雪の軌跡   作:玻璃

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あああああ時間がないいいい。

ででででは、どうぞ。


~胎動・猛獣達の謝肉祭~
蠢動


独立宣言から約一か月後。

住民投票が数週間後に近づいてきたある日。

アルシェムは、丸一日有給を取った。

表向きの理由は、健康診断のため。

病院で健康診断を受けている間、アルシェムは分身をエル・ストレイに変身させて様々な場所へと赴いていた。

各村町長の下。

ハロルド・ヘイワーズの下。

もしくは、ボンド氏の下。

あるいは、ヘンリー・マクダエル議長の下。

ソーニャ・ベルツ司令の下。

ロバーツ主任の下。

ヨルグ・ローゼンベルクの下。

リーシャ・マオの住処にも、《イグニス》にも現れた。

用件は全て同じで、首を縦に振る者もいれば振らない者もいた。

また、リーシャに限り別の情報をも伝えられた。

それを聞いたリーシャはあることを確信したという。

健康診断を受けていた本体は多少疲れてはいるものの、正常であると判断された。

そして、それから数日後、住民投票の十日ほど前のことだった。

アルシェムはいつもと同じように端末を開いた。

相変わらず並ぶ個性的な支援要請。

ロイドは、それを見てこう振り分けた。

「じゃあ、偽ブランド商の追跡にノエルとレン、不審人物の調査は俺とエリィとティオ、手配魔獣はランディとアルに頼む。終わり次第それぞれ昼食を好きなものにしてグルメガイドのレポートを書こう。それと、遊撃士協会から昼の一時に呼び出しがかかってるから、それも忘れないようにな。」

それに全員が了承の意を示し、それぞれの要請に向かって動き出した。

アルシェムはランディと共に手配魔獣を狩りに旧鉱山へと向かった。

「しかし…ここ、立ち入り禁止にしたはずだよな?」

「うん、何で手配魔獣の連絡が来るんだろーね?」

ザイルを使うことで行程を短縮しつつ、途中で見える魔獣を狩る。

その作業を続け、最下層から上層を目指す。

因みに、最下層に着いた際にメガロバット(手配魔獣)自体は退治し終えているので無駄な作業であるともいえる。

上層まで登ってきたところで、ランディが立ち止まった。

「どーしたの?」

「…ああ、この先に確か鉄格子のはまった空間があるんだよ。」

そう言いつつランディはアルシェムを誘導する。

果たして、ランディが指した先には鉄格子のはまった場所があり、奥の方まで続いていそうだった。

アルシェムは棒術具でその鉄格子を叩いた。

「いきなり何を…」

「…どっかに通じてるね、これ。進んでみる?」

「いやいやいや、鉄格子を壊すのは…」

ランディがそう言うと同時に、甲高い音がして一本柵が外れた。

言わずもがな、アルシェムが柵を斬った音である。

「っておい!?」

「後で溶接するから。それより、この先がどーなってるか確認したほーがいーよ。」

アルシェムに連れられて、ランディはしぶしぶ進み始めた。

どう見てもホラーな道程に、ランディが思わずアルシェムに問うた。

「…結構グロいが、大丈夫か?」

「問題ねーよ。にしても…どこまで続くんだろ。」

そう言いながら、アルシェムは足を速めた。

早く踏破しないと昼までに帰り着けないからだ。

ランディもそれに追従し、そして。

「…断崖絶壁?」

「いや、ここは…マインツ山道の途中だろ。」

ランディは何故かそう断言した。

確かに漏れ見える景色はそれっぽいのだが、それはさておき。

「ランディ、遅刻しちゃうかも。」

「…だな。急ぐぞ!」

見えた太陽の位置はほぼ直上。

つまりは、正午ごろである。

遊撃士協会へと向かわなければならない上に、昼食も食べなければならない。

旧鉱山の柵をアーツで溶接したアルシェムとランディは駆けだした。

急いでマインツまで駆け戻ったアルシェム達は宿屋で店主一押しを1人前注文し、ガッツリ出て来たステーキをランディが頬張って消化。

そして丁度来たバスでクロスベルまで戻り、西通りでアルシェムがしっとりカツサンドを賞味。

「まだたりねぇ!」と絶叫したランディは前から目をつけていたらしい港湾区のラーメン屋台でお気に入りのグルメを発見したようだった。

食べ終わったアルシェムとランディは駆け足で遊撃士協会へと移動。

その前でレポートを書いていた。

「うー…苦しー…」

「俺も胃が重いぜ…やけ食いしすぎたか?」

そんな会話があったとかなかったとか。

ロイド達も後から合流し、遊撃士協会の中でとある魔獣に関する話をされた。

その名も『幻獣』。

愉快なことに、あまり一般的な四属性のアーツが効きにくいとのことだ。

確認されている個体は全部で5体。

うち2体を特務支援課で受け持つことになった。

ロイドはその場で支援課メンバーを2つに分けた。

「ウルスラ方面にはレンとアルとエリィとティオ、東クロスベル街道にはノエルとランディと俺で向かおう。何かあればENIGMAで連絡してくれ。」

全員が首肯したその手際を見てミシェルが驚いていたとかいなかったとか。

閑話休題。

アルシェム達はウルスラ間道へと向かった。

途中の魔獣は心なしか少なく、楽に進むことが出来た。

そして。

「大きい…!」

「…これは…上位三属性が働いています!」

ティオの声に全員が気を引き締める。

そして、目線を合わせあうとアルシェム達は幻獣に襲い掛かった。

「解析します…」

ティオが弱点を探し出す間に、エリィが気を引き付ける。

エリィにダメージが入りそうになったらアルシェムが今度は交代する。

それと同時に対角線上に回り込んだレンが攻撃し、狙いを定めさせないようにする。

そこで、解析の結果が出たようだった。

「皆さん、幻属性のアーツが一番効くようです!」

ティオはそう言うと同時にアーツを発動させ始めた。

それを聞いたエリィもアーツを発動させ始める。

一応高位の幻属性のアーツを使えるアルシェムはしかし、ENIGMAに触ろうとはしなかった。

「アルも良いわよ!」

「流石に危険すぎるからダメ。」

そう言いながらもアルシェムとレンは止まらなかった。

エリィとティオを幻獣の射線上から外すために若干動いて攻撃しているのだ。

そして、アーツが発動する。

単体アーツ・カオスブランド。

延々とタイミングをずらして発動し続ける2人の連係もなかなか出来てきたようである。

その『作業』を終わらせると、その場には碧い草だけが残された。

「これは…」

「採取しておいた方が良いわね。原因の可能性が高いから。」

そう言って、レンはその草を採取した。

その途端、草は淡く発光した。

発光が収まった後、その草から発光が起きることはなかった。

「…兎に角、ロイドに連絡した方が良いわね。」

そう言ってエリィがロイドに連絡を取っている間、アルシェムはその草をじっと睨みつけていた。

 

その草こそが、プレロマ草。

巨いなる眼にして、魔都クロスベルにおける至高の花。

 

エリィは連絡を終えるとウルスラ医大に行く旨を伝え、全員が移動を始めた。

因みにロイド達も草を採取し、大聖堂に行く予定になっている。

アルシェム達は途中の魔獣は危険なもの以外は無視して、速攻でウルスラ医大に向かった。

というのも、エリィが疲弊してしまっていたからである。

そこまでハードスケジュールではなかったように感じてエリィに聞いてみると、彼女はこう答えた。

「クロスベル市とアルモリカ村を往復して大変だったのよ…」

どうも、不審人物の捜査の移動が激しかったようだ。

アルシェムは苦笑しながらウルスラ医大の敷地内へと入った。

そこで思い出したようにエリィが声を上げた。

「あ、そう言えばアル、シズクちゃんの手術が午前中に終わったそうよ?」

「あ、そうだっけ。ついでにお見舞いに行っとく、エリィ?」

「そうしましょう。シズクちゃんもきっと喜ぶわ。」

セイランド教授に草を渡して解析をお願いし、そのままセシルを捕まえてシズクの病室へと向かう一行。

病室の前には、憔悴した様子のアリオスが佇んでいた。

「…お前達か。」

「大丈夫ですか、アリオスさん。かなりお疲れみたいですけど…」

「…ああ、問題ない。」

どう見ても問題のある顔色をしているのだが、それはさておき。

アリオスとセシルに許可を取って病室に入ると、目は開いているものの焦点の合っていないシズクがベッドに座っていた。

「…特務支援課の方、でしたよね?」

「ええ、そうよ。シズクちゃんは元気かしら?」

「私は大丈夫です。でも、お父さんの方が何か思いつめちゃってるみたいで…」

どう見ても無理のある笑みでそう告げるシズク。

思いつめているのはアリオスだけではなく、シズクもだった。

「…別にアリオスを困らせてもいーと思うよ、シズクちゃん。」

「…え、でも…」

「甘えるのは子供の特権じゃねーの。今くらいは甘えてもいーんじゃねーかな。」

アルシェムの言葉を聞いて、シズクは困ったように笑った。

そして、そんなことは出来ない、と告げた。

そんなことをしたらお父さんが壊れちゃう、とも。

それを聞いたアルシェムは、エリィとセシルにシズクのことを任せると、レンとティオを連れて病室を出た。

「あの、えと…」

病室の中でシズクは困惑しているようだった。

アルシェムは溜息を吐いてアリオスにこう告げた。

「アリオスさん、模擬戦しません?」

「…何故今。」

「ちょっとくらい吐き出さないと壊れちゃうわよ、アリオスおじさん。」

アリオスは「おじっ…」と言いかけてとどまった。

アリオスがいい年をした大人であることに変わりはない。

そして、少しだけ考えてから是、と答えた。

ウルスラ間道に移動し、刀を携えて立つアリオスにアルシェムは一振りの剣で応えた。

アリオスの剣技はいつもよりも鈍く、アルシェム1人でも簡単に捌けるほどに荒れていた。

何合、何十合、剣を合わせただろうか。

いつしか日は傾き、アルシェムとアリオスの息も上がってきた。

レンは途中で退屈になってティオを連れてクロスベル市へと戻っていった。

エリィも顔を覗かせるだけ覗かせてバスで帰っていった。

それでも、アリオスは落ちなかった。

「…受けよ。終の太刀。」

最終奥義なるものを発動させてまで、アリオスはアルシェムを倒しにかかっていた。

アルシェムはその最終奥義を全力で避けた。

流石にこれを受けたら死ぬためである。

最終奥義を完全に避けきられたアリオスは、満身創痍で意識を失った。

「…どんだけタフなの、このおっさん。」

アルシェムはアリオスを担いで最終バスに乗り込み、遊撃士協会の中にアリオスを置き去りにして支援課ビルへと戻った。




時系列がおかしかったら報告ください。
うろ覚えなんですこの辺。

では、また。

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