雪の軌跡   作:玻璃

157 / 269
海の日が近い!
でも海なんていかない!
近くないもの!

では、どうぞ。


だが断る。

遊撃士協会へと入ると、受付がニヤニヤしながらロイドに紙を手渡した。

「…特務支援課のリーダーってアナタなのよね?銀髪ショートじゃなくて。」

「あ、はい、そうですが。」

「じゃあこれ、誰にも相談せずにやって頂戴。すぐに済むわ。」

扱いが雑だ。

「は、はあ…」

それを、ロイドがやっている間に。

受付は、どうでも良いことを蒸し返してきた。

「…で、アナタ。アナタ、もしかしなくても《氷刹》よね?」

「何ですか、それ。おいしーんですか?」

美味しくはない。

なんせ人間だ。

「しらばっくれないで頂戴。アナタは、魔獣狩りの元凄腕遊撃士、《氷刹》アルシェム・ブライトでしょう?」

「まず、訂正。わたしは、アルシェム・ブライトじゃねーです。」

「え…?」

何故にそこで不思議そうな顔をする。

というか、何故情報が出回っている。

「わたしは、アルシェム・シエルです。」

「ああ、そう言えば籍から抜けたんだったわね。」

「…誰からきーたんですか。」

戦犯は誰だ。

「ツァイス支部からよ。リベールじゃあアナタ、有名人じゃないの。」

貴様か。

「え、アル…遊撃士だったの!?」

「はぁ。…あのバカ、いつか絞める。」

キリカ。

いつかコテンパンに伸してやる。

「え゛…」

それは兎も角、訂正の必要があるだろう。

「まず、わたしは遊撃士じゃありませんでしたよ。」

「え…?」

「あの時はまだ準遊撃士でしたし、ツァイス支部が絶賛したのは準遊撃士ですら無かった時期です。しかも、わたしが遊撃士だったって記録は一切ねーはずです。なのに、何故遊撃士として認識されてるんですか。」

「え?違うの?準遊撃士の時には最高ランクまで行ったのに?」

何でそんな情報まで出回っているんだか。

全く…

「え、そうだったの…!?」

「…意外です。」

…ティオ。

後でお話ししようか。

「もう、遊撃士になる気はありません。だから引き抜こーとしても無駄です。それに…」

「それに?」

「もーすぐ若手のホープが来るでしょー?あのイチャラブバカップルが。」

エステルとヨシュア。

クロスベルに来るなら、当然遊撃士として動くはずだ。

その方が、色々と都合が良いはずだから。

「…良く知ってるわね?」

「本人達から聞きましたから。もー、いーですか?」

とっとと帰りたい。

だから早く終わらせろロイド。

悩むな。

「まだよ。…ね、何で籍を抜けちゃったの?あのままいたら、ちゃんとカシウスさんに…」

「それが嫌だったんですよ。元々、資格がなかったんですから。」

カシウスに認められる?

そんなのはご免だ。

万が一にも有り得ない。

「資格って…」

「ロイド、終わった?」

だから、話をぶった切ってやる。

「あ、ああ…」

「…お、満点。やるじゃん、ロイド。」

「え、ホント?…ホントね。中々やるじゃない。」

いや、一応は捜査官資格持ってるから、ロイド。

「ど、どうも…」

「ま、でも…まだまだだけどね。これから、こっちの手が回らなかった依頼を回すかも知れないけど…頑張ってね。」

「りょ、了解です…」

そのまま遊撃士協会から出て、行政区へと急ぐことにした。

 

†八つ当たりされるメガロバット

遊撃士協会から出た特務支援課は、速足で行政区へと向かっていた。

「思ったよりも時間がかかったな…」

「早く市庁舎に行きましょう。」

市庁舎へとたどり着くと、何故か職員さんが驚いた顔をしていた。

「ありがとうございます。助かりました。まさか、本当にやって下さるなんて…」

それは。

まさか、『無能警察が』本当にやってくれるなんて…

ということだろう。

「いえ、それが仕事ですから。」

「いえ、本当に、ありがとうございました。」

端末に報告を上げる。

「報告、終わりです。」

「じゃあ、手配魔獣を退治しに行こうか。」

「そうね。気を引き締めていかないと。」

ジオフロントへと向かう。

今日は、アルシェムの得物は導力銃だ。

理由は簡単。

ストレスを発散したいから。

「全く…」

「アル、そんなに遊撃士は嫌だったのか?」

「嫌な訳じゃねーよ。ただ、居辛くなったから逃げ出して来ただけだし。」

続けるわけにもいかなかったが、本当は続けている方法だってあった。

ただ、怖かっただけで。

「そ、そうか…」

「それに、否が応でも向き合わなくちゃいけねーことがあるから。向き合うには、遊撃士じゃダメだった。」

向き合うには、星杯騎士でなくてはならなかった。

「…アル…」

「さーて、手配魔獣。覚悟しろ?イライラしてるから、消し炭にしてあげる。」

消し炭?

いや、穴だらけにしてやる。

「な、何か怖いです…」

「まあ、道中の魔獣はアルちゃんが穴だらけにしてるしな…」

「あー、街道出てー、魔獣狩りてー、あのバカぶん殴りてーっ!くっそ、次会ったら叩き潰してやるーっ!」

次に会った時、覚えていろよキリカ。

「叩き潰したらマズいよな!?」

「簡単に叩き潰せる奴じゃねーし。」

「そ、そうなのか?」

「全力全壊、一撃必滅!くれーの意気じゃねーとねー…無理。」

まあ、色々な意味で本気を出せば一瞬なのだろうが。

「それ、どれだけヤバい相手なんですか!?」

「え…そーだなー…二流の猟兵団を1人で再起不能まで全壊させられるレベル?」

流石に、《赤い星座》を1人で壊滅させられはしないと信じたい。

「一流じゃないんですか、そこ。」

「流石に無理だと信じたいよね。」

出来たら本気で全国指名手配してやりたい。

世界一危険な女として。

まあ、アリアンロードがいる時点でそれは無理なのだろうが。

一番奥へとたどり着くと、そこには大きな魔獣がいた。

「見つけた。はい、さくっと全滅させてあげるよー。…不破・弾丸!」

「うわ、酷え!?」

「ぜ、全弾命中です…」

いや、そういうクラフトだから。

「ふっふっふっふ…もいっちょ、不破・弾丸っ!」

「も、もう止めてあげて!?」

「…うん止める。終わったし。」

そこに残されたのは、魔獣が落としたセピスだけだった。

「うわぁ…」

「これは…」

「格が違いすぎるわね…」

どうも、食材は穴だらけにしてしまって使い物にならないようだ。

ひ弱すぎる。

「アルはこれが通常運転ですから。」

「皆してひでーよ!?」

「兎に角、上に戻りましょうか。」

地上へと戻ると、ロイドのENIGMAが鳴っていた。

「…ロイド、ENIGMA鳴ってるよ。」

「ああ…はい、こちらクロスベル警察特務支援課、ロイド・バニングスです。…ああ、課長。どうかし…喧嘩?分かりました、すぐに向かいます。」

喧嘩…

気配としては、旧市街と言ったところか。

「どうしたんだ、喧嘩って…」

「旧市街で不良同士が喧嘩しているらしい。すぐに向かおう。」

当たりか。

「分かったわ。」

そうして、特務支援課は旧市街へと向かった。




アルシェムが遊撃士に戻ることはあり得ません。
もう、遊撃士としての役目はとうの昔に終わっているのだから。

では、また。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。