雪の軌跡   作:玻璃

149 / 269
この章では、主人公が特務支援課に入って序章が始まるまでを描きます。

では、どうぞ。


不審者

アルシェムとリオは、クロスベル市に入り適宜ぶらつくことにしていた。

勿論、単独行動で。

「…あー、暇…」

治安が良いとは言えないクロスベルなら、すぐに事件にでも巻き込まれると思ったのに…

平和すぎる。

「あ、ベーカリー。」

パンを買い、お行儀悪く食べ歩く。

「これ、美味しー。」

温かいし。

そして、パンを丁度食べ終わった頃…

やっと、事件に遭遇した。

「待てぇぇぇぇ!」

「誰が待つかよ…!」

まあ、常套句だ。

追っているのは、刑事だろうか。

情けない男だ。

「退きやがれ…!」

ナイフを振りかざして迫る男。

どう見ても、付け焼き刃の素人だった。

「そ、そこの人…っ、危ないから…はぁはぁ、に、逃げてくださーい!」

何だか、とても頼りない刑事だ。

男が襲いかかってくるので、振りかざされたナイフを紙一重で避ける。

「…よっ…」

避けたついでにナイフを持った手を掴み、ナイフを離させながら…

「…こいっ…」

男を担いで…

「しょおっ!」

そして、地面に叩きつけた。

「ぎゃあ!?」

「はい、逃走終わりね。えーっと、警察の人?」

漸く追い付いた刑事に、男を引き渡す。

遅すぎる。

「捜査二課の、レイモンドです。あ、ありがとう。助かったよ…」

「もうちょっと鍛えたら?あまりにもお粗末だよ。」

息、切れすぎ。

文句は多々あったが、それだけにしておく。

「うう、面目ないです…ゆ、遊撃士の方、ですか…?」

「…や、一応は違うけど?」

昔は準遊撃士だったから、遊撃士ではない。

言い逃れは万全だった。

「えっと…」

「規則で事情聴取しなくちゃいけねーからついて来い、かな?」

「そ、そうです。任意ですが…」

役には立てないだろうが、外では言えないことがある。

「行くよ。あんただけじゃ、また逃げられそーだし。」

「あ、あははは…」

笑っている場合じゃない。

アルシェムは、レイモンドに連れられてクロスベル警察まで来ていた。

「ええっと、事情聴取担当が来ますので少々お待ち下さい。」

「はいはい。」

担当のヒトは…

「…ったく、何でいきなり駆り出され…」

…って。

「えっと、事情聴取のヒト?」

何でこの人。

暫し2人は硬直した。

「…あ、ああ。お前さんの事情聴取を担当することになったセルゲイだ。」

「初めまして、アルシェムです。っても、あんまり役には立たないでしょーけど。」

本当は、初めましてですらない。

彼には、一度だけ会ったことがある。

「じゃあ何で…?」

「さっき取り押さえた奴、多分猟兵か何かだし。」

その言葉で、彼の顔つきが少しだけ変わった。

何かを見定めるような。

「…何で分かった?」

「そう視えたから。」

「がくっ…それだけか?」

それだけだ。

視えたものは視えたのだから、嘘はついていない。

「や、あの雰囲気で猟兵って呼ぶのもどーかなって思ったけどね。若干の訛からして東方人だし。何より、泰斗と同系統の構えしようとして失敗してたから。」

「…良く見てるじゃねぇか。」

「視るのは得意だしね。用事はそれだけなんだけど。」

まあ、警察とツナギが取れただけでも上々か。

「ああ、伝えておこう。」

「じゃ、帰っていー?」

もう、ここには用事はない。

それに、あまり怪しまれても困るから。

「その前に、泊まるところは決めてあるのか?」

「…まだだけど。てきとーにする気満々だしね。」

「おいおい…旧市街には泊まらん方が良いぞ。旅行者にはちょっとオススメ出来ん。」

それが警察の言うことか。

「へー…分かった。じゃ、てきとーに観光してるよ。」

警察署から外へと出て、溜息を吐く。

「はふー…」

バレたかと思った。

溜息を吐きながら、アルシェムは行政区から歓楽街へと向かった。




再び、短い。

では、また。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。