雪の軌跡 作:玻璃
何て怖い響き…
では、どうぞ。
4人はそのままロレントに入り、市長に
「おお!取り返してくれたか!」
「はい。今後とも気を付けて下さいね。」
「分かっておるとも。」
クラウス市長は暗証番号を変えた上で金庫の中に
「では、わたし達はこれでしつれーしますね。」
「うむ。」
その足で
エステル達が報告すると、アイナは慰めてくれた。
「大変だったわね。まさか空賊が現れるなんて…逃がしてしまったのも無理ないわ。」
取り敢えず報告に口を挟めなかったので付け加えておく。
「先に言っておきます。…エンジンは旧式…最大時速推定2000セルジュ。機体名は不明…ただし、ラインフォルト社製と推測。ジョゼット・カプアにキール・カプア。あとはドルン・カプアが持ち主と推測できます。それ以外は特に分かりませんでした。…わたしが、さっさと取り押さえてりゃ良かったんですけどね…」
この情報を元に、メルに調べてもらおう。
「いや、今回はあたしのミスだわ。もっと用心して然るべきだった。まだまだ先生の域には遠いわね…」
「シェラ姉達の責任じゃないってば。頭に血が上ってたあたしのせいだと思う…」
「…僕も迂闊でした。」
責任の擦り付け合いならぬ引き受け合いをしているようだ…
「いや、あんた達は良くやったわ。手掛かりも残したし、現場検証も完璧だったしね。アイナ…推薦しても良いんじゃない?」
「そうね、私もそう思います。」
…!
待て。
それで良いのか
「推薦?」
「いーんですか?けっこー無茶苦茶やりましたよ?」
わざと攫われてみたりとか。
「ええ。これを受け取ってちょうだい。」
…良いのか…
正遊撃士資格の推薦状を貰った。
「こ、これって…」
「正遊撃士になるための第一歩よ。王国の全ての地方支部で推薦を受ければ、正遊撃士になれるの。」
そりゃ知ってるけれども。
流石にアルシェムにはくれないと思っていた。
実際にかなりの無茶をしたのだが…
それは考慮しないようだ。
「い、良いの?貰っちゃって…」
「それなりの実績を上げる必要があるんじゃないですか?」
「代理の仕事に今回の活躍。アルシェムは…まあ、有り得ないくらい依頼を達成してくれたしね…正直言うと、正遊撃士顔負けだわ。…あくまでロレントで、だけど。ロレントでの最終実績は、3人とも8級よ。1級目指して頑張ってね。」
そりゃどうも。
「あとボース、ルーアン、ツァイスにグランセルもあるんだし、まだまだ道程は長いわよ~。」
正直言って、アルシェムが一番推薦状を貰いにくいのはツァイスだろう。
何せ、前科がある。
…1日で4種類の手配魔獣を20匹倒してみたりとか。
ぶっちゃけ、無茶苦茶やっていたので貰えるかどうかすら怪しい支部である。
「でもでも、すっごく嬉しい!一生懸命やった甲斐があったわ!ねぇヨシュア、こうなったら他の地方にも行くっきゃないよね!」
「はは、言うと思った。賛成だけど、僕達だけじゃ決められないよ。父さんが帰ったら相談してみよう?」
…カシウスか。
戻っては来ないだろう。
もう帝国には立った筈だけど…
「うん!…あ、そう言えばアル、いくつ依頼達成したの?」
「えー…あ、そーいえばアイナさん、エリーズ街道の手配まじゅー倒しましたからね。」
「ありがとう。」
その時、通信機が鳴った。
アイナが通話し始める。
「あら…はい、こちら遊撃士協会、リベール王国ロレント支部です。あら、ご無沙汰しております……本当ですか?そ、それは…大変なことになりましたね。」
「?何かあったのかな?」
「…そうみたいだね。」
「ええ、確かに先日から出張に…」
アイナの顔がどんどん険しくなっていき、そして…
「…何ですってっ!?」
唐突に叫んだ。
「…し、失礼しました。俄には信じられませんが…ええ、家族には私から伝えます。…大丈夫です、本人達も遊撃士ですから。…はい、そちらにも伝えます。はい…何か判ったら宜しくお願いします。」
家族…
で、遊撃士か。
ということは、アルシェム達のことだろう。
つまり…
カシウスに何かあった?
アイナが通信機を切る。
すかさず聞いてみた。
「…カシウスさんに何があったんです?」
「え!?」
ちょっと考えれば分かることでしょうが。
「ロレントから出張に出てる遊撃士で家族が遊撃士なんて、うちしかありえねーでしょーが。」
アイナが、ゆっくりと話し始める。
「…定期飛行船リンデ号がボースで消息を絶ったの。」
「ええっ!?」
ボース…
まさか、ね。
「まだ詳細は判らないけど、軍が大規模な捜索をしているそうよ。そのせいで他の定期船も運航を見合わせているらしいわ。」
見つからないってことは事故ではない。
事件か…
「成程、それで…」
「…皆、気をしっかり持ってちょうだい。…リンデ号に、カシウスさんが乗っていたらしいの。」
有り得ない。
絶対に有り得ない。
どれくらい有り得ないかっていうと…
何の前触れもなしに妖精が降って来たり。
短剣を投げつけたら魔女の最後の力で世界が救われたり。
太陽が黒くなって世界を滅ぼそうとしたり。
音楽だけで世界を救えるくらい有り得ない。
「…え。」
「まさか…!」
「う、嘘でしょ!?」
「乗客名簿に名前があったらしいの。リベール遊撃士協会、ロレント支部所属、正遊撃士カシウス・ブライト45歳って…」
まあ、万万が一ということもあるが。
「…手違いか、それとも…乗客名簿から外れないほーほーで降りたか…あ、他にも巻き込まれた人がいたりする?」
「え、ええ…アルシェム、悪いんだけど七耀教会からシスター・メルを呼んできてもらえる?シェラザードはエステルを家まで送ってあげて。今日は上がりで良いから。」
「りょーかいです。」
「分かったわ。」
…ということは、リオか…
すぐに七耀教会に向かう。
「しつれーします。メルせんせーいますか?」
丁度すぐそこにいたのでメルを捕まえる。
「どうかしましたか?し…アルシェム。」
「教区長、ちょっと
七耀教会を飛び出し、メルを
「どうかなさったんですか?アイナさん。」
「気をしっかり持って下さいね。…親戚のシスター・リオ・オフティシアさんがリンデ号と一緒に行方不明になったそうです。」
やっぱり。
これを機に姿をくらませて帝国に渡ったって方がしっくり来る。
というか、親戚設定だったのか…
まあ、その方が情報は入って来やすいと思ったんだろう。
「…そうですか…分かりました。リオが…本部に、連絡しておきます。…失礼します…」
ショックを受けている風だったが、多分メルも分かっているだろう。
「…アルシェム、あなたも上がってくれて良いわ。」
「分かりました、しつれーします。」
怪しまれないようにメルを七耀教会まで送る。
「…有り得ませんね。」
「そーね。…行方不明は、つごーがいー。必ず無事だし、恐らくもーリベールにはいねー。…わたし達も動く時期だね。…従騎士メル、ルーアンへ転属を命じる。今後もヒーナと連絡を取り合ったうえで情報を集めること。調査報告はルーアンにて聞くよ。」
「…御意。」
そして、メルは七耀教会に。
アルシェムはブライト家に帰って行った。
ちなみに、
定期船(約800セルジュ・80km/h)
山猫号(約2000セルジュ・200km/h)←空賊艇
です。
いやあ、早い早い。
まあ、もっとクレイジーなハヤブサ氏がいますけどね?
今回のネタ。
「何の前触れもなしに妖精が降って来たり。
短剣を投げつけたら魔女の最後の力で世界が救われたり。
太陽が黒くなって世界を滅ぼそうとしたり。
音楽だけで世界を救えるくらい有り得ない。」
きっと分かる人はいるはずと信じてる(笑)