雪の軌跡   作:玻璃

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満を持して、あの人たちが登場です。

では、どうぞ。


若手のホープ。

バス停には、バスを待つ沢山の人がいた。

「…何か混んでるな…」

暫く待ってみるが、バスは来ない。

ということは…

「…バス、来ないわね…」

「…どこかで止まってるのかも知れませんね。」

トラブル、なんだろうなあ。

「兎に角、市庁舎に連絡してみるよ。」

「…可能性としては、魔獣か…それか、エンジントラブルか、かな。」

エンジントラブルならまだ良いが…

魔獣だった場合が面倒だ。

「…はい、兎に角様子を見てきます。」

「どうだった?ロイド。」

「聖ウルスラ医科大学はもう出てるらしいから、様子を見に行こう。」

どっちかは流石に分からない、と。

「…また徒歩なのね…」

「エリィ、体力付けねーと。遊撃士の猿真似やるなら、徹底的にやんねーとね。」

そうしなければ、いつまでたっても警察は無能なままだ。

「え…?」

「…兎に角、行きましょう。」

魔獣が、狩られていく。

アルシェムの持つ導力銃から吐き出される弾丸は…

街道の端まで魔獣を狩りつくしていた。

「相変わらず、容赦ねぇな…」

「ここまで念入りにやらねーまでも、魔獣狩りは市民の安全に繋がるんじゃねーの?」

「そうかも知れないな…」

いや、実際そうだから。

絶滅はさせられないが、それでも数は減らしておかなければならない。

そうでなければ、異常が分からないから。

「にしてもアル。導力銃って、そんなに音がしませんでしたか…?」

「改造済みだからねー。」

「…全く。…あ、この先にバスが止まっ…」

ティオの声が、止まる。

その直前に、アルシェムも気づいていた。

魔獣の気配と、多数の人間の気配。

「どうしたの、ティオちゃん?」

「…ティオ、案内頼んだよ。先行するから。」

「分かりました。」

アルシェムは、バスに向かって駆け出した。

程なくして辿り着くが…

「何でこー、毎回毎回跳躍力を試されるかな!?」

大型魔獣が、バスを取り囲んでいた。

魔獣を飛び越え、バスの前へと着地する。

まあ、すり抜けても良かったのだが。

時間の無駄だ。

「クロスベル警察、特務支援課です!皆さん、絶対にバスから出ないで下さいね!もーすぐ援軍も来ますから!」

「あ、ああ…」

棒術具を取り出し、攻撃を始める。

この場合だと、導力銃では火力不足だ。

「シュトゥルムランツァー!」

魔獣を弾き飛ばし、後は寄せ付けないように導力銃で威嚇する。

援軍は来るのだから、倒しきる必要はない。

ほら…

「おおっ!」

ランディが、魔獣をひき潰した。

バスから出さなくて正解か。

「ナイス、ランディ!えー、バスの中の皆さん!魔獣を狩りますんで、あんまり綺麗なものでもねーですし…顔逸らすかあるならカーテン閉めちゃって下せーね!」

カーテンが一気に閉められた。

病院に行くのにトラウマを植え付けてもまずいから言ったのだが。

そんなにグロか…

いや、グロかったか。

主にランディのせいで。

「行くわよ…!」

「せいっ、はっ!」

「お、やっと発動か。フレアバタフライ!」

次々と倒される魔獣。だが、まだ違和感は拭いきれない。

「うーん…なーんだかなー…」

魔獣を倒しきっても…

気配が、まだ消えていない。

「や、やっと終わったわね…」

「ああ…」

「もーちょい、体力つけよーか…?」

近寄っては来ないと思っていたのに。

別の気配と共に、魔獣が迫ってくる。

「アル、最初からは無理ですよ。」

「皆さん、ご無事ですか?」

「ああ、大丈夫だ。」

ならば、良い。

「…ロイド。エリィと一緒にそのままバスの入り口を封鎖。その場所守ってて。カーテンは開けさせねーでよ?」

「え…」

「ティオ、ランディ、取りこぼしたら頼むよ?」

流石に、この2人は分かっていた。

「分かりました。」

絶対に、取り逃がさない。

誰が来ているのかも、理解している。

だけど、それでも。

それでも、アルシェムは双剣を抜いた。

「おいおい…マジかよ!?」

「マジだよ。全く…早めにケリ付けたかったのになー…」

浅く、深呼吸をして。

 

「皆。見ねーでよ?」

 

その、言葉と共に。

 

「…雪月華。」

 

首を全て落とした。

「…ふー…」

 

セピスを残して砕け散る魔獣。

その奥から…

 

「あたしのとっておき、見せてあげる!はああああああっ…奥義、太極輪!」

 

エステルが、駆けて来る。

というか、ぐるんぐるん回りながら飛び込んでくる。

「って待って待って!こらエステル!?」

危ないから。

飛び退いて双剣を仕舞う。

そこに、別の双剣が突きつけられた。

その双剣の持ち主は…

「…あのさ。今のこの状況、言い逃れ出来ねーって分かっててやってる?ヨシュア。」

「動かないで、アル。」

「聞きたいことがあるだけだから。」

それが他人にモノを聞く態度か。

だから、アルシェムはその包囲を抜けることにした。

「…ロイドー。公務執行妨害でこの遊撃士2人逮捕していー?」

そんな言葉を吐いて。

動揺を誘いながら…

「え…」

「公務って何よ!?」

そのまま、包囲を抜けた。

そして、何事もなかったかのようにバスを見る。

「あ、バスやっぱ故障してる。見てもいーですか、運転手さん。」

「ああ…良いけど、分かるのか?」

「ツァイスに留学したことありますからね。」

「是非お願いするよ!」

変わり身早っ。

「ふむふむ…あ、ここだ。良かった、オーバルエンジン取り替えなくても、これならすぐ直りますよ。」

そこで、エステルが現実に帰ってきたようだ。

「…って、ちょっとアル!?」

「ロイド、そちらリベールから帝国経由でクロスベルに来たB級遊撃士、エステル・ブライトとヨシュア・ブライト。自己紹介しといたら?」

そう、機先を制して。

兎に角、ロイド達に自己紹介を促す。

その間に、アルシェムはバスを直した。

「うっし、直った。」

丁度、ティオが自己紹介を終えたところで。

「宜しくね!じゃなくて…何でティオちゃん!?」

「こちらとしては、何故エステルさんにヨシュアさんがいらっしゃるのか分からないんですが。」

エステル達は、ティオにジト目で見られる羽目になった。

「それは…」

「…あの子のためですか?」

「…そうよ。」

やはり、レンのためにここまで来たのだ。

だけど。

だけど、エステルに受け止めきれるとは思えない。

それでも…

レンを、平和な世界に送り出すべきなのだろうか。

「君は、どうしてクロスベルに?」

「魔導杖のテストのためです。」

「魔導杖って…あの?」

「ええ。」

そこまで聞いて、アルシェムは運転手に話しかけた。

「運転手さん、エンジン点けてみて。」

それに従って、運転手はエンジンを着けた。

まあ、当然かかるわけで。

「お、かかった!ありがとう!」

「当然のことをしたまでですから、お気遣いなく。気を付けて下さいねー。」

そう言えば、発車してくれるだろう。

案の定、バスは走っていった。

「い、行っちゃった…」

エリィ。

逆方向だから。

「それで…アル。何でクロスベルにいるの?もしかして…」

「エステル達がクロスベルに来たのと同じだよ。半分はね。」

半分は、レンのため。

レンの両親をしばき倒そうとも思っていたが…

やはり、アルシェムにはその資格がない。

「も、もう半分は何なのよ。」

「秘密。」

「教えなさいよ、水臭いわね~…」

もう半分は、エステル達には教えられない。

教えたところで、邪魔をされても困るから。

「エステル達、行き先は?」

「話を逸らさないの!」

逸らすしかないからね。

「こっちは仕事中なの。時間を無駄には出来ねーから。」

「…聖ウルスラ医科大学よ。」

うわーお。

「じゃ、一緒だ。遊撃士の猿真似に本職の手際、見せてやってよ。ロイドもそれでいー?」

「あ、ああ…」

「分かったわよ…」

特務支援課と、エステル達は並んで歩き始めた。

「で、アル。もう半分は?」

街道を歩き始めたアルシェムに、誤魔化されなかったヨシュアが笑顔でそう問いかけた。

ちっ。

「個人的なことだよ。それより、結婚式の写真ねーの?」

だから、精一杯話を逸らし続ける。

まあ、魔獣を狩りながら、だが。

「だから、話を…」

「ヨシュア、女装は楽しかった?」

「あ、あれ、アルの仕業だったの!?勘弁してよもう!?」

よし、乗った。

「え、やだ。」

乗ってくれたついでに話をそのままそらし続けよう。

面倒だから。

「アル…?」

「威圧しても無駄だって。女装が似合うのはカリン姉にそっくりってことなんだし。」

手は止まらない。

エステルも、ヨシュアもだ。

「…す、凄い…」

「会話してるのに、魔獣が狩られてくぜ…」

「これが、遊撃士なのね…」

いいえ、違います。

「エリィ、エステル達は普通の埒外だから。マクレイン氏くらい別格だから。」

「アル、それは流石にないんじゃないかな…?」

「流石にアリオスさんには適わないわよ?」

ハモるなそこの夫婦。

「単体ならね。コンビならまー負けねーでしょー。勝ちもしねーだろーけど。」

「負けるつもりはないわよ!」

「負けるつもりはないけどね…」

「ハモるな黙れ早く結婚してしまえこのリア充夫婦が。」

最早結婚を前提に結婚してしまえ。

「あぅ…か、カリン義姉さんみたいなこと言わないでよね!?」

「ヨシュアもとっとと手込めにしてしまえばいーのに。」

「レーヴェみたいなこと言わないでよ!?」

そんなことを言っているのか、レオンハルト。

そうこうしているうちに、聖ウルスラ医科大学に到着した。

「じゃ、じゃあまた…」

「何かあれば、協力するわよ。」

「ありがとう。」

エステル達は、何かの調査をするためだろうが去っていった。

「さて、まずは受付に行こうか。知り合いがいるから、案内して貰おう。」

「おい、ロイド。」

「な、何だよランディ。」

気配がおどろおどろしい。

落ち着け。

「知り合いって…もしかしてナースか!?」

「うん、そうだけど…」

…待てよ?

「…美人か?」

「ま、まあ美人だとは思うけど…」

ロイドの知り合いでナースといえば…

「くぅ~、なんて羨ましい!紹介してくれ!」

「ええ!?」

まさか。

特務支援課の面々は、受付へと向かった。

「あの、済みません。」

「はい、どうかされましたか?」

「こちらにセシル・ノイエスという看護師がいるはずなんですが。」

やっぱり。

「え、えっと…どちらさまでしょうか?」

受付の人が困惑している。

「ロイド、その聞き方だと怪しーよ逆に…」

「…ロイド?本当にロイドなの…?」

プルプル震えたセシルは…

「え…せ、セシル姉!?」

あろうことか、ロイドに抱き着いた。

「本当に、久し振りね…!」

「せ、セシル姉…皆見てるし、恥ずかしいから止めてくれ…!」

「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおっ、代われロイド!今すぐにっ!」

世の中の男の言葉の代弁者がそこにいた。

「ランディは落ち着こーか…」

ロイドはセシルに事情を説明した。

「…そう、分かったわ。看護師長に話を通してくるから、ちょっと待っててね?」

「ああ。」

セシルが去る。

「…ぐらまーです…」

「負けたわ…」

「喧嘩売ってる?エリィ。」

と、女性陣。

勝てるかあんなもの。

「売ってないわよ!?」

「病院だから、静かにな…」

「くそう…羨ましい…羨ましすぎるぜロイド…!」

と、ここに負のオーラを発している男が1人。

「ら、ランディ…」

「セシルさんとはどんな関係なんだよ、ロイド…」

落ち着け。

「どんなって…兄貴の婚約者だった人だよ。」

「あ…」

「…苦労しただろーな、セシルさん…」

なんせ、あのガイの婚約者だ。

生半な覚悟では務まらなかったに違いない。

「え?」

「や、ロイドの兄貴だったら人誑しだろーから。」

「い、いやいやいや、どんな想像だよ!?否定はしないけど!」

しないのかよ。

「え、人誑しでお人好しで熱血漢で直感に優れたヤバい奴?」

「最後で台無しじゃねぇか…」

そんな会話をしているうちに、セシルが戻ってきた。

速いなセシル。

「ロイド、許可が取れたわよ。仕事中だけど、兎に角リットンさんのところに案内するわ。」

その場所から移動し、病室を覗き込んだところで…

「…っ!」

アルシェムは硬直した。

何故。

何故。

何故…!?

「あ、アル?どうしたんですか…?」

ティオの声で、その堂々巡りからは解放された。

しかし、顔を合わせるわけにはいかない。

「…ロイド、手分けしよー。」

「アル?別に良いけど…いきなりどうしたんだ?」

ニアミスは笑えない…!

「気になることがあって…現場は屋上でしたよね、セシルさん?」

「ええ、そうよ。」

「じゃー、上がってるね。」

屋上へと移動する。

「…何で…何で、雲隠れしてるはずの奴が病院の先生なんかやってんの…!?」

何故。

会いたくもないのに、会ってしまう。

探す手間は省けたが…

出来れば、会いたくはなかった。

命を散らす、最後まで。




長くしてみた。

では、また。

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