雪の軌跡 作:玻璃
4月中に終わるかなー…
では、どうぞ。
ロイドは拘置所の中でかなり憔悴していた。
目の前での仲間の死に、憔悴せざるを得なかった。
確かにキーアからはマリアベルの攻撃がアルシェムに刺さっていたことなど見えてはいないだろう。
しかし、ロイド達にはばっちり見えていたのだ。
心臓に近い部分を二度も抉られたアルシェムは、ミシュラムの前でこと切れた。
最期の力を振り絞って暴れたのだ。
それで全員が逃げられれば、と思ったのかもしれない。
それでも、逃げられたのはレンのみ。
ロイド達は、アルシェムを止めるために必死だった。
だが、アルシェムは止まらなかった。
盛大に暴れて、そして、取り押さえようとした国防軍に射殺された。
射殺されようがされまいがあのままでは死んでいたのは間違いない。
それでも、ロイドにはまるでノエル達がアルシェムを殺してしまったかのように映っていた。
そこまで思考が働いて、ロイドは唇を噛み締めてベッドを殴りつけた。
噛み締めた唇からは、僅かに血が流れていた。
そこで、同居人がこううめいた。
「煩いぞ、ロイド。」
「あ、ああ…済まん、ガルシア。」
ロイドが拘置所に入れられてから約一か月。
人手が足りず、また部屋もないからという理由でロイドは何故かガルシア・ロッシと同じ独房内に入れられていた。
ぽつぽつと何かしらを話すうちに完全には分かり合えないものの仲良くはなったこの2人(無論薔薇な意味ではない)。
名前で呼び合うようになり、ある程度外の状況はガルシアにも伝わっていた。
ガルシアにしても、この状況は面白くないものだった。
いずれ拘置所から出たとしても、クロスベルがこの状況ではルバーチェを再興することは出来ない。
恩義を受けたマルコーニに対して、何も出来ないも同然なのだ。
だからこそ、この状況を変えられる可能性のあるロイドに動いてほしかった。
多少はマルコーニや自分を止めてくれた恩義をロイド達に感じているというのもあるが。
ガルシアは声を潜めてロイドに告げた。
「…情けねえな。ガイにゃ全く似てねえ。」
「…まあ、確かに今の俺を見たら兄貴には怒られるかもしれないけどさ…」
今、ロイドに出来ることなど何もない。
ロイドは本気でそう思っていた。
アルシェムの時間稼ぎで逃げられなかった以上、力のないロイドには何も出来ない。
そう信じ込んでいた。
「二週間前までいた奴みてぇに根性は見せねえのか?」
「二週間前って…ああ。」
この拘置所には、二週間前まで看守からは狂人と呼ばれた男がいた。
その男は独房の中でこう主張していた。
曰く、今のクロスベルの状況は全てディーター・クロイスの仕込んだものである。
曰く、猟兵団にクロスベルを襲わせたのもディーターである。
曰く、それもこれも全ては《鉄血宰相》の掌の上であり、あの時殺せなかったからこそ今の状況を招いた。
そう、この男こそがミヒャエル・ギデオン。
ロイド達が逮捕した《帝国解放戦線》の男である。
今からちょうど二週間前に彼は消えたという。
独房の中に、大量の塩の塊を残して。
その塩に触れた看守が塩になってしまったことから、その独房は今でも開かずの間になっているとか。
彼は、何があろうがその主張を止めることはなかった。
誰かが反論しようものなら、理論武装で完膚なきまでに叩き潰された。
彼は何も諦めてはいなかったのである。
「…でも、俺にはあそこまでの力は…」
「今はなくても良いだろうが。」
「…え?」
俯いたロイドに、ガルシアはそう告げた。
ロイドにはガルシアの真意が分からなかった。
「少なくとも、あの熱血バカは力がなくとも諦めなかったぞ。」
ロイドに心に、その言葉は深く突き刺さった。
そうだ。
あの場にガイがいれば切り抜けられたのかもしれない。
皆を叱咤して、逃げるのを諦めるなと言いさえしていれば。
否、自分が逃げるのを諦めてさえいなければ、アルシェムは無駄死にすることはなかった。
それに、このまま動くことを諦めてしまえば…
きっと、アルシェムも浮かばれない。
本人がこの場にいれば至極複雑な顔をしながら否定しただろうが。
ロイドの瞳に炎がともった。
それを見てガルシアはニヒルに笑った。
そして、ロイドに背を向けて寝転がる。
しかし、ロイドはそれを良しとはしなかった。
「…お願いがある、ガルシア。」
ロイドは、ガルシアに向けてそう切り出した。
◆◇◆
ウルスラ医大で、ティオは悶々としながら看護師の手伝いと共に壊れた機材の修理やそれをカモフラージュにした情報収集を行っていた。
悶々としていたのは、ティオにはどうしてもアルシェムが死んだとは思えなかったからである。
徹底的に情報を調べて、それでもアルシェムの死亡を覆す要素が出て来なくて。
それでもティオは諦めなかった。
例え情報が制限されていたとしても、もしも公式記録でもアルシェムが死んでいたとしても。
アルシェムは星杯騎士なのだ。
誤魔化す方法はいくらでもあるはずだ。
それに、アルシェムを慕うレンがすぐに逃げ出したのも腑に落ちない。
ティオは、アルシェムが死ねばレンは暴走するものだと思っていたからだ。
他のメンバーの情報を得つつ、ティオはウルスラ医大内で時を待った。
◆◇◆
マインツに軟禁されることになっていたランディは、あっけなくその身柄をレジスタンスに奪われた。
というのも、レジスタンスの頭領が見知った顔だったからだ。
元警備隊のミレイユ。
彼女がレジスタンスを率いていた。
そして、そのレジスタンスに協力する一団があった。
それは、何故かルバーチェの使う軍用犬を従えた狼の一団だった。
基本的には狼たちがマインツを守り、どうしても手に負えなくなったときはミレイユ達が制圧する。
マインツは、ある意味占領されてはいたが守られてもいた。
ランディはレジスタンスに協力しつつ各地の情報を集めていった。
◆◇◆
ミシュラムの迎賓館では、エリィが祖父ヘンリーとともに軟禁されていた。
彼女はかなり憔悴していた。
目の前で同僚が同僚の手によって死んだのだから当然と言えば当然である。
それをヘンリーが心配するというなんとも不思議な構図が出来上がっていた。
エリィはマリアベルがアルシェムを追い詰め、ノエル達がアルシェムを殺したことに追い詰められていた。
何故。
どうして。
その自問自答が、数週間の間続いていた。
ついでに同じ場所に軟禁されることとなったヨナは端末がないとぼやいていたが。
兎に角、エリィは何もせず、何も出来ずにただそこに佇んでいた。
◆◇◆
タングラム門では、リオが見張り代わりとしてティータとアガットが軟禁されていた。
そのうち3人連れだって抜け出す予定なので、ここは何も問題がないようにも見える。
アルシェム死亡の知らせも、リオとアガットは鼻で笑って済ませた。
ティータに至ってはその場で口に出して考察し始めたので慌ててアガットが止める羽目になったが。
タングラム門は今日も平和だった。
◆◇◆
アルモリカ村では、ハロルドをはじめとする『エル・ストレイ』に声を掛けられた人間達が避難していた。
ついでに一仕事終えたレンも一緒だ。
レンは国防軍を追い出すこともなく、ただじっと待っていた。
反撃ののろしが上がる時を。
◆◇◆
そして、とある場所では。
昏い目をしながら、1人の少女が虚空を見つめていた。
その口から洩れるのは、小さな一言。
「…絶対に、赦さない。」
復讐に燃える彼女を見たものは、誰もいない。
予約投稿時点(2016/03/04.11:29時点)でやっと某所に乗り込んだとこまで書けてます。
では、また。