雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
『滅びし里の遺児、遺児を照らす太陽、太陽に憧れし技師、技師の目指す極致、極致を見た剣士、剣士として生きる赤き竜、銀の鍵を引き連れよ』
「…って、書いてあってんけど…大盤振る舞いしすぎちゃうか、これ…」
拠点で、ケビンがそうのたまった。
違いない。
カシウスの時よりも多い。
「というか…ふふ、よっぽど来てほしくないのかしら、あのお馬鹿さん…?やっぱり浮気なのね…?」
そのヒーナの黒い雰囲気にあてられたのか、一瞬だけ《影の国》が揺らいだ。
「…どうやら、文が増えたようですよ。」
「そんなんアリかい…」
「因みに、やはり指名されたのはカリンさんのようです。」
そうでなければ揺らいだ意味がない。
というか、カリン強し。
「後で絞めます。」
「え、ちょ、黒騎士逃げてー!?」
取り敢えず、転移門から転移した。
特設会場の上で、黒騎士が佇んでいる。
「こぉぉぉぉぉ、のぉぉぉぉぉ、浮気者があああああっ!」
「ま、待てカリン!早まるな!これには事情が…」
「問・答・無・用ですっ!」
というわけで、夫婦喧嘩が始まった。
「えーっと。これ、俺達がいる意味あるか?」
「あ、あははは…」
「…止めてくるよー…」
兎に角、止めないことには話も出来ない。
アルシェムはハリセンを取り出し…
そして。
「チェストォォォォォォっ!」
小気味いい音が響く。
「きゃっ!?」
「うぉっ!?」
カリンとレーヴェの頭をひっぱたいた。
「真面目にやろーね?お二方。」
「至って真面目です。レーヴェ、さっさとそんな束縛から抜け出してしまいなさいな。」
「い、いや…その、だな?」
無理だ。
と言おうとしたのだろうが…
レーヴェにとっては、カリンに逆らうことの方が無理だ。
「抜け出しなさい。」
「アイマム!」
「ふ、ふええ~…」
いっちょ気合を込めて。
「フンッ!」
その束縛…
というよりも、黒騎士装束を吹き飛ばした。
勿論マッパにはなりません。
「はあ…はあ…」
「…よくがんばりました。」
「俺は子供か!」
いつものコート…
ではなく、紫色のクローディアの服を基調にした隊服を着たレーヴェがそこにいた。
「レーヴェ!」
「ヨシュアか…心配をかけたようだな?」
「何で生きてるって言ってくれなかったのさ…!僕、何のために墓参り行ったの!?」
全く以てその通りである。
あの墓には、ヨシュアが祈るべき死人は眠っていなかったのだから。
「す、済まん。」
「謝って済んだら軍も遊撃士もいらないからね!」
その瞬間だった。
「あ、ドラギオン。」
「洸波斬!洸波斬!洸波斬!」
「あ、何か大佐が空気嫌だって言ってるみたいだし任せよっか♪」
最早鬼畜である。
「…さて。ドラギオンを取り敢えず狩ればここは解放されるだろう。」
「洸波斬!洸波斬!洸波斬!」
「まあ、任せておいても大丈夫か。」
レーヴェにすら見捨てられた大佐は、血涙を流しながらドラギオンを倒しきった。
「…次の領域は…何だ、これは。」
その扉には、こう書かれていた。
『大剣を振り翳す少女、かつて捕らわれし金の姫、姉喪いし少女、猫の耳を着けし少女、銀の鍵を引き連れよ。』
それを見たアルシェムは、こうつぶやいた。
「…何というか。」
兎に角拠点に戻り、メンバーを入れ替える。
「って、ええええええ!?」
「何でこんなところにいんのよ!?」
「こいつぁ、驚いたな…」
まあ、レーヴェがいたことで混乱が起きたのだが。
「えー…リオちゃん、メルちゃん、リース、後これは誰や?」
肩を震わせていたティオが、必死に抗弁する。
「こ、これはセンサーなんです!猫耳じゃないんです…!」
「ティオちゃんか!?」
まあ、猫耳に見えなくもないのだが。
それはさておき。
「ほ、ほな行こか。」
この微妙なメンバーを引き連れて、転移門から転移すると…
やはりケビンだけ残して、皆は扉に呑みこまれた。
「…な、何ですかあれは…」
「うっわー!?何でこんな懐かしい奴が!?」
「ていうか、モブじゃなかったんですか、彼!?」
そこには、巨大なペングーとその前で踊り狂う男がいた。
「…あれって確か…」
名前はベーコン。
焼けば美味しい人間です(嘘)。
「さ、さーて。倒してしまおうか!」
「サンバ・デ・ペングー!サンバ・デ・ペングー!」
こんな声は無視だ。
無視ったら無視だ。
「合わせて下さいね!」
「りょーかいっ♪」
リオ達が、一斉に法剣を持って…
そして。
「合技、インフィニティ・インフィニティ!」
大剣型の法剣と、通常の法剣が無数に乱舞する。
「…えげつないです。」
「言っちゃだめだからね、ティオ。」
「シエルは行かないんですか?」
あそこに突っ込めと。
死ねるから。
「…ティオ。今度さ、多分わたしクロスベルに行くんだけど。」
「え…そうなんですか?」
「うん。で、お願いがあるんだけど。」
間違いなく今する話でもないが、今はどうせ攻められないので言っておく。
「わたしの本当の名前は、アルシェム・シエルって言うんだ。だからさ、シエルじゃなくてアルって呼んでよ。」
「…あの時は偽名だったと?」
シエル・アストレイと名乗ったのは偽名だったのかと。
暗に彼女はそう言っていた。
「知らなかったんだ。本当の名前を。」
「…複雑な事情がありそうですね。分かりました。」
「…ありがと。そろそろ攻められそうだし前衛いってくるよ。」
棒術具を握りしめ、突っ込もうとして…
「ダメですよ、アルシェム。じっとしてて下さい。」
「え、ちょ、メルさーん!?」
「もう怒りましたから。…ファイアボルト!」
普通のオーブメントで。
メルは、ディバインペングーを焼き尽くそうとしていた。
「な、何が起こっているんですかあれは…!?」
「はいはい、兎に角一緒にアーツぶっこむよー。…ダークマター!」
近づいて来そうなディバインペングーを引き離す。
「…!と、兎に角私も引っ張ります!ダークマター!」
「ダークマター!」
ダークマター+ファイアボルト祭りでディバインペングーとそのオマケは沈んだ。
「え、えーっと…」
「これって、まさか…」
ヤバい、と思った時にはもう、映像は始まっていた。
想像してください。
ティオ「こ、これはセンサーなんです!猫耳じゃないんです…!」
では、また。