雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
「…な…」
ヨアヒムは自分に何が起こったか把握しきれていないようだった。
それも当然だろう。
アルシェムは、記憶を凍らせたのだから。
アルシェムがロイドに向かって手を伸ばす。
「ロイドー、手錠貸して、手錠。」
「あ、ああ…」
「はい、逮捕。誘拐にー、未成年略取にー、殺人容疑かな?叩けばいっぱい出るだろーから、刑務所から出られるとは思わねーでよね。」
あっさりと、アルシェムはヨアヒムを逮捕した。
無論、殺す気がなくなったわけではない。
それでも、今この場で出来る行動はこれだけだった。
愕然として呟くヨアヒム。
「…何故だ…何故…!」
「…もう黙れよ。ふざけんな。これ以上場をかき回すのは止めろ。」
今のアルシェムには余裕がなかった。
それは、決して怒りのためだけではない。
「アル…」
「何故!我らは…我らは!」
ヨアヒムが叫んで立ち上がろうとする。
だが、アルシェムは地面にヨアヒムを叩きつけた。
それも、目いっぱい力を込めて、だ。
「暴れねーでよ?…今はちょっと手加減してやれる気がしないから。」
「離れろ…!」
ヨアヒムは、全力でもがいた。
手錠が千切れんばかりに暴れ、そしてアルシェムを弾き飛ばす。
同時に、手錠もはじけ飛んでしまった。
「あ…」
「アルっ!」
「痛たたたたた…うー、流石に無茶だよねー…」
吹き飛ばされたアルシェム。
それに、ティオが駆け寄った。
猛烈に怒りながら、である。
「無茶しすぎなんですよ!」
「まーでも、動かなくちゃいけねーからねー…」
ふらふらになりながらも、立ち上がるアルシェム。
首をバキゴキ鳴らしながら、その手には導力銃が握られる。
そんなアルシェムを見てティオが絶叫した。
「レンさん、アルを止めて下さい!」
「分かってるわよ!」
アルシェムを止めようとして動き始めるレン。
だが、アルシェムはレンに向けてこう言った。
「レン…ごめん、多分ね、止めさせてくれないんだ。」
その、アルシェムの哀しげな言葉に、レンは言葉を失った。
その意味を、ようやくつかめそうな気がした。
アルシェムの言葉に、ロイドが反応した。
「それって、どういう…」
「…さーて、ヨアヒム・ギュンター。気は済んだかな?」
それは、最後通牒のつもりだった。
これ以上やらかしたら、狩る。
そういう意思表示のつもりだった。
そして、ヨアヒムはあっさりとその一線を越えた。
「…キーア様を渡せ…!」
それで、特務支援課の一行の堪忍袋の緒も切れた。
最早洗脳されているといっても良いかも知れない。
ヨアヒムの絶叫の直後、ロイド達は叫んだ。
「貴男なんかにキーアちゃんを渡すわけにはいかないわ!」
「同感だぜ…!」
「大人しく抵抗を止めろ…!」
アルシェムは内心辟易した。
まさか、ここまで洗脳されているとは思いもしなかった。
だが、ヨアヒムは違う理由で嗤っていた。
「ふふ…ふははは…」
「何がおかしいのよ?」
警戒しながらも、確保しようと動くエステル。
だが、それは悪手だった。
それに気付いたヨシュアが制止の声を掛ける。
「…エステル、近づいちゃダメだ!」
ヨアヒムは、魔眼を発動させた。
途端に硬直せざるを得なくなる一行。
そのまま、ヨアヒムは悠々と再び魔人化した。
分けるには短く、一緒にするには長すぎる。
苦渋の決断1274文字。
分けないほうがマシ?
では、また。