雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
葛藤
唐突に、アルシェムは目覚めた。
「わわっ…!」
「…エステル?」
「全くもう。…心配したんだからね。後で皆に謝っておきなさいよ?」
身体はもう、動く。
それがおかしいことだとも、分かっていた。
「…そーだね。それで…状況はどーなってるの?」
「…今さっきセレストさんが《影の王》の場所を突き止めたって。アルセイユ使えば行けるはずだし、今は撤収の準備してるとこよ。」
…つまりは、どんな方法を使ったかも知らないが煉獄門からは脱出できたということ。
「あ、あんですってー。」
「何でそんなに棒読みなのよ…」
「や、何となく?」
想像はついていた。
一体誰が、これほどのことを成し遂げたのか。
「それで…もしかしなくても、待たれてた?わたし。」
「…ん、まあね。」
「ごめんごめん。よっこーいしょ。」
起き上がって首を回す。
「うわっ…何でそんなバキベキボキッていうのよ…」
「知らねー。前からずっとそーだったし。」
幸い、荷物を散らかしてもいなかったのですぐに出発する準備は出来た。
「さーてと。行きますか。」
努めて明るく言ったはずなのに。
「ねえ…アル。」
エステルが、アルシェムを引き留めていた。
「何?」
「アルは…星杯騎士、なの?」
聞かないでほしかった。
だけど、答えるしかなかった。
「…もし、そーだって言ったら?」
「いつから…?もしかして、家に来る前から…?」
「…答えるつもりもねーけど。それを知って、エステルはどーするの?」
だけど、正直にそうだという勇気もなくて。
だから、曖昧な答えしか返せない。
「家に来たのは…父さんの監視のため、だったの?」
「今それを言っても仕方ねーことじゃねーの?」
「ずっと…騙してたの…?」
そうだ。
騙していた。
「ここでわたしがそんなこと無いよって言えば、エステルは満足?」
「アルの…アルのバカっ!」
エステルは、アルシェムの頬を張って去って行った。
「…ま、仕方ない、か。」
ヨシュアとは違って、自覚はあったのだから。
情報を流していた相手が《身喰らう蛇》ではなく、七耀教会だった、というだけで。
「…最初から、情報を流していたんだね。」
「…今度はヨシュア?あんたは他人のこと言えないでしょーに。」
「…でも、自覚はなかった。アルには、あったんだろう?」
自分だけ責任逃れか。
自覚、どころの話ではない。
「確信犯だよ。勿論ね。」
ブライト家にいた時から…
いや、執行者になる直前から。
アルシェムは、星杯騎士だったのだから。
「僕も知りたいんだけど…いつから、君は星杯騎士だったんだい?エル…」
「予測はついてるくせに。」
「…まさか、最初から…?《ハーメル》に来た…あの時から…?」
…何でそうなる。
「あ、の、さー。流石にそれは無理があると思うんだよねー。」
赤子状態で星杯騎士とかどんだけ。
「…だよね…」
「そんなに知りたい?エステルに危険が及ぶかもしれねーから?」
ただ単純に自分が知りたいだけなのなら、いくらでも誤魔化す。
だが、エステルのために動くヨシュアを誤魔化すのは難しい。
「…それもあるよ。でも…君なら、僕を止められたんじゃないかって思って…」
「…根性なし。」
「いきなり何さ!?」
止めてほしかった?
なら、自分で打ち破って見せてほしかった。
「ささやかな復讐だよ。後、わたしは法術が得意じゃない。この答えで満足?」
「満足するとかしないとかの話じゃないよ。」
「いつからわたしが星杯騎士だったか、なんてどーでもいーことを気にするくらいなら、エステルといちゃいちゃする方法でも考えたら?」
少しでも、復讐はしたかった。
だけど、少しだけで良かった。
アルシェムが真面目に法術を勉強していれば。
本当は、ヨシュアを解放することが出来た。
だけど、それは考えないようにしていた。
どうせ、苦手だから。
そう、考えて。
「…あのさ。真面目な話、してるんだけど。」
真面目には答えているつもりだ。
「いつから、っていう問いにはちゃんと答えるつもりもないよ。守秘義務もあるしね。」
「…そう。じゃあ、少なくともブライト家に来る前ってことで良いのかな?」
まあ、当たらずとも遠からず、だ。
事実ではある。
「そーゆーことにしといてよ。」
「…そっか。」
そのまま、ヨシュアはアルシェムに一瞥もくれずに去って行った。
「…参考までに、私にも教えて貰えないかね、アルシェム君。」
「タマネギ大佐。」
「ぐはっ…」
背後からいきなり声を掛けるな。
思わず本音が出たじゃないか。
「じょ、情報部の情報が何処かに流れているのは掴んでいた。だが…まさか、君だったとは思ってもいなかったものでね。」
「わたしも、まさか知られてるとは思ってなかったけど。」
念入りに痕跡を消しながら頑張っていたのに。
「…確か、カシウスさんに引き取られる前に一度七耀教会に依頼がいっていたようだから、その時かとも思ったのだがね。…流石に、手慣れすぎていたよ。だから、もっと前から君は星杯騎士だったのだろう?」
流石に、大佐はごまかせなかった。
「一応、《身喰らう蛇》の執行者としてのわたしも加算して考えてる?それ。」
「ああ。一時期、結社の情報も漏れていたようだからね。」
それだけで、答えになるだろう?
と、タマネギの目は語っていた。
「だから、何?わたしが星杯騎士だったからって、何かあるの?さっきから皆してぎゃーぎゃー言うけどさ。」
「いや、私はどうこう言うつもりもなかったが。興味が湧いただけだよ。」
「…ふーん…?」
胡散臭い。
絶っっっっっっ賛、胡散臭い。
「そう疑わしい目で見ないでくれたまえ…」
「…流石にね、リベールにその情報を売られると困るんだよね。どーせ、エステルとかヨシュアあたりから伝わるんだろーけどさー。」
「売るつもりはないよ。」
売る気はない。
胡散臭い。
「なら、無料で情報提供する気でしょ。もー…守秘義務って知ってる?全く…」
「流石に、見抜くか…」
「今度嫌がらせしに行く。」
「解せぬ。」
今度一番面倒な情報を流してやる。
いつになるかもわからないが。
「…そろそろ、私は失礼するよ。」
「とっとと行けバーカ。」
大佐はドMだって情報を女狐に流してやる。
そうして、タマネギは去って行った。
はっは、予約投稿数日分入れときます。
では、また。