雪の軌跡 作:玻璃
でも、必要でしたから。
では、どうぞ。
次の日。
「おはよー。」
「お早う、アル。」
「…夜更かししてた割にはすっきりした顔してるね、エリィ。」
一言エリィをからかって、今日の業務に取り組むことにした。
「ふえっ!?」
「…焦らなくてもいーのに…」
それだけやましいことをしていたということか。
「さ、さて支援要請はどんなのが来てるのかしらティオちゃん!?」
「そうですね、…魚の調達と、後は…テスタメンツから稽古のお願いと、ウルスラ医大から稀少な薬草の入手をお願いされていますね。」
「何そのカオス。全部任せたよ。」
任せるのは、出来ることがないから。
適材適所で言えば、これほど外れていることはない。
「え、でも多分全部は無理じゃないかな。」
「…消去法でもわたしが出来るの、何もねーよ?」
日常のお手伝いなんて、アルシェムには出来ないのだ。
「え?」
「だって、魚釣れないし、テスタメンツの稽古は相手にならねーし。後、ウルスラ医大には行きたくねーし。」
今ウルスラ医大に行けば、きっと死ねる。
社会的にも、精神的にも、肉体的にも。
それだけは、避けたかった。
「それは屁理屈では…?」
「否定はしねーよ?だけど、今は裏付け取んのに忙しーの。」
そこで、ちょうど端末にメールが来た。
「あら?何か来たわよ?」
「ちょっと待って下さい…え?」
そこには、銀からの依頼書がメールされていた、
おそらくは、別のハッカーだろう。
「…そー来たか。これで裏付けも取れるかな。ティオ、ちょっと貸して。」
「嫌です。やるなら自作の端末を持って来て下さい。」
「ちぇー…」
携帯端末を持って来て、操作を始めて数十秒後。
「…またタイムリーに来るね、IBC。」
それが、どこから送られてきたのかを探り出した。
「な、何でIBCから…!?」
「エリィ、知り合いでもいるのか?」
「え、ええ…兎に角、支援要請をこなしながらIBCに行きましょう。」
知り合い、というか友人がいるのだろう。
調査した限りでは、友人の名はマリアベル・クロイス。
あまり、かかわっていてほしくなかった人物でもあった。
「…IBC、か…うーん…」
「何か悩むことでもあるんですか?」
「や…気になることが…っ!」
その瞬間だった。
ジオフロントに駆け込む男の気配がしたのは。
「どうかしたのか、アル?」
「…チッ、暇人が…!」
目的はわからない。
だが、遊撃士ではない。
ならば、黒に近いだろう。
「え…」
「ロイド、わたしは行かなくちゃならねーところが出来ちゃった。」
「一緒には行かないのか?」
行かない、というよりも行けない。
「…ま、ね。多分余裕がなくなる。」
場合によっては、身動きが取れなくなるとわかっていても。
「相当ヤバいことに気付いたのか…」
「ごめんね!」
それでも、行かなければならなかった。
ジオフロントへと向かい、奥まで誘い込まれたところで男がこう言葉を発した。
「…出て来たまえ。そこにいるのは分かっているんだ。」
「…アーネストさん、でしたか。ジオフロントなんぞで何を?」
ゆっくりと姿を現しながら、それでも警戒は怠らずに。
「分かっているくせに、聞くのかい?」
「裏取引?」
「はは、分かっているじゃないか…!」
もはや、否定すらしない。
ということは、このままアルシェムは亡き者にされるのだろう。
「…隠したモノを見せてくれますか?」
それでも、アルシェムは生き残るために戦う。
それに、どうあがいたところで…
「それは…君を叩き潰した後で見せてあげよう!」
護身用に用意していたのか、剣を振りかぶって襲い掛かってくるアーネスト。
「…っ!」
受ければ、おそらく吹き飛ばされるだろう。
常人ならば。
「そらそら、逃げ回っているだけでは死ぬよ?」
「っく、この馬鹿力…!」
だが、アルシェムならば別だ。
受け止めることもできる。
「はははは!叩き潰してあげよう!」
だが、今それは悪手だった。
「ち…しまっ…!?」
突然出て来た魔人に殴り飛ばされるアルシェム。
「っ…なっ!」
そのまま、アルシェムは複数の魔人に取り押さえられてしまった。
「…で…わたしをどーするつもり?」
「ふふ…」
アーネストはアルシェムの問いに笑いながら壜を取り出すことで答えた。
「っ、それは…!」
そこに入っていたのは、碧い錠剤だった。
とても見覚えのあるそれは…
「さあ、口を開けたまえ。」
無理矢理に口をこじ開けられて。
「が…んぐっ…!」
アルシェムは、碧い薬を呑まされた。
「かはっ…や、止め…んぐっ!?」
「強がるのは止めたまえ。」
余裕ぶって、力が緩んだところで。
「…今!」
煙幕を焚いて脱出しようとしたが…
「無駄な足掻きだ。」
出来なかった。
「…っく…」
取り押さえられたまま、アルシェムは大量に碧い薬を呑まされてしまった。
「…ぁ…」
「これに懲りたら、警察なんて辞めてしまうことだね。」
もうろうとする意識。
意識のはざまで、アーネストが去っていくのが見えた。
「…死ぬ、かと…思った…」
揺れる頭を押さえつけて、アルシェムは地上へと戻る。
そこに、いきなり駆け出す気配が1つ。
「…あの…気配、は…」
とても、見覚えのあるものだった。
急いで自室へと駆け戻り、星杯騎士の変装をして星見の塔へ向かう。
「…そこにいるんだろう?銀とやら。」
そう声をかければ、反応してくれる。
「…ほう?招待状を送ったのは特務支援課だけのはずだが?」
そう答える銀。
アルシェムは、彼女の正体を知っていた。
「お前、馬鹿だろう。気配を探りさえすれば追える。」
そう、嘯いて。
「そんな出鱈目を信じてたまるものか。一般人ではないな…?」
襲いかかってこようとする彼女から、距離をとる。
「ああ。無論一般人ではないな。お前に名乗るつもりはないが。」
「フン…ならば、名乗らせるまでだ!」
突進してきた銀を、隠形で避ける。
「今日は姿見せだけだ。」
「…な…」
驚いているのも無理はない。
この技は、銀直伝なのだから。
「ご機嫌よう、銀。またお目にかかることもあろう。その時は、手土産を持って参上するとしよう。」
「待てっ…!」
隠形を保ちながらウルスラ間道から部屋へと戻る。
「…はっ…はぁ…し、死ぬ…っ…!」
変装を解き、アルシェムはそのまま意識を失った。
今回は割と短いです。
キリが悪いので。
では、また。