雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
洞窟全体が揺れて、水面が持ち上がる。
そして…
「…っ!?」
巨大なペングー…
ディバインペングーが現れた。
「何てでかさ…!すげー…」
言いながらも、アルシェムはディバインペングーに向かってつっこむ。
「寸け…あ。」
「くうぇっ!」
びくともしない。
というか、あまりの脂肪の多さに跳ね返された。
流石に巨体過ぎるようだ。
「仕方ねーな…」
この一瞬で棒術具を取り出す。
「見よー見まねで麒麟功!」
カシウスのクラフトを見よう見まねで再現し、更に
「もいっちょ見まねでシュトゥルムランツァー!」
地上最強の女のクラフトを使って強引に弾き飛ばす。
「…だめかー。」
一向にダメージが通っている気配がない。
「ちょっ…やめ、きゃあっ!?」
「リオ!?」
後ろでも何か起きたようだ。
「っつ…気を付けて!ベーコンが…!」
「!?ってしまっ…」
後ろに気を取られている隙に、ディバインペングーに弾き飛ばされた。
「はーっはっはぁ、精霊神様は最強なのだ!」
「お黙りベーコンの分際で!焦がすよ!?」
「我が力を受け取って下さい精霊神様!」
大したダメージすら与えられてないのに、ティアの薬を放り込まれる。
「くええー!」
「…切り札使おっかなー…もう、穴開いちゃってるしー…誰も気付かねーと思うんだー…?」
アルシェムが切り札を使おうとした、その時だった。
そこに、叫び声が聞こえた。
「何馬鹿なこと言ってんですかっ…焔舞!」
メルの声とともに、火属性アーツが多重発動した。
「くえええええーっ!?」
その一撃で、ディバインペングーは灰すら残さず消滅した。
「メル…」
「何っっでオーブメント1個しか持ってないんですかっ!?」
「いや、試作品だし…」
などと言い合いをしていると、ベーコンが嘆き始めた。
「ななな、なんてことをおおおっ!精霊神様…」
「いや、ディバインペングーにそこまでこだわられても…」
「か…か…かくなるうえはっ!」
そこで、ベーコンは思い切った行動に出た。
「目覚めよっ我が超能力うううっ!」
3人は身構えるが、何も起きなかった。
「は、ハッタリ!?」
「しまった、奥に…!」
湖を渡り、先ほどあけてしまった穴に向かって全速で向かうベーコン。
アルシェムは取り敢えず追うことにした。
「リオとメルはここに待機、10分以内に戻らなければ追いかけてきて。」
「「了解(です)!」」
泳いで湖を渡り、奥へ…
すると、何故かベーコンが逃げ帰って来る。
「ぎゃあああっ!?何だあの…ひいいいっ!?」
「…何かいんの…?」
確かめようにも、暗すぎて確認出来ない。
だが、確かにいる。
それは、1分ほどこちらを窺った後、消えた。
「…一体、何だったの…?」
「もういやだああっ…お家帰るー…」
ベーコンが逃げ出そうとするので、捕まえる。
「ふぎゃああっ!?」
「ちょっと、ご足労願うよ…?」
イイ笑顔で、ベーコンを黙らせて。
「ひ、ひいいいいいっ!?」
ベーコンを気絶させ、取り敢えず湾曲したカーブの奥を覗き込む。
すると…
「…外じゃん…」
おもいっきり森の中に出た。
しかも、若干そこだけ開けている。
まるで何かが着地して飛び去ったかのような…
「アルシェムー!」
「あ、2人とも…追いついて来たんだ。はえーね?」
「いえ…それよりも、ここは良い場所ですね。ここにメルカバを回しましょう。」
そこでメルはメルカバを取りに戻り、アルシェムとリオはそこまでオウサマペングーを運び込んだのだった。
30分後。
「…はえーね…」
「そうだね…一体どこに停めてたんだか…」
メルカバが降り立った。
「さ、乗せてしまいましょう。」
「そ、そうだね…」
ベーコンとオウサマペングーを運び込んだアルシェム達は、一息吐いた。
「…で、メル。だいじょーぶ?」
肩を震わせながら、メルが応える。
「…大丈夫じゃありませんよ…もし…範囲が…間違ってたら…どうしようかと、思いました…」
「ああ、標的だけを狙えるようなアーツしか入れてねーもん。とゆーか、あの場合使うのは火属性だけだよね?」
というか、水辺の生き物に火属性アーツが効かないことがあるんだろうか。
たまにはいるだろうが…
「まあ、そうですけど…」
「特に危険だから火属性アーツは標的にしか当たらねーようなせっけーにしてあるし、問題ねー。それに…ちゃんと、誰も巻き込まなかったでしょ?」
そう。
メルがアーツを多重発動させても、暴走しなかった。
これが一番重要である。
「あ…」
メルに、トラウマを乗り越えてもらうためにも。
「じゃあ、問題ねーのよ。だいじょーぶ。誰も、傷ついてねー。逆にメルは守ってくれたんだよ。だから…ありがとう。」
「…め、メルカバ肆号機、発進しますっ!」
照れ隠しのようだ。
が。
このまま発進されたら困る。
「いや、発進されたらツァイスに帰れねーんだけど…」
「…あ。」
「てか、まだ手配まじゅー倒してねーんだけど…」
「…すみません…」
取り敢えず着陸。
「ごめんね、メル。アルテリアまで頑張って。」
「はい、大丈夫ですよ。…でも報告書は、先に書いて下さいね。」
忘れてた。
手早く報告書を書く。
リベール王国ツァイス郊外カルデア鍾乳洞奥の新興宗教について
第四位《雪弾》、従騎士リオを伴い突入。
煽動役、ベーコンと神とみられるオウサマペングーを捕獲、精霊神(ディバインペングー)は消滅した。
被害者とベーコン、オウサマペングーについてはメルカバ肆号機にて輸送。
「このあとは書いといてねー。」
「サインだけはしておいて下さいよ?」
「りょーかい。」
守護騎士第四位《雪弾》エル・ストレイ、従騎士リオ・オフティシア
「…これで大丈夫です。じゃあ、ちょっとアルテリアまで行ってきます。報告後は直接ロレントに帰りますから。」
「気を付けてねー。ヒーナとアインによろしく。」
そしてアルシェムとリオはメルカバから降り、手配魔獣を倒してからツァイスに帰った。
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…うわちゃあ。
「…どういうことなんですか、アル…説明してください。」
ティオが、詰問してくる。
まあ、仕方がないだろう。
「説明も何も…見たとおり、なんだけど…」
「アルは、星杯騎士なんですね?」
うわ、直球。
「…そうだよ、全く…明かす気なかったのに…」
「いつから…?」
「…ティオが助け出される前、くらいかな。」
正確には、直前だ。
「…そう、だったんですか…私を助けてくれたエルは貴女だったんですね。」
「そう、なるのかな。」
「水臭いです。…ちゃんと、言わせてください。…ありがとう。」
ありがとうなんて。
「別に、感謝されるためにやったんじゃないよ。ただの敵討ちだったから。」
「それでも、です。」
ティオが抱きついてくる。
ぶっちゃけ痛いのだが、それを指摘することなく拠点へと帰った。
新興宗教に限らず、宗教は怪しいものです。
と、誰かが言っていました。
怒られそうだ(笑)
では、また。