雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
アルシェムとリオは、クロスベル市に入り適宜ぶらつくことにしていた。
勿論、単独行動で。
「…あー、暇…」
治安が良いとは言えないクロスベルなら、すぐに事件にでも巻き込まれると思ったのに…
平和すぎる。
「あ、ベーカリー。」
パンを買い、お行儀悪く食べ歩く。
「これ、美味しー。」
温かいし。
そして、パンを丁度食べ終わった頃…
やっと、事件に遭遇した。
「待てぇぇぇぇ!」
「誰が待つかよ…!」
まあ、常套句だ。
追っているのは、刑事だろうか。
情けない男だ。
「退きやがれ…!」
ナイフを振りかざして迫る男。
どう見ても、付け焼き刃の素人だった。
「そ、そこの人…っ、危ないから…はぁはぁ、に、逃げてくださーい!」
何だか、とても頼りない刑事だ。
男が襲いかかってくるので、振りかざされたナイフを紙一重で避ける。
「…よっ…」
避けたついでにナイフを持った手を掴み、ナイフを離させながら…
「…こいっ…」
男を担いで…
「しょおっ!」
そして、地面に叩きつけた。
「ぎゃあ!?」
「はい、逃走終わりね。えーっと、警察の人?」
漸く追い付いた刑事に、男を引き渡す。
遅すぎる。
「捜査二課の、レイモンドです。あ、ありがとう。助かったよ…」
「もうちょっと鍛えたら?あまりにもお粗末だよ。」
息、切れすぎ。
文句は多々あったが、それだけにしておく。
「うう、面目ないです…ゆ、遊撃士の方、ですか…?」
「…や、一応は違うけど?」
昔は準遊撃士だったから、遊撃士ではない。
言い逃れは万全だった。
「えっと…」
「規則で事情聴取しなくちゃいけねーからついて来い、かな?」
「そ、そうです。任意ですが…」
役には立てないだろうが、外では言えないことがある。
「行くよ。あんただけじゃ、また逃げられそーだし。」
「あ、あははは…」
笑っている場合じゃない。
アルシェムは、レイモンドに連れられてクロスベル警察まで来ていた。
「ええっと、事情聴取担当が来ますので少々お待ち下さい。」
「はいはい。」
担当のヒトは…
「…ったく、何でいきなり駆り出され…」
…って。
「えっと、事情聴取のヒト?」
何でこの人。
暫し2人は硬直した。
「…あ、ああ。お前さんの事情聴取を担当することになったセルゲイだ。」
「初めまして、アルシェムです。っても、あんまり役には立たないでしょーけど。」
本当は、初めましてですらない。
彼には、一度だけ会ったことがある。
「じゃあ何で…?」
「さっき取り押さえた奴、多分猟兵か何かだし。」
その言葉で、彼の顔つきが少しだけ変わった。
何かを見定めるような。
「…何で分かった?」
「そう視えたから。」
「がくっ…それだけか?」
それだけだ。
視えたものは視えたのだから、嘘はついていない。
「や、あの雰囲気で猟兵って呼ぶのもどーかなって思ったけどね。若干の訛からして東方人だし。何より、泰斗と同系統の構えしようとして失敗してたから。」
「…良く見てるじゃねぇか。」
「視るのは得意だしね。用事はそれだけなんだけど。」
まあ、警察とツナギが取れただけでも上々か。
「ああ、伝えておこう。」
「じゃ、帰っていー?」
もう、ここには用事はない。
それに、あまり怪しまれても困るから。
「その前に、泊まるところは決めてあるのか?」
「…まだだけど。てきとーにする気満々だしね。」
「おいおい…旧市街には泊まらん方が良いぞ。旅行者にはちょっとオススメ出来ん。」
それが警察の言うことか。
「へー…分かった。じゃ、てきとーに観光してるよ。」
警察署から外へと出て、溜息を吐く。
「はふー…」
バレたかと思った。
溜息を吐きながら、アルシェムは行政区から歓楽街へと向かった。
再び、短い。
では、また。