雪の軌跡   作:玻璃

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もしかしたら、四日目が一番長いかもしれない件。
四部構成だと思ってください。
レンの問題を解決しないとですからね。

では、どうぞ。


四日目・支援要請

寝不足を解消したアルシェムは、すっきりした気分で階下へと降りた。

「よう、アル。昨日は楽しかったか?」

「ま、楽しかったかな。」

そう答えると、ランディは目を輝かせながら言った。

「やっぱり春が来たんだな?」

「黙れこの万年常春頭。」

「酷ぇ!?」

そんなランディをバッサリ切って、アルシェムは端末を弄った。

「さーて、今日の依頼は…窃盗事件と…盗難事件、東クロスベル街道とマインツトンネル道に手配魔獣、古戦場での観光客捜索か。」

「今日はどう割り振るの?ロイド。」

エリィの問いに、ロイドが少し考えてから決断を下す。

「窃盗事件から俺達は追おう。アルは手配魔獣を任せて良いか?」

「あー…うん。分かった。」

「どうかした?」

「や、何か嫌な予感が…」

盗難事件の詳細を聞くまでもなく、嫌な予感がする。

「…はい?」

首を傾げるティオ。

「や、何でも。んじゃ、行こーか。」

アルシェムは、自分で自分を誤魔化したまま立ち上がった。

「ああ。」

そして、そのまま東クロスベル街道へと向かった。

無論、道中の魔獣は殲滅である。

そうして、見つけたその先には…

バブリシザーズ、という名の魔獣がいた。

「何かぷくぷくしてるし…クエイクとー、スパークルとー、そんでもってソウルブラー。」

物理が聞きにくそうだったので、アーツで倒してみた。

「よーし、次は…」

そのまま、アルシェムはマインツトンネル道へと向かった。

そこにいた手配魔獣は…

「モグラだ。紛うことなくモグラだ。」

グランドリュー、という魔獣らしい。

どうでも良いが、爪だけがやたら底光りしていた。

「異論は認めねー。エアリエル。…ついでに、不破・弾丸!」

それだけで、瞬殺出来た。

だが、懸念だけは残る。

「弱いけど爪が危ねーな…」

周囲を見回し、気配を探って他にもいないか探す。

だが、見つかることはなかった。

アルシェムは諦めてクロスベル市へと戻った。

「市庁舎だったね…」

市庁舎へと向かうと、見覚えのある気配が。

「済みません…」

兎に角声を掛けてみるが、これはこれでどうかと思う。

「ああ、来て下さったんですね!」

どこからどう見ても、この男は。

「…あ、あんですってー。」

「は?」

怪盗Bこと《変態紳士》ブルブランだった。

アルシェムはブルブランに近づくと、全力で睨みつけた。

「…ゴルァ、ビィ。盗品どこやった。」

まあ、それだけではないのだが。

「…相変わらずのようだね…」

吊り上げられたブルブランは、苦笑しながらつぶやいた。

「返事は?」

殺気まで叩き込んでやれば、ブルブランはゆっくりと答えた。

「…し、市長の家だ。」

「宜しー。…特務支援課が見てーの?」

殺気を緩めて言えば、ブルブランは若干落ち着いて答えた。

「まあ、興味半分、といったところかな。」

「まだまだひよっこだよ。」

「ふむ…」

目を爛々と輝くのを見せつけられれば、嫌が応にも理解してしまう。

「…興味津々じゃねーの…」

「私は私の目で確かめたいんだが。」

「あんた基準で計らせたくはねーな。」

絶対に面倒なことに巻き込むに違いない。

それに、絶対にお眼鏡にかなってしまうに違いない。

「相変わらず仲間思いで結構なことだ。」

「いや、今回は別に。」

だからこそ、経験を積ませるべきかとも思った。

「…は?」

「だから、わたしはこのまま放置するっつってんの。」

ブルブランを退けられないことには、《身喰らう蛇》とは渡り合えないだろうから。

「珍しいな。よもや君がそんなことを言うとは…」

「でも、見てーんでしょ?」

その言葉を証明するように、アルシェムはENIGMAを取り出してロイドにつないだ。

「あ、ロイド?うん…そう、んじゃやっぱり盗難事件任せたよ。人手がいりそーだから。…え、あ、分かった。うん、じゃーそっち回るよ。じゃーね。」

目の前で証言してやったのだ。

これで、来なくても文句は言わせない。

「あまり苛めてやんねーでよ?」

「楽しむ前に壊す趣味はないさ。」

にやりと笑いながら言うブルブラン。

だが、アルシェムは一瞥もくれずのその場を後にした。

そして、そのまま観光客を探すべく古戦場へと向かった。

「あ、この先は立ち入り禁止だよ。」

あっさりと村人に足止めを食らうアルシェム。

「特務支援課です。この先に観光客が入ったそうですが?」

「あー、その件か。今遊撃士の人が来ててね…」

ぐだぐだと説明をしている間に、古戦場の中の気配を探ってみる。

すると、強そうな気配が2つと、弱そうな気配が2つ。

しかも、弱そうな気配の方には魔獣の気配までもが迫っていた。

「…ち、人手不足が仇になってる…!分かったから入れて!」

「あ、ああ…」

村人の了承もそこそこに、アルシェムは中へと突入した。

「気配は…あった!」

近くて弱い気配に、恐らくは遊撃士が近づいているのだろう。

そう思ったが、どうにもおかしい。

駆け付けてみれば、遊撃士と観光客のペアが古代種に襲われていた。

それを見たアルシェムは、即座に導力銃で援護しながら接近し始めた。

「な…」

いきなりの援護に、動揺する遊撃士。

「集中を崩すな、確かスコットさん!」

アルシェムが遊撃士を叱咤するが…

「…ヴェンツェルだ…」

ぼそっと人違いであることを告げられて少しだけ焦る。

「ごめん、覚え間違えた!」

ヴェンツェルに謝るしぐさをすると同時に導力銃をしまい、折り畳み式の棒術具を取り出してアルシェムは古代種に迫った。

「風華無双っ!」

色々と飛び散らないように加減されたクラフトは、古代種を殲滅した。

「…何故ここに?」

眉を顰めながら言うヴェンツェル。

だが、今はそんな問答をしている暇はない。

「多分多重依頼。まだ奥にいるっぽいから後で。護送任せた。」

「…分かった。奥にスコットがいる。」

名を間違われたことにショックを受けているのか、いちいち宣言されてしまう。

今度は間違えないから勘弁してほしい、とアルシェムは思った。

「りょーかいっ!」

そのまま奥へと進みながら、魔獣を狩っていくアルシェム。

「おっしゃー魔獣滅びろやー!」

奥へ奥へと進み、そして…

漸く、観光客とスコットを見つけた。

「あ、いた…って、何してんの!?」

スコットは傷だらけで、これ以上戦える状況ではなかった。

「えーい、取り敢えずティアラ!」

アーツの光で魔獣の気を引きながら、アルシェムはスコットの前に滑り込んだ。

「君は…まさか、《氷刹》!?」

「黙れスコットさん!その人任せた、魔獣は引き受ける!」

そのまま下がってくれれば良いのに、スコットは反駁した。

「し、しかしソイツは…!」

その言葉を遮って、アルシェムは怒鳴る。

今そんなことを言っている場合ではないのだ。

「これくらいザラに狩ってるっつーの!今大切なのはその人の安全確保!間違えるな!」

「…済まない、任せたよ!」

スコットが離脱すると同時に、アルシェムは棒術具に穂先を取り付けた。

「全く…」

遊撃士というのは、お人好しの集団なのだろうか。

見捨てろ、とはさすがにもう言わないが、慣れないものである。

「久し振りに、狩るよ?古代種。」

そう静かに嘯いて。

「シュトゥルムランツァー。」

アルシェムは、数十分をかけて古代種を狩りつくした。

狩り終えて、一息吐こうとしたその瞬間。

「…驚いたな。まさか、単独で狩ってしまうとは…」

アリオスが出現していた。

「あんたに言われたかねーよ。あんたならその刀で一瞬でしょーに。」

「…アルシェム・シエル。お前は剣を使わないのか?」

剣?

冗談だろう。

アリオスが持っているものは刀。

そして、彼が聞きたいことは刀を使うか否か、だ。

「使わねーよ。今回は、ね。」

無論、アルシェムは否定した。

扱おうと思えば扱えないことはないだろうが、まだ試したことはない。

「…昔は使っていたと。」

「ま、昔は昔だから。使えなくもねーし、いつか必要になったら使うよ。」

その答えに、いぶかしげに返すアリオス。

「お前は八葉の剣士ではないのか?」

「さっきから質問が好きだね、《風の剣聖》。わたしなんかが八葉の剣士になれるわけねーでしょ。」

八葉の剣士になるということは、もう一度カシウスとつながりを持つことでもある。

アルシェムとしては、避けたかった。

「…そうか。」

「もー、いーかな。わたしなんかに構ってる暇あるんなら娘さんの見舞い行ったら?…じゃーね。」

まだ何かを言いたそうにしていたアリオスを放置して、アルシェムは古戦場の入口へと戻った。

すると、観光客を送り届けた後なのか2人の遊撃士だけがそこにいた。

「…あれ?スコットさんとヴェンツェルさん?」

「アリオスさんは一緒じゃないのか?《氷刹》。」

何が哀しゅうてむさ苦しい男と一緒に撤退しなければならないのか、とアルシェムは思った。

「置いてきた。わたしに構ってる暇があるみてーだし、暇なんじゃねーの?」

どうせ暇人なら、娘さんのお見舞いにでも行けば良いのにね、と心の中でだけ呟いたアルシェムは棒術具をしまった。

「…辛辣だな…」

そして、遊撃士が待っていた理由を何となく察したアルシェムは釘を刺す。

「今回の報酬はそっち持ちにしててよ。面倒だし。」

「…だが、お前が来なければ危なかった。」

このままでは、手柄どころか報酬まで押しつけられそうだ。

だから、アルシェムは理由をつけて辞退することにした。

「だから何?撤退だけなら出来たでしょ。だからそっち持ち。わたしだけだとちょっとトラウマにしかならねー助け方しか出来ねーし。」

「…わ、分かった。」

たじろぐ遊撃士に背を向けて、アルシェムはそのままクロスベル市へと戻った。




あ、今ふさわしい言葉が出てきました。
アルシェムはどこか抜けてます。

では、また。

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