雪の軌跡 作:玻璃
だって、少年ですもの。
では、どうぞ。
《トリニティ》では、恰好をつけたワジが待ち構えていた。
というかアッバス、いたのか。
「…へぇ、ロイドが来ると思ったんだけど?」
「か弱い女にアッチへ乗り込めってーの?」
「か弱い…?」
疑うのか。
まあ、か弱くはないかも知れないが。
「ティオ、あの人ひでーんだけど。」
「ワジさんに全面的に同意します。」
酷ぇ。
「えー…全くもー…で、ワジ。」
「何だい?」
「何で全面的に潰し合うのか教えてよ。」
「タダで教えるのも、ねぇ?」
…仕方がない。
ここは、ネタを公開するしか。
「…コビン氏の新しー渾名。」
「…へ?」
よし、喰いついた。
「ブラックアロー。」
「…は?」
「蒼き流星を経て…」
「え、何それ。」
ワジの口が震え始めて…
そして。
「最終的に千の護手に落ち着くー。」
「え、ちょっと待って、何その過程!?僕聞いてない!」
よし。
情報料は払い終えた。
「はい、これが対価ね。」
「詳しく教えるよ!」
生き生きしだしたワジに、ティオが冷たい目を向ける。
「…じとー。」
これで良いのか星杯騎士。
「…ハッ!?ご、ゴホン!あ、あれは…そうだな、5日前のことだ。アゼルが、サーベルバイパーの闇討ちを受けたんだ。」
「闇討ちってことは、姿は見てねーの?」
「ああ。」
…成程。
つまりは、偽装が可能だということか。
「…サーベルバイパーの闇討ちって分かったのは…多分、釘バ…いや、釘付き棍棒の傷跡っぽかったから?」
「そうだよ。」
ということは、今黒月との抗争が始まったから…
人員補強か。
それとも、相手に取り込ませないための強硬策か。
「んー…ね、ワジ。ルバーチェが訪ねてきたことは?」
「ああ…確か、1月くらい前だったかな。傘下に入らないかってね。勿論、断ったけどね。」
「へー…成る程?」
ということは、人員補強か。
知らないとはいえ、良いところに目をつける。
「分かったんですか?今ので。」
「あっち次第だよ。ありがとね、ワジ。結果はロイド次第だけどね。」
「君はちゃんと動かないのかい?《氷刹》。」
揶揄するように、ワジが言ってくるけれど。
「止めてよ、その黒歴史掘り出すの。…渾名は1つで充分だから。」
「はいはい。」
そのまま、外へと出てロイドを待つことにした。
「…アル。もしかして、ルバーチェに対抗する組織が出来たんですか?」
「黒月が湾岸区に来てるよ。因みに、東方人系のマフィアね。」
「…じゃあ…もしかして、人員増強…?でも、どうして…」
「それはあっち次第だよ。遅いね、ロイド。」
まだ出てくる気配がない。
全く。
あれがガイの弟だとは。
「…黒月に入れさせないため…は、違いますね…回りくど過ぎますし…ワジさんとヴァルドを一緒に取り込めない…」
「取り込めるわけねーじゃねーの。ヴァルドは兎も角…ワジは、ね。」
「勿論、ルバーチェはそれを知らないわけですよね。なら…うーん…」
そうティオが頭を悩ませているうちに、ロイドが戻ってきた。
何故か激しく運動をしたかのような格好で。
「あ、やっと来た。ロイド遅い。」
「済まない。模擬戦をやっていたからな…」
「…何やってんのさ…ん?」
そこで、情報通もとい、記者の気配がした。
気配からして、女。
ということは…
「どうかしたの?アル。」
「や…何でも。ロイド、そっちは?」
「ああ…多分、サーベルバイパーを襲ったのはテスタメンツのメンバーじゃない。」
うん。
それは分かったから。
「それだけ?」
「え…うん、他に何かあったか?」
「ふーん…じゃ、そこの人に頑張って貰おーかな。確か…リン記者?」
物陰で窺っていたグレイスが、飛び出してきた。
不審者だろうが。
「わわっ…気付くの早すぎじゃない?」
「カシウス・ブライトとかヨシュア・ブライトとかならまだしも、素人の気配くらい追えるよ。」
「えっ、会ったことあるの!?そのあたり、詳しく教えて!」
ほっほーう。
「教えたら、不良達があそこまで対立してる…いや、させられてる要素の1つをロイド達に説明してくれる?」
「勿論!だから、早く教えて!」
目を輝かせる記者。
まあ、当然か。
「よっし、んじゃー教えるよ。わたし、こないだまでリベールにいたんだ。」
「えっ…じゃ、じゃあ、リベールの異変とか知ってるの!?」
「それは別料金ね。それで、一時期ヨシュア達と一緒に行動してたんだ。」
教えてたまるか。
流石に、国家機密になるだろうし。
「そうなんだ。それで、カシウスさんとかヨシュア君ってどんな人なの?」
「カシウスさんは…そーだね、不良中年の皮を被った英雄だよ。若干親バカではあるけど、ぶっちゃけそれ以外に欠点が見つからねー人。ヨシュアは、カシウスの娘エステルを一番に考えてるエステル至上主義者。腕は確かだけど、エステルに関わると結構見境がなくなるやべー奴だ。」
割と本気で。
「ふんふん。」
それだけでは足りないか。
なら…
「…そーだ、これは特ダネじゃねーの?今度、エステルとヨシュアがクロスベル支部に来るんだってさ。」
「…えええ!?絶対独占インタビューしないと!」
後は、もう1つくらい餌を放っておくか。
「あー、あと…ヨシュアに女装させるとおもしれー事になるよ。」
「ふ、ふふふ…ありがとう!いや~、楽しい記事が書けそうねっ!じゃ…」
「ロイド達に説明して行ってね。」
こらこら、情報をただ取りするな。
「分かったわ!じゃあ、龍老飯店で待ってるわね!」
「…嵐みたいな人だな…」
最早嵐だろう。
「否定は出来ないわね…兎に角、行きましょうか。」
「わたしは分かってるからパス。他の証拠でも集めてるよ。話が終わったら連絡頂戴?」
手分けして終わらせるのが一番早い。
まあ、まだ気づいていないというのもあるのだろうが。
「ああ、分かった。…ティオはどうする?」
「一応、聞きに行きます。」
「分かった。んじゃ、また後で。」
気配を消し、ルバーチェの配下に張り付く。
まあ、すぐに証言は得られるだろう。
「…全く、面倒だぜ…」
「ああ。だが、やるしかない…!ヤツら、ルートを崩しにかかってやがるからな…!」
とか、言ってるし。
そのまま撤退して、百貨店の前まで来るとENIGMAが鳴った。
「あ、はいアルシェム・シエル。…あー、ロイド。どーだった?うん…うん、分かった。すぐに戻るよ。」
やっと気付いたのか。
そう思ったアルシェムは、支援課ビルへと戻った。
ヨシュア逃げてー。
まあ、無駄なんですけどねっ。
では、また。