雪の軌跡   作:玻璃

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コリン君はけっこう危険人物です。

では、どうぞ。


四日目・コリン・ヘイワーズ

クロスベル市に戻ったアルシェムに、ENIGMAから呼び出しがあった。

相手はどうやらロイドのようだ。

「はい、アルシェム・シエル…あ、終わったんだ。こっちは観光客助け終わって戻ってきたとこ。…え?子供が行方不明…?分かった、すぐ向かうよ。」

通話が切れると同時に、別の番号から呼び出しがかかる。

それは…

「はい…あ、レン。」

レン、だった。

それで、推測はついてしまった。

どこの誰が行方不明になったのか。

「…え?わたしじゃないよ!?…うん、当たり前でしょ。…何?…うん、良いよ。おいで、レン。…分かった、裏通りで。」

ENIGMAでの通話を終えて、アルシェムは裏通りへと向かった。

そこには、レンと一緒にロイドがいた。

「…あれ、ロイド?何でレンと一緒にいんの?」

「偶然会ったんだけど…」

「アルなら…居場所、分かるかしら?」

どこか懇願するような、その響きに。

アルシェムは負けた。

それは反則だろう。

「…うーん…探ってみようか。この場所だとやりにくいし…」

だから、アルシェムはレンのために動くことにした。

否。

レンのために動かされることになった。

「探る?」

「ん、ちょっと気配をね。このあたりの捜索、任せたよ。」

「あ、ああ…」

裏通りから、アルシェムはパイプ類を使って百貨店の屋上へと駆け上がる。

そして、雑多な気配の中から彼の気配を探って…

「…あれ、気配が…うーん…ん?あ、ちょっ…」

見つけた。

だが、一刻の猶予もない。

百貨店の屋上から飛び降りて、アルシェムは特務支援課へと急いだ。

扉を勢いよく開けて、叫ぶ。

「レン!」

「何、アル。」

レンは、丁度端末の前に座っていた。

「調査対象はトラック!方向だけでも良いから、早くっ!」

「分かったわ!」

それだけで、レンには通じた。

必死な顔でキーボードを叩くレン。

「な、何が起きてるんだ…?」

ロイドが呆然としているが、どうでも良い。

「黙ってて。」

「ハイ…」

一瞬でロイドを黙らせると、レンが声を上げた。

どうやら、お目当てのものを見つけ出したようだ。

「…いた…!西クロスベル街道の、共和国行き貨物トラックよ!」

「了解、先行する!」

それを聞いたアルシェムは、支援課ビルから飛び出した。

このまま、会わせないままで終わるなんて許さない。

「…間に合ってよ…?」

懇願しながら、アルシェムは疾走する。

途中にいた魔獣は、万が一を考えて殲滅しておく。

アルシェムは、かつてないほどの速さでトラックに追いついた。

「あった…!待って、トラック!」

アルシェムがトラックの前に回り込むと、トラックは蛇行しながら止まった。

「な、ななな…」

口をパクパクさせながら混乱する運転手を放置して、アルシェムはトラックの後ろに回りながら叫んだ。

「ごめんね、貨物室開けさせて!」

因みに、一歩間違えなくても強盗の所業である。

だが、今のアルシェムはそんなことを考えてはいなかった。

「へっ…」

祈るような気持ちで、扉を開ける。

すると…

「ほえ~?」

のほほんとした顔の少年、コリン・ヘイワーズがそこにいた。

「…良かった。」

一気に脱力した。

最悪の事態を考えていただけに、アルシェムはほっとした。

「わ、何でいるんだ!?」

回り込んできた運転手に、気の抜けた返事を返すアルシェム。

「多分、勝手に乗り込んじゃったんだろーね。ほら、どっか行かねーの。」

外に行こうとするコリンを引き留め、アルシェムはENIGMAでロイドに連絡を取った。

「もしもしロイド?確保した。うん…出来たら急いで…」

そこまで話した時だった。

迂闊にも、この距離まで近づかれるまで気付かなかった。

大型の魔獣が、トラックを取り囲んでいた。

それに気付いたアルシェムは、即座に外に飛び出した。

「っごめん切る!」

ENIGMAの通話状態を解除し、武器を準備しながら運転手とコリンに告げる。。

「…トラックの中入ってて。出来たら外見ねーでよ?」

「あ、ああ…」

「ほえ?」

運転手は、コリンを抱えてトラックの中に入った。

今は、一瞬でも早くこの魔獣を狩らなければならない。

だからこそ、アルシェムが取り出したのは双剣だった。

「…使わないって、決めたんだけどな…」

使い慣れているからではない。

殺し慣れているからだ。

「…狩り尽くす。」

ふっ、とアルシェムの姿がぶれて。

そして、魔獣は全て一太刀で斬り伏せられた。

だが、それだけで事態は収まらなかったようだ。

「あ、ちょうちょ~。」

外を見てしまったのだろう、運転手が手を離した隙にコリンは運転席から飛び出した。

「…っ、馬鹿!」

だが、更に湧いてきた魔獣が邪魔で追えない。

このままでは…

コリンが、死んでしまう。

「っそ…死に曝せ!」

狩っても狩っても終わらない、魔獣の群れを一匹でも多く減らすしか出来なくて。

歯噛みしていると、そこにレンが現れた。

大鎌を構えて、魔獣を殲滅しながら。

「アルっ!」

だが、今すべきはアルシェムの救援ではなかった。

「レン、良いからコリン追って!」

「…っ、分かったわよ!」

レンが去ると同時に、アルシェムは双剣を握りなおした。

「…首狩りの真髄、見せてやる…!」

そして。

一瞬のうちに、魔獣の首が飛んだ。

それは、一匹だけにとどまらなかった。

あたかも連鎖したかのように、アルシェムの残像を追って魔獣の首が飛ぶ。

全て狩り終わった時には、アルシェムの服は返り血で真っ赤になっていた。

「レンっ!」

そんな自分の姿も顧みず、アルシェムは駆けた。

レンの下へと。

レンは、既にコリンを保護していた。

その手にぼけっとしたコリンを抱いて、自分の鎌は取り落としている。

レン自身も、呆然としていた。

「…どうして…」

そこに、ロイド達が追いついてきた。

アルシェムの姿を見たランディが大げさにのけ反る。

「うおっ、凄い格好だぞ!?」

確かに、凄い恰好ではあった。

ただ、今はそれを気にしている場合ではない。

「仕方ねーでしょ、急いでたんだから。」

その言葉だけをランディに返して、後はただレンを見つめた。

「何で…助けるつもりなんて、なかったのに…」

「レン…」

助けるつもりは、レンにはなかった。

だけど、アルシェムとしてはコリンを生きたまま保護する必要があった。

「こんな子、死んじゃえば良いって思ってたのに…」

レンがいくらコリンに死ねと願ったとしても、アルシェムは止めなければならなかった。

アルシェムは、レンの自由にしてほしいと願っているのに□□□□□□がそれを赦さない。

否、□□□□□□ではなく、恐らくは□□□の…

「レン。前にも言ったけどさ…生きてるんだから、大切にしてよ。」

□□□□□□に逆らって、アルシェムは言葉を吐いた。

それに、レンはぼそりと返した。

「…アルのせいだわ…」

「えっ。」

「助けたくなったの…亡くしたら、終わりだって分かったの…だから…だから…」

死んでしまえばそこまでだ。

それは、当然のことだった。

死んだ人間が何を残せるかなんて、よく聞く。

だが、死んだ人間に残せるのは葬式代という多額の負債と遺体の処分という嫌がらせだけだ。

悲しむ人間は、その人間を失いたくなかったから悲しむのであってその人間に起こった悲劇を悲しむのではない。

「…うん、レンはよくやったよ。よくやった。だから…うん、泣いても良いんだよ。」

綺麗事を吐けば、レンはコリンを抱きしめながらつぶやいた。

「…アルの馬鹿…」

「面目次第もないね…」

「…違うわよ…馬鹿。」

レンが落ち着いた頃を見計らい、特務支援課の一行はレンとコリンを連れて支援課ビルへと戻っていった。




一発で見つかるコリン君これいかに。

では、また。

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