雪の軌跡 作:玻璃
寒いよう。
では、どうぞ。
マインツへと向かうと、街の前でロイド達が待ち構えていた。
最初にアルシェム達に気付いたのはエリィだ。
「あ、アル!レンちゃん!」
手を振るエリィの下に、アルシェム達は集まった。
そして、アルシェムが問いを発する。
「何があったの?ロイド。」
「それが…」
ロイドから事情を聞く。
その様子だと、かなり状況はひっ迫しているようだ。
もしも、カジノで負けているだけならば良し。
だが、それだけでなければ…
とても、危険だった。
思案顔でアルシェムはロイドに意見を告げる。
「…成る程。早めに様子を見に行ったほーがいーね、そりゃ。」
「やっぱりそう思うか…よし、じゃあ早速クロスベル市へ戻ろうか。」
警備隊車両でクロスベル市へと戻ると、ノエル達はそのまま車両を置いて付いてきた。
理由は不明だが、単純に野次馬根性なのかも知れなかった。
「まずはカジノで聞き込みだな。」
ロイドの言葉に、一行は頷いてカジノへと向かう。
その途中で、アルシェムはぽつりと漏らした。
「…なーんだか、やな予感がすんだけど…」
町中に、碧い気配を感じたから。
カジノへと向かうと、碧い気配が強くなった。
「…ガンツ様ですか。今はホテルにいらっしゃいますよ。いやはや、あれほどの強運の持ち主はそういらっしゃいますまい。」
感心する支配人。
だが、ロイド達には信じられなかった。
ガンツは、運の悪い鉱員として聞いていたのだから。
「え、ガンツさんが、ですか…?」
「ええ。」
満面の笑みで答える支配人に、ロイドはイカサマではないかという声を呑みこむしかなかった。
この場所でイカサマが行われることだけはないのだが、それはさておき。
「…そうですか。ありがとうございます。」
礼だけを告げて、ロイド達はカジノを後にした。
そして、ホテルへと向かう。
ロイドはフロントに近づくと、警察のバッジを見せながらこう告げた。
「済みません、こういう者ですが…ガンツさんはどちらの部屋に?」
「ああ、ガンツ様ならばスイートを借り切っていらっしゃいますよ。」
鍵を取り出しながらしれっと答えるフロント。
それに、ランディが反応した。
目をぎらっと光らせてフロントに詰め寄る。
その目には、羨ましいと書かれていた。
「す、スイートだと…!?」
愕然とするランディを尻目に、フロントは鍵をロイドに手渡した。
ロイドはそれを受け取って感謝の言葉を伝えた。
「ありがとうございます。」
一行は、階上に上がりスイートルームへと向かった。
案内された部屋の前まで行き、扉をノックする。
…かと、思いきや。
「済みません、ガンツさんいらっしゃいますか?」
何とロイドは、そのまま侵入した。
無論、不法侵入である。
部屋の中には、ガンツと女性がいた。
「ん?」
「うお、豪遊してるな…」
「…まさか…いや、でも…」
アルシェムはその気配に眉をひそめた。
どう考えても、見覚えのある気配。
碧い空気。
それを、見間違えることなんて有り得なかった。
アルシェムの様子を見て眉をひそめるレン。
「どうしたの、アル?」
「…ごめん、レン、ティオ。ちょっと嫌な話するよ。」
その気配は、アルシェムがよく知る気配だった。
碧い、碧い気配。
「…え?」
「それって…」
ティオの顔色が、目に見えて悪くなる。
予測出来てしまったのだろう。
その話の内容が。
だから、アルシェムはこういった。
「嫌なら出てて。」
「…私は…」
迷うティオ。
やはり、すぐには結論を出せないのだろう。
「馬鹿言わないで、アル。アルにだけ任せるなんてレンが嫌なんだから。」
「…そっか。」
レンの答えを、アルシェムはただ受け止めた。
それがレンの答えなら、アルシェムには何も言う権利はない。
ティオも、答えを出した。
「…いえ、私もいます。…向き合わなくては、いけませんから。」
いい加減、ティオも受け入れなければならない。
それが、どれほど辛いことだとしても。
前を向いて、生きていかなければならないのだから。
そんな事情を知る由もないガンツがいらいらしながら言う。
「何の話だ?」
「ガンツさん、幸運を呼ぶ碧い薬、持ってるでしょー?」
ニヤニヤしながらアルシェムが問う。
無論、目は笑ってはいなかったが。
それに、ガンツは過剰なまでに反応した。
「な、まさか取り上げるつもりか!?」
がたん、と椅子を鳴らして立ち上がり、絶叫したのだ。
それを見たレンは、溜息を吐いた。
「語るに落ちたわね…」
「何なんだ、その幸運を呼ぶ碧い薬ってのは…?」
眉を顰めながら問うロイド。
だが、アルシェムはロイドに向かっては答えなかった。
代わりに、ガンツに向けて詳しく説明する。
「それ、服用し続けると判断力が低下して、感情を制御出来なくなって、最終的には昏睡状態に陥った上に魔物になって死ぬまでさまよう羽目になるんだけど…それでも呑む?」
空虚な笑みを浮かべながら、アルシェムはそう問うた。
ガンツは、アルシェムを直視することが出来なかった。
否、ガンツだけではない。
その場にいた誰もが、アルシェムを直視することが出来なかった。
「…何?」
「あ、アル…?」
見るに堪えない顔をしているわけではない。
ただ、見れば壊れてしまうような、儚い笑みをしていたのだ。
今にも壊れそうな、歪んだ笑み。
怯んだガンツは、震えながら言った。
「そ、そんなわけあるか!そんな出鱈目を言って、取り上げる気だろうが!これは俺の薬なんだ!絶対に渡すもんか…!」
なおも言い募るガンツ。
だが、アルシェムは誤魔化せなかった。
その薬は、誰かから買ったものだ。
「死にたいなら止めないよ。だけど、そうじゃないなら…ね?」
「いや、流石に止めないとマズいんだけど…」
ロイドのツッコミもどこ吹く風。
ガンツは、それを渡そうとはしなかった。
「誰が渡すか…!出て行け!」
ガンツは所有権を主張する。
だが、アルシェムにとってそんなことはどうでも良かった。
兎に角、ガンツからグノーシスを遠ざけなければ。
アルシェムは、そのために一番確実な実力行使に出ようとしていた。
「ロイド、公務執行妨害で引っ張っていー?」
「えっと…」
今ならば、確実に確保できる。
戸惑うロイドをよそに、ガンツは叫んだ。
「出て行けっつってんだ!」
だが、アルシェムは怯まなかった。
怯む意味がなかった。
ガンツごとき一般人の脅しなど、怖いものではないからだ。
冷静にアルシェムは告げた。
「流石にね、自殺願望があるんだったらそうするよ。でも違うんでしょ?」
アルシェムの言葉に追随するように、レンとティオが口を開いた。
それは、切実な願いだった。
「…私からもお願いします。大人しく渡して下さい。それは…っ…」
「あってはならないのよ。出来れば今すぐにでも全部消してやりたいわ。」
「ティオ…レン…」
そんなアルシェム達の様子に劣勢を感じたのか、ガンツは暴れ始めた。
酒の入ったグラスやボトルが宙を舞う。
そして。
「くそ…退きやがれぇぇぇっ!」
アルシェムに向かって突進するガンツ。
アルシェムは、そんなガンツの突進を避けた。
盛大に壁にたたきつけられるかと思いきや、ガンツは器用にも壁ギリギリで踏みとどまった。
「っち、ロイド!女の子達を避難させるぞ!」
どう見ても危険だと判断したランディが動き出す。
刺激しないように大きく間をを取りながらではあったが、それでも確実にランディはホステスに近づいていく。
「あ、ああ!」
遅れてロイドも動き、すぐさまそこにいたホステスの避難を始める。
そうしている間にも、ガンツは暴れていた。
「これは俺が手に入れたんだ!俺の力なんだ…!」
暴れるガンツを押さえているのは、アルシェムだった。
渾身の力で、ガンツを羽交い絞めにしているアルシェム。
「…ふーん。本当かな、それ。」
「な…こ、これは…!?」
アルシェムは、反転するや否やガンツの手をつかみ、目を閉じて力の流れを強制的に自分に向けた。
膨大な量の力が、アルシェムに流れ込んだ。
「…っつ、飲み過ぎじゃねーの…!っは、あああああっ!」
見える者には見えただろう。
碧い光が、猛スピードでガンツからアルシェムに流れ込んでいるのが。
そして、それが臨界を迎えつつあることに、気付けただろう。
「な…何が起きてやがる…!?」
ランディには、その場で何が起きているのかわからなかった。
否。
本当は分かっていたのかもしれない。
だが、脳がそれを理解することを拒んだ。
「まさか…これって…!」
ティオは気付いた。
アルシェムが何をしているのか。
何を、やらかしているのかを。
そして。
レンも、気付いた。
「止めなさいアルっ!死ぬわよ!?」
レンの絶叫。
だが、近づくことが出来ない。
ほかならぬアルシェムがレンを止めているのだから。
レンの言葉に、アルシェムはこうこぼした。
「…死ぬかなー、本当に。」
「ふざけたことを言ってるんじゃないわよ!」
レンがアルシェムをガンツから引きはがす直前。
アルシェムは、自分からガンツを引き離した。
倒れこむガンツ。
「はい、終わり。あー…キツっ…」
遅れて、アルシェムも倒れこんだ。
倒れこんだからといって意識がなくなったわけでもないようで、ガンツがかすれた声でアルシェムに問う。
「おい…お前、何しやがった…」
だが、アルシェムはその言葉を無視した。
今はガンツに構っている余裕などなかったのだから。
「あー…許容量ギリギリ…死ぬー…」
そう言いながら、立ち上がるアルシェム。
このままこの場所にとどまり続けるのは、危険だった。
それを見たレンが目を細めてアルシェムに宣言する。
「…後でお仕置きしてあげるわ、アル。」
「勘弁してー…」
そんなアルシェムの状況に困惑するロイド達。
ふらふらと歩くアルシェム。
だが、重心も視線も定まってはいない。
「い、一体、何があったんですか…?」
ティオの疑問に答えられるのは、レンとアルシェムだけだった。
ただし、レンもアルシェムも明言する気はないために説明されることはなかった。
原作から乖離させてるはずなのに乖離できない。
それもこれもあの人が悪いんだ(責任転嫁)
では、また。