雪の軌跡   作:玻璃

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お待たせしました。

では、どうぞ。


定期飛行船《リンデ号》と策略

ラヴェンヌ村に戻ると、入り口の青年が心配そうな顔でこちらに近づいてきた。

「あ…!さっき地響きがしたけど…」

あ、忘れかけてた。

「退治しましたよー?」

「本当かい!?」

「や、疑われても…」

まあ、準遊撃士だし疑われるのも無理ないか…

「ふう、良かった。嬉しい知らせだよ。ありがとう!」

「いえいえ。…じゃ、しつれーします。」

そのまま足早に村長宅に向かう。

「まじゅーは退治しましたよ。」

「おお…!本当にご苦労じゃったな。」

笑顔でねぎらってくれる村長。

…そうだ、一応面識があったんだっけ。

「ですが、少し気になることがありまして…廃鉱の入り口の鍵を貸して頂けませんか?」

「ふむ?構わんが…何かあるのかの?」

「あの奥、外に通じてますよね?」

一応はかまかけなのだが…

村長は、いともあっさりと認めた。

「うむ。それがどうかしたかの?」

「…もしかしたら、そこにリンデ号があるかもしれません。」

「何じゃと!?」

本気で驚いているようだ。

まあ、無理もない。

兵士が調べても出ないリンデ号が準遊撃士ごときに見つけられるはずがないと思われているのだろう。

「あくまでかのーせーです。まじゅーが出たのは棲息圏を脅かされたから…なら、脅かしたのは誰か?最近変わったことといえば、リンデ号だけです。…確かめさせて下さい。お願いします…!」

「…分かった。すぐに出そう。」

「ありがとうございます!」

…緊急性は分かってくれたようだった。

ラヴェンヌ廃鉱まで全速力で駆ける。

「鍵…!」

開けるのももどかしく、奥へと駆け抜ける。

すぐに、露天掘りまで出た。

「…っ!」

「ようし、じゃあオーバルエンジンを…」

あれは…

空賊のキール…?

「…不破・弾丸。」

威嚇に、周囲に弾丸をばらまいて見せる。

「何っ!?話が違う!早過ぎんだろ…!」

「うるせーっ!何してやがんのよ、あんた達…!あんた達程度に、こんなヤバい橋渡れる訳ねーのは分かってんでしょ!?」

「くっ…!」

キールはいきなり発煙筒を投げつけてきた。

アルシェムはそれを撃ちぬいたが、逆効果だったようだ。

すぐに煙が充満する。

「しまった、発煙筒…!待って!」

視界が効くようになったころには、既に飛空艇は飛び去った後だった。

目を細め、飛空艇が去った方角を見据える。

「…話が違う…ねえ?」

話が通されているとしたら、遊撃士協会(ギルド)の中ではなく軍の中。

ならば、軍の中にスパイがいるということ。

…情報部が絡んでいる可能性もある。

でも、何のために?

この事件で情報部に利がある…?

いや、金には困らないだろう。

なら、人気取り…?

有り得そうだ。

まあ、手がかりがないためこれ以上の推測は無駄だが。

とりあえずリンデ号の中を捜索する。

めぼしいものが無いことを確認した。

勿論人質もおらず、荷物もオーバルエンジンも持ち去られた後だった。

何も出来ることはないのでラヴェンヌ村に戻る。

村長に鍵を返しに行くと、首尾を聞かれた。

「どうじゃった?」

「…今から兵隊を呼んできます。…他言無用に願いますね。鍵はお返しします。」

「…そうか…」

「しつれーします。」

村長の家を出て、ルゥイのもとへ行く。

「や、お待たせ。」

「あ、お姉ちゃん。…どうだったの?」

不安げな顔で、こちらを見ている。

「君は嘘なんか吐いちゃいなかった。」

「ホント!?」

「だけど、約束して欲しいんだ。…遊撃士以外には、このことを絶対に言わないって。」

万が一軍に洩らされても、構わないのだが…

軍に、引いてはモルガン将軍に恩を売れなくなる。

「…軍の人にも?」

「うん。兵隊にも、村の誰にも言っちゃダメ。」

「…分かった。約束するよ、お姉ちゃん!」

「ありがとー、ルゥイ。」

そのままルゥイと別れ、ボースまで全速力で帰る。

魔獣なんて無視だ。

遊撃士協会(ギルド)に戻ろうとすると、東ボース街道に出ようとするエステル達を見かけた。

「あれ?アル?」

「あ…エステル…どこ行くの?」

「ちょっくらハーケン門まで。」

「…!じゃあ、一緒に行かせて。伝えなきゃいけねーことがあるし。」

というか、モルガン将軍に恩を売りに行きたい。

本当に動いているのが情報部なのかどうか…

見極める必要がある。

「…分かったわ。」

シェラザードに同行を許されたので、邪魔にならないように付いて行く。

アイゼンロードに入ったところで、検問に引っかかった。

「おや、あんた達は?」

「その紋章は…」

兵士が目敏く遊撃士(ブレイサー)の紋章を見つける。

まあ、構わない。

エステル達も何も考えずに動いているわけではないだろうし…

「今のあたし達はボース市長の使いよ。」

エステルが市長の手紙を見せた。

成る程、これならいける。

「これは…」

「市長の依頼で、モルガン将軍に捜索状況を伺いに来ました。」

「因みに正式な依頼書だから、通してくれなかったら後々面倒なことになるわよ?」

まあ、ボースの市長に喧嘩を売ってるとみなされるだろうし。

何より、メイベル市長はモルガン将軍と親交があるらしい。

「う、うーむ…仕方ない、通行を許可しよう。」

「おい、良いのかよ?」

「メイベル市長はボース全体の責任者だぞ?流石に無視は出来ないだろう。」

というか、無視したら首が飛ぶ。

路頭に迷うことになって後悔しても遅いのである。

「そりゃ確かに…おい、あんた達。許可してやるがくれぐれも問題は起こすなよ?大変な時期だし、何と言っても帝国との国境だからな。」

…国境…

そっか、国境に近いんだ…

自覚、したくなかったのにな…

「はいはい、分かりました。」

「それじゃ、通らせて貰うわね。」

曇る心を押し殺してハーケン門に向かう。

暫く歩くと、ハーケン門に着いた。

何というか、道中の魔獣くらい一掃しておいて欲しいものである。

今は検問をしいているとはいえ、下手すれば国際問題になりかねない。

旅行者に怪我をさせてはならないのだ。

特に、軍が関わっている場所では。

「これがハーケン門…メチャメチャ大きいわね~!」

「帝国への唯一の玄関口にしてその脅威から王国を守る防壁…10年前に破壊されてからさらに堅牢なものが築かれたのよ。かなり固い事だけは確かね。」

…もっと前に堅牢なつくりをしていれば、あんなことは起こらなかったかもしれない…

奴の前では、無意味だが。

「ってことは、この向こう側はもうリベールじゃないんだ…」

「そうだね…《黄金の軍馬》を掲げるエレボニアの領土だよ。」

「エレボニア…」

そう、始まりはここだった。

「…盗まれた銃の在り処、か。」

ここで銃が盗まれなければ、戦争なんて起きなかったのに。

まあ、何かしら難癖をつけて開戦されたかもしれないが、あそこが犠牲になる必要なんて…

「アル、何か言った?」

「ううん、早速モルガンしょーぐんと面会しよ?」

考えごとにふけるのは後だ。

「ん、オッケー!」

「その前に…遊撃士の紋章を外しておきなさい。モルガン将軍に見つかると面倒だしね。」

「あ、忘れてた…な、何だかしっくりこないかも…」

アルシェム達は準遊撃士の紋章を外した。

まあ、付けている方が違和感があったのだが。

後ろ暗い人間が、遊撃士(ブレイサー)になれたことの方がおかしいのだ。

「確かに、少し違和感があるね。」

「そーね。」

だが、話は合わせておかなければ。

「ふふ、それだけあんた達が遊撃士として馴染んだ証拠でしょうね。」

詰め所の前にいる衛兵に話し掛ける。

「あんた達…一体どこから入ってきた?アイゼンロードの検問はまだ解除されてないはずだろう。」

「僕達は、メイベル市長の使いです。モルガン将軍に取り次いでいただけますか?実は…リンデ号の件で、市長はかなり心を痛めていらっしゃって…今の状況だけでもモルガン将軍に直接お伺いしたいのです。」

直接、の所を若干強調するあたりがヨシュアらしい。

「成程…そういうことなら。と言いたいところだが、生憎今将軍閣下は不在でね。捜索活動の陣頭指揮を取ってらっしゃるのさ。」

「タイミングが悪かったわね…いつ頃戻ってくるのかしら?」

早めに帰らないと、依頼の報告をするのをすっかり忘れている…

まあ、後でも良い。

どうせそんなに早く終わるような依頼でもなかったことだし、この辺りで異常な速さを誤魔化しておくべきだろう。

「うーん、今日中には戻ると思うけど。向こうの休憩所で待っててくれ。戻って来たら教えるよ。」

「休憩所…?」

「帝国との国境だからな。出入国共に審査が厳しくて、足止めされる旅行者が多いんだ。」

足止めして、スパイが防げるかどうかは不明だが。

「成程。…それでかー。」

「それじゃ、休憩所で待たせて貰うわね。」

そして、休憩所の中に入った。

中に、ナニがいるかも知らずに。




どんどんアルシェムさんは腹黒くなるようですね。
伏線にもならない伏線が仕込まれまくっています。

伏線ですから(ガクブル)!

あと、PCを開ける日がある限りは更新します。
ストック的にはやっとFCが終わりましたので。

では、また。

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