雪の軌跡 作:玻璃
辛口漫才師にでもなれば別の人生あったかも、この人。
外交官とか。
では、どうぞ。
「フフ…残念だが、それは適わんよ…」
「うーわ、最後はあんたか。とっとと地獄へ帰れワイスマン。」
「ああ、久し振りだね…シエル。それに、ケビン・グラハム。まさかこのような場所での再会とは思ってもみなかった。」
何故ここにいる、《白面》。
「フン、やっぱ出よったか…オレの滅した外法ばっかり出てきおるし来るんちゃうかとは思っとったわ…」
「だ、誰なの?」
え、写真くらいないの?
「最悪の破戒僧。わたしの敵の1人。アレが、《面白》のゲオルグ・ワイスマンだよ。」
「《面白》ではない!《白面》だ!」
だ、そうです。
「あれが…!」
「クク…まさか、君達が《第四位》と《第五位》だとはな…」
「…今すぐ滅そうか、グラハム卿。情報漏洩したつもりもないから。」
黙れば良いのに。
「そこまでカリカリせずとも良い。…参考までに聞かせて貰えないかね、シエル。君は一体いつから《第四位》だった…?」
「推測はついているくせに、よくゆーよね。…共和国。雪のアーティファクト。アレが切欠だったよ。」
あの時が、ルフィナに会った最初で最後の時。
それでも、忘れられない出会いだった。
「成程…聖痕については個人的に研究していたつもりだったが…オリジナルがここまでの潜在能力を持っているとは…」
「…何のことや?」
「フフ…君達も薄々気付いているのではないのかね?」
それだけで、分かる。
あれはルフィナでなく、歪んだケビンだと思っていた。
それは、やはり…
「原因は聖痕だってことか。こんな確認の仕方したくなかったんだけど。」
「流石はシエルだ。その結論を軽々しく口に出せるとはね…」
「…何が言いたいの?」
ケビンの聖痕。
それが、原因だった。
「不思議ではなかったかね?優しい振りをして、実は醒めていて。熱くなることもなく、ひたすらに冷静でいて。」
「…だから、何。」
それが、普通だった。
「打算的で、合理的。かつ冷酷なフレーム。…まさに、私の作品に相応しい。」
「黙れば?」
「流石に…作り物の心には響かないと見える。」
響いていないわけがない。
黙って欲しかった。
今すぐにでも、殺してやりたかった。
だけど、今は…
「それが、どうかした?」
少しでも整理された情報を得るために、心を殺してでも聞くしかない。
外道とはいえ、その頭脳だけは本物だから。
「何…少々気になっていてね。…果たして、まっさらな子供を意志のない《輝く環》が用意できるのか、とね。」
「…推測は、ついてるよ。ただ、今は確かめたくないし、そんな時間なんてない。」
その推測が、果たして合っているのかどうか。
確かめる術はない。
「認めるのが怖いだけなのだろう?自分が本当に人外である、と。」
「…そう、なのかもね。今はそんなどうでも良いことを論議してる場合じゃないし…気にはしてないつもりだったんだけど、ね。」
「…カリン。離せ…奴を斬れない…っ!」
暴れるな、レオンハルト。
「兎に角、今は打開策を探らなくてはいけないわ。…アレを利用してでもね。」
「分かっている…分かっているが…っ!」
「落ち着いてよ。…後でたっぷりぶちのめす予定だから。」
流石に、冷静に聞いていられるほど『出来た』人間でもないし。
怒っているふりをしているだけなのかも知れなくても。
それでも、認める気にはなれなかった。
「ハハ、流石に容赦ないな…しかし、事態を解決する方法ならないわけではないだろう。」
「…とんでもなくろくでもなさそーだけど、聞くだけはきーたげるよこの変態。」
「何故にいきなり変態扱いなのかね!?」
言葉通りだろうが。
「…ご、ごほん…簡単な話だよケビン神父。…君が人間らしい心を捨てれば良い。」
「はいアウトー。」
「やっぱろくでもないなぁ、アンタ…」
それが、《白面》だから。
「失礼な。だが、理に叶っているとは言えないかね?君の聖痕は絶望と罪悪感から生まれたものだ。ならば、そんな下らぬ感情を完璧にコントロールした存在になれば良い。すなわち…《超人》に。」
スーパー野菜人か。
まあ、違うのだろうが。
「ば、馬鹿げてる…そんなの…そんなの、正しい道の訳がない…!」
「クク、だが、君になら出来るだろう?完全に聖痕をコントロールし、新たなる《影の王》になることすら可能なはずだ。」
「黙りなさい、《面白》…!これ以上、その淫らな舌でケビンを誘惑するのは赦さないっ!」
いや、《面白》じゃないから。
《白面》だから。
「フフ…誘惑ではなく提案だよ…」
しかもしっかりスルーかよ。
「提案だろーが何だろーが、あんたが見たいだけでしょーに。全く…で、ヘタレネギ。結論は?」
いつもならば、ここでヘタレネギちゃうわ!とか突っ込まれているところなのだが。
「…確かに、オレは強くあるべきなんやろ…何もかも、全部オレが臆病でヘタレやったせいやし…」
「ケビン…」
「ここでアンタの提案に乗るんもアリやったんやろうけどな…思った以上に、オレはヘタレやったみたいやで?」
え、どこまでもシナシナで青菜に塩状態じゃなかった?
「何…」
「どうもな、あの時の…チョコレートの味が忘れられそうにないねん。」
そう言って、ケビンは不器用に笑った。
割と痴女。
何この人変態?
って、最初思った。
では、また。