雪の軌跡   作:玻璃

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もはやチート以外の言葉で言い表せなくなってきた。


では、どうぞ。


良い人の仮面。

考え事をしているときに人の気配を感じたアルシェムは、自室から玄関へと迎えに出た。

だが、そこにいたのは特務支援課の人間ではなかった。

「…っ、お帰り。」

「え?」

「は?」

見つめ合うこと10秒。

アルシェムの全身には、鳥肌が立っていた。

「ええと、君は…」

「…わたしは、エリィの同僚だよ、秘書のヒト。」

何よりも、苦手な人種だったから。

それに、彼を視野に入れていなかったことに気付いたから。

「アーネスト・ライズだ。」

だから、対応がぞんざいなものになった。

「何しに来たの?」

彼は、確かに怪しい人物でもあったのだから。

「それは…」

「うーん、当ててみよっかな?多分、エリィを連れ戻しに来たんじゃねーの?警察より、そっちが合ってるのは見りゃ分かるし。」

エリィを連れ戻せば市長の後釜が出来る。

だが、アーネストがまずは継ぐだろう。

そう言う意味では、エリィを連れ戻すメリットは少ない。

「その通りだよ。出来れば、市長の跡を継いで欲しい。市長もお年だし、いつ何があるか分からない。加えて、エリィお嬢さんは優秀だからね。…エリィお嬢さんが適任だと僕は思うんだ。」

「…そーですか。」

なのに、連れ戻す。

それは、もしかしなくても…

「?向いていないのは分かるのに、祝福してくれる気はないのかな?」

「選ぶのもエリィ。決めるのもエリィ。わたしにそれを言う権利はねーのよ。」

彼自身が、エリィ・マクダエルという人間を欲しがっているのかもしれなかった。

「…そうだね。」

「だから、協力して、なんて言われてもしねーからね。エリィの道は、エリィが決めるべきだもん。…道を選べるのなら、選ぶべきなんだよ。」

それを、アルシェムはエリィにも聞かせるべく大きな声で言った。

エリィが聞いているのを承知の上で。

「…分かった。一度エリィお嬢さんに…」

そこで、エリィがその場に現れた。

「…聞いていました、アーネストさん。」

「ああ、エリィお嬢さん。」

アーネストは軽く会釈した。

「お帰り、皆。エリィ、お客さんだよ。」

「ええ…アーネストさん。」

エリィは、瞳を揺らしてアーネストを見つめる。

「何だい、エリィお嬢さん。」

「…少し…考えさせて下さい…」

出した答えは、それだった。

「ああ、待っているよ。…おっと、時間だな。済まない、失礼するよ。」

何も決めきれないで、それでも進みたくて。

エリィは、そのまま支援課ビルの中に入ってしまった。

それを受けてアーネストもその場から去っていく。

そこはかとない違和感。

確かめなければならないという焦燥が、アルシェムを駆りたてた。

「ごめん、ロイド。先にご飯食べてて。ちょっと気になるから出て来る。」

アルシェムは、ロイドにそう告げると走り出した。

「え?あ、ああ…」

そんな答えも聞かずに。

すぐに追いかけたおかげか、アルシェムはすぐにアーネストに追いついた。

「アーネストさん。」

「おや、どうかしたのか?」

さも今気づきましたというようにアーネストが振り返る。

だが、アルシェムには分かっていた。

アーネストは、アルシェムが追いかけてくることを予測出来ていた。

だから、アルシェムは疑念の目を向けることが出来た。

「もし、エリィが戻らなければ後釜はあなたのはずだよね。なのに、エリィを呼び戻してーのは何故?」

エリィを政治の道に戻したいのか。

それとも…

「それは…」

「1人でも多く味方が欲しーから、にしては執拗かなって。」

最悪の場合は、アーネストがエリィを手に入れたがっているかも知れないということ。

それは、補佐としてではなく…

「…やっぱり、市長も赤の他人よりは身内のエリィお嬢さんの方が心強いかと思ってね。それに…とても、迷った目をしていた。だから…」

アーネストは、エリィに恋をしているのかも知れなかった。

だけど、そんな理由で連れ戻したいという独占欲が働くのならば。

それは、少し危険な気がした。

「んじゃー、市長から圧力をかけて貰えばいーんじゃねーの?」

だから、こう言うしかない。

「…そうだね。助言をありがとう。急ぐから、失礼するよ。」

その反応で、それは出来ないのだと暗に告げて来ているのを理解できてしまった。

「ん、わたしも引き止めてゴメンナサイ。」

だから、アルシェムもそこで引き下がった。

引き下がるしか、なかった。

そして、アルシェムは支援課ビルへと戻った。

「只今。」

「やけに早かったな?」

むぐむぐと口を動かしながら、ロイドは言う。

「そーかな?」

夕食のパスタを盛り付けて机まで運ぶ。

「かなり早かったですよ?」

「そー…それで、何か分かった?」

席について、アルシェムはそう問うた。

今後の指標にしなければならない。

「ああ…兎に角、あの銀はインって読むらしい。でも、ルバーチェも黒月も恐らく脅迫状は出していないだろう。」

それを聞いたランディは少しく瞠目した。

「おいおい、根拠は何だよ?」

ティオも、遅ればせながら気づいたようだが説明はロイドに任せている。

「出す意味がないからさ。アルカンシェルの公演をぶち壊しにしても得はしないだろう?」

「まあ、確かにそうだが…」

「チケットの裏取引をするにしても、逆効果ですしね…」

まあまあ、及第点はあげても良いだろう。

アルシェムだって、『銀』を知らなければそうする。

「ま、確かにねー。それにしても、予想外のことしでかしたんだね、ロイド?」

「え?」

「だって、ルバーチェと黒月に直接乗り込んだでしょー?」

何となくで鎌をかけてみただけなのに。

「う…でも、見ておくべきかと思ったし…」

ロイドはそう答えた。

まさか本当に乗り込んでいたとは。

驚きを顔には出さずにアルシェムは口を開く。

「まー、間違っちゃいねーけどね。予想外だけど全く以て見当外れじゃねーから。」

聞くと見るでは全く違う。

無論、見る方が重要だ。

それが分かっているのなら、十分だろう。

「はは…」

「それで捜査を外されちゃ元も子もないぜ。」

溜息を吐きながら吐き出されたランディの言葉に、アルシェムは固まった。

「…成る程、外しにかかったんだ…悪手なんだけどなー…」

今、一課にはそれが理解出来る人物がいるだろうか。

イリアを護衛するのは無駄なのだ。

あくまでも、脅迫状を信じているらしい。

文面だけは、囮なのに。

「え?」

「さて、わたしはそろそろまとめにかかろーかな。」

「アルは何か分かったのか?」

そこで、探りを入れて来るロイド。

「ん、まー…そーだね…犯人の候補は絞り始めてるよ。」

「つまりは、まだってことだな。」

「うん。だけど、裏付けを取れれば…うん。銀自体にも対策はいるだろーし、考え中かな。」

犯人は、今回一番得をする人物。

狙われるのは、恐らくは市長。

だから…

 

公演中に、『銀』が動くのも銀が動くのも阻止しなければならない。

 

後者はまだ簡単だろう。

動けば正体がばれるのだから。

だが、前者が問題だった。

「銀自体…?」

「くあっ…お休み…」

これ以上追及をさせるわけにはいかない。

だから、アルシェムはさっさと食器を片づけて部屋に戻ることにした。

「お、お休み…」

その言葉を尻目に、部屋へと戻ったアルシェム。

犯人の筆頭候補に挙がった人物の動機を探るべく、まずは金回りを調べることにした。

ハッキングする先はIBC。

いずれ、ハッキングしなければならないと思っていた場所だ。

慎重に、それでも確実に情報を探る。

「…これは…」

その情報を、アルシェムは紙に印字した。

この情報さえあれば、証拠となる。

まだクロスベルでは違法ではないだけに、追い詰めやすい。

「…とっとと寝ろよこのリア充共が。」

そう、アルシェムはぼやいて。

そのまま眠りについた。




Q.コピー機ってどこにあったの?
A.作ったに決まってるじゃない。

では、また。

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