雪の軌跡   作:玻璃

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プロローグからの繋がりはほぼありません。
ご了承ください。

では、どうぞ。


FC編開始~父、旅立つ~
特別な朝


ここは、リベール王国の地方都市ロレント。

のどかな田舎の片隅の家、ブライト家の子供達は今日準遊撃士となるべく最終試験に挑むことになっていた。

わたし、アルシェム・ブライトは今日も早朝から体を動かしていた。

棒術具を操り、型を繰り出す。

その後は、導力銃の訓練も怠らない。

出来るだけ精度は上げておきたい。

そのために集中はしていたが、周りへの警戒も怠らない。

だから…

「精が出るな。」

いきなり声をかけられても驚くことはなかった。

「おはよーございます、カシウスさん。」

声の方向を見ると、壮年の男性が戸口にもたれ掛かっていた。

S級遊撃士カシウス・ブライト。

ただの不良中年ではない。

何と言っても、大陸に4人しかいないS級遊撃士なのだ。

アルシェムよりも、遥かに強い。

というか、彼よりも強い人間なぞそうそういないだろう。

「相変わらずだな、アルシェム。父と呼んでくれても…」

「いえ、流石にいそーろーの身でそれはもーし訳ありませんから。」

「…頑固だねぇ、お前も。」

呆れ顔で言うが、立ち姿にも隙があるようでない。

たとえ今カシウスに打ち込んでも、難なく取り押さえられるだろう。

…そんなこと、しないけど。

したところで無駄なことはしない。

労力の無駄だ。

「…にしても、もーそんな時間でしたか。すみません、すぐに朝ご飯準備しますね。」

「ああ、頼む。」

ブライト家に入り、朝ご飯を作る。

今朝はアルシェムが食事当番だ。

出来るだけ胃にもたれないよう、軽めにホットサンドイッチを作る。

何といったって、今日は3人が準遊撃士になるための大切な日なのだ。

不用意なモノは作れない。

と、2階で動きがあった。

…今、上でヨシュアが起きた。

身支度も素早い。

着々と身支度を済ませて、外に出て…

朝からハーモニカを吹き始めた。

エステルも起き出した。

ヨシュアったら、相変わらず気障なんだから…

近所迷惑(というほど近くに家はないが一応)だとは思うけど、思わず聞き入ってしまう。

「…『星の在り処』、か。」

昔、親代わりだった女性がよく吹いてくれた曲。

一昔前にエレボニア帝国で流行った曲だ。

今も田舎ではポピュラーな曲らしい。

今はもう、偽りの音色しか奏でないハーモニカ。

確かリーヴェルト社、だったかな?

帝国の楽器メーカーが作った、安価な楽器。

それをあの女性は宝物のように大切にしていて、いつも3人…

いや、2人のために吹いていた。

あの2人以外に、アレを聞く資格のある人間はいなかった。

アルシェムを含めて。

そのハーモニカで、ヨシュアは完璧に『星の在り処』を吹き終えた。

…危ない危ない。

焦げるところだった。

すかさず聞こえた拍手は…

エステルだろう。

しかし、もうエステルも起きてるなんて珍しい…

そこでカシウスが覗きに来た。

「そろそろ出来るか?」

「はい。もーし訳ありませんが、2人を呼んで来て貰えませんか?」

「うむ。冷めたら勿体ないしな。」

そしてカシウスは家の外に出た。

その間に盛り付けと配膳を済ませる。

…これでヨシ、と。

2人が階段を降りてくる。

「おはよー、エステル、ヨシュア。たいちょーは万全かな?」

「モチのロンよ!おはよ、アル。」

「おはようアル。今日も美味しそうな朝ご飯だね?」

…ヨシュア。

それは反則。

「…ヨシュアのだけ真っ黒に焦がしときゃ良かったかなー。」

この、天然ジゴロが。

さらっと笑顔で言うんじゃない!

というか、他の女にそれやってたらいつかエステルにいわゆる『ギタギタのパー』にされかねない。

「何でそうなるのさ!?」

「自分の胸に聞けばー?」

「…理不尽だ…」

何言ってんだか。

自覚が無いって怖い…

「…取り敢えず食べようか?」

「あー、すみませんカシウスさん。お待たせしてしまいました。」

取り敢えず手を合わせ、朝ご飯を食べ始める。

「ほんと、羨ましいわー…」

「エステルもちゃんとぶんりょー計ってやればこれぐらい出来るよ。計ればね。」

感覚で料理されると味がブレるのよね。

というか、以前までの料理は料理と呼びたくない。

「むー…」

その後はあまりゆっくりもしていられない時間なので黙々と食べすすめた。

「ごちそうさま~。うーん。お腹いっぱいになっちゃった。」

「お粗末さまでした。」

「朝からよく食べるなぁ…」

ヨシュアはエステルの食べっぷりに感心した。

余っても良いようには作ったが、まさか無くなるとは思ってなかった…

「いいじゃない。食う子と寝る子は良く育つ、よ♪」

その割には一部育っていないのだが、突っ込まないでおく。

言うとアルシェム自身に返ってくるから。

アルシェムも絶壁ではないが残念ながら標準女性よりはないのである。

そもそも、アルシェムは小柄であるから相応であるとは言えるのだが。

アルシェムは4人分の食器を回収し、洗い始める。

「まあ、しっかり喰って気合を入れるんだな。3人とも、今日はギルドで研修の仕上げがあるんだろう?」

カシウスは今日の遊撃士の研修の予定を3人に確認した。

「うん。今までのおさらいだけどね。」

「それが終われば、あたしたちも父さんと同じ『遊撃士(ブレイサー)』よ。もう、子供扱いさせないんだから!」

自慢げに言うが、まだまだ先は長い。

「フフン、まだまだ青いな。最初になれるのは《準遊撃士》。つまり見習いにすぎん。一人前になりたかったら早く《正遊撃士》になることだな。」

そう。

カシウスは正遊撃士のトップ。

エステルはひよっこに見えるんだろう。

実際、準遊撃士から正遊撃士になるためにはリベール各地を回り、各支部の推薦を受けなければならない。

「むむっ、上等じゃない。見てなさいよ~。いっぱい功績を上げまくって父さんを追い越してやるんだから!」

功績を上げる前に準遊撃士にならなければ話にならない。

エステルの脳みそでは、若干不安だ…

「はっはっはっ。やれるもんならやってみろ。」

…やはり似た者同士だ。

流石きちんと血の繋がった家族。

ヨシュアやアルシェムではこうはいかない。

ヨシュアは5年前に。

アルシェムは2年前にブライト家に引き取られた。

カシウス、ヨシュア、アルシェムの間には血の繋がりはない。

何というか、かなり節操のない家族構成である。

 

父カシウス45歳。

 

母レナは10年前に死去。

 

長男、養子ヨシュア。

12月20日生まれの16歳。

 

長女、養子アルシェム。

12月25日(推定)生まれの16歳。

 

次女、実子エステル。

8月7日生まれの16歳。

 

何てカオスな戸籍。

「子供じゃあるまいし、そこまで張り合わねーでもいーんじゃ…」

「まあまあ。エステル、油断は禁物だよ。今日は最後の試験があるんだからね。」

「え゛……試験って、ナニ?」

エステルがすっとぼけている…

「まさか…覚えてないとか言わないよね?これまでの研修の確認テストだよ。シェラさんが言ってたじゃないか、合格出来なかったら補習だって。」

まあ、ヨシュアとアルシェムは大丈夫だろうけど、と言っていたのは省いておこう。

アルシェムとしては楽勝である。

そこで皿を洗い終わる。

「……やっば~…カンペキに忘れてたわ…まぁでも、何とかなるって☆」

「エステル…呑気なんだか何なんだか分かんねーわよ…」

「まったくもって嘆かわしい。この楽天的な性格はいったい誰に似たんだろうな。」

あんただよあんた。

「間違いなくカシウスさんですが。ふつーに似たものどーしなの、認めたらどーですか?」

「む…」

丁度会話が途切れた所で、ヨシュアが時計を見て言った。

「…エステル、アル。そろそろ町に行こう?ギルドでシェラさんが待ってるよ。」

「ん、分かった。シェラ姉を待たせると恐いもんね。」

そして3人は立ち上がった。

「あ、そうだ父さん。今夜の食事当番、あたしだけど何か食べたいものでもある?リクエスト、受け付けとくよ?」

「ふむ…ルーアン風、サモーナの蒸し焼きバルサミコ酢風味なんてどうだ?」

…無理。

エステルには逆立ちしたって無理。

「…エステルには無理なんじゃねーですか、それ?」

「勿論、言ってみただけだ。いつもと同じ、魚のフライかオムレツで良いさ。喰えるものだけ作ってくれ。」

前に出された惨劇のような料理が駆け巡る。

最近はかなりましだが、前はかなり酷かった…

「し、失礼ねぇ2人とも…反論出来ないのが悔しいけど…」

「ああ、そのかわり、このミラでリベール通信を買ってきてくれ。今日、最新号が入るはずだ。」

「わかったわ。」

カシウスもリベール通信がかなりお気に入りだ。

情報は正確だし、何より最近は写真が良い。

まるでそこに風景があるかのような…

そんな写真なのである。

「残ったら小遣いにして良いぞ。無駄遣いはするなよ?」

「やった、ありがと!」

「無駄遣いしないよーに見張っときますよ。特にストレガーのスニーカーとか。」

「頼んだぞアル。」

「はい。」

頼まれたが、実際にはあまりエステルが無駄遣いをしているところなど見たことがない。

「それじゃあ父さん、行ってくるよ。」

「おお、しっかりやれよ。シェラザードによろしくな。」

そう言って手をヒラヒラ振るカシウス。

「あ、そう言えば父さん、今日はギルドに行かなくて良いの?ここ数日、ロクに行ってないじゃない。」

「たまった書類の整理があってな。なに、クビにならん程度には働いてるさ。」

「ふーん…」

エステルは信用ならないという顔をしているが、実際カシウスは仕事を干されても10年は皆を養えるだけは稼いでいる。

仕事は少なくとも、難易度と報酬は高い。

それがカシウス・ブライトの仕事だ。

心配する必要は全くないのである。

「じゃー、行って来ます。」

そして3人は外に出た。




というわけで、FC編開始です。

誤字、脱字、日本語のおかしいところを指摘してくださる国語の先生方をお待ちしております。

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