雪の軌跡 作:玻璃
「あーもうっ!モルガン将軍っ!ここで国家機密級の秘密バラすよっ!?すぐ北の山崩れとかっ!」
その瞬間、空気が凍りついた。
「…!?バカな…」
「シクシク…誰か聞いてくれないかい…」
ただ1人だけは空気を読んではくれないようだが。
「何故それを知っている、小娘!」
「話をきーてくれたら話す。…ただし、2人きりで。」
これは、賭けだ。
モルガン将軍がクロなら、アウト。
シロなら、情報部を燻り出すチャンスだ。
アテはある。
「そこから始まる愛のロマンス!」
「黙れ。」
今真剣な話してんだよ黙れオリヴァルト。
「ハイ…」
「…分かった。では、わしの執務室で話そう。…無論、人払いしてな…」
「え~、じゃあ、あたし達は!?」
憮然とした顔でエステルは言うが、聞かせられない。
特に、ヨシュアには。
気付いてはいないようだが、気付かせるわけにもいかない。
「…ごめん、先、戻ってて。聞かせたくねーし、あんまり関わらせたくねー。」
「そりゃないわよ!」
「仕方ねーじゃねーの。…シェラさん、耳貸して。」
「…何よ?」
皆の目の前で堂々と耳打ちする。
「リンデ号は見つけました。けど、まだ動かねーで下さい。軍がどう動かされるか分かったもんじゃねーんで。」
ゆっくりシェラザードから離れる。
「…分かったわ。あんた、何て言うか…規格外ねぇ…」
「しつれーな。」
規格外なんじゃない。
気付かないと生きてこれなかったから。
「あはは、褒めてんのよ。…さて、行くわよエステル、ヨシュア。」
「シェラ姉まで何よう!」
「…いや、行こうエステル。わざわざ長居しなくても良いじゃないか。メイベル市長にも報告に行かないといけないしね。」
ありがとう、ヨシュア。
こういう時だけは空気が読める。
「む~~~~~っ!分かったわよ!…早く戻ってきなさいよね!」
「…ごめん。」
そこで一段落したと取ったのか、モルガン将軍が言う。
「…では、行くか。」
「はい。」
2人して連れ立って執務室に入る。
そこで、気付いた。
アルシェムは特に気配には敏感である。
「…人払い…完全じゃねーし…」
「はっ!?ケチを付ける気か?」
「そこの人。隠形が完全じゃねーよ。…出てけ。二度は言わねー。」
殺気を若干放ちながら言うと、かたん、と微かに音が鳴り気配が消えた。
その場からは。
そいつだけじゃなかった。
盗聴器が仕掛けられている…
「はあ…」
仕方がない。
そこで、筆談を開始した。
「それで、何が分かったのかね?」
反応しねーで、ちゃんと見て下さい。
…何故筆談なのだ?
まだ聞かれてるからです。
自覚してますよね?
軍がおかしくなってるのは。
「そうですね、空賊についてお話ししますよ。」
…そう、だな…
リンデ号をラヴェンヌ村の廃坑で見つけた時、空賊を逃がしてしまったんですが…
「リンデ号を襲った空賊は、長兄ドルンと次兄キール、末妹ジョゼットです。」
はっ!?
…面目ねー。
でも、それよりも重大なことが分かったので。
「それは分かっておる。」
重大なこと…だと?
話が違う、早すぎる、と。
遊撃士連中は将軍が情報規制してたので知るわけねーんですよ。
「次兄キールは、爆弾を使います。末妹ジョゼットは、導力銃を使います。」
…成程…
一番良いのは、一般兵のばーいですが、有り得ないでしょ。
一般兵が軍の動きをコントロールできるはずがない。
だから、最悪の情報部が黒幕なかのーせーを考慮しておくべきです。
「ふむ…」
情報部…
リシャールの部署か。
だが、何故そこなのだ?
…一番、素姓が知れねー奴がいるからですよ。
「また、長兄ドルンはかなり大胆かつ非情な輩のようです。」
それだけでは断言出来んだろう。
…何を知っている?
…将軍は、アルシェム・ブライトときーて思うことは?
「何故そう思う?」
カシウスの養子で…
かつてクローディア様を襲ったらしいな?
操られていたらしいが…
けしからん奴だ。
「あの兄妹は、単なる小悪党に過ぎませんから。」
済みませんね、けしからん奴で。
…記憶が、一部戻ったんですよ。
「なっ!?」
筆談。
…そうですよ。
さっきの遊撃士連中はエステル・ブライトにヨシュア・ブライト、シェラザード・ハーヴェイです。
「ごほん、成程…」
…!
道理で見たことがあるような顔だと…!
そして、乗客名簿を見たでしょう?
カシウス・ブライトが乗っていた、と。
わたしは有り得ねーと思いますが。
…それでカシウスの弟子シェラザードと子供達が探しに来たわけです。
「カプアの名からして、エレボニアの人間でしょう。」
…そうだったか…
済まないことをしたな…
ま、遊撃士が嫌いなのはゆーめーですし、恐らくカシウス関連でしょーから。
…情報部に元、わたしが所属してたらしい結社の奴がいます。
告発は出来ません。
「知っておるのか?」
何故だ!?
わたしの記憶を奪った奴が動くからですよ。
…良いように記憶を改竄されて終わりです。
「一時期、わたしはエレボニアにいたことがありますから。」
く…っ。
そうか…
で、リンデ号はラヴェンヌ廃鉱の奥にあります。
ただ、まだ行かない方が良いでしょう。
「ふむ…また帝国軍の関与の可能性が出て来たか…」
…内通者が知らせるからか。
ええ。
動いた奴が、十中八九黒幕です。
「ありませんよ。…いくら軍でも、没落貴族なんぞ動かしません。するなら猟兵団を雇う方が確実です。」
…分かった。
気を付けよう。
情報部なら家族を人質にとるとかやりかねねー。
気を付けて下さい。多分、かなりデカいことが起きます。
「それもそうだな…」
情報部がクロならな。
…次はお主の話だ。
何故『山崩れ』を知っている?
「で、重要な話はそれだけか?」
話は簡単です。
わたしは、小さい頃そこで育ちました。
…猟兵崩れが、襲って来る前の日までは。
…そうか…
済まん。
「もう一つありますよ。…リンデ号ですが、カシウス・ブライトが乗っていたという情報がありますよね?」
モルガン将軍のせーじゃねー。
…誰か…
そう、誰かが彼処の名を彼奴等に吹き込んで、《鉄血宰相》が利用した。
だから、モルガン将軍のせーじゃねー。
「ああ。」
沈黙を強いられたのは確かだ。
まさか、生き残りがいるとはな…
…把握すら出来ませんでしたか?
「結論から言うと、彼はリンデ号には乗っていません。」
ああ。
…せめて、誰か生きていてくれれば。
だが…
生きていることが分かれば即刻抹殺されただろうからな…
そう、でしょーね。
「そうだろうな。あ奴が空賊如きに敗れるなど、空の女神がここに降臨なさるくらい奇跡的なことだ。」
…このことは、女王陛下に報告しても?
良くねーですよバカですか?
…自分で、話します。
自分で話させて下さい。
記憶の事も含めて。
だから…
…分かった。話はこれで終わりだ。
「すげー例えですが、そうでしょう。」
待って下さいって。
リンデ号ですが…
ここでギルドの捜査を止めると不自然です。
だから、遊撃士達は探しに行くと思っていて下さい。
もし鉢合わせたら、問答無用で捕縛して下さい。
…密談があったと、悟らせないように。
「話はそれだけか?」
そうだな…
腹芸は苦手だが、遊撃士相手とあらば何とかしよう。
何分、目の敵にするには持って来いだしな。
冗談になってませんよそれ…
「…なら、帰るがいい。」
「…ほんとーに、済みませんね。しつれーします。…。」
モルガン将軍は筆談した紙を燃やし尽くした。
アルシェムは執務室から出てボースに戻った。
というわけで、アルシェムさんの過去が一つ割れました。
まだまだ隠された過去がありますので、推測してみてください。
まあ、伏線すらまだ張っていないものもありますがね。
では、また。