雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
旧市街に入る直前に、アルシェムは気付いてしまった。
これ、笑えねえ。
「…わーお。」
「どうかしましたか、アル。」
「ティオ、突っ込みはナシで宜しく…」
「?はぁ…」
旧市街では、二種類の不良が喧嘩中だった。
赤いのがヴァルド率いるサーベルバイパー。
蒼いのが…
その、ワジ率いるテスタメンツ。
本気で何をしているんだか。
「はい、近所迷惑だから止めよーね。」
「何だとゴルァ!」
「邪魔しないで貰おうか…!」
いや、邪魔するから。
警察だから。
「クロスベル警察だ!ここでの喧嘩は市民の迷惑になるから、今すぐ止めるんだ!」
「…警察ぅ?」
「腰抜けの…?」
反応が悲しすぎる。
「やれやれ、信頼がないねぇ。」
「邪魔するなら、やっちまうぜ?」
え。
地味に、気は合うようだ。
何で喧嘩してるんだか。
「何で喧嘩してんのか教えてくれたら邪魔しねーかもよ?」
「てめぇにゃ関係ねぇだろうが!」
「そうだ…!腰抜けの警察は引っ込んでいて貰おうか…!」
一蹴かよ。
「…エリィ、当てちゃダメだよ。ランディも。ロイド、ティオ、頼むから程々にね。」
「そうね、怪我をさせては意味がないもの。」
「同じくだ。」
そうこうしているうちに、不良達が襲いかかってくる。
「うおおおっ!」
「うわ、軽ぃな…よっと。」
ランディが、蒼い方を投げて。
「な…!?」
「引っ込んでいろ…!」
「ロイド!」
「分かってる!せいっ!」
そして、ロイドが赤い方を投げた。
「あわわわわわ…ぎゃん!?」
「ナイス。そろそろさ、見てるだけじゃなくて止めたら?」
「…え?」
そこに、ヴァルドとワジがやってきた。
遅い。
「お前ら…勝手に何してる。」
「ヴァ、ヴァルドさん…」
「やれやれ、勝手に動くなって言っておいただろう?」
「ワジ…!」
おお、統制がとれている。
ワジを見たティオが、
「…アル。」
と突っ込みを入れたそうにしているが。
ダメだ。
一応はアレでも潜入中なんだし。
「気持ちは分かるけど突っ込み禁止。」
「…はい。」
「準備がまだ出来てねぇのに突っ込むたぁ…バカか、お前らァ…」
お前は人のことが言えないほど短気でしょうが。
「で、でも…」
「全くだよ。これから潰し合う大事な時期なのに騒ぎを起こしちゃダメだろう?」
「す、済まんワジ。だけど…」
それに、こっちも…?
「わーお、潰し合う気満々じゃねーの。」
何故。
「アル…!」
「何だぁ?てめぇら…」
何故、今この時にこのグループが抗争を?
「ヴァルドさん、奴ら警察ですぜ!」
「クク…ぶははははっ!警察ぅ?腰抜けの?」
「腰は抜けてねーよ。新設の部署だから。」
一応、身分だけは伝えておく。
「ほぅ…」
「なら、君達が噂の特務支援課なわけだ。」
ニヤニヤ笑うな、ワジ。
「そうだけど…噂?」
「クロスベルタイムズね…」
「成る程。」
それ以外に、噂が立つ要素がない。
「君達には関係ないから消えてくれる?」
「同感だな。」
うわあ。
何コレ。
喧嘩するほど仲が良いってこのことですか。
「ふふ…気が合うじゃないか、ヴァルド。」
「抜かせ、ワジ…決着は着けるぞ。」
「ああ、お互い全力で潰し合おう。」
うわー。
青春してるよ。
「何で全力で潰し合うの?今後の参考までに教えてよ。」
「…行くぞ、お前ら。」
「ウィーッス。」
サーベルバイパーは倉庫の方に。
「行くよ?」
「Ja。」
テスタメンツはバーの方へと消えて行った。
「無視!?」
「…行きましょう、ロイド。」
エリィが、何も出来ることはないと思っていた。
だけど。
「いや…アル、どうして彼らはお互い全力で潰し合うんだと思う?」
ロイドは、そうは思っていない。
「予測はつくけど言わねー。」
「何でだよ!?」
「事情聴取に先入観を入れたくねーからね。」
それで、解決しようと思っているのだろうから。
「はは…分かってたか。」
「え、それってまさか…」
「直接聞きに行く気なの!?」
それ以外に方法はない。
まあ、これは口実でもあるけど。
「ああ。アル、どちらかを任せても良いかい?」
「お好きにどーぞ。」
「じゃあ、ランディを付けるから…」
「それは嫌だ。」
人選を考えろ。
いや、考えた結果なのか。
「ぐはっ…何でだよ!?」
「ただでさえむさ苦しー野郎共のところに行くのに、癒しがねーじゃん。」
「…アル。」
発狂したらどうしてくれる。
「酷ぇよ…」
「じゃ、じゃあ俺がヴァルドの方に行くから、ティオと行ってくれるか?」
「…それなら、いーかな。」
エリィをつけると言われたらいろいろ困ったが。
まあ、良いだろう。
「俺とティオすけにどんな違いが!?」
「決定的にちげーでしょーが。」
性別とか。
「と、兎に角行くなら行きましょう?」
「じゃあ、行こうか。また後で。」
そして、アルシェムはティオと一緒に《トリニティ》へと向かった。
ヴァルド氏とワジが本気でやり合ったら?
勝負にすらなりませんね。
では、また。