雪の軌跡   作:玻璃

138 / 269
誰が連日投稿だといった?

では、どうぞ。


~遠い炎群~
紫苑の家


拠点に帰ったケビンが、こう告げた。

「…あの。この先が、もしオレの考えてる通りやったら…かなり、マズイと思います。」

終わりに近い場所なのだと。

分かっていたから。

だから、ネギはそう言ったのだろう。

「やから、行く人を指名させてもらえませんやろか。」

誰も、異議は唱えなかった。

…唱えることが、出来なかった。

「…まず、リース。お前がおらんと話にならん。」

「…分かった。」

この先に待つのは、恐らくはケビンとリースに近しい人だから。

だからこそ、ケビンはリースを選んだ。

「次に、シスター・ヒーナと《剣帝》。戦力的な意味やで?」

「はい。」

「…全力は出させて貰えないようだが、それでも構わないのか?」

それでも構わない、とケビンは言った。

恐らくは、戦いにはならないだろう。

だが、戦いになってしまった時が危険だから。

だから、この2人を連れて行くのだ。

「後は…アルちゃん。以上や。」

「かんっぜんにオマケだよね、わたし。ま、いーけど。」

この星層では徹頭徹尾アルシェムが必要だったから、という理由もあるだろうが。

転移門を使い、その場所へと向かう。

霧、というよりも靄を抜けたその先には…

「え…」

「やっぱりか。」

教会の施設。

この場所は…

「ここが、《紫苑の家》なわけか。」

恐らく、いや、十中八九そうだろう。

「…そうや。ここが、オレとリース、そんでルフィナ姉さんが一緒に暮らしてた場所や。」

「…ふむ。何やら隠し事がありそうな場所ではあるな。」

流石に、鋭い。

そのカンを別のところに使えば良いのに。

「ハハ、流石やわ。兎に角、中に入ろか。」

中に入るが、何も違和感がない。

「…こ、これが…偽物…?」

それは、リースの言葉が代弁していた。

「そのようやな。でも…懐かしすぎるわ、ここ。」

空気までもが、昔のまま。

そこに、《紫苑の家》は存在していた。

「…孤児院、のようなものですよね。所謂『福音施設』…」

名前がどうもアレだが、概ね合っているだろう。

「兎に角、探索するで。まずは…」

「…ケビン。あんたさ。嫌なことは後回しにしよーと思ってるでしょ。」

「…そんなこと無いで?」

目的の場所は、分かっているはずだ。

ここは、ケビン達の『家』だったのだから。

「じゃあ、探索する必要はねーよね。目の前のあの扉さえ開けばいー。」

ケビンが直視しない時点で分かっていた。

その場所こそが、目的に至る道。

「…ハハ、容赦ないな、アルちゃん。」

「この先に何があるか分かってるから、わざわざ星杯騎士だけを連れて来たんでしょーに。」

そうでないなら、エステルなり誰なりを連れて来たはずだ。

もっと大人数でも連れてこれたはずなのだから。

「…そう、やな。改めて協力を要請するわ、ストレイ卿。ここを出るまでは、協力して欲しい。」

「今更過ぎ。ばっかじゃねーの?全くもー…見たくないんじゃなくて、見るまでの苦悩を欲してるとかどんな変態よ。」

「え、ちょ、何の認定なんそれ!?」

真実だろう。

ドMが。

「さて、グラハム卿。従騎士リース。ここの鍵を持ってるかもしれないのはあんた達なんだから、とっとと懐なり何なり探ってよ。」

そう言ってケビンを見るが、彼はかぶりを振った。

「…いや、リースや。5年前のあの日の当番はリースやった。」

「…え。ま、まさか…」

リースが懐を探ると、確かに鍵が出て来た。

「礼拝堂の鍵…どうして…!?」

どうして、あるのか。

あるはずのない代物。

だけど、それこそが文字通り鍵だった。

「多分、ここは5年前のあの日の再現なんや。」

「5年前、ね。確か、そのくらいだったらしいね?ルフィナが死んだのは。」

有耶無耶にされたまま、結局教えて貰えなかったルフィナの下手人。

それは、ケビン…

なのかも、知れなかった。

「兎に角、開けてみる。」

「…リース、一応言っとくわ。…ここを開いたら、多分お前はあの日の全てを知ることになる。後戻りもでけへん。その覚悟はあるか…?」

その言葉は、リースを心配して出た言葉ではなかった。

それは、ただの自己保身の言葉。

「…ある。この5年間…ずっと、納得いかなかった答えがここにあるんだから。何よりも、姉様とケビンにもっと近づきたいから…!」

そう言って、リースはその扉を開いた。

その空気で、アルシェムにもわかった。

「…ふーん。《始まりの地》があるんだ、ここ。」

「…よう分かるなあ。そうや。…5年前。ここを襲った猟兵の目的はそこに封印されてたアーティファクトやった。」

ケビンが隠し扉を開く。

「え…こ、こんなところに…!?」

リースの顔が、驚愕で歪む。

「兎に角、降りるで。」

隠し扉を潜り、下へと降る。

ただひたすらに、下へと。

「ここにアーティファクトが封印されてたとしても…その時、ケビンは従騎士だったはず。どうして知ってたの…?」

その答えにするために、ケビンはすべてを語る決意をした。

「…あの日、オレと姉さんが帰る予定やったんは知ってるな?」

「う、うん…」

けれど、ルフィナは間に合わず。

ケビンが単身乗り込んだ。

《始まりの地》に、念のために連れ込まれた人質が、リースだった。

リースのリボンを頼りにケビンはこの場所を探り当て…

そして、猟兵を追い詰めた。

苦し紛れに…

その猟兵は、そこにあったアーティファクト《ロアの魔槍》を手に取ってしまった。

その猟兵にケビンは追い詰められ…

「成程、《聖痕》がそれを取り込んでしまったというわけか。」

「鋭いやんけ、レーヴェ。それでや…オレは、猟兵を細切れにして殺した。」

そして、力に呑まれたまま…

「オレは、その力を解放した。その場に、ルフィナ姉さんが駆け付けたのも、知らんかった。」

暗い目をしたまま、ケビンは告げた。

ただの言い訳を、もっともらしく。

「言い訳だね。それでケビンを止めるためにルフィナが死んだわけか。それがどれだけケビンを傷つけるかも全て承知したうえで、自分とリースならどちらが効果的かも考えながら。」

「…流石に、オレもそこまでは分からん。でも…オレが、ルフィナ姉さんを殺してしもたんは事実や。」

まあ、事実なのだろう。

そうでなければ、こんな場所が再現される理由がない。

「殺すつもりはなかったんでしょうけど…それでも、止められなかったんですね?」

カリンの問いに、ケビンは答えた。

「…そうや。むしろ、嬉々として叩き込んだわ。…あの時の姉さんが、オレには母親に見えてたから。」

ケビンを殺そうとし、ケビンの心を殺した母親に。

だから、嫌いだった。

だから、叩き込んだ。

「どうして…黙ってたの…!そんなこと…一言も言わないままで…!」

「…ホンマ悪かったと思ってる。今ここで仇としてぶっ殺されても文句は…」

そんな、どこか歪んだケビンに。

リースは言葉を叩き込んだ。

 

「ふざけないで、ケビン…!私はそんなことで怒ってるんじゃない…!どうして、どうしてそんな重いものを抱えて独りで生きて来たの…!?この私に…あなたの家族の、この私に相談すらしないで…!一緒に抱えさせてすらくれないで…!本当に、ふざけないでよ…!」

 

リースの声は、まだケビンには届かない。

「…リース…」

「ケビン…私にはもう分かった…ケビンが《外法狩り》として生きて来た理由…」

リースがまっすぐにケビンの目を見て告げる。

「…え…?」

リースには分かった。

そこにいた、一同にも分かった。

分からなかったのは本人だけ。

「それは、姉様を死なせてしまった償いのためなんかじゃない…!ケビンは、ケビンは…!」

『そう、罰を受けたがっていたのさ。』

そう、この場にいないはずの人間が言った。




最後の人、一体何フィナさんなんだ…

では、また。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。