雪の軌跡 作:玻璃
なんて嫌な響きの言葉なんだ。
では、どうぞ。
アルシェムが歓楽街に入った瞬間、赤毛の男が投げ飛ばされてきた。
「鬱陶しいって言ってんでしょこの赤毛チャラ男がぁ!」
何やってんの、リオ。
「ぎゃあああ!?」
投げ飛ばされた先には、警備隊の女性がいた。
しかも、痛くご立腹な様子の。
「…見つけたわよ、ランディ…!」
「げっ、ミレイユ…」
ランディ、と呼ばれた男は慄いた。
それを見たアルシェムも慄いた。
「済みません、そちらの方、うちのランディが失礼しました…」
「え、いつ俺がお前の身内になったんだよ、ミレイユ?」
「あ、な、な…仕事仲間でしょっ!?」
全く、何をやっているのだか。
アレは、どう見ても《赤い星座》の…
「や、気にはしてないんだけどさ。どう見ても職務中じゃん?煩く付きまとって来なきゃ投げ飛ばさなかったんだけど…」
「それより前に、投げ飛ばすなよ!?」
そんな突っ込みをするランディの背後に、いつの間にか立っていた女性が慄いた。
さっきから皆慄いてばっかりだ。
「…貴女、このろくでなしを投げ飛ばしたの…!?」
「え、うん、まあ。」
そこで、背後の女性の目が光った。
「…それは、良いことを聞いたわね。ミレイユ、確保して。」
「ベルツ副司令!?」
「げっ…」
どうもベルツというらしい女性は、冷ややかな目でランディを見た。
「げっ、とはご挨拶ね、ランディ。」
「な、何でここにいるんすか!?」
「ライフルの訓練から逃げ出した馬鹿者を連れ戻しに来たのよ。」
至極まっとうな理由だ。
だが、あのランドルフ・オルランドがライフルから逃げ出す?
それは、少し奇妙な気がした。
「あ、あははは…」
「そこでまさか素敵な人材に出会えるなんて思ってもみなかったけれど。貴女…お名前は?」
品定めするように、ベルツはリオを見た。
「リオです。」
リオは素直に答える。
名字を隠したのは正解か。
流石に、裏では有名すぎるから。
「そう、リオさん…貴女に、聞きたいことがあるのだけど。」
「何ですか?」
「何故、今クロスベルに来たの?」
そう来たか。
これは、一種の面接だ。
「え…今ちょっと仕事を探してて。」
「仕事なら、クロスベルじゃなくてもあると思うのだけど…」
「ついでに観光ですよ。急いでないし、一回は来てみたかったんで、クロスベル。」
まあ、言い訳に過ぎない。
リオの今の仕事は、『このまま雇われること』なのだから。
「あら、どうして?」
「クロスベルって、結構ややこしい場所じゃないですか。帝国と共和国に挟まれてて。外から見ただけじゃ分からないクロスベルの今を見てみたかったんです。…友人の、故郷でしたから。」
そう言うと死んだみたいだから。
勝手に殺すな。
「…そう…クロスベルを見るなら、もっと良い場所があるわよ。」
「そうなんですか?」
…かかった。
これで、アインに借りを作らなくて済む。
「貴女、クロスベル警備隊に入ってみない?」
「え…」
「勿論、無理にとは言わないわ。だけど、貴女なら良い警備隊員になれるわよ?」
これは、本気だ。
リオの視界の端に見えるようにGOサインを出しておく。
「…そう、ですか?」
「なれるわよ。だって貴女、あのランディを投げたんだもの。」
そういう問題か。
そうして、リオはクロスベル警備隊に入隊したらしい。
そう、アルシェムは聞いた。
ちゃうねん。
キリがいいところで切ったら短くなるねん。
では、また。