雪の軌跡 作:玻璃
レンはともかくレオンハルトはチートすぎると思うの。
では、どうぞ。
「…あっけないものだな。」
レオンハルトは嘆息しながら倒れていく猟兵を見た。
いかに《赤い星座》とはいえ、レオンハルトには敵わない。
レオンハルトはSクラフトすら使わずに、《赤い星座》を撃退していた。
それだけで撃退できてしまうのだから、レオンハルトが手ごたえがないと嘆いても仕方がないだろう。
レオンハルトは猟兵を蹂躙しながら瓦礫を破砕する作業に没頭していた。
念のために補足しておくが、崩れた家は既に避難の終えた家である。
レオンハルトは、けが人や死者を出さないようにうまく立ち回っていた。
猟兵が住民に近づこうものなら、レオンハルトはすかさず零ストームでその猟兵を吹っ飛ばす。
お蔭で随分と狙われるようになったようだ。
その隙にちゃっかり警察が住民を保護しているあたり、無能でもなくなったのだろう。
粗方猟兵を片付けたレオンハルトは、警察に周囲の警戒を依頼して一気に猟兵を殲滅した。
ついでに苦戦しているらしい住宅街の方へと向かうことにする。
分け身を数体その場に残し、レオンハルトは猟兵を狩りながら歓楽街へと向かった。
歓楽街では、アルシェムが猟兵を捕縛しているようだ。
レオンハルトはそれを横目で見ながらその場を駆け抜け、レンの下へと急いだ。
住宅街に着くと、レンは荒い息を吐きながら猟兵と対峙していた。
ただし、猟兵は戦車の上に載っている。
そして、そこから狙撃しているのだ。
猟兵の名はガレス。
《赤い星座》内でも割と腕に覚えのある猟兵だ。
銃弾が放たれる。
レンはそれを弾いて防ぐ。
銃弾が放たれる。
レンはそれを叩き落として防ぐ。
銃弾が、あらぬ方向に放たれる。
レンは、その場から跳躍して銃弾を叩き落とす。
レンの弱点は、既にガレスに伝わってしまっていた。
その証拠に、ガレスが狙うのは一軒の家のみ。
つまり、ヘイワーズ邸である。
レオンハルトはそれに気付いて気配を消し、戦車の死角からガレスに近づいた。
もう少しでレオンハルトの距離になる。
そう、感じた瞬間。
銃弾が、レオンハルトに向けて放たれた。
咄嗟にケルンバイターで防ぐレオンハルト。
そして、戦車に乗る猟兵もレオンハルトに殺到した。
「レーヴェ!」
「集中を切らすな、レン!」
レンの悲鳴に、レオンハルトは怒号で応えた。
1人1人は大したことのない猟兵だ。
確実に仕留めていけば良い。
それに…
これで、ヘイワーズ邸の狙いは逸れた。
レオンハルトは、確実に猟兵を無力化していく。
その姿は、まさに果敢なる獅子のようだった。
◆◇◆◇◆
そんなレオンハルトが来る数十分前。
レンは猟兵を戦闘不能にしつつ周囲の住民をヘイワーズ邸に集めていた。
それなりに大きい家でもあるし、こういう時に使われるべき議長の家でもないという意表を突こうとしたからである。
顔見知りであり、家族であるというのも大きい。
ハロルドはレンの身を案じながらも快諾してくれた。
心配なんて、される義理もないのに。
レンは心の中でそう嘯いた。
家族じゃないと自分から宣言したのには理由があったのだ。
レンの過去に、パパとママはもう関係ないのだと。
そう、宣言したかったのだ。
悪いのはレンじゃない。
悪いのはパパとママじゃない。
悪いのは。
悪いのは。
悪いのは。
悪いのは、ヨアヒムとその黒幕。
もう、分かっていた。
レンは、パパとママのことを恨む必要なんてないんだって。
パパとママって呼んでも良いんだって。
だけど、呼べなかった。
呼ぶためには、過去を全て清算しなくてはならない。
《身喰らう蛇》。
彼らを壊滅させなければ、レンはレンとして生きることが出来ない。
執行者だった過去は消えないのだ。
そういう意味では、アルシェムもヨシュアもレオンハルトもまだ囚われたままだともいえる。
だからこそ、レンは《身喰らう蛇》を潰すと宣言したアルシェムの宣言に歓喜した。
過去を消すことは出来ない。
それでも、清算することは出来るのだ。
レンは不敵に笑いながら大鎌を握りしめた。
迫りくる猟兵が一番に襲ったのはここ、住宅街だった。
マインツから下ってきた連中が襲うのに、一番手っ取り早かった場所でもある。
猟兵達は、レンの奇襲を受けながらもなんとか持ちこたえていた。
大多数が飛空艇でレンの頭上を越えて行ったのは確認したものの、この幼い少女が解き放たれれば味方にどれだけの損害が出るか分かったものではなかったからである。
1人、また1人と倒れる味方を捨て置いて、猟兵達はレンを倒しにかかっていた。
ただし、ただの猟兵如きが元執行者に敵うわけがない。
《パテル=マテル》を呼び寄せることなく、レンは向かってくる猟兵を無力化していった。
粗方猟兵が狩られた時だった。
マインツ山道から撤退してきたらしい戦車が住宅街に突っ込んできたのは。
戦車からは、レンの予測に反して猟兵が出て来ることはなかった。
レンはその戦車の機動力を奪うべく車輪を破壊し、砲撃を防ぐべく砲台を潰した。
そこで、ライフルによって後退を余儀なくされたのである。
撃たれる銃弾。
防ぐレン。
懐に飛び込むには短い時間で、近づきすぎれば反応できなくなる。
最早、レンだけではこの場は保たなかった。
ちらり、とレンはヘイワーズ邸を見る。
窓の中では、何かを叫んでいるパパとママ。
それを止めている近所の人たち。
読唇術でその内容を読み取ったレンは、状況も忘れて苦笑した。
『もう良いから、だから逃げてくれ、レン!』
『お願い、もう私達の前からいなくならないで!』
ああ。
やはり、アレは誤解だったのだ。
やはり、レンは愛されていたのだ。
それなのに、ずっと誤解していた。
何て親不孝な娘だろう。
ぎり、とレンは歯を食いしばった。
レンは、徐々に狙いをずらしてきている猟兵を睨み据えた。
一瞬、怯む猟兵。
それだけで良かった。
その、一瞬さえあれば。
死角から近づいてきているレーヴェが何とかしてくれるから。
レンはその場から駆け出した。
レオンハルトに猟兵が気を取られている隙にライフルの猟兵を無力化する。
そして、残った猟兵をもレンはレオンハルトと共に無力化していった。
――行政区、および住宅街の戦闘。
行政区は警察署が爆破されたものの死者はなし。
住宅街は早期避難のおかげで全員が無傷。
ただし、猟兵に関しては捕縛された人員が全て戦車に詰め込まれたので脱水症状になったものが数名いた。
書いてて思いました。
やっぱりわたし、レン好きなんだなあって。
友人に言わせれば幼女が好きらしいですがw
次回、主人公は遅れてやってくるの回。
では、また。