した。

「あ、ありがとうございます…って、アルテリアのカリン代表…?それに、レオンハルトさんも…」

ロイドは自らの傷を癒してくれた人間を見てそう零した。

確かにその場にはカリンとレオンハルトがいた。

この場にいるはずのない人間である。

レオンハルトは確かに南の湿地帯で《身喰らう蛇》と接触した時までクロスベルにはいた。

しかし、レクター・アランドールの言葉によれば彼は既にクロスベルにはいないはずだったのである。

カリンはカリンで、西ゼムリア通商会議さえ終わればいなくなっていたはずである。

少なくともロイドは見ていなかった。

ロイドは思わずこう口走っていた。

「貴方方は、何者なんですか…?」

「わたしか?わたしは星杯騎士だ。守護騎士第四位《雪弾》ストレイ。そして、こちらのカリンとレオンハルトはわたしの従騎士だ。」

「え…」

ロイドはその言葉に目を見開いた。

つまり、アルテリアを代表してきていたカリンよりも上の人間だとストレイは言ったのだ。

それはつまり、ロイドでは手の届かないような上位の存在である可能性がある。

「ああ、無理にかしこまる必要はない。というか、気持ち悪いから止めろ。」

「は、はあ…それで、ストレイ卿がここにいるってことは、もしかしてキーアを…?」

「正解だともいえるし、不正解だともいえるな。この機会を利用してアルテリアは帝国と共和国のバランスを取りたいそうだ。」

それを聞いて、ロイドは内心首を傾げた。

何故帝国と共和国のバランスを取るのにキーアが必要なのか。

そして、気付いた。

「まさか、どちらかがキーアを狙っているってことですか!?」

「その可能性も否めない、ということだ。恐らく帝国側には《かかし男》が伝えているだろうし、共和国には《飛燕紅児》が伝えているだろう。」

「そんな…」

ロイドはストレイが告げた言葉に絶句した。

キーアのことについてはツァイトから聞かされた。

だからこそ、キーアは渡すべきではないと理解出来ている。

難しい顔で考え込んだロイドに、カリンが声を掛けた。

「そこまで考え込む必要はありませんよ。今は共和国は内戦状態ですし、暫くは来ないはずです。帝国に関しても《鉄血宰相》が滅されたようですので、内戦は確実かと。」

安心できるようにとカリンはその情報を伝えたのだが、ロイドには効果がなかった。

それも当然である。

確かに時間はあるだろうが、相手が内戦状態であることを喜ぶのは違う。

ロイドはそう思っていた。

「…そう、ですか。」

「それで、お前はこれからどうするつもりだ?」

躊躇いがちに答えたロイドに、今度はレオンハルトがそう告げた。

その目は真剣で、偽りを赦さないかのような厳しさが宿っていた。

それを見て、ロイドはしっかりと答えた。

「勿論、キーアに会いに行きます。会って真意を聞くまではクロスベルを離れるつもりはありません。それに…」

そこでロイドは言葉を切った。

耐えきれなくなった劇場が溢れださないように自制して、ロイドは再び息を吸った。

「それに、貴方方がキーアをどうにかしないという保証はありません。だから、貴方方がキーアの敵に回るなら、俺は容赦しない。」

最後は若干敬語が外れてしまったものの、ロイドはレオンハルトの目を見てそう言い切った。

それを見て、ストレイはロイドにこう告げた。

「…キーアという娘自身をどうにかする気はないが、個人的にも多少恨みはあるものでね。保証はしないが、その意見は尊重する。」

これがストレイに出来る最大限の譲歩だった。

キーアはストレイが普通の女として生きる道を永久に塞いだのだ。

それを本人が自覚しているかどうかは別にして。

その譲歩を感じ取ったのか、ロイドは感謝の意を述べた。

そこにストレイは怒涛の質問を浴びせた。

「それで、だ。ロイド・バニングス。お前はどうやってクロスベル市内に侵入する気だ?そこまでの足は?仲間は?それに作戦は?」

「な、ないです…」

ロイドはその質問にたじろぎながらそう答えた。

ストレイは溜息を吐きながらロイドにメルカバに乗るように促し、仲間を集めに動くのだった。




今後、アルシェムだった彼女は便宜上ストレイと名乗ることになります。
ご注意を。

では、また。

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