雪の軌跡   作:玻璃

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インターミッション開始です。
だがしかし。
キーアなんてほぼ出てきません。
ご了承を。

50000UAありがとうございます。
では、どうぞ。


~インターミッション~
だばだー。ただし珈琲に非ず


キーアの処遇が決まるまでは、特務支援課は迂闊に外にも出られなかった。

無論、ルバーチェからの報復があっては困るからである。

そんな中。

「ふー…」

共用スペースでカップを片手にくつろぐ女がいた。

無論、アルシェムである。

「何くつろいでるんですか。というか何ですかこれ!?」

「紅茶を美味しく淹れる機械。」

しれっと答えるアルシェム。

それにティオは慄いた。

そんな無駄なものを作る必要はない。

…本来なら、だが。

「何て下らないモノを…!」

憤然としながらも、ティオは理解していた。

アルシェムは、暇を持て余していたのだということに。

そんなティオを見ながらレンがカップを傾ける。

「下らなくないわよ?割と美味しいもの。」

「ティオも飲む?」

そう言いながら、アルシェムはカップを差し出した。

だが、ティオは受け取らなかった。

そして、憤然と抗議した。

「私はコーヒー派です!」

「…え?」

「…そうなの?」

アルシェムとレンは意外そうにティオを見た。

てっきり、苦いものは苦手かと思っていたのだ。

そんなお子様を見る目で見ていると、ティオがぷんすか怒りながら言った。

「何ですかその意外そうなモノを見る目は!?」

意外だから意外そうな目で見ているのである。

と、アルシェムは思った。

なので、これならば飲んでいそうだと思う折衷案を出してみる。

「お砂糖とミルクたっぷりのカフェラテとか、だよね?」

「もしくは、キャラメルたっぷりのマキアートよね?」

アルシェムとレンの言葉に、ティオはたじろいだ。

それは事実だったのだから。

「…そ、そうですが。」

「チャイとかは嫌い?」

香辛料が入った紅茶は、アルシェムの好みでもある。

特に、肉桂を入れたものはお気に入りだ。

アルシェムの問いに、ティオはこう答えた。

「嫌いではないですけど、わざわざ飲もうとは思いません。」

ティオは、どちらかと言えばコーヒー派なのである。

お茶の苦みよりは、コーヒーの苦みの方が好みではあるのだから。

「えー…」

「美味しいのに。」

そこに、ランディがふらっと現れた。

どうやら、匂いにつられてきたようである。

「お、紅茶かよ?コーヒー派だと思ってたぜ。」

ランディとしては、アルシェムは紅茶よりはコーヒーを飲んでいるイメージがあったのである。

ランディの中では、バリバリのキャリアウーマンなアルシェムがコーヒーを片手に猛スピードで仕事を片付けているイメージがあった。

無論、有り得ない話ではあるが。

「何でよ!?」

アルシェムとしては心外である。

コーヒーよりは、紅茶でフレーバーを楽しむ方が好みなのだから。

「バーのカウンターとかでコーヒー飲んでるイメージがあるんだよなー。」

「…コーヒーはちょっと濃いから無理なの。ミルクたっぷりぶっこんでお砂糖とか入れねーとさ…胃をぶっ壊すの。」

「昔から弱いわよね、アルは。」

胃腸が弱いのは、仕方がない。

これまでストレスにさらされてしかいなかったのだから。

それを聞いたティオは、目を見開いて呟いた。

「…意外です。」

「濃いブラックで無駄に決めてるイメージがあったぜ…」

ランディもそう追随した。

アルシェムにしてみれば、偏見である。

アルシェムとしては、自分よりもランディの方がそのイメージがあると思っていた。

「そっくりそのまま返すよランディ。」

アルシェムがそう言うと、ランディは架空のカップを持って黄昏た。

気分はバーカウンターなのだろう。

「フッ…」

無駄に格好をつけているランディ。

ただし、誰も顧みることはなかった。

「あ、あるんだったらコーヒー下さいよ?アル。」

ティオがそう言うと、アルシェムは机の上におかれた小型の機械を指さした。

どうやら、今使っていたものとは違うもののようだ。

「コーヒーはそっち。」

「コーヒーも中々のものよ。」

因みに、レンが呑んでいるのはコーヒーである。

見た目はキャラメルマキアートなのだが、中身はある意味違う。

無駄に苦いキャラメルに、濃い目に入れたエスプレッソ。

ミルクは控えめである。

つまり、苦い。

そんなことは関係ないとでもいうかのように、ティオはコーヒーの機械を指さして絶叫した。

「何で無駄に高性能な感じで小型化されてるんですか!?」

その理由は簡単である。

アルシェムが、暇だったから。

それを告げることはせずに、アルシェムは笑いながら言った。

「持ち運び可(笑)」

「キャンプとかに最適よ♪」

使うエネルギーは紅耀石が主であるため、ドラゴンビーンズと水さえあればどこでも使える。

いわば、インスタントコーヒーの劣化版である。

流石に粉末ではない。

「笑い事じゃないですよ!?羨ましいです…」

そう言いながらじっと見つめるティオ。

アルシェムとしては、まだ複数個残っているために別にいらないものになっている。

そのために、アルシェムはティオにこう告げた。

「あげるよ、それ。」

「良いんですか!?」

弾かれたように顔を上げるティオ。

その目は心なしか輝いていた。

「うん。ティオなら有効活用してくれそーだし。何なら、この部屋にも置いとくけど?課長。」

いつの間にか室内にいたセルゲイに、アルシェムはそう告げた。

因みに、それを聞いた瞬間にセルゲイのテンションが上がっていたのをアルシェムは見逃さなかった。

「是非欲しいな。」

「あら、課長さんはやっぱりコーヒー派なのね。」

からかうようにレンが言うが、意に介した風もなくセルゲイは答えた。

セルゲイにとってはコーヒーはなくてはならないものだからである。

「ああ。」

「はい、こっちは小型化を断念したたくさんのフレーバーが作れる機械ね。材料さえあれば何でも作れるよ。」

「材料さえ、な…」

何故か課長が頭を押さえているが気のせいだろう。

アルシェムはそう思った。

材料は魔獣を狩るなり何なりすれば集まるのである意味遊撃士向けの代物である。

「材料くらいは集めて貰わなくちゃね♪」

レンはそう嘯いた。

働かざるもの呑むべからず、ではないが、レンとしては材料を集めるためにちょっとした運動がてら使えるので結構重宝している。

そこで、アルシェムはいつまで経っても出て来ない特定の人物たちの所在を問うた。

「あれ?そーいや、ロイドとエリィは?」

「ああ、キー坊の身元を…」

そうランディが言うと、アルシェムの顔があからさまに曇った。

それは、アルシェムにとって普通のことだった。

アルシェムはキーアが嫌いなのだから。

「…ふーん。アレのねー…」

「…アル、アレってキーアのことですか?」

ティオが、眉を顰めながらそう言った。

どうも、キーアをアレ扱いしたのが不満らしい。

それはランディも同じようで、アルシェムに非難の声を浴びせた。

「いくら何でも、キー坊にアレってのは…」

眉を顰めながら、ちゃっかりコーヒーを飲むランディ。

アルシェムとしては、キーアなぞどうでも良い存在である。

アレでなければ、恐らくはソレとでも呼んでいただろう。

溜息を吐きながら、アルシェムはこうこぼした。

「…骨抜きにされてるねー…」

「まあ、仕方ないんじゃないかしら?」

レンが猫のように笑いながら言う。

レンも、アルシェムの様子から何となくキーアについては考えていた。

どういう存在なのかも。

だからこそ、その言葉を吐いたのだ。

「かもね。あーあ…全く…」

「アル、そんなにキーアが気に食わないんですか?」

ティオは不思議そうにそう聞いた。

アルシェムは、顔をしかめながらこう答えた。

「多分一生相容れねー。」

それも、苦りきった顔とでも表現すれば良いのだろうか。

兎に角、ありとあらゆる汚物を見る目でアルシェムはそう告げた。

そんなアルシェムにランディが疲れたように言葉を吐いた。

「おいおい、そこまでかよ…」

「絶対に合わない人だっているでしょう?ランディお兄さんにとっての《赤の戦鬼》みたいな。それと同じよ。」

溜息と共に、レンはランディにそう諭した。

ランディにとって、《赤の戦鬼》は確かに相容れない男ではある。

だからと言って、彼のことが理解出来ないわけではなかった。

「それは…まあ、分からなくもないが…じゃなくて!何で知ってるんだよ!?」

ランディのノリツッコミをレンは流した。

レンが知っている理由は簡単である。

執行者だから。

その一言に尽きた。

「うふふ、何でかしらね♪でも、ランディお兄さんの方がマトモなのは確かよ?」

「…そ、そうか…」

その空気を払拭すべく、ティオが端末を確認する。

すると、都合よく1件の支援要請が来ていた。

「…あ、支援要請が来てます。どうしましょうか…?」

「たまにはレンが行くわ。さっくり殺ってくるから安心しなさいな、ティオ。」

レンも鬱憤が溜まっているようだった。

可哀想に、今回の手配魔獣は惨殺されるだろう。

アルシェムは心の中で手を合わせた。

「字面が怖い気がします!?」

「メタいよ、ティオ…」

レンは、そのまま外へと向かった。

それを見届けてから、ランディは口を開いた。

「…そんなにキー坊が苦手かよ?」

ランディの問いは、至極もっともなものだった。

キーアは、誰からも愛されるようになっている。

しかし。

アルシェム・シエル=□□□□□□に対してだけは例外だった。

「…分かり合いたくねー子ではあるかなー…」

理由は簡単だ。

キーアこそが、アルシェムを□□□□□□足らしめる鍵なのだから。

「そんなに苦手なんですか…?」

「生理的に受け付けねー。」

大きな溜息を吐きながら言うアルシェム。

それを見たティオは決意した。

キーアの魅力をアルシェムに伝えてみせる、と。

ついでにみっしぃも。

瞳に炎を燃やしながら、ティオはこう宣言した。

「…分かりました、後でOHANASHIしましょう。」

「何か勘違いしてねー…?」

「いえ?」

ティオは、アルシェムを笑顔で威圧した。

後で絶賛教え込んであげなくてはならない。

キーアの素晴らしさを。

そう、ティオは思っていた。

アルシェムには無意味なのだが。

そこまで読み取って、アルシェムは溜息を吐きながらこう返した。

「なら、いーけどさ…」

そんな、1日が終わって。

その後、アルシェムのENIGMAに個人的な連絡があった。

それは、とある人物からで。

司法取引について話がしたいという内容だった。




もう1話だけインターミッションです。

では、また。

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