雪の軌跡   作:玻璃

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ここまでくるとクライマックスが近い気になる不思議。

では、どうぞ。


復興作業及び送別会

クロスベルが《赤い星座》に襲撃されてから、数日たった。

その間、ロイド達はそれぞれできる範囲で復興を手伝っていた。

ロイドはこの混乱に乗じた空き巣の捜索班に出向し、数十人の猟兵を検挙した。

ランディはその膂力を活かして大きながれきの撤去に力を貸し、復興作業に大きく貢献していた。

ティオはインフラの整備のために一時的にエプスタイン財団へと戻り、ティータやレンと共に寝る間も惜しんで尽力していた。

エリィはIBCの移転作業に巻き込まれて黙々と手伝う羽目になっている。

ノエルはこれを機に警備隊へと戻ることになり、復興の手伝いと共に荷物の整理を始めていた。

アルシェムはというと、謎の高速移動の後遺症により人事不省だった。

勿論、自室からティオ達の手伝いはしていたのだが。

今回、猟兵に襲われたにしては被害が少なかったのだが、それでも被害は出た。

ワジとヴァルドはかすり傷程度で済んだが、自警団の中では重傷者が1人出た。

それは、ディーノである。

ディーノはサンサンを助けた際に猟兵に撃たれていたのだ。

恐らくはアドレナリンが出過ぎたせいだろうが、最後まで気付かなかったようだが。

気付いた時には脇腹が真っ赤でサンサンに悲鳴を上げられたという。

現在ではウルスラ医大でサンサンに看病されながら嬉しい悲鳴を上げているとか。

行政区ではドノバンとフランが怪我をした。

フランは地下のシェルターに行くときにこけて靭帯をやってしまったからである。

ドノバンはその時にフランを支えようとして失敗。

破廉恥な状態になってフランのファンの職員たちにフルボッコにされたからとか。

骨にひびが入っていることが確認され、後から謝罪されていたようだ。

また、イリアが軽い捻挫をしていたことを隠していたために、全員に怒られて検査中である。

本人は大丈夫だと宣言しているが、万が一のこともあるので2、3日は検査入院とのこと。

過保護ではあるものの、大スターなのだから当然の処置かも知れない。

目立った怪我人はこのくらいで、他はかすり傷程度だった。

 

そして、襲撃から一週間後。

一週間ぶりに特務支援課は全員が集合した。

復興にめどが立ったからである。

この日から再始動となった特務支援課の一同は、端末の前でロイドの指示を待った。

「ええっと…今日は、炊き出しの手伝いに、チャリティイベントへの協力、生き別れの父の捜索、古戦場の捜査に、手配魔獣か…多いな。」

「手分けしましょう、ロイド。」

「そうだな…」

ロイドは黙考した。

そして、結論を出した。

「…じゃあこうしよう。炊き出しの手伝いにノエルとレン、チャリティイベントにエリィ、生き別れの父の捜索にはアル、手配魔獣には俺とランディで向かおう。アルとランディは終わったら古戦場の捜査に向かってくれ。」

それにノエル以外の全員が首肯した。

ノエルは名残惜しそうにロイドを見ていた。

そんなノエルを見てロイドは言葉を付け足した。

「あと、依頼が終わったらフランをお見舞いに行ってからノエルの送別会をやろうか。」

「…ありがとうございます。最後の支援要請、頑張りますね!」

ノエルは涙目になりながらそう宣言した。

そして、特務支援課は動き始めた。

アルシェムは依頼人の下へと向かった。

《龍老飯店》の店主に支援要請の依頼人の下へ向かう旨を告げ、客室の扉をノックする。

すると、すぐに返事があった。

客室へと入ると、そこには一組の赤ん坊を抱いた夫婦がいた。

「ああ、君が依頼を受けてくれた人だね?」

「ええ。特務支援課所属、アルシェム・シエルです。今回は生き別れの父を捜索してほしいとのことでしたが…?」

何となく既視感を抱きながら、アルシェムは男にそう聞いた。

男はこう答えた。

「うん、そうなんだ。父は元々クロスベルの議員でね、リベールに旅行に来ているときに母に会ったらしいんだ。それで僕が出来たんだけど…母方の祖父母が厳しい人でね、何と母と父は別れさせられちゃったんだ。僕が知ってるのは父の名前とクロスベルの議員ってことだけさ。」

そこで男は言葉を切った。

そして、自己陶酔したように続ける。

「でもほら、見ての通り父さんにとっては初孫が出来たんだよ!僕とエアリーの愛の結晶が!それで、一度だけでも父にアルミンを見せてあげたいと思ってね…」

「ばぶばぶ。」

「おお、よしよし…ああ、アルムに似て賢そうね!」

アルシェムはどこかでこのテンションの男、もとい夫婦を見たことがある気がした。

あくまでかかわったことはないはずなので見たことがあるだけだが。

リベール、という単語もそれを助長している。

アルシェムは男に問うた。

「それで、あなたのお父様のお名前は…?」

「ああ、ゲバルというんだ。」

それを聞いてアルシェムはとても微妙な顔をした。

ゲバルという名の議員のことは知っていたし、何か裏がないかと探ってみたこともあった。

それがまさかここにつながるとは思いもしなかったのだが。

「…帝国派議員のゲバル氏で間違いないですね?」

「ああ!知っているのかい!?これも空の女神のお導きだよ…!早速今どこにいるのか探してくれないかな!?」

「承りました。ちょっと待ってて下さいね。」

アルシェムは頭を押さえながら客室から出た。

そして、、溜息を吐いて一言。

「やっぱり過糖カップルだったかー…」

げんなりしながら、追放後のゲバルの新居にアルシェムは足を運んだ。

現在はロータスハイツに住んでいるはずである。

しかし、扉を叩いても反応はなく、付近の住民からも最近の目撃情報は得られなかった。

「…他に行くところがあるとすれば…」

アルシェムはゲバルの友人を探すことにした。

一度自室へと戻り、端末の中から目当ての情報を掘り出す。

クロスベル市内にいるゲバルの友人は、イリアの住む《ヴィラ・レザン》の住民だけだった。

友人が少なくて寂しいオッサンである。

友人の名はルーヴィックというらしい。

アルシェムは早速その住民を訪ねることにした。

「済みません、少しお聞きしたいことがあるんですが。」

「ほう、何かね?」

「とある人を探してるんですが、心当たりがないかと思いまして。」

その言葉に、ルーヴィックは顔をしかめた。

というのも、まさに息子夫婦が訪ねて来たからこそゲバルが身を隠したことを知っていたからである。

無論、その場所も。

アルシェムはルーヴィックのその様子を見て言葉をつづけた。

「探しに来た人は、一目だけでもその人に初孫を見せてやりたいとはるばるリベールからやって来たそうです。…それに、本人に直接会って伝えたいことがあるそうで。」

「そうかい。それで、その人の名前は…?」

「依頼人の名前はアルムといいます。そして、探している人の名前はゲバル。勿論、ご存知ですよね?」

アルシェムは笑顔で威圧しながらそう聞いた。

しかし、ルーヴィックは引かなかった。

「…お前さんのことじゃからきっと儂が彼の知り合いだと調べて来たんじゃろう。知ってはいるが、本人は会いたくないと言っている。」

アルシェムはその言葉を聞いてこう返した。

「ということは、顔を見ないだけで声を交わすことだけは可能ですよね?今、元気にしているとだけでも直接声を掛けさせてあげられませんか?…このまま、リベールに彼らが帰ってしまうともう二度と会うことはおろか二度と声を聴くことが出来なくなるかもしれないんです。」

屁理屈である。

それでも、確かに声を交わすだけならば『会って』はいない。

ルーヴィックは厳しい顔で黙考し、そして結論を出した。

「…分かった。そこまで言うのなら、彼を説得して欲しい。今はアルモリカ村にいるはずじゃ。…村長とは知合いでな、その伝手で匿ってくれるように頼んだんじゃ。」

「ありがとうございます、ルーヴィックさん!」

アルシェムは勢いよく頭を下げてそう言った。

そして、《龍老飯店》へと戻る。

アルムを訪ねると、凄い勢いで部屋の中に引き込まれた。

「どうだった!?見つかったかい!?」

「ええ。それで…」

アルシェムは顔を引き攣らせながら言った。

…残念ながら最後まで言い切ることは出来なかったが。

アルムはアルシェムの手を取るとくるくる回り始めた。

「良かった…!良かったよ、ありがとう!ああ、良かったね、エアリー!良かったね、アルミン!」

「ええ、本当によかったわ!」

「ばぶぅ。」

話を聞かない夫婦は、そのまま数分テンションを上げ続けた。

アルシェムは辟易とした表情で何とかゲバル氏の居場所と事情を伝え、見届けるのも嫌になりそうになりながらも彼らをアルモリカ村へと案内した。

村の中を散策する夫妻を置いてアルシェムは村長の家へと行き、夫婦の事情を話す。

すると、村長は本人の意思も尊重したいからと外から声を掛けることだけを許可してくれた。

そして、その後はよくある感動の物語。

アルムが外から声を掛けて。

かたくなに出てこようとしないゲバルも、アルムの声に心を動かされ始めて。

エアリーが嫁としての言葉を掛けて。

ゲバルも息子の嫁の顔を見たくなってきて。

そして。

とどめは、赤ん坊アルミンだった。

アルミンが泣いた瞬間、ゲバルは小屋から飛び出した。

感動の家族の再会。

アルシェムはそれを冷めた目で見ていた。

ある意味羨ましかった、と言えばそれまでなのだが。

その後、アルモリカ村で宿泊してゆっくりするとの旨をアルムから伝えられたアルシェムは、宿泊のための荷物の運搬を引き続き手伝った。

アルモリカ村から出たのは日が高くなる少し前である。

アルシェムは急いでランディに連絡を入れ、先に調査を行っている旨を伝えられた。

道中の魔獣は危険なもの以外は原則無視してアルシェムは古戦場へと向かった。

古戦場で、アルシェムはいるはずのない魔獣を見つけた。

「…これって。」

それは、ドーベンカイザー。

かつてルバーチェが飼っていた軍用犬である。

「…何で放し飼いにしてんだか。取り敢えず…」

取り敢えずアルシェムがドーベンカイザーを屠ろうとしたときだった。

背後からツァイトが現れた。

『無闇な殺生はお控えください。』

「…えー。じゃー、ツァイトがどーにかできんの?」

『します。』

はっきりとツァイトはそう宣言した。

アルシェムは遠い目をしてその説得を見届けた。

まさか、軍用犬がツァイトの手下になるとは思ってもみなかったからである。

ツァイトと連れ立ったアルシェムはランディを追いつつドーベンカイザーを保護していった。

そして、一番奥まで来た時だった。

「…あれ、何あの古代魔獣。」

アルシェムはランディとロイドがドーベンカイザーと別の魔獣に囲まれているのを見つけた。

アルシェムの問いに、ツァイトはこう答えた。

『…ヘルハウンド、という種です。どうやら彼が統率しているようです。』

「止めて来て?」

ツァイトはアルシェムの顔を見て戦慄した。

威圧感のある笑みというのはこういうものなのかと納得もしたが。

とにかく、ツァイトは有無を言わさずヘルハウンドを服従させなければならなくなった。

それが、主の命令だから。

ツァイトは高らかに鳴いた。

それに気付いたロイドはあっけにとられた。

まさか、ツァイトがこのタイミング出来るとは思ってもみなかったからである。

そして、ドーベンカイザーだけがツァイトの下へと集まった。

それを見たロイドは苦笑した。

「はは…」

「ロイド、まだそっちのが逆らう気だよー?」

「げっ…」

ロイドは振り向きざまにヘルハウンドにトンファーを叩きつけた。

短い悲鳴を上げて飛び退るヘルハウンド。

どうやら急所に入ってしまったようである。

喉を鳴らしながら、ヘルハウンドはロイドを睨み据えた。

すると、ツァイトがヘルハウンドの前に出る。

そして、鳴いた。

 

『従え。』

 

アルシェムはその鳴き声をとても微妙な顔で聞いていた。

一体、ツァイトは魔獣を従えてどうする気なのだろうか。

ある意味戦力にはなるのだが、その戦力を使う機会が来るかどうかは別問題である。

「あー、ロイド?今ツァイトがドーベンカイザーとそっちの魔獣君を手下にしちゃったからもー大丈夫だよ。」

「ええっ!?」

「はあ!?」

ロイドとランディ、唖然とした顔でツァイトを睨むの巻。

ツァイトはそのまま近くの統率個体にヘルハウンドとドーベンカイザーを引き渡した。

やりたい放題である。

アルシェムはロイドに連れ立ってその結果を依頼主であるダグラス副司令に報告した。

そして、タングラム門で3人連れだって遅い昼食をとる。

昼食後はクロスベル市に戻り、フランの見舞いに行こうとしたところでロイドのENIGMAが鳴った。

「はい、ロイド・バニングス…ああ、ヨナか。どうしたんだ?……そ、そうだったな。」

そこまでロイドが会話したところでティオがそのENIGMAの通話に割り込んだ。

「取り敢えずヨナ、貴男はそこの窮屈な端末から逃れたいだけでしょう。…そうですか。」

「…ヨナ。夕方になったら必ずロバーツ主任のところに戻ること、不摂生な食事はしないことが条件だけど。…う、うん。分かった。ちょっとだけ待っててくれ。」

そこで、ロイドは通話を切った。

そして、ノエルに向き直る。

「ノエル、その…」

「支援要請ですよね?早く片付けましょう!」

しかし、ロイドは首を横に振った。

ノエルの焦燥を見抜いていたからである。

「…悪いけど、アル。」

「レンも行くわ。流石にアル1人だけじゃ何かあった時に困るもの。兎に角ノエルお姉さんはお見舞いに行くべきよ。」

ロイドの言葉を遮ってレンがそう言った。

それにロイドは済まない、と言ってヨナからの要請をアルシェムとレンに任せた。

そして、ロイド達はフランのお見舞いへと向かった。

「…全く。あのソバカス君にはちょっとお灸をすえてあげなくちゃいけないのかしらね?」

「いや、別に良いんじゃない?まだまだ彼にはモラトリアムがあるんだしさ。」

そんな会話をしつつアルシェムとレンは波止場へと向かった。

すると、そこには何故かヨナとティータとアガットがいた。

「よう、アルシェム。…レンも元気そうだな。」

「久しぶりだね、レンちゃん!それに、お久し振りです、アルシェムさん!」

「知り合いなのかよ、ティータ!?」

突っ込み役はヨナである。

ただし、昼過ぎとはいえ端末のある場所には結構時間がかかる。

故に、知り合いである理由を語る時間はなかったのでアルシェム達はヨナの言葉をスルーしてジオフロントへと入った。

「うわっ、暑っ!?何だよここ!?」

「火力発電でもしてんじゃねーの?」

「ふええ~っ、何だか無駄がいっぱいだよう…」

ティータの着眼点はヨナとは違ったようである。

曰く、こうおおっぴらに熱を放出させるよりは一か所にまとめた方が効率が良いとのことだ。

ジオフロントが作られたのは議員たちと建設会社の金儲けのためなのでそこまでは考えられてはいない。

兎に角、文字通り破壊力満点のパーティでアルシェム達は先へと進んだ。

途中でティータが故障していた部分を直していったのは余談である。

「…それにしても…」

レンはあきれながら機械仕掛けの人形をなぎ倒した。

アルシェムも苦笑しつつそれに応える。

「本当に無駄なことしかしないよね、変態博士。」

全員の視線の先には、ご丁寧に『F.ノバルティス』と名の入った愉快掃除機が猛威を振るっていた。

それを文字通り木っ端みじんに砕きながら全員前へと進む。

そして、大型の愉快掃除機が出現したものの問題なく破壊し、アルシェムたちはヨナを端末室へと送り届けたのだった。

ティータはテンションを上げながらヨナの作業を手伝い、アガットはエリカ女史よりティータの護衛を依頼されているために帰るに帰れない状況になっていた。

アルシェムはヨナたちの護衛をアガットに依頼すると、地上へと戻った。

そしてロイドたちと合流し、思い出話に花を咲かせながらノエルの送別会を終えるのだった。




全体的にけが人が少ないのは仕様です。

では、また。

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