雪の軌跡   作:玻璃

191 / 269
予約投稿分も章管理できるようになってる…?

では、どうぞ。


~忍び寄る叡智~
月の僧院


「…相談?」

それが、ロイドの第一声だった。

キーアの件が一件落着してから暫く経った、ある日のこと。

朝からノエルとリオが訪問した。

それも、朝食の前に。

真剣な面持ちで、ノエルが続ける。

「はい。お時間があれば少し付き合って頂ければと…」

因みに、その膝の上にはキーアがいる。

役得だ、とエリィとティオに睨まれているのだがそれはさておき。

「ぶっちゃけて言えば戦力貸してってとこ?」

「リオさん!」

ぶっちゃけて言ったリオを睨むノエル。

流石にあからさま過ぎると思ったのはアルシェムだけではなかったようだった。

リオは、自分を睨みつけるノエルに冷静に言った。

「一応職務時間中だよ、シーカー曹長。」

注意するのは当然である。

ただし、あまり説得力はないが。

「…コルティア軍曹。職務時間中と言うなら身内を批判するのは止めて下さい。」

「はいはい。」

呆れたように首をすくめるリオ。

リオとノエルの漫才が終わったところで、ロイドがノエルに声を掛けた。

「…そんなにヤバい場所があるのか?」

「月の僧院はご存知ですか?」

ノエルの答えに、ティオが言葉を返す。

どうも、地図を見て知っていたようだった。

「あ、マインツのトンネル道の途中で逸れる場所ですよね?」

「はい。そこが…その、この間の星見の塔のようになっていまして…」

説明するノエルだったが、生憎アルシェムは星見の塔の中を知らないことになっている。

なので、アルシェムは問いを発した。

ノエルにモフモフされている緑色の幼女を務めてみないようにしながら、だ。

「…ふーん…因みにわたしは見てねーから知らねーんだけど。」

「いうなれば《影の国》化です。」

ティオの言葉に、アルシェムは納得した。

成程、確かに言えている。

「あー、理解した。でも、それなら全戦力より少数精鋭で忍び込むほーが楽なんじゃねーの?」

大勢で言って足手纏いになられるよりは、リオだけ投入するというのも手である。

まあ、人手を頼みに来た以上リオだけでは無理なのだろう。

建前では、だろうが。

アルシェムが首を傾げると、エリィが難しい顔で言った。

「それは難しいんじゃないかしら…」

「何で、エリィ?」

「もし気付かれちゃったら危険すぎるわ。」

ということは、エリィも経験だけはあるのだろう。

危険な場所ではあるとは分かっているが、エリィにだけは言われたくなかった。

この中で、1番弱いのは誰かと問われればそれはエリィを差すのだから。

だから、アルシェムはエリィにこう告げた。

「でも、エリィは最初から外すつもりだったよ?わたし。」

「えっ…」

戸惑うエリィ。

だが、その中には安堵が浮かんでいた。

それを見たロイドもこういった。

「確かに、幽霊とか苦手そうだもんな…俺も多分外す。」

「にっ…苦手じゃないわよ!?ただちょっと鳥肌が治まらないくらいで…あ。」

「やっぱりダメなんだな…」

エリィの様子に溜息を吐くロイド。

内心ではやっぱりエリィも女の子なんだよな、と再確認しているところである。

そんなロイドをジト目で見ながら、ティオがロイドに問うた。

「どうしますか?」

「そうだな…支援要請もあるし…」

逡巡するロイド。

その言葉に、アルシェムは支援要請の内容を読み上げた。

「ちなみに今日の支援要請は…延滞本の回収に、創作料理に、人捜し?」

なかなかにカオスである。

バラエティに富みすぎて遊撃士でも早々お目に掛かれない事態になっている。

「やっぱりここは分担じゃないかしら?」

「そうだな…」

分担はどうしようか。

そう考えるロイドに、ノエルが声を掛けた。

「あ、何なら今日一日コルティア軍曹と一緒に付き合いますから手伝わせて下さい。」

「助かるよ。じゃあ…」

誰をどこにしようか。

一瞬の逡巡。

そして、ロイドが提案しようとしたところにレンが割り込む。

「延滞本の回収はノエルお姉さんとロイドお兄さん。創作料理はエリィお姉さん。人捜しはティオとランディお兄さん。月の僧院の偵察にリオお姉さんとアルと私でどうかしら?」

レンがそう提案すると、エリィが非難の声を上げた。

「ええっ、私1人なの!?」

恐らくは1人では嫌なのだろう。

もしくは、ノエルとロイドを一緒にしたくないか。

どちらにせよ、その分配は嫌だと目が告げていた。

「料理は出来るでしょ、エリィお姉さんは。」

そんなエリィに非情に告げるレン。

確かに、エリィは料理が出来る。

対して、アルシェムは料理が出来る出来ないうんぬんよりも前に調理器具が苦手なのである。

アルシェムが小物を作れるのは、道具が全てゼムリアストーンかクルダレゴンで出来ているからなのだ。

それ以外の道具は、握りつぶしてしまう。

だからこその人選。

ノエルは料理が出来るかどうか不明。

ロイドとランディも同上。

ティオは正確に測るものが得意なために創作料理からは除外。

すると、エリィしか残らないわけである。

とてもエリィに辛辣な物言いだったが、レンの内心はこんなものだ。

エリィは、半分やけになって叫んだ。

「出来るわよっ!?」

「じゃあ、始めようか。」

「ああもうっ!行けばいいんでしょ、行けば!」

絶叫するエリィを置いて、一行は外に出た。

そんなエリィにキーアが近づいていくのが見えたので機嫌は大丈夫だろう。

キーア分を補給したエリィは、ご機嫌にひたすら料理を作っているはずだ。

「いってらっしゃーい!」

「はい、行ってきます、キーア。」

キーアに見送られ、エリィを除いた一行は外に出た。

外へ出ると、そこには警備隊の車両が止まっていた。

「じゃあ、行きましょ。車はノエルお姉さんが使えば良いわ。」

「え、良いんですか?」

意外そうに言うノエル。

まあ、疑問は最もだろう。

だが、執行者を舐めてはいけない。

…ノエルは知らないのだが。

レンはすまし顔で言った。

「私達は鍛えてるもの。」

「あ、あはは…」

ロイド達と別れたアルシェム達は、マインツ山道の魔獣を殲滅しながら月の僧院へと向かっていた。

ある意味惨劇である。

道の脇には、撃たれたり斬り裂かれたり押し潰されたりしている魔獣が転がっていた。

無論、バスが通った後を見越してやっているので次に人間が通るころには全てがセピスと化しているはずである。

月の僧院へと到着すると、そこは青白く光っていた。

それを見たアルシェムは、溜息を吐いてこういった。

「…あー…これはアレだね。」

完全に、《影の国》化である。

中の気配を探ったリオは、中を突っ切るよりも別の方法を使った方が良いと判断した。

そして、アルシェムに声を掛ける。

「アタシ、先行しようか?」

「そーだね。」

リオは、準備運動もそこそこにアルシェムに向けて走り出した。

アルシェムは、自分に向かって走ってくるリオを鐘のところまで跳ね上げた。

それを見たレンが、溜息を吐きながら言う。

「大概アルの仲間って規格外よね…」

「他人のことは言えないよね、レン…」

アルシェムの周りに集まる人間は、規格外ばかりである。

突っ込んではいけない。

アルシェム自身も規格外なのだから。

「…そうね。」

そうこういっているうちに、鐘の音が止まった。

どうやら、リオがなんとかしたようだ。

「お、止まった。」

「一応法術掛けてきたから、暫くは大丈夫だと思うよ。」

そう言いながら飛び降りてくるリオ。

規格外ではあるが人外ではないと言っておこう。

「それでも中を確認する必要はあるね。」

「じゃ、行きましょ♪」

中へ入ると、鉄錆の香りがした。

濃厚な香り。

それと同時に、死の気配が漂ってきた。

「…これは…」

「…嫌な気配ね。」

「血の臭いが凄いんだよねぇ、ここ。」

アルシェムの言う通り、この場所には大量の血痕が残っていた。

新しいものも、古いものもある。

辟易としたようにアルシェムがいうと、レンが口を開いた。

「あら、来たことはあるのね。」

レンの言葉に、リオが身構える。

だが、リオの心配は杞憂だった。

アルシェム本人がそれをばらしたのだから。

「…まだ、もう1つの本命というか何というかには行ってないんだけどね。」

「…太陽の神殿だね…あぁ、もう、血生臭いよお…」

リオが顔をしかめる。

リオ本人はもっと血なまぐさい場所に行ったこともあるのだが、慣れることはない。

慣れてはいけないと自分に言い聞かせている。

そんなリオを知ってか知らずか、アルシェムはこう言った。

「我慢してよリオ。何もないことを確かめなくちゃいけないんだから。」

「…そうだね。」

血の臭いを我慢して、捜索すること数時間。

捜索が終了した。

結果は、無論のことながら何もおかしなところはない。

「…やっぱり、何もなかったね。」

「あったら大変なことになってたんじゃないかしら?」

「そうなんだけどさ…」

月の僧院から出ると、ENIGMAが鳴った。

相手は、ロイドだった。

「はい、アルシェム・シエル。…あー、分かった。すぐ向かうよ。…え?別にいーって。そんな…初期のエリィじゃねーんだから。」

体力は大丈夫か、という問いがあったが、ロイドも舐めすぎだろう。

腐っても、元執行者なのだ。

ENIGMAを切ると、レンが問いかけてきた。

「どうかしたの?アル。」

「マインツまで歩くよ。何かあったみたい。」

レンの問いに、アルシェムはそう答えた。

実際に何があったかは分からないが、行かないという手はないだろう。

「分かったわ。」

「あいあい。」

そうして、アルシェム達はマインツへと向かった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。