雪の軌跡   作:玻璃

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あおーげばーとおーとしーわがーしのーおんー?
この曲うたったことないから知らないです。
さらば、IBC。

では、どうぞ。


クロスベル市防衛線・港湾区

「ええっ、猟兵が、かい!?」

ロバーツは赤毛の男からもたらされた情報にそう叫んだ。

赤毛の男は首肯し、地下の端末室に全員を固めることを提案した。

ロバーツはそれを即座に呑み、IBCにいる人間すべてをそこに集めた。

そして、扉を何十にもロックし、正面玄関の防衛を男に頼んだ。

「…チッ、もう来やがったか…!」

男――アガットは、重剣を構えた。

そして、猟兵に向けて向きなおろうとしたところで眉をひそめた。

何故なら、アガットの背後から導力砲の砲弾が猟兵に向かって飛んだからである。

 

「こ、これ以上近づいてきたら当てるんだからぁっ!」

 

彼女はキッと猟兵達を見据え、そう宣言した。

アガットはそれが誰だか分かっていたが、無用な問答をすることを良しとしなかった。

どうせ、どれだけ言ってもついてくるのだ。

それは前々からずっと分かっていたし、彼女の腕と度胸をわかっていたからこそ止めなかった。

 

そう。

アガットの背後で導力砲を構えていたのは、ティータだった。

アガットは前を見据えながらティータにこう告げた。

「くれぐれも無茶だけはするなよ、ティータ!」

「はいっ!アガットさんも無茶はしないで下さいね!」

打てば響く、この問答にももう慣れた。

アガットはティータの宣言にニヤニヤ笑いながら攻め込もうとする猟兵を睥睨した。

そして。

 

「らああああああああっ、だあああああああああっ!」

 

龍のような気を纏って跳躍した。

それを見て、失笑するものが数人。

事態の急変にあせる者が多数。

事態を把握したものは背後に下がろうとして、阻まれる。

 

「逃がしませんっ!スタンカノンっ!」

ティータが麻痺毒を混ぜた弾丸をばらまく。

それだけで、猟兵達は動けなくなった。

 

「行くぜ…!ドラゴーン、ダーイブ!」

 

地面が、揺れた。

猟兵達は死なない程度にアガットに押しつぶされて無力化された。

「ヘッ、口ほどでもねえな。」

「は、はうう~っ…相変わらず、凄い威力です…」

苦笑しながらティータは前を見た。

すると、まだまだ迫ってくる様子が見える。

「取り敢えず前は任せろ、ティータ。お前は…」

「上空の警戒ですよね?」

「ああ。」

そう言って、アガットは再び猟兵達に向き直った。

 

そうして、蹂躙が始まった。

 

アガットは、迫りくる猟兵を薙ぎ倒しては積み上げ、薙ぎ倒しては積み上げていた。

ティータは迫りくる飛空艇を見つけると、頭上の衛星に指令を送った。

すぐさま降り注ぐ光。

飛空艇は、その光にやられて堕ちていく。

 

ある意味、今回の戦場で《赤い星座》の力をそいだのはティータ達である。

飛空艇の中には、かなりの人数が乗り込んでいたからだ。

それを墜落させることで多少なりとも上陸の時間を稼ぎ、上陸してきた人員をアガットが叩きのめす。

無力化の規模が違ったのだった。

 

◆◇◆◇◆

 

それを見て舌打ちをしたのは、墜落された飛空艇から這い出したシグムントである。

物凄い勢いで手下たちがやられていくのを見たとき、苦い顔を隠しきれなかった。

手練れの遊撃士か誰かが防衛にあたっているのだろうとシグムントは判断した。

そして、手下たちにIBCの破壊を止めさせた。

手下では、その依頼が達成できないと分かってしまったからである。

 

シグムントは、手下たちに手分けさせて他の場所を襲撃させた。

それしか方法がないと悟ったからである。

シグムント自身が動いて手練れをどうにかしなければならない。

シグムントは重い腰を上げてIBCへと向かった。

すると…

 

「ぎゃああああっ!?」

「一昨日来やがれってんだ!オラァ!」

赤毛の男が、猟兵達を蹂躙しているではないか。

しかも、かなり若い。

 

こんな若造に手下どもはやられたのか。

シグムントは戦慄した。

それに、どう見ても男は遠距離武器を持っていない。

つまり、飛空艇を落としたのはあの男ではないわけで…

 

周囲を見回したシグムントは、そこでようやく気付いた。

男を援護する幼女の存在に。

 

暫し、愕然とした。

シャーリィとはきっとそれほど年が離れているわけでもない幼女だった。

しかし、彼女の見た目は一般人なのだ。

それなのに、立ち居振る舞いは歴戦の戦士。

そのギャップに、ついていけなかった。

しかも、得物は導力砲である。

つまり、あの幼女が飛空艇を落としたのだ。

 

そこで、赤毛の男がシグムントに気付いた。

「やっとお出ましか。待ちくたびれたぜ?おっさん。」

「アガットさん…本当のことを言っちゃダメですよぅ…」

なかなかにひどい発言をされている気がしたが、シグムントの内心はそれどころではなかった。

 

あれは、何だ。

アレは、何だ。

アレは、ナンダ。

 

シグムントの内心はそれで占められていた。

有り得ない。

《赤の戦鬼》シグムント・オルランドを見てこんな反応をする男などいなかった。

《赤の戦鬼》シグムント・オルランドを見てこんな反応をする子供などいなかった。

こんな若造どもが存在するわけがない。

 

そんなシグムントの思考をよそに、アガットはシグムントに向けて駆けだした。

それを見て慌てて構えるシグムント。

しかし、構え終えて攻撃に移ろうとした瞬間。

「させませんっ!」

ティータがシグムントの踏み込んだ足もとに向けて発砲した。

 

一瞬のぐらつき。

 

それだけで、シグムントはアガットに致命傷を負わせるはずだった攻撃を外した。

それだけで、アガットはシグムントの双斧を受け止められた。

「よくやった、ティータ!下がってろ!」

「はいっ!」

流石のアガットもシグムントの膂力には及ばない。

だからこそ、決定打をティータにゆだねた。

下がる、とは端末を弄る時間を作るための方便に過ぎない。

 

数度、アガットとシグムントは打ち合った。

押されているのはアガットである。

しかし、シグムントはそうは思っていなかった。

あれほどまでに手下を撃退した男が、この程度のはずがない。

よって、シグムントは全力を以てアガットに攻撃を仕掛けていた。

対するアガットはたまったものではない。

こと、膂力に関してのみ、シグムントはレオンハルトに勝っていたからである。

 

早く来い、援軍なり何なり!

 

それが今のアガットの内心である。

一対一で、なおかつ何も気にしなくても良いのならば勝てる。

しかし、ティータと建物を守りながらでは厳しいものがあった。

足手纏いというわけではない。

むしろ、決定打をティータに任せなければならないことだけがアガットの心に影を落としていた。

 

そして――

援軍は、来た。

眼下に導力車が止まるのを確認しながら、アガットは一層気を引き締めにかかった。

 

◆◇◆◇◆

 

導力車の中の人間は焦っていた。

マインツにランディを連れ戻しにいったは良いものの、結果はこれである。

市内に残して行ったアルシェムはよろよろになって戻って来たし、レンに至っては大粒の汗をかきながら住宅街で戦っている。

アルシェムがいうには、その他の場所でも様々な人間がクロスベル市を守るために動いているらしい。

疲弊しきったアルシェムを車内に残し、ロイド達はIBCへと向かった。

途中、クロスベルタイムズが襲撃されていたのを発見して解放したのは余談である。

 

そして。

ロイド達は、シグムントに1人で立ち向かう男の姿を見ることになった。

 

「あれは…!」

「確か、遊撃士のアガットさん!?」

「マジかよ…!?」

特務支援課の中では、ランディが一番驚愕していた。

たった1人で対抗できるわけがない。

そう、思っていた。

なのに、目の前にいる男は苦戦しているだけでまだまだ余裕がありそうである。

それほどまでに、アガットは強かったのか。

ランディは愕然とした。

 

その時だった。

甲高い声が、その場に響いた。

「皆さん、離れて下さいっ!」

その声が誰だか判断できたのは、アガットとティオだけだった。

ティオはその場から飛び退る。

そして、ロイド達もそれに倣った。

シグムントも飛び退こうとして…出来なかった。

突如屈んだアガットに足払いを掛けられてバランスを崩したからである。

 

そして、IBCを突きぬけて一条の光線がシグムントを貫いた。

 

「叔父貴!」

轟音と共に吹き飛ばされるシグムント。

思わず漏れたのは、ランディの声。

そして。

「何やってんだ、ティータ!」

「ご、ごめんなさい!でも、こうしないとあのおじさん死んじゃうんです!威力をこれ以上落とせなかったから…!」

ティータに怒鳴りつけるアガットと、謝りながらも抗弁するティータがいた。

その光景を唖然とした表情で見るしかないロイド達。

取り敢えず、これは《赤い星座》のせいにするしかないな、と心の中で思ったのはアガットである。

弁償できるだけのミラはない。

「あーもう、泣くな!死んでないなら問題ない!」

ばーん!と音が鳴りそうなほど胸を張ってそう宣言するアガット。

しかし、それにノエルが突っ込んだ。

「いや、問題ありますからね!?」

「大丈夫だ。あの光の色からしてまだちょっと鍛えてる程度の遊撃士なら生き残れる。」

自信満々に宣言するアガット。

因みに実体験済みである。

ティータの母エリカの衛星から放たれるビームは凄かった。

ピンク色で、しかも『非殺傷設定なの(ニコッ)』と宣言するエリカに何度実験と称してその砲撃を撃ち込まれたことか。

周囲に被害がないことだけがその砲撃の売りだったのだが、ティータの衛星はその設定がまだだったようで今回はその作業が終えられなかったようである。

シグムントはよろよろと起き上った。

「出鱈目、だな…」

「はうう~っ、流石に吃驚だよぅ…」

それを見てアガットとティータはそう零した。

 

その後、シグムントはアガットをすり抜けて強引にIBCを破壊し、去って行った。

 

 

――港湾区の戦闘。

 

死者0人。

怪我人は猟兵に限り多数。

ある意味で蹂躙戦となったこの地は、もっとも建物の被害が大きくなった場所だった。

破壊したのは《赤い星座》だと言われているが、真偽は定かではない。

 




 死 ん で な い な ら 問 題 な い !

…で、では、また。
次回から書き方が戻ります。

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