雪の軌跡   作:玻璃

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自警団連中ががんばるの回。
そんなにホモォ…じゃないはず。

では、どうぞ。


クロスベル市防衛線・中央広場および裏通り

「くそっ…!何でこんなにガッツリこっちに来やがる…!」

悪態をつきながらヴァルドは猟兵の武器を叩き潰した。

その瞬間、ヴァルドの舎弟たちが猟兵をフルボッコにする。

それを数度繰り返せば、猟兵達から警戒されるようになる。

それでもヴァルドは猟兵の武器を叩き潰すのをためらうことはなかった。

 

戦友、とでも呼ぶべき人間を傷つけさせないために。

 

最初はいけ好かない野郎だと思った。

叩き潰されて、漸く力を認めるようになった。

 

『強くなったじゃないか。』

 

そう言われるのが嬉しかった。

それを認めるのは、怖かった。

 

だってそれではヴァルドはワジに恋をしているみたいだったから。

 

考えがそこまで至った時、ヴァルドは背後に合図を出した。

途端に飛んでくるアーツの光。

一般的なフォルテというアーツの強化版と、ティアというアーツの強化版だ。

そこまで傷ついていたわけではないのに、と苦笑しながらもヴァルドは手に持っていた釘バットを振り翳した。

その釘バットも、前とは違う。

 

ワジがどこかから持ってきた鉱石で再現された、超高級釘バットなのである。

釘バットである必要性はどこにもなかったのだが、ワジはわざわざ再現していた。

その理由を、ヴァルドは知らない。

 

だが、理由などなくても良かった。

ワジが自分のために誂えてくれたというだけで、ヴァルドは戦えた。

武器をくれるということは、自分を認めてくれているからだ。

少なくともヴァルドはそう思っていた。

 

そこにワジからの声がかかる。

「ヴァルド、飛ばしすぎないようにね!」

「テメェもな!」

ヴァルドとワジは、一体となって猟兵を蹂躙していった。

ただし、誰も殺してはいない。

殺してしまえば後戻りできなくなる、とワジが言ったからだ。

 

ヴァルドは、ワジのことを信頼していた。

ワジなしでは生きられなくなってしまった。

結局のところ、ヴァルドは弱虫のままだったのだ。

誰かに頼らなければ生きていけなくて。

本当ならば、それを認められなかった。

 

だが、今では認められた。

それは、ひとえにワジのおかげと言っていい。

ワジは、ヴァルドに告げたのだ。

『一緒にクロスベルを守ろう。それで、その…ずっと一緒にいてくれないかな。』

照れながら言うワジは、どこかいじらしくて女にも見えた。

些細なことだった。

 

ヴァルド・ヴァレスはワジ・ヘミスフィアを必要としていた。

同様に、ワジ・ヘミスフィアもヴァルド・ヴァレスを必要としていた。

 

ただ、それだけのことなのだ。

ただ、それだけのことで…

 

「…猟兵って、こんなに弱い奴らなのか?」

「油断しちゃダメだって。」

 

名うての猟兵にだって打ち勝てる。

今なら、誰にでも勝てる。

散々今まで伸び悩んできた。

それも、今は気にならない。

 

だって、今、大切な人の隣にいるのだから!

 

ヴァルドは、後ろを振り返ってディーノに告げた。

「…気になるなら行って来い。」

「ヴァ、ヴァルドさん…」

「いいから行けってんだ!」

ディーノはヴァルドに向けて全力で返事をした。

「はいっ!ありがとうございます、ヴァルドさん!」

 

そうだ。

生きたいように生きれば良い。

誰にもヴァルドとワジの邪魔をすることなど出来ないのだ。

ヴァルドは、引き続き猟兵から武器を奪うべく破壊を続けていった。

 

◆◇◆◇◆

 

武器を破壊していくヴァルドの隣で、ワジは猟兵の意識を着実に刈り取っていた。

また、アーツの発動を見つけたらカードを投げてそれを阻止。

目立ちはしないが、確実にヴァルド達の勢いを止めさせないために動いていた。

その顔に浮かぶのは苦笑だ。

 

ヴァルドの顔に浮かぶ全幅の信頼が、今は重かった。

ワジはいずれクロスベルを去る。

一緒にクロスベルを守ろうと言った約束だって、守れない約束になるのだ。

 

何故なら、ワジ・ヘミスフィアは星杯騎士だから。

任務を終えればクロスベルから消えなければならない。

そして、その時は、近い。

 

分かっていた。

一緒にいて居心地がいいからと選んだヴァルドだって、いずれは離れていくのだと。

自分の素性を知れば、きっと離れてしまうのだと。

自分の正体を知れば、嫌われてしまうのだと。

 

一緒にいて居心地がいいから何だ。

居心地が悪くなればヴァルドは離れてしまうかもしれない。

 

自分の素性が知られるのが怖いか。

怖いに決まっている。

だって、悪名高い星杯騎士だ。

それも、守護騎士。

嫌われるに決まっている。

 

自分の正体を知られるのは怖いか。

怖いに決まっている。

だって、気持ち悪いだろう。

ワジ・ヘミスフィアは無論、女ではない。

だが、男でもなくなったのだ。

後世に何も残せない欠陥品の神子。

それが、ワジ・ヘミスフィアだった。

 

こんな僕が、誰かに好かれるわけがないじゃないか。

 

だけど、諦めることは出来なかった。

あまりにも居心地が良すぎて。

あまりにも平穏な日が過ぎて。

いつしか、離れたくないと思ってしまった。

 

だからワジはヴァルドに告げてしまったのだ。

『一緒にクロスベルを守ろう』と。

だから、ワジはヴァルドに告げてしまったのだ。

『一緒にいてくれないかな』と。

それが、どれだけ不毛なことか分かっていても。

 

手放したくなかった。

やっとつかんだ幸せを。

だからこそ、今は何も考えずに拳を振るう。

 

この時間が。

ヴァルドと要られるこの時間が長く続くように願いながら。

ぬるま湯の中に浸かって、浸って、溺れたい。

そんな欲望を押し込めながら、ワジは猟兵を倒していった。

 

倒される猟兵の脇を子分たちがすり抜けていく。

逃げ遅れた人間を誘導しながら、彼らはけがの治療もおこなっていた。

 

 

――中央広場、および裏通りの戦闘。

 

最終的に、奇蹟的に怪我人も死者もなくこの区域の戦闘は終わった。

警備隊は合流したものの、ワジとヴァルドにこき使われることになった。

南無三。

 




何だこれ(白目)
次回、元執行者たちが活躍…するのかなあ?

では、また。

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