雪の軌跡 作:玻璃
落とされるなら誰が良いの?
え、やっぱりドラギオン君?
では、どうぞ。
アルシェム達は、アルセイユに乗り込んだ。
「…いよいよですか…」
「怖い?ティオ。」
「流石に怖いですよ。アルセイユは写真でしか見たことありませんし。」
それは怖い。
「でも…大丈夫です。レンさんもいますし…何より、アルがいますから。」
「え、それ他の人が聞いたら結構怖がる要素なんだけど。」
レンは楽しければそれで突き進む。
アルシェムは無茶でも突っ込む。
実は行け行けドンドンな人達なのだ。
「でもですね、実は帰るのが楽しみなんです。」
「そうなんだ。」
楽しみ、か。
それはそれで、凄いことかもしれない。
「だって、こんな夢みたいな世界じゃなくて、現実でアルにもレンさんにも…ティータさんにも会えるんですよ?これが楽しみでなくて何だっていうんですか。」
ああ。
確かに、そうかもしれない。
それは確かに、夢みたいな話だ。
「アルはいつ頃クロスベルに来るんですか?」
「そーだね…いつ頃になるだろ。年内はどうか分かんないけど、年明けまでには。確定させると色々と不味いから内緒だよ?」
特に、星杯騎士だと知っているティオが誰かに話してしまうのだけは避けなくてはいけない。
「分かってます。…アルが、星杯騎士だってことも言わない方が良いんですよね?」
「うん。それも黙っててくれると助かるかな。…星杯騎士だからって、法術が出来るわけでもねーし。」
そこで頼られても困る。
「そうなんですか…」
「こらそこ!集中しなさいよ!」
「はいはい。」
エステルにも怒られたので、アルシェムも集中し始めた。
浮かぶアルセイユ。
そして…
「これは…」
「…これで動くみたい。ほんっと出鱈目な世界だよねー…」
アルセイユが、動き始める。
「…おお。」
「…これは…ちょっと…」
どんどんと加速して行き、そして…
「体感にして、時速5000セルジュってとこかな。」
「あ、アンタ何でそんな正確に分かんのさぁ!?」
「え、いたのジョゼット。」
…あ。
そう言えばいたっけ。
そう言えば、レベルだが。
「僕の扱い酷くない!?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。平常運転。」
「もっと酷いからね!?」
うっさい。
影が薄すぎるんだ。
自己主張しろ、野太い人。
「それにしても…これが《環》のサブシステムにすぎないとはねえ。本当に消滅したのか、流石に疑ってしまうよ。」
いや、消滅はしていないから。
一応はアインに渡したから。
「な、なははは…」
笑ってごまかしているところに、いきなり警告音が鳴った。
「これは…!」
「は、早い…!」
「…追撃者のようですね。」
追撃、ねえ。
「ティオは中にいてね。」
「アル…?」
「撃ち落としてる時間はねーし、誰かを置いていくわけにもいかねーでしょ。」
仕方がないので、アルセイユにあるであろう武器庫を探る。
「…クレイジー。」
そこには、機関銃があった。
およそ人間が使うものではないサイズの。
仕方がないので後ろ甲板へと運びだし、固定する。
「あんた、何してんのよ!」
「危ねーから中入っててよ、エステル。あんたに何かあったらヨシュアにぶっ殺されるから。」
「あんたが今危ないでしょうが!」
エステルが、邪魔だ。
「これくらいの危険に慣れてねーとでも思った?」
「…バカ、中に入るわよ!」
エステルに引きずり込まれる直前に…
扉からエステルを中に突き飛ばした。
「アルっ!」
扉を閉め、開かないように念じる。
それだけで、良かった。
それだけで、扉は開かなくなる。
「開けなさいよ、このバカ!」
エステルの声も、もう聞かなくて良い。
聞いたって、仕方がないのだから。
どんどんと扉を叩く音が小さくなって。
そして…
何も聞こえなくなった。
それで良い。
今は、ただアレを排除するだけだから。
「さーて、と。」
アルシェムは、機関銃をぶっ放した。
暴れる機関銃を、操りながら。
アルシェムは、精確にドラギオンに攻撃を加えていく。
機関銃は、まだまだ弾切れを起こさない、と信じながら。
「何だ、意外に弱い。」
そう、嘯いて。
倒れても倒れても増えるドラギオン相手に、アルシェムは戦い続けた。
《星層》を抜け、追撃してくるドラギオンも減ってきたころ。
漸く、アルセイユは《幻影城》へとたどり着いた。
後で全員にこっぴどく怒られた、とだけ記しておこう。
この先、消化試合。
では、また。