雪の軌跡   作:玻璃

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今回はいつもより長いです。
ルビタグが多い…

では、どうぞ。


甘酸っぱい雰囲気と情報

そして、次の日。

旅行の準備を携えて遊撃士協会(ギルド)を訪れる。

「…話は分かりました。正直、かなり人手不足になるけど…他ならぬカシウスさんのことだもの。遠慮せずに行ってきてちょうだい。」

「恩に着るわ、アイナ。リッジも今の3倍はいけるはずだから、こき使ってやって。…まあ、アルには負けるだろうけどね…」

可哀想に。

リッジはこき使われることが決定したようだ…

「いざとなったら王都支部に応援を頼むから心配しないで。…ところで、シェラザード。少しだけ時間を貰えない?あなたが請けるはずだった仕事についてちょっと…」

「ん、分かったわ。3人共、2階で待っててくれる?すぐに終わらせるから。」

だが、エステルは首を横に振った。

「…ね、シェラ姉。時計台の前で待ってても良いかな?ちょっと…挨拶したい人もいるし。」

「そっか…うん、そうね。じゃあ時計台の前で待ってて。」

「りょーかい。2人共、行こ?」

…何か、あるみたい。

「あ、うん…」

「分かった。」

遊撃士協会(ギルド)を出て時計台に向かう。

「この時計台を見る度に思うんだけど…戦争で壊れたのによくここまで直したもんだね。ロレント市民の気概を感じるな。」

…空気読めないと全力で言えば良いんだろうか。

「…ヨシュア、ちょっと黙ってよーか…」

どう見てもしんみりした雰囲気のエステルに何てこと言ってんのこの朴念仁。

「え?」

「ね、2人とも。シェラ姉が来るまでちょっと上に登ってみない?」

「別に構わないけど…」

アルシェムは空気を読むことにした。

何というか、主にヨシュアのために。

…深入りしたくないというのもあるが。

「…いや、わたしは遠慮するよ。たけーとこ、苦手だし…あんまり、邪魔しちゃわりーだろうし。」

「あのねぇ…ま、良いわ。ヨシュア、それじゃ、行きましょ。」

「ごゆっくり。」

エステル達は上に登るが、アルシェムは下で待つ。

声は聞こえるが、聞く気はない。

戦争で母親がここで死んだという話。

そんなの、聞きたくない。

もしかしたら、止められたはずの戦争。

止められなかったのは、もしかしたらアルシェムのせいかも知れなかったから。

「あら、アルは登らないの?」

「シェラさん。…流石にそんな野暮な事しませんよ。ヨシュアと違って、わたしはくーき読めますから。」

「そ、そう?」

シェラザードと談笑していると、エステル達が降りてきた。

「むふふ、お2人さん、良いムードだったわね。おねーさん、思わず赤面しちゃったわ♪」

「邪魔しねーで良かったわ。」

2人してにやにや笑ってみる。

「え゛っ…ま、まさか、覗いて…!?」

覗くわけない。

見えただけだ。

「何を人聞きの悪い。時間を見ようと上を見たら目に入って来ただけよ。ね、アル?」

「…のーこめんと。」

「何よ、ツレないわね…あー、オーバルカメラでも持ってりゃ良かったわぁ。」

そんな高価なもん買う前に酒に変えるでしょうが。

と思ったことは内緒だ。

「ううっ…」

「じごーじとくじゃねーの?」

今更恥ずかしがっても、ねえ。

「も~、何言ってんのよ。単なるスキンシップじゃない。酔っ払ったシェラ姉の抱きつき癖と同じだってば。」

「…ふう…」

この、鈍感娘。

何だか本当にヨシュアが可哀想になってくる…

「ん、どうしたの?」

「はあ、あんたって子は…」

「頑張れ、ヨシュア…前途多難すぎるけどねー…」

取りあえず励ましておこう。

「…まあ良いわ、レナさんに挨拶してきたの?」

「…うん、ちゃんとお願いもしてきたよ。父さんを守ってあげてって。」

「そう、だったら大丈夫。レナさんの加護は空の女神(エイドス)に匹敵するからね。カシウス先生の無事は保証されたようなもんだわ。」

…どれだけ凄いんだレナさん。

七耀教会関連の人間が聞いたら眉を吊り上げそうな言葉ではある。

まあ、アルシェムはそんな事しないが。

「あはは、それは持ち上げ過ぎだと思うけど…」

「そう言えばシェラさんはエステルのお母さんと面識があるんですね?」

そうだ。

シェラザードがレナさんと面識があるのなら、《百日戦役》以前からの知り合いということになる。

「ええ…子供の頃にお世話になったの。あたしがまだ一座にいた頃ね。」

「一座?」

「巡業サーカスのハーヴェイ一座だよ。シェラ姉、踊り子やってたんだ。随分前にロレントに巡業に来たときに知り合ったの。」

ああ、それで鞭。

「正確には12年前ね。あたしが11で、エステルが4つ。その時の縁で、遊撃士(ブレイサー)になる時にカシウス先生に弟子入りした訳よ。」

踊り子だからそんな露出狂っぽい服装…

「そうだったんですか…」

「だからそんな露出…げふん、過激なふくそーなんですね…」

何だか、色々と納得がいってしまった…

「あんたね…ま、その辺りのことはいずれゆっくり話すとして…そろそろ出発するとしますか。」

「それじゃ、レッツ・ゴー!」

まだ、やらなければならない事がある。

だから、一旦別行動をさせてもらおう。

…もっともらしい理由をつけて。

「あ、念の為にボースまで向かうよーな依頼がねーか見ときます。先行ってて下さい。」

「…忠実(マメ)ねぇ…良いわ、先に行ってるわね。」

速攻で遊撃士協会(ギルド)に戻る。

不思議そうな顔でアイナが出迎えてくれた。

「どうしたの?アルシェム。」

「ボースに向かうよーな依頼がねーか、見に来たんですよ。…あー、やっぱり。親書の配達、請けときます。ボース支部からほーこくしますね。」

「ありがとう、アルシェム。気を付けてね。」

「はい。…行って来ます。」

そのまま教会に向かう。

教区長に近づくと、話しかけてきた。

「おや、アルシェム?どうかしましたか?」

「ボースに向かうので、教区長が依頼なさっていた親書の配達を遊撃士協会(ギルド)で請けてきました。」

まあ、口実だが。

「そうですか…ボースのホルス教区長に、この手紙を届けて貰いたいのです。」

「はい、分かりました。確かに受け取りましたよ。」

「ありがとう、助かります。それではお願いします。…他の地域を巡って見聞を広めることは心の糧となるものです。あなたに空の女神(エイドス)の導きがあらんことを。」

「しつれーします。」

そこで、見計らったかのようにメルがやってきた。

「…アルシェム、ちょっと。」

「はい、何ですか?メルせんせー?」

「…カプアの件で…」

丁度良かった。

というか、相変わらず調べるのが早い。

「奥、行こーか。」

教会の奥の部屋で報告を聞く。

「カプア元男爵家は、リドナーなる男に騙されて土地を売り払い、爵位を剥奪されたそうです。」

カプア…

男爵家だったのか。

「ふーん…そのリドナーって奴がこーかつだったのか、カプアがバカだったのか…」

「両方です。リドナーは、《赤い星座》の資金調達に関わっているそうですから。カプア元男爵は…何というか、豪放な性格とでも申しましょうか…疑いもしなかったらしいですね。」

猟兵団《赤い星座》…

まさか、ここでその名前を聞くなんてね。

「…成程。次に会うまでに主な遊撃士(ブレイサー)、分かってる執行者(レギオン)使徒(アンギス)の名前と来歴と…危険かも知れねーし、無駄かもだけど…ヒーナには内緒で《ハーメルの悲劇》を調べといて。…何か、ほーにんでごめんね?メル…」

「…いえ、あたしは、貴女のおかげで役立たずではなくなりましたから…当然のことです。」

メルは、足手まといなんかではない。

絶対に。

戦えるようにしたのはアルシェムだが、覚悟したのはメルだ。

感謝される謂れはない。

「わたしは何にもしてないよ。メルが頑張ったの。…だから、お願いします。」

「…分かりました。じゃあ、あたしはルーアンに向かいます。…空の女神(エイドス)の加護を。」

「うん。…空の女神(エイドス)の加護を。」

ヤバい。

かなり時間を食ってしまった…!

急いでロレントから出てミルヒ街道を爆走する。

魔獣を悉く避けて避けて避けまくって、ヴェルデ橋まで到達した。

「…ごめ…遅く、なって…」

エステル達は漸く詰め所に入るところだったようだ。

間に合って良かった…

「そんなに焦らなくても良いのに…まあ良いか、通行手続きをしちゃいましょ!」

4人連れだって詰め所に入る。

「エステル君…ヨシュア君にアルシェム君じゃないか。」

「アストンさん、こんにちは。」

「すーじつぶりです。」

この間会ったばかりだ。

兵士の訓練、もう1回やってやろうかな…

冗談だけど。

「そちらの方は…確かシェラザード君だったか?」

「ご機嫌よう、隊長さん、ボースに行きたくて、通行許可証を貰いたいんだけど。」

「ひょっとして…例の事件に関係が?」

そうじゃなきゃこんなに連れ立って行くわけがない。

「うん…父さんが、リンデ号に乗ってたらしいの。」

「なんと、カシウスさんが…それは一大事だ。すぐに通行許可証を発行しよう。」

それで良いのか王国軍。

「ありがと、アストンさん。でも、いいの?こんな簡単に発行しちゃって。」

「君達は顔見知りだし、王国軍としても遊撃士協会に協力は惜しまない。…ああ、ただ…」

「…何か懸念でもあるんですかー?」

「ああ、北にあるハーケン門に用事があるときは注意したまえ。…君達が遊撃士(ブレイサー)であることは伏せていた方が良いかも知れん。」

ハーケン門…

ということは、もしかして…

モルガン将軍?

「…どーゆーことですか?」

「すまない、これ以上は言えないんだ。だが、くれぐれも慎重に行動したまえ。私もカシウスさんの無事を空の女神(エイドス)に祈っているよ。」

「ありがとうございます、失礼します。」

外に出て、ボースへ向かう橋へ向かう。

「やあ、ご苦労さん。ボースまで行くつもりかい?」

「そうだけど…何で分かるの?」

いや、それ以外に何がある…

「君達みたいな連中が今日は何人も通ってるからさ。いつもの数倍はいるね。」

「ボース上空の飛行制限が原因ですか?」

「そうだよ、忙しいったらありゃしない。」

まあ、リベールには鉄道が通ってないから当然っちゃ当然だが…

こういう時は鉄道が欲しくなる。

遊撃士の仕事を増やさないで貰いたいな…

「ま、飛行制限をしてるのはあんた達なんだから、文句を言える立場じゃないわね。」

「う、そうなんだけどさ…そうだ、ここでも一応通行規制が行われてるんだ。通行許可証を発行…」

「はいこれ。つーこーきょかしょー。」

「お、随分用意が良いな。それじゃ、開けるとするか。」

スコットは、門をリモコンで開けた。

これ、もし導力が効かなくなったら手動で開けるんだろうか…?

「さ、通ってくれ。一度渡ったら、向こうで通行許可証を貰わなきゃ戻って来れないからね。」

「りょーかい。」

そして、エステル達はボース地方に足を踏み入れた。




さて、前々回から名前だけ出てきているヒーナさんですが。
フルネームは、ヒーナ・クヴィッテさん。
彼女、グランセルにしかいませんので。
しばらく説明はなしの方向で行きます。

では、(たぶん)また明日。

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