雪の軌跡   作:玻璃

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彼の名は…

では、どうぞ。


ただの暇人

ジオフロント、A区画。

その、一番奥の区画で。

「こ、こっち来るなぁ~…!」

と、怯える子供が1人。

目の前には魔獣の群れ。

何だか見たことのあるような状況だが、今はそんなことに構っている場合ではない。

「…エリィ、手伝って!」

「え…あ、ええ!」

銃撃で、魔獣の気を逸らす。

「…わたしがこのまま突破する!リュウは任せて!」

「了解っ!」

その答えを待たずに、アルシェムは群れを飛び越えた。

子供こと、リュウの前に陣取り、背後に庇うようにして銃を構える。

「ひゅう、やるねぇ!」

「リュウってったっけ。動かねーでよ?頼むから。」

動かれると、危なすぎる。

「あ、うん…」

幸い、ルックとは違って素直なようだ。

「あー…やっぱ、導力銃が性に合うのかなー?」

寄らないように牽制をしつつ、そうつぶやく。

「これで終わりだ!」

ロイドが、最後の魔獣を蹴散らした。

すると、子供達が目を輝かせてロイドに近寄ってくる。

「やったぁ!」

「やるじゃん、兄ちゃん達!もしかして新人さん!?」

その、新人が指すのは新米警察官ではない。

「え…」

「え、違うんですか?」

それが指すのは、遊撃士である。

少なくとも、ここクロスベルにおいては。

「…うわー、何てーか、クロスベルってやっぱ警察に信頼がねーよね。」

「え…」

「兄ちゃん達、腰抜けの警察なのか!?なのに何でこんなとこにいるんだよ!?」

これは酷い。

信頼が失墜しすぎだ。

「…その話は出てからにしよーか、リュウ、アンリ。」

「煩いなー、オバサン。」

アルシェムは、精神的なダメージを受けた。

まあ、間違いではないのだ。

オバサンどころか、お婆さんでもきかないのかもしれないが。

それよりも、上の方でずっと気配を窺っている暇人を何とか引きずり出したいのだが。

「リュ、リュウ!ごめんなさい、お姉さん…お姉さん?」

「…気に喰わねーな。」

「ふぇっ!?」

しまった、思わず口から出てしまった。

「あーごめん、こっちの話。暫くここは放置せざるを得なかったんだろうし、早く出ねーと魔獣がまたじゃんじゃんやってくるよ?」

「よし出よう!今すぐ出よう!」

よし、こうかは ばつぐんだ!

こんな場所、早く撤退…

「はは…」

「…現金です。」

出来なかった。

このまま出たら多分何人か死ぬ。

「と、思ったんだけどなー…ごめん、遅かったみてー。」

「え…?」

それに、ランディが気付いた。

流石《闘神の息子》。

「ち…下がれロイド!」

「…っ!?」

巨大なドローメが、落下してきた。

キモい。

「大きい…!」

驚く一同。

だが、アルシェムはどこまでも冷静だった。

「…ティオ、エーテルバスター禁止ね。」

「な、何でですか?」

「生き埋めにする気?」

ジオフロントを破壊されてしまえば、流石に死ぬだろう。

主に子供達が。

「…そうでしたね…」

「しゃーねーか。エリィ、ティオ、それに…ロイド。リュウとアンリ連れて下がってて。ランディは気を引いて。」

「そんな…!」

「勝率を下げてどうするんだ、アル…!」

邪魔だから退いていて欲しい。

「…行きますよ、ロイドさん、エリィさん。」

「ティオ!?」

「アルなら大丈夫です。多分朝飯前ですよ。何なら見えるところに下がります?」

ティオには、その意図が伝わったようだ。

「…それは…」

「で、何で俺が気を引く係なんだ?」

「観客にはわりーけど、長引かせる気はねーから一気に決める。行くよ、ランディ?」

まあ、ランディには何もさせないのだが。

アルシェムよりも先に一撃いれられるのならば、それでも良かった。

恐らくは、一撃で沈められるのだろうから。

「…おうとも!うおおおお…!」

「雪月華…!」

それは、アルシェムとしても同じで。

結局は、アルシェムが倒した。

爆砕する巨大ドローメ。

完全に消えてから…

「って、これ俺が気を引く意味あったのか!?一撃じゃねぇか!」

と、ランディから有り難いお説教を頂きました。

「や、そーでもしねーとランディは引いてくんねーでしょ。」

それに、頭上の奴に分からせなければならなかったから。

趣味が悪い。

だが、もう出て来る気のようだ。

そうこうしているうちに、彼が声を発した。

「…驚いたな。まさか、対処してしまうとは…」

「え…」

「あれは…」

A級遊撃士、アリオス・マクレイン。

《風の剣聖》なる異名を持つ変人だ。

まあ、どうでも良いが。

「…いーとこ取りする気マンマンだったでしょーが、《風の剣聖》さんや。」

「ふむ…お前達が力及ばなかった時のために待機していたのだが?」

それは、良いとこ取りという。

ハイエナでもないんだから、きっちりと依頼を受けて来てほしいものだ。

今回の場合は、こちらが優先だったのだから。

「…暇人?」

「何故そうなる…」

暇人以外の何物でもないだろう。

「あ、アリオスさんだぁ!」

子供達がアリオスにまとわりつく間に、ロイドがこっそり聞いてきた。

「…アル、知り合いなのか?」

「…ロイド、最早何であんたが知らねーのか分かんねー。」

「ええっ!?」

ガイの元同僚だぞ。

それすらも知らないのか。

「実質S級のA級遊撃士、《風の剣聖》アリオス・マクレイン氏だよ?」

「…あれが…!?」

そんなことを言っていると、何故か興味を持たれたようだ。

こっち見んな変態。

「ふむ…お前とは初対面な気がしないが…どこかで会ったか?」

「さー?クロスベルにはこないだからいるし、すれ違ってたかもね?」

「いや…どこか、不思議な場所で…どこだったか…」

はい、ごめんなさい。

《影の国》で首を思いっきり飛ばしました。

「や、流石に心当たりねーから。」

「…まあ良い。兎に角、出るぞ。」

「はい!」

ジオフロントの外へと出ると、いきなり写真を撮られた。

推測はしていたが、鬱陶しいことこの上ない。

「な、何だぁ?」

「いや~、良い画が撮れたわ!特務支援課、初仕事にしてA級遊撃士に惨敗!ってね~。」

惨敗はしてないから。

最早勝ったから。

「…もしかして、クロスベルタイムズの人かな?」

「おっ、知っててくれたの?クロスベルタイムズの記者、グレイス・リンよ。」

「どうも…」

そのままグレイスは、写真を撮りながら去っていった。

「何だか…」

「良いところを持って行かれちまったな…」

というよりも、最早人気の差だ。

こればかりは仕方がない。

「あれが、A級だってことだよ。プロと言えるかは別にして、ね。」

「え…?」

「と、兎に角、報告に行きましょう?」

その後、ロイド達は無事に報告を終えた。




ヒマデス・バカデイン。

原型すら残らなかったよ。

では、また。

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