雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
次の日。
特務支援課は、正式に活動を開始した。
「端末…いじりたいなー…」
「ダメです。アルがいじると別物になりますから。」
酷い。
まあ、事実だが。
「しょぼーん…」
「はは…」
「…来ていますね。支援要請…まずは、警察本部で補足説明を受けることになりそうです。」
「分かった。早速向かおうか。」
警察本部へと向かうと、受付にいたほんわかした女性が話しかけて来た。
「あ、お疲れ様です!本部受付、兼特務支援課の報告担当のフラン・シーカーです!」
「宜しくお願いします。」
そのまま説明を受ける。
まあ、何ということもない説明だ。
「ええっと…後は端末から報告して下さいね!お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした。」
支援課ビルへと戻り、言われた通り報告を済ませた。
「…っと、これで大丈夫ですね。」
ティオが後ろに向いた瞬間。
端末に、反応があった。
「あ、ティオ。何か来たみたいだよ?」
「…そうですね。これが支援要請でしょうか?ジオフロントの手配魔獣に、紛失物の捜索、不在住戸の確認…」
…遊撃士か。
思わず突っ込んだのは内緒だ。
「手分けして回ったほーがはやそーだけど…どーする?ロイド。」
「そうだな…今日は初日だから、一緒に回らないか?」
「何かあった時のために、依頼…じゃねーや、こーゆーのはとっとと済ませたほーがいーんじゃねーの?」
そうでなければ、すぐに対応が出来ない。
「ま、そんなにすぐには支援要請なんて来ないんじゃねぇの?」
「そうね。ゆっくりやりましょう?」
…暢気すぎる。
それで、特務支援課が務まるのか。
「…はいはい。」
まあ、無理だろうが。
出来る限り分業させて貰おう。
歓楽街へと向かい、ホテル《ミレニアム》へと入る。
そのまま部屋に直行する気かロイド。
まあ、良いけども。
「ああ、困ったなぁ…」
「ええっと、トロントさん、で宜しいですか?」
「ああ、うん、そうだけど…」
どう見ても、トロそうな人だ。
大丈夫か。
「紛失物の捜索願いを出されていませんか?」
「ああ!そうなんだよ~…湾岸区でふらふらしてて、その後に東通りでお土産を買って、百貨店で買い物をしようとしたら財布がなくて…それと、もう1つ何か落とした気がするんだけど…何だったかなぁ…」
「…観光に来てらっしゃる?」
「あ、うん、そうだけど。」
それなら、それに付随するものから思い出して貰う他ない。
「なら…パスポートとか、旅行券、その他なら…電車の乗車券とか…」
「それだぁ!共和国行きのチケット!」
ビンゴ、だ。
だが、それを落としてどうやって帰る気だったのだろうか。
「おいおい…」
「兎に角、探しに行かないと。お急ぎですか?」
「あ、うん。」
まあ、それはそうなのだろうが。
ロイドが手分けすることに反対しなければ良い。
「…素直に手分けしましょう。」
「うーん、じゃあ、湾岸区は俺とティオ、百貨店はエリィとランディ。東通りはアル、任せて良いかな?」
勿論だ。
とっとと見つけてしまおう。
「勿論。」
「じゃあ、解散。」
東通りへと向かうと、東方風の建物が立ち並んでいるのを見ることが出来る。
あまり、昔を思い出すから見たくもないのだが…
それでも、任されたからには仕方がない。
「お、可愛い風車。」
「へえ、興味あるのかい?」
その、どうみてもこの店にはなさそうなものに興味がありますよっと。
「や、見てるだけで楽しーんだけどねー…今は、他のにきょーみがあるんだ。」
「何だい?」
「ここらで惚けた旅行者の男性が、何か忘れ物してない?」
「あー、アレね。本人に渡しておいてよ。」
それで良いのか。
まあ、信頼されたのならば良しとしておこう。
「ありがとー。あ、お礼にってったらアレだけど、それ1個ちょーだい。」
「あいよ、100ミラね。」
「安っ!はい、じゃーね!」
情報料に、少しだけ上乗せしてその場から動く。
そして、ギルドの前を通り過ぎようとして…
「…じー。」
怪しい人物と目があった。
だが、これを検挙することは出来ない。
「…受付のヒト?怪しーからやらねーよーにね。」
流石に、何の罪もないであろう受付を逮捕するわけにもいかないのだから。
《ミレニアム》へと戻ると、まだ誰も戻ってきてはいなかった。
「…トロントさん、まずはお土産のお忘れ物です。」
「ああ、良かった!中々帰ってこないから…」
手際が悪くて済みませんね。
「ん、もう1つは見つかったみたいですよ?」
「え…」
「あら、アル…早かったわね?」
これが普通だ。
というよりも、鈍っている。
「そっちは財布?」
「ああ。」
「はい、どうぞ。」
財布は…
百貨店にあったのか。
すぐに出されただろうが…
時間がかかったのが気にかかる。
まあ、恐らくはエリィ関係だろうが。
「良かったぁ~…」
「だいじょーぶですよ。チケットもすぐに見つかりますから。」
そこに、ロイド達が戻ってきた。
遅い。
「済まない、遅くなった!」
「…見つかりました。」
「やぁ、これでやっと帰れるよ!ありがとう!」
それは良かった。
「もう落とさないようにして下さいね。」
「ああ、勿論だよ!」
著しく不安だが、まあ良しとしよう。
「お気を付けて。では、失礼します。」
《ミレニアム》の外へと出て、次の支援要請の場所を確認する。
「次は行政区ですね。」
「ああ。」
行政区へと向かい、市庁舎へと入る。
「済みません、クロスベル警察の者ですが。」
「あ、済みませんわざわざ…」
市の職員は、丁寧に概要を教えてくれた。
だが、如何せん場所が離れている。
「…手分けしようか。」
「そうね。どう割り振るの?」
「旧市街は俺とランディ。住宅街はエリィ達で行ってくれ。東通りは、一緒に行ってついでに遊撃士協会に挨拶しておこうか。」
「え、必要?それ…」
最早近づきたくないのだが。
「一応、同業者みたいなものだし…挨拶くらいはしておいた方が良いんじゃないかな。」
「…兎に角、行きましょう。」
住宅街へと向かう。
面倒なことはしたくないのだが、支援要請はとっとと終わらせる主義なのだ。
「…あそこ?空き家って。」
「あ、ええ。」
空き家、というか…
手入れされていないようでされているというか。
「ふーん…人の気配はねーけど、多分誰かの持ち家だよ。」
「どうして分かるの…?」
「だって、誰かが侵入してる形跡が少なすぎるし。定期的に見に来てる誰かがいるんだよ。」
多分、何かの保存場所。
取引に使っているにしては出入りが少なすぎるから。
「目が良いのね、アル。」
「ん…まーね。さ、東通りに行こっか?」
「はい。」
そして、東通りへと向かった。
「…結構、東方の情緒溢れてるんですね。」
「あ、来たことなかった?」
「ええ、まあ…」
あー、兎に角早く帰りたい。
「あら、来たみたいよ?」
「お待たせ。早いんだな?」
ロイド達が遅いのである。
手分けしろ、手分け。
「アルの手際が良いのよ。さ、行きましょ?」
「ああ…」
空き家だとされている建物に向かうと…
って。
どう見ても、釣公師団である。
クロスベル支部出来たのか。
「どーみても、空き家じゃねーな。間違ってんじゃねーの?あの住所。」
「かも、知れないな…確かめてくるから、エリィ達はあっちの隣を見て来てくれるか?」
「…有り得そうです。」
「行きましょう。」
逆隣りのアカシア荘へと向かう。
ああ。
やはり、こちらだ。
「済みません、こちらに空き家ってありますか?」
「あ、はい。一軒だけ…」
「…うん、確かに。ご協力、ありがとーございますね。」
「いえ…」
遊撃士協会前へと戻ると、ロイド達が待っていた。
だがロイド。
何故に釣竿。
「どうだった?」
「空き家があったのはアカシア荘だったわ。…はい、出来たわよ、書類。」
「ああ、ありがとう。」
とっとと帰りたいと思っていると、遊撃士協会の扉から受付が顔をのぞかせていた。
帰れ。
「ちょっと、良いかしら?」
「え…」
「あんた達ヒヨッコじゃないわよ。銀髪ショートのアナタ。」
うわあ。
気付かれてる。
「良くねーです。特務支援課を宜しく。」
「あら、やっぱり特務支援課なのね。ちょっとおいでなさい。」
そう言って、彼、もしくは彼女は特務支援課を遊撃士協会に引き込んだ。
帰れ。
では、また。