雪の軌跡 作:玻璃
もしかしたらここで一回止まるかもです。
予約投稿じゃ章立てできないので。
や、できるのかもですけどやり方を知らないので。
では、どうぞ。
アルシェムは、ルバーチェの気配を追っていた。
その場に静止したままで、だ。
「…見えねー位置にスタンバイする気だね。全く…」
読みが当たったのを理解して、ENIGMAを取り出した。
コールする番号は、リオのもの。
一応、今朝教えて貰っていたものだ。
「もしもし、リオ?ベルツ副司令にさ、今夜極秘で部隊を送って貰ってくれる?ってきーて…うん、ルバーチェの検挙だよ。ま、やらねーよりはマシだしね。…うん、りょーかい。」
通話が終わると同時に、ENIGMAが鳴った。
「はいアルシェム。あーロイド、どーだった?…え、泊まり?…分かった、すぐ向かうよ。」
どうやら、今日はマインツに泊まるらしい。
そりゃそうか、と自分を納得させてアルシェムは赤レンガ亭へと向かった。
「お待たせ。」
「いや、待ってはいないけど…早速、裏付けのまとめをしておこうか。」
「ん。」
ロイドが取った部屋へと向かうと、そこにあったのは…
「…5人部屋って普通ねーよね。」
「言うな…ここしか空いてなかったんだ…」
ベッドの数は、四つ。
誰かが床で寝る計算だ。
「ま、昔を思い出して床でもいーけどさ。」
「は…?」
「い、いやいや、ダメだろ!?」
「その話は後。とっとと裏付けを終わらせよーか。」
誤魔化して、有耶無耶にして。
後で、追及しにくくしておく。
「あ、ああ…」
「…で、ロイドの予想は?」
「ああ…やっぱり、犯人はルバーチェだと思う。狼型魔獣はルバーチェに操られてて…目的は、多分狼型魔獣を飼い慣らすこと、なんじゃないかな。」
ああ。
及第点ではあるが、満点でもない応え。
「成る程な…」
「一理あるぜ。」
それで、納得してしまうのか。
それで、納得出来てしまうのか。
「…ま、そんなもんかな。」
「アルの予想はどうなんですか?」
ティオは、少し違う答えを持っているようだが…
聞かせるわけにもいかない。
「ん?わたしのは疑問だらけだよ。聞かせるわけにもいかねー予想もあるし、まだ早い。」
「と、いうと…?」
「遊撃士の猿真似を抜け出すには、まず中身から。わたしに頼るんじゃなくてさ、皆が成長しねーと意味がねーんだよね。」
これでも反省したのだ。
エステルの二の轍は踏まない。
「つまり、答えを聞かせてくれる気はないのね?」
「ま、ロイドの予想で全てが納得出来るってんなら今はそれでいーよ。及第点くらいはあげられる。」
「でも、満点じゃないんだな?」
当たり前だ。
ルバーチェが、狼型魔獣を使って何をするのか。
そこまで読み切らなければ。
そして、操るためには薬が必要となる。
その薬は、どこから出たものなのか。
「ギリギリ及第点だからね。更にその先を見据えて行動出来りゃー満点なんだけどな。」
「先、か…」
その薬は、もしかしなくても…
だけど、今は考えない。
「今はそんな時間ねーし。何なら、腕慣らしに魔獣狩りにでも行く?」
「…それも良いかも知れないな。行動を起こすなら深夜だろうし…」
考えたくない。
「わたし、見張ってるよ。動き始めそーなら呼ぶし。」
「おい、ロイド。どこで腕慣らしすんだよ…?」
「鉱山だよ。させてくれるかは分からないけど、魔獣はいるはずだ。」
「…そうですね。」
少しだけ、1人になりたくて。
だから、別行動をすると暗に示した。
「んじゃ、また後で。」
「ああ。」
ロイド達の気配が消えて。
アルシェムは、赤レンガ亭の外でスタンバイしていた。
そこに…
「…ねー、狼…いや、神狼。町に入んなっつったでしょーが。怯えられたらどーすんの。」
『…問題はありません。今は出歩く人間の気配なぞありませんから。』
白い狼がやってきていた。
「…ふーん…喋れたんだ。」
『…ええ。』
発声器官はどこについているんだ。
「あ、そ。何で皆には偉そーにしてんのにわたしには違うの?」
軽い気持ちで聞いたのに。
『貴女様は、《銀の娘》でしょう。』
答えは、あまりにも重かった。
「…そっか。マジであんたはそーな訳か。」
『…はい。』
だから。
「わたしに従う必要はないよ。自由に生きて。そうなるつもりはないし、仮にそうなっても…わたしは従わせたりしないから。」
アルシェムは、突き放した。
『…そうですか…』
「…面倒だし。」
取ってつけたような理由も、本音に近い。
『…そ、そうですか…』
「…ん、動き始めたかな。」
動き出す気配を感じて、ENIGMAを取り出す。
「…お、繋がった。ロイドー、お客さんが動き始めたよ。お誂え向きに獲物も動きそーだし、早めにね。」
通話を終え、そのまま別のところへかける。
「あ、リオ?どーなってる…ん、分かった、代わって?…あ、ベルツ副司令ですか?特務支援課のアルシェム・シエルです。信じて下さってありがとーございます。そろそろスタンバイお願いします。こちらで追い込みますから。…宜しくお願いします。」
そこで、通話を終える。
『…人が来たので、行きます。』
「ん。」
ロイド達の気配を感じて、神狼はその場から消えた。
その直後に、ロイド達は現れた。
「…はい、今回の奴らの獲物は鉱員さん2人ね。怪我させねーよーに、動こーか。」
「ああ。」
「分かったわ。」
「おう。」
「了解です。」
四者四様の答えを返して。
全員、スタンバイを終えた。
微かなランディの声に、身を固くするエリィ。
「…来やがったぜ。」
ロイドはトンファーを握り直して。
「ふわぁぁあ、今日も疲れたぜ…」
「仕事終わりの酒は最高だな!」
ティオは、ENIGMAを駆動させ始めた。
「おい、何か聞こえなかったか…?」
「気のせいじゃないか?」
その瞬間。
「…って、うわぁぁぁぁ!?」
狼型魔獣が、鉱員に襲い掛かった。
「エリィ!」
「食らいなさい!」
アルシェムの言葉に、咄嗟に反応出来たエリィが銃撃して怯ませる。
「…え?」
「もう大丈夫ですから、赤レンガ亭に入ってて下さい!」
呆ける鉱員を叱咤したのは、ティオだった。
「わ、分かった!」
「ひ、ひぃぃぃ…」
避難完了を確認して…
「さあ、懲らしめるぞ!」
ロイドは、言葉で全員を鼓舞した。
「おう!喰らいやがれ!」
「…アクアブリード!」
駆動したENIGMAからティオがアーツで狙い撃つ。
「逃がさないわよ!」
エリィも、負けじと銃撃している。
そんな中で…
「頑張れー。」
アルシェムは、何もしていなかった。
「手伝えよアル!?」
する必要がなかったのに、ランディのせいで狼型魔獣が寄ってきてしまった。
「え、分かった。おーらおらおら、おいでー。」
「ふざけてないで、ちゃんとやってよ!?」
面倒だ。
「やってるよ。」
その言葉と共に、狼型魔獣を蹴り飛ばす。
「うわ…」
「流石です、アル。」
町の入り口付近にいるはずのルバーチェが腰を落ち着けるのと。
そのルバーチェに気付かれないように警備隊がスタンバイを終えたのを確認して。
「…来た来た。」
「え?」
「…おふざけは、ここまでだよ?」
一気に、アルシェムは殺気を放出した。
「…っ、何てことやってやがる…!?」
ランディのぼやきも聞かず、狼型魔獣は逃走した。
「逃げたぞ!?」
「追おう!」
逃がす方向は決まっている。
町を出て、少し離れた窪地で。
「…いた。」
「ルバーチェ…!」
その声に気付いたルバーチェの構成員が、大仰に驚いた。
「な、警察の小僧共っ!?」
その手に握られた笛に、見覚えがあって。
「その笛は…まさか、ね。」
「クロスベル警察、特務支援課だ!大人しく投降しろ!」
その笛は、アルシェムが持っているものと…
「…ふふ…」
「ふはは…」
嗤う構成員に思考を中断された。
「何がおかしいんだよ?」
「…やれ!」
だが、既に彼らはアルシェムの手のうちなのだ。
「いやー、お馬鹿さんだね。」
「…何?」
「あ、おーい、ベルツ副司令!ここだよー!」
大げさに呼べば、構成員は動揺した。
「な、何だと!?」
「くっ…蹴散らせ!」
極め付けには、遠吠え。
「…ったく、過保護すぎねー?」
「あ、あれは…!」
「神狼!?」
来なくても良かったのに、手伝ってはくれるようだ。
同時に、見知った気配を2つほど見つけた。
「あー、抵抗しよーとしても無駄だからね。あんまりやりすぎると、マクレイン氏が出て来ちゃうよ?」
「で、出任せだ!」
「おーいマクレイン氏、出歯亀やめて降りてきたらー?」
まあ、降りては来ないだろうが。
「な、何っ!?」
動揺して、戦うことすらままならない構成員を、警備隊は取り囲んでいる。
「ベルツ副司令、確保しちゃって下せーね。」
だから、捕獲させるのだ。
「分かってるわよ。」
その一言で、全てが解決した。
「…な、何か…」
「アルにしてやられたわね…」
失礼な。
「あんた達の詰めが甘過ぎんの。反省してよ?」
ここで警備隊を呼んでいなければ、最悪死んでいたというのに。
暢気すぎやしないだろうか。
「まあ、否定は出来ねぇな…」
「…で、アル。マクレイン氏はいらっしゃるんですか?」
ティオの問いに、もう一度気配を探るが…
「ん、帰っちゃった。」
もう、いないようだ。
どちらも…
「…いたんですね…」
「暇ならシズクさんのお見舞い行きゃーいーのにねー?」
「全くです…」
ルバーチェの処遇は、軽いモノだった。
釈然としないまま、クロスベル市に戻った。
「あれ、課長?」
「よう、お疲れ。」
セルゲイが外でタバコをふかしていた。
「どうして外に…?」
アルシェムは、珍しい光景に、有り得ないものが混じりこんでいることに気付いた。
「…何でいるかな。」
「え…?」
「お客さんだぞ。ふてぶてしい感じの。」
自由に生きてくれれば良かったのに。
「ま、まさか…」
ビルの中になだれ込めば、そこには神狼がいた。
「…わふっ。」
「マジかよ!?」
どう見ても幻覚ではない。
「…あなた、どうしたの?」
「わふっ…わふっ、わふっ…」
ティオが神狼に話しかけて、彼がそれに答える。
「ティオ、彼は何て…?」
「…何となく見守りたくなったから見守ってやる、だそうです。」
「何で上から!?」
そりゃあ、偉いですから。
「わふっ…」
「後、名前はツァイト、だそうです。」
「ね、寝やがった…」
「図太いわね…」
その後、神狼改めツァイトは特務支援課の警察犬と相成った。
無茶があるとは思わなかったんだろうか。
そんな、どこぞのレキさんみたいなことがまかり通るってクロスベルおかしい。
どう見ても狼さんじゃないですかやだー。
では、また。