雪の軌跡   作:玻璃

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別名、暗躍回。

次回からは更新が止まるかもしれません。

では、どうぞ。


《銀》の後始末

ふと目が覚めると、ベッドの上だった。

横でティオが覗き込んでいる。

「…アル?」

「…ん…おはよーティオ…」

ふああ、とあくびをしながら起き上がると、何故か冷たい目が。

その理由は、ティオが語ってくれた。

「無理しすぎです…」

まあ、実際に無理はしすぎたともいえる。

それでも、出来る最上のことはやったつもりだった。

「ごめんごめん…これしか手がなくてさ…」

「だからって…やりすぎです。もうちょっと頼ってくれても良いじゃないですか…」

ティオは、頼れという。

だけど。

それは、出来ない相談だった。

これは、アルシェムの『仕事』なのだから。

「頼りないわけじゃなかったんだ。…ただ、どう話したものか悩んでただけで。」

ティオには、あまり関わらせたくなかった。

知らせたくもなかった。

「…アーネストさん、だからですか?」

「んー、それだけじゃねーんだけど…ま、暫くは尻尾も出さねーか…」

だから、曖昧に誤魔化して。

「…もう、無茶は止めて下さい。」

そう、アルシェムを案じてくれるティオの言葉に、背を向ける。

「あっは、無理。無茶やらねーと、出来ねーことが山ほどあるんだから。」

「アル?」

ティオが咎めて来るが、こればかりはどうしようもない。

これが、任務。

「無理。だって、そうでねーと…クロスベルは変えられねーもん。」

クロスベルを変える。

一言で言えば、とても簡単に聞こえるけれど。

「クロスベルを、変える…ですか?」

「ん…一応は、故郷らしーからね。」

もっともらしい、そして真実を提示して。

アルシェムは、その心の内を誰にも知らせることなくやり遂げるつもりだった。

「え?」

「…よいしょっと。」

アルシェムは、起き上がって着替え始めた。

「な、何してるんですか?」

「体が鈍って仕方ねーの。ちょいっと出て来るよ。」

まだ、事後処理が残っている。

そして、それは仕事ではない。

「まだダメですよ!?」

「や、今じゃねーとね。…失礼。」

「…ぁ…」

ティオを眠らせて、アルシェムは準備を始めた。

扉に鍵をかけて、変装する。

星杯騎士エル・ストレイとしての格好から、星杯の紋章を外して。

隠形で気配を消して、アルシェムは窓から飛び出した。

そして、黒月に向かう。

そこには、報告をしている銀がいた。

その報告を待って、黒月から出て来る銀を追跡して。

アルシェムは、アルカンシェル近くのビルの上で変装を解いたリーシャの前に立ちふさがった。

「な…だ、誰ですか!?」

「…そこまでドジだとは思わなかったな、銀。」

声だけは、以前に銀と対峙した時のままで。

「…貴方は…」

「次は名乗ると言ったな。わたしは、ストレイという。以後お見知り置き願おうか。」

慇懃無礼に礼をする。

流石に、リーシャは警戒したままだった。

「…何の、用ですか。」

「何、取り引きだよ。」

これから、アルシェムは旧友にとても酷いことを言う。

「取り引き、ですか…」

かつての旧友を、アルシェムは利用するのだ。

「ああ。おまえが欲しいのは…エルという少女の情報だろう?」

「…っ!?」

息を呑むリーシャ。

まさか、ここまで想って貰えているとは思いもしなかった。

「銀髪で、蒼穹の瞳の。」

だけど、そんなことを言う資格はないのだ。

アルシェムは、リーシャを利用するのだから。

「何故…貴方がそれを…」

「おまえがわたしの出す条件に従うならば教えよう。逆らえば、情報はやらん。…どうだ?」

リーシャは、暫し悩んで答えを出した。

「…条件を、聞かせて下さい…」

それほどまでに、エルの情報を求めているのか。

「条件と言っても、簡単だよ。クロスベルの法を犯さないことと、わたしに従うこと。簡単だろう?」

条件を出せば、リーシャはいぶかしげな顔でアルシェムを見た。

「…貴方は、私に何をさせたいんですか?」

「それを知る権利はおまえにはない。…と言いたいところだがな。」

だから、少しだけ情が出た。

出さないつもりだったのに。

「…え?」

「折角のエルの頼みだ。特別に教えてやろう。」

エルは生きている。

そう、言外に告げる。

「エル、の…?」

そして、リーシャもそれに気付いた。

「わたしとしては、このクロスベルを国にしたいのだよ。それが無理ならば、どこかの属国でも構わん。だが、帝国と共和国には渡さない。」

そして、これはアルシェムの我が儘だ。

それと同時に、教皇の意志でもある。

手段を問わないのならば、やりようはいくらでもあるのだ。

「それが、貴方が私にさせたいことですか…?帝国と共和国に牙剥けと?…正気ですか…?」

無論、アルシェムは正気である。

教皇がどうだかはわからないが。

「本来ならば、おまえは始末していた。だが、エルたっての願いだからな。…エルの敵討ちとでも言うべきか。」

リーシャが銀を継いでいなければ、こんな話はしなかった。

だけど、裏の道に進んでしまったリーシャを引き戻すことは…

出来ない、と、アルシェムは思っていた。

「…1つ、聞かせて下さい。」

顔を伏せて、リーシャが問う。

「おまえが従うならな。」

「…従います。だから、教えて下さい…!エルは、エルは生きているんですね!?」

そんなにも、アルシェムを思ってくれているリーシャに対して。

今にも正体を明かしたくなった。

だけど、それは出来ない。

出来ないのだ。

「無論だ。死人を交渉に使うほど落ちぶれてはいないさ。」

「良かった…」

へたり込むリーシャに、出来る限り平静を装いながらアルシェムは告げた。

「…全く…リーシャ・マオ。今は全く用がないからな。出来るまでは普段通りに過ごすと良い。」

「…はい…良かった…!」

「…また連絡する。さらばだ。」

隠形で消え、部屋へと戻る。

リーシャは、追ってはこなかった。

扉に鍵がかかっていること、ティオが気絶したままなのを確認して変装を解く。

 

「…うわー、罪悪感半端ねー…」

 

そう、嘯いて。

アルシェムは、再び眠りについた。




リーシャの後始末は必要ですからね。
フラグを立てた以上、味方に引き入れました。

この後はまだ綺麗に直し切っていません。
なので、少し遅れるかもしれません。

では、いずれまた。

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