雪の軌跡   作:玻璃

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雨のせいで外が真っ白です。
なんでこうなった。

では、どうぞ。


まさかの再会とモルガン将軍

休憩所に入ると、金髪の男がいた。

…待て。

何故お前がここにいる。

あの時の、アルノールの…!

「フッ、驚いたな…本場のリベール料理を食べるのは初めてだが、なかなかの美味だ。」

一体何でこんな所に…

「ほう、嬉しいことを言ってくれるじゃねえか。街に行きゃ、美味いリベール料理を食わせてくれる店は色々とあるぜ。楽しみにしてるこったな。」

何が狙いなのだろう。

「勿論、そのつもりだよ。場末の酒場でこれだ、今から期待出来るというものさ。」

帝国内で起きていることと言ったら今カシウスが手掛けていることしかない。

「ヘッ、場末で悪かったな。ついでにワインでもどうだ?安物だが、結構イケるぜ。」

だが、それならばリベールには来ない。

「フム、いただこうか…」

じゃあ、何故…?

考え込みそうになったところで、その金髪の男が話しかけてきた。

「やあ、ご機嫌よう。リベール人のようだが、帝国に旅行かな?」

「ううん、あたし達は野暮用でここに来ただけなの。帝国には行かないわよ。」

今の所は。

何かあれば、出向くことがあるかもしれない。

「そういうあなたはエレボニアの人みたいですね。旅行ですか?」

「フッ、仕事半分、道楽半分さ。しかし、野暮用か…君達の正体が見えてきたよ。」

「え、正体?」

多分、アルシェムの事はバレていないはずだ。

あの一度きりしか会っていないので、覚えていないことに賭けたい。

今バラされるとかなりマズいのだ。

「ずばり、遊撃士だろう?」

「ど、どうして…」

ゆ、遊撃士で良かった…

だが、ハッタリなのは分かっている。

推測で物を言うのが得意みたいだから。

「…ハッタリ半分でからかわねーで。」

「シクシク、冷たいのねっ!」

あ、相変わらずだ…

思わず生ぬるい目で見てしまう。

そもそもそんなことが出来る身分の人間ではないのだが。

「…じとー。」

「フフ、そんなに睨まないでくれたまえ。冷たく煌めく蒼穹の瞳…まるで澄みきった空のようだ。思わず抱き締めて」

「…バラすよ?あんたのしょーたい。」

「スミマセン…」

…コイツ…

覚えてるの…?

賭けてみただけなのに、ちゃんとついて来た。

「知ってるの?アル。」

「知らねーわけではねーけど知り合いじゃねー。このせっそーなし。」

バラされる前に、手を打たなければ。

最悪、脅しをかけるしかない…!

「ハア、いつの時代でも天才は理解されないものだね。ガラスのように繊細なボクのピュアハートはブロークンだよ。そうだ、冷たく煌めくブランデーのような琥珀の瞳を持つ黒髪のキミ…どうかボクを慰めて…」

「謹んでお断りします。」

それが正解だ。

コイツには関わらないに限る。

そこで、兵士が休憩所に入ってきた。

「おーい、あんた達。」

「あら、さっきの。」

「つい今し方将軍閣下がお戻りになったぞ。すぐに会って下さるそうだ。」

…来たか…

今からするのは、一種の賭けだ。

だけど、負けるわけにはいかない。

リベールに恩義はないけど、女王にはあるのだ。

女王を脅かそうとする奴を燻り出す手伝いくらいはしないと…

まあ、内政干渉にならない程度に、だが。

「え、ホント!?」

「至急、兵舎まで来てくれ。」

「思ったより早かったですね。」

「ええ。」

オリビエ…

いや、オリヴァルト・ライゼ・アルノールは自然についてこようとした。

「フッ…それでは」

「ここにいろ。オリヴ」

「分かりましたスミマセン!」

涙目で謝罪して来るが、本気ではないだろう。

これ以上弄ると何を言い出すか分からないので放置することにした。

「行こーか。」

休憩所から外に出る。

「とんでもない人でしたね…」

「タダ者じゃないわね。何というか、色々な意味で。」

まあ、確かに只者ではない。

《放蕩皇子》オリヴァルト・ライゼ・アルノール。

エレボニア皇帝の子だ。

どうでも良い事だが、皇位継承権はないらしい。

アレが皇帝になるとか考えたくはないが。

いや…意外と良い国になるのかも?

「あんな変人、ほーちが一番です。」

「そうよ!とっとと将軍に会いに行きましょ!」

兵舎の前の兵士に話しかけると、心配そうな顔で話しかけてきた。

「言い争ってたようだが、他の旅行者とケンカかい?」

「そ、そんな大事じゃないわよ。それより…将軍さんに会わせて貰える?」

「ああ、入ってくれ。閣下の執務室は、廊下の左奥だ。関係ない場所にはなるべく立ち入らないでくれよ。」

「はい。」

兵舎の中に入り、右奥の執務室の扉をノックする。

すぐに返事が返ってきた。

「…メイベル嬢の使いか?」

「あ、はい、そうです。」

「うむ、入って来るが良い。」

「では、しつれーします。」

執務室に入ると、老人…いや、モルガン将軍が出迎えてくれた。

「よく来たな、わしの名はモルガンという。アリシア女王陛下からハーケン門を任されておる者だ。」

「初めまして。メイベル市長の代理の者です。」

「ご多忙な所を失礼します。」

多忙でも、あんなところにあるリンデ号は見つけられなかったんだと思うと可哀想になる。

「なに、メイベル嬢のことは幼い頃から知っておる。まして、市長としての話ならば尚更聞かぬ訳にはいかんだろう。」

「えっと、それじゃあまずはこれを読んで下さい。」

エステルがメイベル市長からの手紙を手渡すと、モルガン将軍は速読で内容を読み取った。

「ふむ…やはり例の事件についてか。本来ならば部外秘なのだが、あの子の頼みとあらば仕方ない。判っていることは全て教えよう。」

「やっ…」

「ありがとうございます。…エステル、じちょー。」

叫びそうになったエステルを止める。

ここで教えて貰えなくなったらどうしようもない。

「?まあ良い、早速捜索状況について説明しよう。」

「謹んで拝聴させていただくわ。」

「定期船《リンデ号》はボース国際空港を離陸した後、ロレントへ向かう途中で失踪した。現在もいまだに発見されてはおらん。」

見つけたけどね。

「ということは、魔獣の被害や事故の可能性は低そうですね。墜落なんかしていたらすぐに発見されているはずですし…」

実際に事件だ。

「その通りだ。実際、ボース=ロレント間の空路は比較的見晴らしの良い平原の上にある。ヴァレリア湖やテティス海に落ちた可能性も低いはずだ。」

犯人はカプア一家。

「は~っ、良かったぁ。最悪の事態になってなくて…」

最悪の事態にはなりえないだろう。

カシウスが乗っていなくても、あの空賊共にそんな度胸がある訳がない。

「そうなると、人為的な理由で飛行船が奪われた可能性が高そうね。」

「…積荷のごーだつに、乗客の身代金よーきゅー…とか、所謂ハイジャックだね。」

実際そうだし。

「あと、地理的条件を考えると帝国軍による秘密工作の可能性もあるかも知れません。」

秘密工作はない。

没落男爵家を使うくらいなら猟兵団を使う。

「…将軍閣下?どーかされましたか?」

「いや、民間人にしてはなかなか見所があると思ってな。我々も帝国の関与の可能性も考慮して徹底した情報規制を行っていた。国際問題、ひいては戦争にまで発展しかねんからな。」

「戦争…」

戦争、か。

「だが、今朝になってその可能性は消えた。王家と飛行船公社に犯行声明を送りつけた上で身代金を要求してきた組織がある。…《カプア一家》。」

「カプア一家!?そ、それってまさか…」

「…間違いなさそうだね。」

おお、そこまでは掴んだか。

「ボースで暗躍する首領の3兄妹に率いられた空賊団だ。どうやら、名前くらいは聞いたことがあるようだな?」

「聞いたことあるどころかロレントでやり合ったばかり…」

「エステル!」

残念。

ここからは…

「あ。」

「ロレントでやり合った、だと…?」

「あっちゃあ…」

「はぁ、おバカ…」

アルシェムのでばn…

「モルガンしょーぐん、あの、お伝えした…」

「…成程な。」

「モルガンしょーぐん!?ちょ、きーて!?」

聞いてはくれないようだ。

どれだけ遊撃士(ブレイサー)が嫌いなんだ…!

こっちはかなり重要な情報を持ってるっていうのに!

「黙れ!遊撃士風情が!まさかこんな女子供が遊撃士とは思わなかったがな!」

「な、何よ、女子供って!」

「一応、メイベル市長から依頼されたのは本当ですけど…」

まあ、騙していたことに変わりはない。

というか、人の話を聞けモルガン将軍。

「黙れっ、姑息なマネをしおって!者共、出合えいッッ!」

「しょーぐん、お願い、話をきーて!」

「す、凄い大声…」

「アル?どうしたの?」

そこで兵士達がなだれ込んでくる。

「閣下、どうされました!?」

「この連中が何か!?」

「遊撃士諸君がお帰りだ!即っっっっ刻、外につまみ出せ!!」

兵士に追い立てられ、外に放り出される。

「ちょ、ちょっと何よ!犬を追っ払うみたいにしてっ!」

「ふん、同じようなものだ。わざわざ身分を隠して情報を盗み出そうとするとは…そういう姑息な真似をするから遊撃士など信用できんのだ!」

「盗むって何よ!?そもそもそっちが遊撃士協会(ギルド)に情報をくれないんじゃない!」

そーだそーだ!

と言いたいのだが、それ以上に言わなければならない事がある。

「戯け、これだけの事件をたかが民間団体に任せられるものか!…全く…メイベル嬢にも困ったものだ。こんな女子供を雇って捜索活動の邪魔を…」

「…いい加減にしなさいよ。どうしてあたし達がわざわざロレントくんだりから出張って来たと思ってるわけ?あんった達軍・人・がっ!肝心な時に役に立たないからでしょうがっ!」

「な、何ぃっ!?」

シェラザードがついにキレた。

「ここ数ヶ月、ボースで空賊の仕業と思しき強盗事件が相次いでたのに、ロクに捜査もせず遊撃士協会(ギルド)任せにしてたのはどちら?デカい事件が起こった途端偉そうに仕切ったりして…しかも手掛かりすらない始末。恥ずかしいとは思わないのかしら?ああ、それともそんな瑣事なんて気にしてなくてもっと大変な事態を夢想していたのかしら?この能無しどもが!」

「ちょっと待ってシェラさん、わたし…」

言いたいことが、と言おうとしたのにまたモルガン将軍に邪魔される。

「黙るが良い、小娘!組織の規律に支えられた軍隊は気軽に動かせるものではないのだ!後先考えず動いた挙げ句連中を取り逃がしたくせに小生意気な口を叩くでない!」

「言ってくれるじゃない…」

「だから待ってって!モルガン将軍も…!きーてよっ!?」

そこで、何故かリュートの音がした。

「フッ、悲しいことだね。」

「黙ってろ変態!ややこしーからっ!」

「シクシク…」

一発で黙らせ、モルガン将軍に向き直る。

「小娘と話す気はない!」

「争いは何も生み出さない…ただ不毛な荒野を広げるのみさ。」

ややこしい事を言うなオリヴァルト。

だが、そんなことすら粉砕できることをアルシェムは叫んだ。




今回はちょっと長いですね。

FC編はちょうど80話で終わります。
終わるったら終わるんです。
SC編が異様に短くなりますが、ご了承ください。

次回、アルシェムさんが頑張ります。
いろいろな意味で。

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