雪の軌跡 作:玻璃
というか、ご都合主義がさく裂します。
では、どうぞ。
グランセル空港に着いたアルシェムは、あり得ないものを見たかのような目で前を見た。
正直、見なかったふりをしたかったくらいだ。
それでも、目をそらすことはできなかった。
「あのねっ、あのねっ!そういうわけだから…」
「あんまりオススメしないわよ?ティータ。」
「はうっ…で、でも…」
眼前で言い合っている2人の幼女。
どう見てもレンとティータだった。
アルシェムは、ため息をつきながらレンに話しかけた。
「レン、これどういう状況…?」
「あら、アル。お帰りなさい。見ての通りよ。」
同じくため息をついて答えるレン。
レンとしてもこの状況を持て余しているようだった。
その元凶であるティータは、レンの言葉を聞いて思い切り振りかえった。
「えっ、アルシェムさん!?」
「ティータ、おっきくは…なってないねー…」
「はうっ…」
アルシェムの言葉にショックを受けるティータ。
身長こそ少し伸びたものの、中身はあまり変わっているとは思えなかった。
だから、一抹の期待を込めてアルシェムはティータに聞いた。
「大荷物持ってどこ行くの?」
「エプスタイン財団のクロスベル支部です!」
元気いっぱいに言うティータ。
その内容は不安がいっぱいなのだが。
何故に、今この時期にクロスベルなのか。
アルシェムには理解出来なかった。
だから、問うた。
「…あー、だからレンがオススメしないわけだ…エリカ博士達はちゃんと了承してくれた?」
「はいっ!」
自信満々の笑顔でそう言うティータ。
誰にも反対された様子はない。
ということは、送り返すことは不可能なのだろう。
…残念なことに。
アルシェムは、嘆息しながらこうこぼした。
「あ、じゃー止められねーわ…」
「どうして?」
「強いて言うなら、エリカ博士だから。」
ツァイスに行って通じる諺が3つある。
ラッセル博士だから仕方がない。
エリカ博士ならやりかねない。
マードック工房長はいつも胃が痛い。
ついでに、ツァイスでの絶対のルールが1つ。
ラッセル家に逆らって良いのはマードック工房長だけ。
もはやどこの独裁国家だといわんばかりである。
しかし、ツァイスの住民はそれを笑って受け入れていた。
…と、そんな事情はさておいて、レンは呆れたように嘆息した。
「押しが強いのね…」
「き、危険なことには首を突っ込みませんから!だから…」
だから、連れて行ってください。
そう懇願するティータは、目に涙を浮かべていた。
…それが本物であるかどうかは別だが。
ティータの懇願をはねのけられる人間は、ほぼいない。
それはレンも例外ではなかった。
「ああもう、泣かないの、ティータ。レンよりもお姉さんなんでしょう?」
「…仕方ねーな、連れて行こーか…」
無論、アルシェムも例外ではなかった。
正確には、『アルシェム・シエル=□□□□□□』には、だが。
それを聞いて喜色満面になるティータ。
「本当ですかっ!?」
「…どうしようレン、眩しすぎて勝てない…」
「もう、アルってば…」
そこで、ようやくアルシェムは背後を振り返った。
というのも、疲れ果てた大人の気配を感じたからだ。
それも、おじさんではなく青年の。
その気配を発するのは、ただ1人しかいなかった。
「で、アガットも来るんだね?」
「えっ…」
「…まあ、依頼だからな…」
疲れた顔でアガットはそう告げた。
どうも、ラッセル家の面々に魔改造されたようだ。
…精神的に、だが。
それを見たレンはアガットを揶揄した。
「うふふ、疲れてるわね。」
もっとも、その声はティータに届くことはなかったようだが。
目を輝かせたティータは、アガットに飛びついた。
そして、下から目線でアガットを見上げる。
「そーなんですかっ、アガットさん!」
「あ、ああ…」
どこまでもあざとい幼女に、アガットは堕ちた。
ロリコン決定である。
無論、そんなからかいがいのあるアガットを放置するような面々ではない。
「照れてる照れてる。」
「アガットお兄さんってば、ロリコンさんなのね♪」
「なっ…ばっ、馬鹿なこと言うなよ!?」
狼狽するアガット。
即答しないのはご愛嬌。
もしくは自身でも自覚しているのだろう。
ロリコンだと。
生暖かい目で、アルシェムはアガットを見た。
「そっかー…あっはっは…」
「信じるなよ!?」
全力で突っ込み続けるアガット。
ひとしきり終わった後、疲れ切ったアガットにアルシェムは声をかけた。
「…気合い入れてね、アガット。…かなり危険になるから。」
「…分かった。」
アルシェムの言葉に、ふざけていた表情を一気に引き締めたアガットは確かに男の顔をしていた。
グランセルの空港から、飛行船へと乗る一行。
やがて飛行船は飛び立ち、ティータとレンは旧交を温めあっている中で。
アルシェムはアガットに1枚の紙きれを差し出していた。
「…はい、アガット。」
「何だ、これは…」
アガットはアルシェムから渡された複雑怪奇な図を見て眉をしかめた。
読み取れないわけではない。
しかし、今ここで渡されなければならないような情報だとは、アガットは思ってもみなかった。
いったいこの図面はなんなのか。
アルシェムはその答えを吐き出した。
「IBCの内部構造。」
「…何で今渡す?」
「把握してないと危険だから。」
真剣な顔で、そう告げる。
じっと目を覗き込んでいると、アガットは理解してくれたようだ。
念のため、暗示をかけたわけではないと言っておく。
「…チッ…分かったよ。」
「ちょっと頼ることがあるかもだから、宜しく。」
あくまでも真剣にそう言うアルシェム。
ティータを危険な目には合わせられない。
それでも、連れてきてしまっているのだ。
アガットは、アルシェムを胡乱そうに見ながらこう言った。
「俺は何があろうが遊撃士として動くだけだ。」
「変なとこ真面目だよねー、アガット…」
溜息を吐いてそう言うアルシェム。
暫く、飛行船内に沈黙が漂った。
その空気を変えるかのように、ティータは声を上げた。
「あっ、アルシェムさん!」
「どーかした?ティータ。」
「また何か作ったものがあれば見せて下さいね!」
ティータは、十分に空気を読めるようだった。
それに、話題も変えられる。
アルシェムはその話題に乗ることにした。
「うん、分かった。着いてからね。」
「何なら何かあげるわよ。」
茶化すようにそういうレン。
レンにとっては軽い気持ちだったのだが、ティータにとってはそうでもなかった。
思いっきり立ち上がって、ティータは身を乗り出した。
「えっ、良いんですかー!?」
「こら、勝手に言わないの、レン。」
「足の踏み場くらい欲しいわ、レン。」
とっさにたしなめたアルシェムの言葉も、レンは一蹴した。
今現在、レンとアルシェムは同じ部屋を使っている。
部屋は余っておらず、そうするしかないからだ。
そして、アルシェムの暇つぶしが部屋に散乱していて、足の踏み場もない。
レンの言葉ももっともだった。
「スミマセンデシタ…」
「…待て、今アルシェムとソイツは一緒に住んでるのか!?」
「そうだけど…ソイツじゃなくてレンよ。」
絶対零度の瞳でにらむレン。
それを見たアガットは戦慄した。
そして、本能の赴くままに謝罪する。
「…す、済まん。」
「後、今は一応警察に所属してるから。」
「…裏工作とか大変だったんじゃ…」
アガットは、思わず本音を漏らした。
裏世界の人間が、簡単に表の世界へ出られるわけがないのだ。
だからこそそういったのに、アルシェムは軽く流した。
「何か言った?アガット。」
「い、いや…」
きまり悪げにアガットは空気を濁した。
それを払拭するかのように、アルシェムは口を開く。
「ま、そーゆー訳だから、ティータ。遊びに来てもいーよ?」
「わぁ…!今日でも良いですか!?」
目をキラキラさせながら言うティータ。
ティータが楽しみにしているのはアルシェムの部屋ではなくその中身である。
発明品の山を、見たいのだ。
だから、アルシェムは苦笑いしながらこう告げた。
「エプスタイン財団に着いてからね。」
「はいっ!」
そして、一行はクロスベル空港に到着した。
空港に降り立ったところで、アルシェムはアガットにこう告げた。
「じゃ、わたしとレンは一回支援課に戻るから、アガットは着任報告して来なよ。」
「ああ。」
「また後で行きますっ!」
「またね。」
ティータと別れ、空港から出るアルシェム。
少ししか離れていないはずなのに、空気はどんどんきな臭くなってきていた。
予想できた人には、素敵なプレゼントが…
あ り ま せ ん。
投石しないでぇぇぇ…
では、また。