雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
アルシェムは、従騎士と引き合わされていた。
「初めまして、第四位《雪弾》卿。私、貴女の従騎士となりますメル・コルティアと申します。」
「同じく、リオ・オフティシアであります!!以後、よろしくお願いします!」
「同じく、ヒーナ・クヴィッテと申します…ストレイ卿?」
アルシェムの目から、涙が零れていた。
「どうして…」
「シエル?」
その声を聴いた瞬間、アルシェムはアインに突っかかって行った。
「…アイン、説明して。何で、何で彼女がここにいるの?返答次第では…」
「待て、誰のことだ?」
分からないの?
「カリン姉。」
そう、短く告げれば。
「…っ!?」
ヒーナと名乗った女性が、固まる。
「エル…?」
「やっぱり…生きてたんだ。」
「まさか知り合いか?シエル、お前、故郷はどこだ。」
カリン姉…
生きててくれてありがとう。
そう、思いながらアルシェムは告げた。
「…わたし、孤児だから。故郷がどこかは知らない。でも…最初の記憶はハーメルから始まってる。」
「そうだったのか…ああそうだ、シエル。他に生き残りがいるという情報は聞いていないか?」
「エル、レーヴェやヨシュアの安否だけでも知ってたら教えて欲しいの。」
…レーヴェ…
ヨシュア。
「…っつ…」
急に頭痛がして蹲る。
それは、思い出せない記憶。
「シエル?どうし…いや、《白面》の影響か。ヒーナ、法術をかけてやれ。」
「はい。…空の女神の名において聖別されし七耀、ここに在り。識の銀耀、時の黒耀、その相克をもって彼の者に打ち込まれし楔、ここに抜き取らん…」
その瞬間。
アルシェムの中で、何かが砕けた。
「え…?あ、れ…?」
「エル?」
「おかしいな…あれすらも、嘘だったわけだ。」
思い出してしまった。
あそこにいたのは…
あそこにいたのは…っ!
「…カリン姉。レオン兄とヨシュアは生きてるよ。」
「え…本当に!?」
思い出せてしまったこと。
それは、もう…
忘れることなんて、出来ない。
「嘘ついてどうするの。…まあ、ヨシュアがあれからどうなったかは知らねーけど、レオン兄は確実に生きてる。ルフィナに聞いてない?《剣帝》の話。」
再びカリン姉が固まる。
「ルフィナ様…?エル、ルフィナ様は…」
「ああ、そういえば知らないんだったな、シエル。…ルフィナが亡くなった。」
「…そー、なんだ…下手人は?」
あのルフィナが死んだ。
あまり親しくはなかったが、かなりやり手の星杯騎士だったはずだ。
事故で死ぬとは思わないし思えない。
「…後で教えてやる。それよりもメルとリオを置き去りにしたままなんだが、挨拶してやったらどうだ?」
「あ…」
気まずい空気の中、挨拶だけは交わす。
「第四位《雪弾》卿にはメルカバ肆号機が支給されます。どうぞこちらへ。」
居心地が悪くて、思わず言う。
「その…お願いがあるんだけど。」
「は、何でございましょうか、第四位《雪弾》卿。」
「その長ったらしー呼び方止めて、普通に呼んでよ。」
2人の従騎士はきっかり1分沈黙した。
「で、ではストレイ卿と…」
「けーごもいらねーの!!」
アインが笑い出しそうに…
いや、腹の中では確実に大爆笑しながら見ていた。
「幾らストレイ卿の命令でも出来かねます。上下の身分の差はつけねば…」
「身分って…元の身分ならわたし孤児だって言ったじゃん。」
「は…?」
従騎士メルが放心状態になる。
「へ…?ストレイ卿孤児なの?出身は?」
…従騎士リオは素直だ。
「卿はいらない。エレボニアのハーメルだよ、多分。リオは?」
「アルテリアだよ。…グェンワ・オフティシア元枢機卿って知ってる?」
「いや………あれ?」
確かあそこに不謹慎な枢機卿がいたような。
そんなアルシェムに、リオは少しばかり暗い顔をして告げた。
「…やっぱり知ってる?知らない内に外法認定されて消されてたっていう噂。原因はいまだに分かってないけど…」
「…いや…そっちじゃなくて。その枢機卿さんって…黒髪でちょっとふくよかな方?」
しかも、ゲヘゲヘ言いながら男の子を…
「え?うん、黒髪のデブ。付いたあだ名が…」
「…黒毛、和豚…?」
アインとカリン姉がここで吹き出しかけた。
不謹慎極まりない。
いや、どっちも不謹慎だけども。
「そうそう…って、やっぱり知ってるんじゃない。」
「…リオ、言っちゃわりーかもだけど、げほー認定なんてじごーじとくだからね?彼。」
かなりの変態だったし。
なにより、1回だけレンを襲ったし。
「…え、知ってるのっ!?」
「…知ってる…けど、かなりアレだから聞かねーほーがいーかもよ?」
「良いから聞かせて!!」
背の高いリオが詰め寄って来るとかなり怖い。
でも、それよりも…
「えっと、メルもアインもカリン姉もいるけど…それでも聞くの?」
あまり聞かれたくない話のはずだから、気を利かせたつもりなのに。
「是非聞いておきたいです。」
「右に同じく、だな。」
「えっと…」
誰も、それを察してはくれなかった。
「アイン達に聞いてんじゃねーよ?」
むしろ聞きたがるのが変なような…
「是非!!」
…普通、家庭の事情を周りに聞かせる?
「…《楽園》って知ってる?」
「…待て、シエル。まず、何故お前がそれを知ってるのかから話して欲しいんだが。」
誰にも話す気はない。
何か、女として恥ずかしいし。
「その《楽園》で、その…彼は男の子とアレなことを…」
「無視か!?」
「…やっぱりそうか…」
何か今聞き捨てならないことを聞いた気がする。
やっぱりって。
「あの黒毛和豚、使用人に手を出してたし。そのたびに鉄拳制裁してたけど。」
リオの感情がどす黒い。
どれだけ嫌いなの…
まあ、あの変態だから言えることだろうけども…
「その…そんな奴の娘なんだけど。…こんなアタシでも、従騎士になっても構いませんか…?」
「…リオ、実は馬鹿?」
リオが盛大にずっこける。
「何でそうなるのっ!?」
「あの黒毛和豚さんがどれだけアレでもリオには関係ねーでしょーが。それとも何?リオにもそーゆーとこがあんの?げへげへいーながら小っちゃい子を襲ったり。」
「ないよ!!」
即答された…
まあ、そうだろうけどさ。
「ならいーじゃねーの。わたしは気にしねー。まあ、メルはどーかは知らねーけどね。」
「あたしも気にしません。」
「私も気にしませんよ。」
「そっか…そっかあ!!良かった…」
若干涙目になりながらリオは笑った。
かなり、からかわれたりしてたのかな…?
「さて、一件落着したところで悪いが…任務だ、シエル。」
「任務…嫌な響きだけど、聞くよ。」
「このままリベールに帰って《剣聖》に張り付け。どうもリベールがキナ臭い。まあ無いだろうが…《剣聖》がリベールを離れたら知らせろ。」
カシウスに…?
「手段は?」
キナ臭いって、何かあったかな…?
でも、やけにリベールでの仕事が多かった気もする…
「蛇にいたお前が『記憶喪失』でここまで来るくらいだ。…《剣聖》に保護してもらえ。」
「…成程…分かった。」
というか、お人好しだし申し出てくるに違いないんだけど…
監視もしたいだろうし。
「じゃあ行ってこい。」
「…そーだ、アイン。わたしって、公式にはどんな立場になってる?」
色々動くには、星杯騎士の肩書きだけじゃダメだ。
というか、それじゃあ表だって動けない。
「ん?ああ…シスター扱いでも良いが、まだ決まってないな。どうしたい?シエル。」
「じゃー決めないで。多分遊撃士の方が動きやすい。動いても怪しまれないしね。」
「つくづく規格外だな、お前は…終わったらちゃんと遊撃士の資格を返上しろよ?」
それで良いのか七耀教会。
「うん、分かった。…行ってくるね?」
「ああ。ちゃんとメルカバで行けよ?報告も忘れずにな。」
「りょーかい。」
せっかく綺麗に終わったと思ったら…
そこで乱入してきた男達がいた。
もとい、カリンさんが生きていましたって話です。
ご都合主義満開ですね。
では、また。