雪の軌跡   作:玻璃

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そのうち、話数を減らすために改稿します。
…たぶん。

では、どうぞ。


~西ゼムリア通商会議~
支援要請への対応(初日)


町のざわめきが大きくなり、不穏な空気が高まってきた。

西ゼムリア通商会議が近づいてきた証だ。

通商会議の警備にかかわることこそできなかったものの、特務支援課の一行は支援要請と《赤い星座》の動向に気を配っていた。

「今日の支援要請は、《星見の塔》の古文書とアルモリカ古道の手配魔獣、それに緊急要請が新教授の依頼と警備隊の演習の参加か…」

端末の前で、ロイドはそうつぶやいて考え始めた。

誰をどこに割り振れば効率が良いのかを考えているのである。

そして、考えをまとめたロイドはこう告げた。

「古文書はノエルとアルが、手配魔獣はランディとレンであたってくれ。新教授の依頼には俺とエリィが行こう。終わり次第、警備隊の演習に行こうか。」

それに全員が首肯し、支援要請への対応が始まった。

アルシェムは、ノエルと連れ立ってクロスベル市立図書館へと向かった。

「地味にわたし、《星見の塔》に入ったことねーんだけど…」

「そういえばあの時はいませんでしたね…道は覚えてるので安心してください。」

《星見の塔》に行ったことがないことになっているアルシェムにたいし、ノエルはそう告げた。

アルシェムは内心苦笑しながら図書館の中に入る。

ノエルは一番近くにいた司書に話しかけた。

すると、そこには何故かニールセンまで集まって何やら話し込む図書館長マイルズの姿があった。

詳しく話を聞いたところ、《星見の塔》には大量の古文書があるとのこと。

持ち帰ってきて保存しておくことこそ図書館としてあるべき姿であると依頼された。

図書館から出て、アルシェムはノエルにこう提案した。

「ノエル、荷物になるし導力車で行かねー?」

「そうですね、どれだけの量になるかわかりませんから、何往復かする覚悟で行ったほうがいいかもしれません。」

そうして、導力車に乗ってアルシェムとノエルは《星見の塔》へと向かった。

途中の魔獣は全てアルシェムがノエルの機関銃で狩り尽くした。

ノエルは顔をひきつらせていたが、それはご愛嬌だろう。

《星見の塔》を探索したアルシェム達が見たのは、ほぼ空っぽの書架だった。

「うっわー…本がもったいねー…」

「痛みそうですけど…じゃなくて!」

ノエルは本を拾い集めながらこう叫んだ。

「何でなくなってるんですか!?バリゲートも張ってあったのに…!」

そう。

ノエルが前回来たときは、この初夏の中日本が大量に詰まっていて、床にまであふれていたのだ。

それが、今はない。

本が燃えたような痕跡もないことから、焼失したわけでもないとはわかる。

だからこそ、謎だった。

なぜ、本がなくなっているのか。

アルシェムは落ちていた本をぱらぱらめくりながらこう言った。

「この本を見られて困る輩がいるんだろーね。」

「何でそんなに冷静なんですか!?」

どこまでも冷めた声で答えたアルシェムにノエルはかみついた。

アルシェムは犯人を知っているからこそこの反応なのである。

そして、その本が少なくともアルシェムにとっては必要ないものであることだけは確かだ。

だからこそ、ここまで冷静に判断できるのだ。

正直、ここの調査を後回しにしなくて良かったと思っていた。

「ここで憤ってても戻ってこねーもん。仕方ねーよ。とにかく、ある奴だけでも回収しよーか?」

「は、はい…」

ノエルと一緒に本を回収し、導力車に積み込んだところでアルシェムのENIGMAⅡが鳴った。

「ちょっと失礼。…はい、アルシェム・シエル。…ごめん、忘れてた。明後日入って、獅子も一緒にね。何なら、うろついてくれてもいいよ?そのままこっちでお願い。…うん、反省してる。じゃ、また。」

相手はカリンだった。

後で指示を出す、を忙しさにかまけて忘れていたのである。

だからこそ、焦ってノエルの前で通話するという失態を演じたわけだが。

ノエルは、不思議そうにアルシェムに問うた。

「誰からですか?」

「知り合いからだよ。ちょっと、相談したいことがあるから近くまで観光しながらくるんだって。」

アルシェムはそう答えた。

あながち間違いではない。

大事なことを何も言っていないだけで。

幸い、ノエルも深くは追及してこなかった。

そのまま、ノエルの運転する導力車に乗って図書館に戻る。

「ただ今戻りましたー。」

「おお!それで、どうだったんだね?」

ノエルがマイルズの問いに答え、古文書を渡すと狂喜乱舞しながら受け取った。

そして、仕事もそっちのけで解読し始める。

「じゃー、またどこかで古文書っぽいのを見つけたら持ってきます。」

「ああ、こっちも何かわかったら連絡するよ!」

そうして、マイルズは古文書に没頭し始めた。

ノエルとアルシェムは苦笑しながら図書館を後にした。

図書館を出たところでノエルがロイドに連絡を取る。

アルシェムも同時にレンに連絡を取った。

「もしもし、こちらノエルです。はい、終わりました。…あ、そうなんですね。わかりました。…では。」

「もしもし、レン?…やっぱ早いね。もう戻ってきてる?…わかった。ロイドたちは…無理かも。じゃ。」

通話を終えたノエルは、アルシェムにこう告げた。

「あちらも終わったそうですが…どうも、黒月にからまれたらしくて。警備隊の演習には4人で行ってほしいとのことです。」

「わかった。レン達はもー終わったみてーだから、行けるよ。」

ノエルはそれに首肯し、導力車を支援課の前に停めた。

程なくしてレン達が戻ってきたので、タングラム門へと向かう。

「うふふ、楽しみだわ。」

「お手柔らかに頼むぜ…」

テンションが高いレンと疲れ切った様子のランディ。

何があったのかは聞かないほうがいい気がしたため、アルシェムは苦笑するだけにとどめる。

タングラム門にたどりつき、副司令室へと向かう。

そこにいたのは、ソーニャに代わって副司令となったダグラスだった。

「ようこそ、タングラム門へ。…で、アルシェム・シエルってのはどいつだ?」

開口一番に、ダグラスはそう告げた。

アルシェムは苦笑しながら手を挙げた。

「お前、参加禁止。」

「はっは、りょーかいです。じゃー、リオさん参加禁止にしてくだせーよ。」

「当たり前だバカ野郎。じゃ、始めるぞ?」

苦笑しながらダグラスはそう答え、特務支援課をタングラム門の入口へと誘導した。

そこには既に隊員が集合しており、スタンバイはできているようだった。

アルシェムとリオが見守る中、演習が始まった。

「ハンデ酷くないかな?」

「だいじょーぶだいじょーぶ。レンがいるから。」

アルシェムとリオは雑談しながらゆったり見ている。

苦戦はしていないようだが、それでも善戦はしていない。

「レン、彼以外は使って良いよ。埒が明かないから。」

「あら、クラフトは使っちゃダメなのよ?」

そう言いながら後退するレン。

その手には、既にオーブメントが握られていた。

そして。

「うふふ、これで終わりね♪カラミティエッジ!」

時属性のアーツが炸裂し、警備隊員は全滅した。

その後、更に2回の演習を経てこの依頼は終わった。

因みに全戦全勝である。

課題は大量にあったが。

あまりにも、エリィとノエルが使えないのである。

ダメージディーラーではないのは確定なのだが、貫通力が高すぎるために人間には使えないのである。

模擬戦用に急きょ用意されたゴム弾では、銃の重さの違いが災いして特にエリィが狙いを外しまくったのである。

その課題を再確認しつつ、一行はクロスベル市へと戻った。

すると、ロイドから連絡があり、遊撃士協会へと赴くことになった。

「来ましたよ、ミシェルさん。」

「遅かったわね。アリオスたちはもう上よ?」

「色々あったんですよ、そう、色々…」

アルシェムとレンからぼろカスに言われたエリィは疲れ切っていた。

悪気はないのだが、深刻な問題でもあった。

そんなエリィはさておき、遊撃士協会の2階で情報交換を始める。

どうやら、《黒月》も《赤い星座》も動き始めたようだった。

「それで…お前は何か知らないか?」

情報交換の最中に、アリオスがふとアルシェムに問うた。

アルシェムは内心探られていると理解しつつもこう答えた。

「《黒月》については何も。ただ、《銀》についてはあまり心配しなくていーかもね。」

「ええっ、どうして!?」

何故かそこでエリィが大げさに驚いた。

アルシェムは《銀》の正体を知っているために言えることなのであるが、それ以外には通じない話だからだ。

アルシェムは、エリィにこう告げた。

「《黒月》と《銀》じゃー、ネームバリューが違いすぎるから。ついでに《赤い星座》は確実に動くんじゃねーかな。」

「…問題は誰に雇われてるかだがな。」

アルシェムの言葉に、小さく零すランディ。

それに苦笑しながら、アルシェムは答えた。

「通商会議に来る帝国人は《鉄血宰相》殿とオリヴァルト皇子殿下とその随行員でしょー?そっちに雇われてるか、彼らを殺そうとする勢力なのかは定かじゃないけど。」

「…なるほど。」

「ついでに、クロスベル国内で《身喰らう蛇》の構成員を見たとだけ言っておくよ。」

アルシェムがそう告げた瞬間、部屋の中にざわめきが満ちた。

その中でも、反応が早かったのはアガットだった。

「お前が知ってる奴か?」

「《道化師》と《博士》。後者はともかく、前者は話だけでも聞いたことあるよね?」

「シェラザードとアネラスが会った奴か…他の執行者連中はいないのか?」

まだ遊撃士も特務支援課も情報を頭の中で整理しているようだ。

話に全くついていけてはいない。

ついていけているのは、アルシェムとレンだけだった。

「ブルブランくらいは来てるんじゃないかしら。あの人、こういうイベントだけは大好物だもの。」

「あー…あのHENTAIか…」

アガットにもその認識は浸透しているようだった。

哀れ、B。

その後、遊撃士協会、特務支援課ともに警戒を強めることで合意した。

思いのほか気疲れしたアルシェムは、遊撃士協会を出た瞬間大きなため息をついた。

「疲れてるな、アル。」

「そりゃーね。この先のことを考えたら気が重いんだよ。」

この先、アルシェムには仕事が山積している。

ここからが正念場だった。

遊撃士協会から支援課ビルに戻ろうとする途中、アルシェムはある気配に気づいた。

支援課ビルの中にはあり得ないはずの気配を。

「…ロイド、わたし裏口から入るから表から入ってね。」

「何かあったのか?」

「支援課の中に課長とあのガキ以外の誰かがいる。それも、一般人じゃねー奴。」

その気配が誰なのか、アルシェムは知っていた。

ただし、明言はしなかったが。

ほどなくして、ランディも気づいた。

「…チッ、そういうことかよ…!」

中に入ると、そこにはシャーリィがいた。

無造作にソファーに座って待っていたシャーリィはランディにこう告げた。

「ランディ兄、パパが呼んでるよ。」

「何でここに…いや、試してたのか。旧鉱山もお前たちだろ?」

「どうでもいいじゃん、そんなとこ。こんなとこ、ランディ兄のいるべき場所じゃないよ。…そこのお姉さんたちもね。」

そこで、シャーリィはアルシェムとレンに目を向けた。

その言葉に答えたのは、レンだった。

「くだらないわね。確かにこの場所は自分で勝ち取ったものじゃないけど、それでもレンがあるべき場所はレンが決めるわ。…きっと、ランディお兄さんもね。」

「ふーん、つまんないの。」

「あんただって自分から望んでそこにいるんでしょー?ブラッディ・シャーリィ。」

アルシェムとレンの目は冷え切っていた。

自分の居場所は他人に決められるべきではない。

切り開けるほど強いわけでもないが、それでも自分で決めるべきものだ。

シャーリィは小さく息を吐き出した後、ランディとロイドを連れて《ノイエ・ブラン》へと去って行った。

それを見送ってから、アルシェムはこういった。

「…で、晩御飯どうする?エリィ、ノエル。」

「キーアが作ってるよ!」

台所から顔を出したキーアが言った。

どうやら、鍋の準備をしているらしい。

「ふーん。」

アルシェムはそれを聞き流した。

そこで、アルシェムのENIGMAⅡが鳴ったからだ。

「失礼。…はい、アルシェム・シエル。…あー…うん、そーだね…わかった。すぐ行くよ。もう1人追加でもいー?…そー。…うん、覚悟はできた。じゃ、例の場所で。」

相手はカリンだった。

エリィたちに断りを入れてレンとともにある場所に向かう。

その途中で、レンがポツリと漏らした。

「…今更だけど、レンが行っても良いの?」

「だってレン、何があっても付いてきちゃうでしょ?」

レンの問いに、アルシェムはそう答えた。

危険から遠ざけられないのならば、いっそ近くで守るほうがいい。

そう考えるからこその答えだった。

「あら、本当にダメならレンはついてはいかないわよ?」

「探りはするでしょ?」

「うふふ、わかってるじゃない。」

そのあとは、他愛もない話をしながら進んでいった。

クロスベルの、とある森の中へと。

メルカバには、すでにカリンとレオンハルトがいた。

「遅かったですね、アル。」

「まーね。…じゃ、はじめようか。」

そうして、アルシェムはレンと自らの従騎士に通商会議当日の作戦を言い渡した。

テロリストが侵入した際の立ち位置と、役目を。

カリンはアルテリアの重役として。

レオンハルトは侵入者の対策班として。

アルシェムはテロリストの処分を任される連中に対する牽制役として。

レンは、特務支援課の導き手として。

全員がそろってこそ、意味のある作戦である。

これだけでは詰めは甘いが、後詰を用意する方法はあった。

「じゃあ、当日は手筈通りに。…一応リベールとオリヴァルトにはこっちで渡りをつけてみるよ。」

「ええ。…これで少しはおとなしくなってくれれば良いのだけど。」

嘆息してそういうカリン。

アルシェムは苦笑いしながらアインに通信をつないだ。

『どうした?アルシェム。』

「覚悟が決まったから、従騎士を増やそうと思って。」

『…まさか、背後の小娘じゃないだろうな?』

アインは顔をしかめてそう聞いた。

アルシェムは平然とした顔で首肯した。

この場にいる部外者はレンしかいない。

『…お前、結社のスパイだと疑われるぞ?その構成は…』

「アインが何を言ってるのかわかんねーな。ここにいるのは《殲滅天使》じゃなくてわたしの家族だよ。」

『…言っても無駄か。…わかった。ねじ込んでおく。』

アインは疲れた顔でそう言い、通信を切った。

通信が切れた瞬間、レンはアルシェムに飛びついた。

「ちょ、レン!?」

「…ありがとう。」

「巻き込む覚悟ができただけだよ。こうなったからにはとことんこき使うからね?」

アルシェムの脅しに、レンは破顔して答えた。

「勿論よ!」

そうして。

メルカバから出たアルシェムとレンは何事もなかったかのように支援課ビルへと帰ったのだった。




風呂敷をたたみきれるだろうか、4月までに。

では、また。

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