雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
リオから目を離し、裏通りから百貨店の方へ抜けようとして…
「おっ、さっきの。」
セルゲイに呼び止められた。
これは、脈アリか?
「あれ、刑事さん?どーしたの、こんな所で。」
「いや、ちょっと見回りをな…どうかしたか、変な顔をして。」
「い、いや…その…ね?流石に美女が男を軽々投げ飛ばしてたら衝撃じゃねーですか?」
因みに、リオがオルランドのご子息を、である。
鈍っているのか、単に投げられただけなのか。
「…まさか、ソーニャのヤツ…」
「お知り合いなんですか?あの黒髪のヒト。」
そもそもソーニャって誰だ。
「…いや、別人だ。ソーニャは青だからな…」
「青…いヒトもいましたけど。何だか、黒髪のヒトを熱心に口説いてましたよ?」
「まさか、いや、そっちの気はなかったハズ…」
セルゲイが目に見えて動揺する。
いやあ、愉快だ。
「クロスベル警備隊に入らねーかって。」
「そっちか…驚かすなよ、全く。」
「あはは…」
どうも、副司令の名はソーニャ・ベルツというらしい。
そんなどうでも良いことを考えていると…
「そう言えば、あんたは何で今クロスベルに?」
と、何とも面白いことを言って下さった。
「ブフッ…あははは…!」
「な、何で笑う!?」
「あーいや、さっきの青い…じゃねーや、副司令ってヒトも同じこと言ってましたんで。」
「むぅ…」
似た者同士、なのだろう。
「いや、その…昔、帝国と共和国にいたことがあって。なら、クロスベルはどんな雰囲気なのかなって。」
「…ほう?てことは、気ままに一人旅か?保護者は?」
「…いねー。」
ついさっき分かったこと。
両親は、生きてなどいなかった。
「…済まん。」
「や、正確には、分からねーのかな?兎に角、各地を転々としながら暮らしてたんで。どっかにそろそろ根を下ろしても良かったんだけど…合わなかったんだよね、ちょっと前までいた場所じゃ。」
というか、きっとリベールにいたままだと大変なことになっていただろう。
「へぇ、どこから来たんだ?」
「リベールかな。」
「ほう?あそこは結構暮らしやすい場所じゃねぇか。少なくとも、クロスベルよりは綺麗だぜ?」
まあ、綺麗ではあるだろう。
だが、それだけだ。
あそこは、アルシェムの安住の地足りえない。
「平和すぎて、生温かったんだ。平和すぎると落ち着かねーんだよね。」
「…ほぅ。ならまぁ、クロスベルは中々刺激的だろうが…帝国も共和国もダメだったのか?」
「帝国は最近行ってねーけど、共和国なら行ったよ。でもねぇ…帝国も共和国も何かこー…何ていうの、歓迎されてねー感じがするんだよね。」
帝国では、追い出された。
共和国では、誘拐された。
どうも、ひとところに落ち着くことは出来ないのかも知れなかった。
「歓迎されてない、ねぇ。」
「だから、緩衝地帯のクロスベルならどーなのかなって。」
「成る程な…ふむ。」
セルゲイは、にやりと笑った。
この少女なら、もしかしたら素敵な人材足るのではないか、と。
「?どーかした?」
「クロスベルには、何でもかんでも来るもの拒めず、だからな。あんたには合うのかも知れねぇ。」
だが、年齢的にどうなのか。
彼女は…
一体、何歳だ?
セルゲイは、探るようにアルシェムを見る。
「へぇ、良いこと聞いた。ま、兎に角住居と仕事でも探すかなー。」
「…って待て、あんた、年齢は?」
そう、聞いてしまった。
女に年齢を聞くなんて、どうかしている。
「17は越えてるよ、多分ね。」
「へぇ…」
「童顔!とセルゲイ氏は思ったそーな…って、喧しー!」
ぷんすかと怒る少女は、年齢以下に見えた。
「いやいや、17なら仕事を斡旋してやれるな、と思っただけだ。他意はないぞ?」
「…どんな仕事?」
だけど。
彼女ならば、きっと合うだろう。
そう、思った。
「クロスベル警察、特務支援課。」
「そんな部署あんの?警察って。」
「いや、今度新設する。」
新しい、セルゲイの部署に。
「…セルゲイさんの部署っぽいね。職務内容は?」
「来てのお楽しみ、だ。」
「ふーん…ちょっと悩んでみよーかな?」
そう、少女が言ったところで。
試験導入中のENIGMAが鳴った。
「…お、ちょっと済まん。」
通話を始めると、相手が誰だか分かった。
まさか、彼女から連絡が来るとは。
「…ああ、そうだ。ああ、ああ…はぁ!?…わ、分かった…」
彼女からは、奴を押し付けるという連絡が来た。
まあ、確かにふさわしいと言えばふさわしいだろうが。
「…ふーん、これがENIGMAかー…」
「了解。任せろ。」
それでも、人数は多いことに越したことはない。
そうして、セルゲイは通話を終えた。
すると、横には興味津々な目でENIGMAを見つめる少女が。
「多人数でも通話可能なオーブメント、これで写真とか撮れたら楽しそーだけど…」
「…ん?コレに興味があるのか?」
「や、流石に他人のオーブメント見て改造してみてー、なんてねー?…あはははは…」
こいつは、面白いことになりそうだ。
「…特務支援課にはエプスタイン財団から技術者が来るぞ。」
「…マジで!?」
ENIGMAにつられてくれるならばそれでも良い。
「おう、マジだ。」
「入ります!」
目を爛々と輝かせて、アルシェムは言った。
両者の利害が一致した。
そうして、アルシェムの就職先が決まった。
ソーニャの言動に動揺するセルゲイさん。
では、また。