雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
断罪の塩の柱
レンはクロスベルを抜け、一端帝国へと潜入を果たしていた。
帝国内でも色々と起きているようだ。
レンは帝国内のとある人物と接触すべく、帝都ヘイムダルへと向かった。
その途中、レンはあらかじめアルシェムから渡されていた《LAYLA》で帝国に潜入中のメルに連絡を取った。
「もしもし、レンよ。もう準備は終わっているのかしら?…ええ、それに乗じて決行するわ。アルはきっと自分の手で討ちたかったでしょうけど、任せてくれたんだもの。遅れるわけにはいかないわ。」
そう宣言すると同時に、レンはとある人物のいる場所へと全力で駆けた。
とある人物の場所へと静かに接近すると、その隣で導力ライフルを構える。
と、それに気付いたのか隣の男が声を掛けた。
「…お前も目的は同じか?」
「ええ、そうよ。…赦すつもりもないもの。」
「そうか。…じゃあ、タイミングは合わせろよ?」
ニヒルに笑って、彼はそう言った。
レンはそれに首を最小限に動かすことで応えた。
そして。
二発の銃声が、目標に突き刺さった。
目標は、《鉄血宰相》ギリアス・オズボーン。
一発目の銃弾は《帝国解放戦線》の《C》ことクロウ・アームブラストの放った一般的な弾丸。
そして、二発目の弾丸はとある効果を持つ銃弾だった。
狙撃後に反撃を恐れてその場から即座に離れたクロウとレンは見ていなかったが、オズボーンは公衆の面前で撃たれ、倒れ、そして塩になって消えた。
途端に混乱しだす広場。
それに乗じて、クロウは貴族連合の船に拾われ、トールズ士官学院へと向かって行った。
レンもその混乱に乗じてトリスタへと向かう。
途中でメルから通信が入る。
『レン、よくやってくれました。今から恐らくこちらにも貴族連合が来るでしょうから、彼の身柄はこちらで押さえます。』
「お願いね、メルお姉さん。レンは対象を探すわ。」
レンの捜索対象は、実在するかすらわからない人物だ。
それでも、彼女は見つける気でいた。
このまま貴族連合に潜入してその人物を探せば、意外と見つかる気はしていた。
貴族連合の船がトールズ士官学院に着き、そこを襲撃しだしたころ。
レンは貴族連合の船の上からそれを見下ろしていた。
「…こんなの、《パテル=マテル》の方がよっぽとかっこいいわ。」
眼下を蹂躙している機甲兵。
その中には恐らくいない。
レンが求める人物、それは…
「…あら、亜種が出てきちゃったわ。」
《灰の機神》ヴァリマールにのったリィン・シュバルツァー、ではなく。
機甲兵を蹂躙し始めたヴァリマールを止めた《蒼の機神》オルディーネだった。
やがて、眼下ではヴァリマールが他の紅い制服の少年少女に逃がされていった。
そのまま彼らはトールズ士官学院を抑え、オルディーネは役目を終えて搭乗者を降ろした。
そこにいたのは、まぎれもなくクロウ・アームブラストだった。
レンは溜息を吐きながらクロウに接触を図った。
レンがクロウに近づくと、クロウはそれに気付いてこういった。
「お、どうした、お嬢ちゃん。こんなところで迷子か?」
「…ええ。貴方に聞きたいことがあって探してたの。」
「ふーん。何だよ?」
クロウは軽い気持ちでそう聞いた。
レンはクロウにこう告げた。
「不思議な夢の中で、不思議な組み合わせの人たちと会ったことはないかしら?」
「…何?」
クロウはレンの言葉に眉をひそめた。
確かに心当たりはある。
それどころか、鮮明に覚えている。
あんなことを言われたのは初めてだったのだ。
「レン、その不思議な人達と面識があるの。…ね、どうせなら《鉄血宰相》が利用した腐敗貴族なんかよりもレン達についてみない?」
「…何者だ、お前…」
クロウには目の前の少女が理解出来なかった。
不思議な夢で、銀髪の女が《放蕩皇子》につけと言ったことは覚えている。
その時は断ったのだ。
今のバックボーンが正しいとはかけらほども信じてはいないが、オリヴァルトも信頼できる人間ではないと思っていたからである。
ただ、それは少し思い違いだったのかもしれないと今では思っていた。
クロウは、レンが《放蕩皇子》の手のものだと勘違いしていた。
「レンが何者かなんて些末なことだわ。それに、貴方達が憎いのは《鉄血宰相》だけでしょう?このままエレボニアが揺らごうがどうしようが貴方にとってはどうでも良い。あの乗り物の義理さえ返せばエレボニアに関わる必要なんてないはずだわ。」
「…オルディーネのことか。確かに、義理は果たさなきゃならねえが…」
ここでクロウは混乱した。
まさか、レンと名乗る少女が勧誘している先が《放蕩皇子》の下ではないとは思っても見なかったのだ。
レンはそのまま言葉をつづけた。
「義理を果たすって言うなら、少しだけそうさせてあげるわ。」
そう言って、レンはその場から消えた。
クロウは眉をひそめて考えた。
クロウが果たすべき義理は、クロチルダへの恩返しである。
オルディーネという力を与えれくれたクロチルダに、彼女の願いを一度だけ叶えるという義理を果たしたいとは思っていた。
そこで気付いた。
義理を果たさせてあげる、とはもしかして、クロチルダを守らせてやる、の意味ではないだろうか?
つまり、あのレンと名乗る少女はクロチルダを襲う気なのでは?
そこまで考えたクロウは、弾かれたようにクロチルダの下へと駆けだした。
それを見越してレンはそう声を掛けたのだが。
レンはクロウを追った。
《身喰らう蛇》の影を断ち切るために。
そして。
「クロチルダ!」
「あら、どうしたの?クロウ。」
クロチルダを見つけ出したクロウは、平然とお茶を飲んでいるクロチルダを見て脱力した。
そして、何故レンがあんなことを言ったのかを考えて…
戦慄した。
つまり、クロウはクロチルダのもとまで案内させられてしまったのだ。
それを悟った瞬間。
「お久し振りね、第二柱《蒼の深淵》ヴィータ・クロチルダ。」
酷薄なレンの声が、室内に響いた。
その声を聴いてクロチルダはわずかに目を見開いて答えた。
「あら、もう戻ってこないものだと思っていたわよ?《殲滅天使》。」
その会話を聞いて、クロウは怪訝そうに眉をしかめた。
レンと名乗る少女は、もしかしてクロチルダに会いに来ただけではないか。
そう、思えてしまった。
それが間違いだった。
「うふふ、気が変わったのよ。…こうしないと、いつまでだってレンは解放されないんだってね!」
クロウの目の前で、クロチルダは光の筋に呑まれた。
そして、ふと見えた影に対してレンは導力銃を向けて発砲した。
「クロチルダッッッッ!?」
光の筋が消えて。
そこには、何もなかった。
ただ、塩だけがその場にあった。
「お前…何してるんだよ…」
「お疲れ様、《パテル=マテル》。…何って、貴方を《身喰らう蛇》の呪縛から解放してあげただけよ?」
にっこり嗤ってレンはそう告げる。
クロウは知らず、手が震えるのを感じた。
クロウにとってクロチルダは、一応は感謝すべき恩人だったのだ。
それなのに…
「同志C!今のは…!」
「あら、元従騎士のお姉さんじゃない。確か、スカーレットっていったかしら?」
レンはスカーレットを見てくすくすと笑う。
そして、もう1人この場に駆け付けて来た男がいた。
それは、同志Vことヴァルカンだった。
《帝国解放戦線》の主要メンバーが集まったことを確認したレンは、クロウにこう切り出した。
「ねえ、レン達と一緒に来ない?《帝国解放戦線》の皆さん?」
「…クロチルダを殺したやつを、信じろと?」
「ミヒャエル・ギデオン。」
レンは《帝国解放戦線》にとって重要な名前を口にした。
それを聞いた瞬間、クロウ達は目に見えて動揺した。
何故ここでギデオンの名が出て来るのかわからなかったからである。
「…何?」
「貴方たちが協力してくれるなら、こっちには件のギデオン氏を返却してあげる準備があるわ。」
その魅力的な提案に、クロウ達は確かに揺らいだ。
そして…
《帝国解放戦線》は、レンの提案を呑んだ。
その後、彼らは独自に動いて各地の混乱を抑えた。
その功績を以て《放蕩皇子》オリヴァルト・ライゼ・アルノールは彼らに恩赦を与え、配下とする。
《帝国解放戦線》から親衛隊と化した彼らは、帝国が自分達のような不幸な人間を作らないように見張る役目をも負ったという。
晩年にはクロウとオリヴァルトは酒を飲みかわすような仲になったとかならなかったとか。
ちなみに、閃をシナリオ通りに進めようとした場合この時点で計画遂行不可になる模様。
では、また。