雪の軌跡   作:玻璃

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《千の腕》。
ねえ、どこの千手観音?

では、どうぞ。


強がりの代償

「…あ…」

チョコレート。

ほろ苦くて甘いチョコレート。

バレンタインに持ってこーい…

じゃなくて。

何でチョコレート?

「あの時はな…流石に絶望しきっとったよ。でもな…だからこそ、忘れられへんねん…全部合わせて、オレを前に歩かせてくれたあの味が…」

「思い出したわ。確かグラハム卿とルフィナさんのファーストキスの時の話ね。」

…え。

チョコレートを…

どうやって食べさせたかって話?

「…うわー、痴女?どっちかってーと痴漢?」

「ちゃうわボケぇ。あれはルフィナ姉さんからや。」

痴女の方か。

「…クク…良いだろう!だが、その程度の甘い覚悟でどのようにして危機を乗り越えるつもりかな!?」

《面白》が詠唱を開始して…

「アスタルテとロストルム…!《煉獄門》の左右を守る悪魔!?」

が出現した。

あえて言おう。

気持ち悪い造形をしています。

直視できません。

「クク…いかに《守護騎士》といえど勝ち目がないのは明らかだろう!?」

「自分でやっといて言うんちゃうわボケ!」

「ま、その通り…だけどね。」

今、アルシェムが聖痕を使えば恐らく三日三晩は寝込むだろう。

やりすぎたのだ。

「確かに今までのオレやったらこれだけの手勢でも無理やったやろ。でもな…」

ケビンは、気合を入れて聖痕を顕現させた。

「…ふぁいっとー。」

「いっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっつ!って、だからちゃうっちゅうねん!?」

その背に浮かんでいたのは…

今までとは違う、青白い光。

「バカな…」

「へー…ってことは、逆に闇の側面を引き出すこともできるんだー…」

「やったらアカンで?流石に光の方に慣れてるアンタにはキツイと思うし。」

やるか馬鹿者。

先輩風吹かすな。

「さーてと。サクサク終わらせよっか。」

「せやなあ。悪いけど…このまま試させてもらおか!」

「…良いだろう…!その付け焼刃の力如きでこの《白面》が凌げるか…試してみるが良い!」

そうして…

戦いは、始まった。

ケビンの聖痕は、あっという間にアスタルテとロストルムを屠った。

「おし…!」

「無理はしないで下さいね。…インフィニティ・ニードル!」

「鬼炎斬っ!」

まあ、中々に酷い援護があったというのもあるのだが。

2人は、良い意味で牽制以上の攻撃を仕掛けていた。

「…一回目は、ケビンに取られたんだよねー…」

「あ、アルちゃん…?」

「二回目は、貰ったよ。」

ふっと、その場からアルシェムが消えた。

「…な…」

「…死ね。」

そうして…

ワイスマンは、何も話すことなく消えた。

アルシェムに首を狩られて。

「…エル…」

「はあ…ケビン…無茶、しすぎたよね、お互い…」

「…せやな…」

そうして、ケビンとアルシェムは同時に膝を付いた。

「ケビン…!大丈夫…!?」

「ああ…まあ、でも…前みたいに寝込んだりはせんやろ…」

「流石に…疲れたけど…ハァ。」

気配が近づいてくる。

しかも、一番謎な奴が。

「ね、ケビーン…何っっっっっっで、こんなところに…ギルバートだっけ、が来てんの…」

「…ハァ!?あの兄さん、こんなとこまで来とんの!?」

「お~い…!た、助けてくれぇぇぇ…!」

いることに突っ込みを入れてはいけないだろうか。

「うわー…しかも厄介なの連れてるよ…」

「あれは…まさか、アカ・マナフ…!?」

面倒なものを連れて来てくれて…

「…ぶっ殺して良い?」

「ダメよ。」

「…チッ。カリン姉、虚無の弾丸で狙い撃って。」

その言葉通りに、カリンはギルバートを狙い撃った。

「ふぎゃっ!?」

「リース、眠らせてあげてー。」

「分かりました。」

手際よく眠らされたギルバート。

君の明日はどっちだ!

「全くもう…」

ケビンには、もう無茶はさせられない。

だからと言って、カリンとレオンハルトだけで手に負えるかと言われれば否だった。

だから。

「わたしの後ろに下がってて、皆。何が起こるか分からないから。」

だから、アルシェムは…

 

「…我が深淵にて煌めく蒼銀の刻印よ。」

 

無茶を、押し通すのだ。

他の誰でもなく、自分のために。

「エル…!?」

「待て、そんなことをすればお前が…!」

誰が、待つというのだろうか。

 

「その力を解き放ち、愚かなる者共に裁きを与えよ…」

 

誰かを救えるチャンスがあるのに。

これでも、死なないだけの見通しは立っている。

だから…

だから。

 

「乱射ぁぁぁぁっ!」

 

アルシェムは、無茶を押し通した。

「な…」

「無茶、しすぎよ…!」

確かに、アカ・マナフは全滅した。

全滅は、した。

だが。

「あっちに戻るつもりもあらへんかったけど…全部凍らすこと無いやろ!?」

「…加減、してる場合じゃ…なかったし…」

「そらそうやったけど!やからって全開で力使うなや馬鹿!」

身体に力が入らない。

起き上がることすら、ままならない。

「暫くどーしよーもねー、みてーだし…寝てて、いー…?」

「許可なんかとらんでええわ。とっとと寝え、この阿呆!」

「…ありがと…」

だから、強制的に意識を落とした。

その後、何が起きて。

どうして助かったのかさえ、知らないままに。




折角章立てたのにこの章はこれだけで終わりです。

では、また。

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