雪の軌跡   作:玻璃

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連日投稿です。
今回はちょっとだけ長いです。

では、どぞ。


間抜けというか、温いというか。

「…全く…ドルン兄もキール兄も、ボクには出来る訳ないとか言っちゃってさ。全然出来るじゃないのさ。」

4人か…

1人はリーダーっぽい。

で、その女にはドルン、キールという兄がいる。

単なる盗賊かな…?

「見事なお手並みでした!」

「ま、ボクにかかればこんなもんだよ。…ミラを貯めて故郷を買い戻すためにも、頑張らないとね!」

単なる盗賊にしても、甘い。

武器を奪わず拘束なんて…

甘すぎる。

まあ、見えなかっただけかもしれないが。

「そうっすね、お嬢!」

「…こきょー、かぁ…」

アルシェムには、縁のない話だった。

アルシェムにとっての故郷はもう燃やし尽くされ、穢された。

二度と見ることの叶わない故郷。

「お、起きてたの!?」

「あーいてー。いきなり殴りかかる奴があるかってーの。」

「何故に棒読み!?…な、何かゴメン…」

…ここで謝るってことは、根は悪い奴ではない。

というか、悪にはなりきれないだろう。

「気にしねーけどさ、あんた、バカじゃねーの?こきょーがどんなとこかは知んねーけどさ、きたねーことやった金で取り戻したものに、価値なんてあんの?」

ちょっと綺麗事を言ってみる。

「う、うるさいな!ほっとけよっ!」

「それにさー。こきょーを買うって時点でさ、貴族だったって言ってるよーなもんよ?」

「う…り、リベール人の分際で何言ってんのさぁ!」

リベール人の分際で、という言い方をするのはエレボニアの奴だけだ。

嫌いではない。

アルシェムは帝国人に育てられたのだから。

「帝国人は嫌いじゃねーけどさ、そんないーかたしなくてもいーじゃん…」

「な、な…」

情報追加。

エレボニア人で、富裕層もしくは貴族。

ただし、元がつくけれど。

「さて、自己しょーかいでもしてもらおーかな?」

「だ、誰がっ!もう…寝ててよっ!?」

再びぶん殴られる。

意識が飛んだふりをして横たわる。

ごちゃごちゃ周りがうるさかったが、それに気を取られている場合ではなかった。

…特別耳の良いアルシェムには、聞こえていたのだ。

方角は南西。

人数は、3人。

「…からがミストヴァルト…」

「…さん、…か?」

「ま…ね。複数…があるわ。それに…が使う螺子…るし。十中八九、アタリね。…にかく、…わよ。あんまり…な…ね。」

「らじゃ~!」

「…ました。」

勿論、エステル達だ。

エステル達が魔獣を蹴散らしながらミストヴァルトを抜けてくる。

そして。

馬鹿騒ぎを繰り返すリーダーのテンションが一際上がった時。

「ふっふっふ…全く、チョロいもんだよね。この七耀石(セプチウム)も、コイツも、能天気な女遊撃士も。おめでたい奴ら!」

エステル達が、傍の木に張り付いたのが見えた。

片目をうっすらと開け、じっと見据える。

エステルも、シェラザードも気付かない程度の目配せ。

だが、ヨシュアは微かに頷いた。

気付いてくれたようだ。

耳を澄まさなくても、エステル達の囁きが聞こえる。

「あ、あんですって~っ!?」

「落ち着いて…もうちょっと話を聞いてみよう。アルも多分、タイミングを図ってくれてるし。」

やっぱり。

多分と言っているが、この声は確信したときの声だ。

「むう…仕方ないわね。」

それで一応は落ち着いたのか静かになる。

「でも、コイツ含めあのガキ共、結構手強そうでしたぜ?鉱山の魔獣、悉く退治してたし…」

「鉱山?ああ、キミが失敗した奴か。成功してりゃわざわざ猿芝居を打たなくて済んだのにさ。」

猿芝居って。

裏まで芝居してこそ一流だ。

ここまで馬鹿騒ぎしてるなら、三流も良い所。

「す、済まんお嬢…」

「ま、終わり良ければ全て良しだよ。それにしても、片田舎の遊撃士は笑わせてくれるよね。特にあのノーテンキ女!ボクのこと、毛ほども疑わずに『仲良くなれそう』だってさ!笑いをこらえるのに必死だったよ!」

笑い声が響く。

…ダメだ、エステルの堪忍袋の緒が盛大に切れた…

背中に仕込んである剣でこっそり縄を切る。

「…何がおかしいのよ。」

エステル達が体勢を整えて木の裏から出てきた。

「ア、アンタ達は…」

対するこちらは狼狽えている。

…所詮は、素人に毛が生えたレベルか。

「黙って聞いてりゃノーテンキだのなんだの好き放題言ってくれちゃって…覚悟は出来てんでしょーね!?」

うわあ。

私情入りまくってる…

いつでも飛び出せるように、力を入れる。

「遊撃士だと!?」

盗賊の1人がアルシェムを掴んで人質にした。

「く、こっちには人質…が!?」

否、しようとして蹴り飛ばされた。

「うるせーっ!」

「ぎゃっ!?」

素早く2丁銃を抜き、盗賊達に向き直る。

「な、何すんだよ!てか、アンタ寝てたはずじゃ…」

「お黙り!」

威嚇射撃をして若干怯ませる。

「遊撃士協会規約に基づき、家宅侵入・器物損壊・強盗の疑いと誘拐の現行犯であなた達の身柄を拘束します。抵抗しない方が身のためですよ?」

ナイスタイミング、ヨシュア。

「お、お嬢、どうすんだ!?」

「ビビることはないよ!所詮女子供の集まりさ!《カプア一家》の力、骨の髄まで思い知らせてやるよっ!」

「何が女子供よ!自分のことを棚に上げといて!絶対にギャフンって言わせてやるわっ!」

…まるで子供の喧嘩だ。

もし、このリーダーがエステルと一緒に育っていたら、良い喧嘩友達になれただろうに。

まあ、有り得ない事だが。

「それはこっちのセリフだね!キミ達、やっちゃいな!」

「合点だ!」

だが、アルシェムは攻撃などさせなかった。

「無理ふかのーお断り。バカなことしてんじゃねーよ。」

2丁銃で精確に武器だけを弾き飛ばす。

「…な…」

呆気にとられた盗賊達に、銃口を突きつける。

「大人しくしなよ。…ぶち抜かれてーの?」

おまけにリーダーに近づき、顎の下に銃口を当てる。

「くっ…!」

懐の七耀石(セプチウム)を掏り取る。

「にしても、カプアか…」

メルに、調べてもらう必要がありそうだ。

どこかで聞き覚えがあるようなその語感を忘れないように反復する。

「な、何さ!?」

忘れる前にエステルに七耀石(セプチウム)を渡す。

「エステル、パス。」

「え、あ!」

リーダーは愕然とした顔で洩らした。

「ああ、ボクの七耀石(セプチウム)…」

間違ってもリーダーのモノでない事だけは確かだ。

「あんたのじゃなくてロレントの皆のもの!全く図々しいんだから…」

「さて、ジョゼット…だったかしら?早速告白タイムと参りましょうか。確か面白いこと言ってたわよね?《カプア一家》…とか❤」

「さ、さて何のことかな?」

リーダー改めジョゼットがとぼけるが、シェラザードは容赦しない。

「素直じゃないわね、もう。」

「ひっ!?危ないなあ、何すんだよっ!?」

「あら、素直に話してくれないなら体に聞くしかないじゃない?うふふふふふふふ…」

シェラザードは、それはもう素晴らしい笑みで鞭をしごきながらゆっくりとジョゼットに詰め寄る。

「ひっ…!?く、来るなあっ!?」

「あれ、カプアって、確か…っ!」

何か思い出せそうになったその瞬間、エンジン音が聞こえた。

これは…

「アル?」

飛空艇っ!?

「いや…うわぁ、ひでー。気付いちゃったよ…」

導力砲を出して…

「あ、アル?」

撃って来る!?

「…散開してっ!」

直後、飛空艇の導力砲が火(?)を噴いた。

「…導力砲!?」

「シェラ姉、大丈夫!?」

「平気よ!それより上に注意なさい!」

言われなくてもするだろう。

あの射角では、どう考えても空からでしか有り得ない。

「飛空艇…」

「あははっ、形勢逆転だね!」

そう言っている間にも、飛空艇は近くに着陸した。

「ジョゼット、大丈夫か!?」

顔を出したのは、ヘタレそうな青年。

「随分遅かったじゃないか、キール兄!早く加勢してよ!」

…アレがキールか。

カプア一家の名からするに、本名はキール・カプアだろう。

「いや、ロレント進出はお預けだ。ボースで面倒なことが起きた!」

ボース…?

「め、面倒なこと?」

「良いから早く乗れ、グズグズしてると置いてくぞ!」

「く…」

一瞬だけ悔しそうな顔をしたジョゼットとその一行は、飛空艇の足に掴まった。

途端に飛空艇が上昇を始める。

「ま、待ちなさいよ、こらあっ!」

「勝負はお預けだよっ!これで勝ったとは思わないでよねっ!」

典型的な捨て台詞を吐いて、飛空艇は去っていった。

それを見送ってからシェラザードが洩らした。

「参ったわね…あんなモノまで出してくるとは。あはは、一本取られちゃった。」

「済みませんね…捕まったふりなんかして。」

何だか申し訳ない気持ちになって言ってみると、思わぬところから反応が返ってきた。

「え、ふりだったの!?」

ふりです。

「まあ、手っ取り早かったし。いざとなれば逃げる気満々だったしね。単なる悪党ではなさそーだったし、小物臭しかしなかったから。」

「小物臭ってあのね…どんだけ心配したと思ってんのよ!?」

「…ごめん、皆。はんせーしてる。」

反省はしているがもう1回しないとは言い切れない。

あの盗賊改め空賊なら、わざと掴まっても大丈夫そうだ。

極甘だし。

「…あの螺子はワザとかい?」

「ん、まあ…本拠地じゃなかったけど拠点にさえ行けば壊滅させられるとは思ってたし。まさか空賊だとは思ってねーし…」

「そうね。ボースを根城にしてる連中みたいだけど…」

ボースを根城にしている…

ねえ。

これは、調べる必要があるかな…

「空賊だろうが何だろうがどうだって良いわよ!あんの生意気ボクっ子、今度会ったらギタギタのパーにしてやるんだから!」

「ギタギタのパーって…」

死語じゃないかソレ。

取り敢えず、ここに長居するとアルシェムの精神衛生上良くないのでミストヴァルトを出る。

「にしても…逃がさなくて済んだ手って何かあったの?」

「そうねえ…」

「わたしが考えた案では全員死亡だったし…」

流石に飛空艇を墜落させるのはマズいだろう。

「あんたねえ…」

「まあまあ。流石に難しかったと思いますよ?飛空艇を止めるにしても、空賊だけを捕らえるにしても、何かしらの犠牲は免れなかったでしょうし。」

ミストヴァルトのアレが巻き込まれたらと思うと…

ゾッとする。

巻き込まないで良かった…

あれが巻き込まれていたら、社会的に死ぬ…

主に《紅耀石(カーネリア)》のせいで。




アンチ・シェラさんですね。
アルシェムとシェラザードが戦えば、間違いなくアルシェムが勝ちます。
一瞬で。

では、またお会いしましょう。
感想、ご意見お待ちしています。

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