雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
カシウスが消え、そしてその場には扉が現れた。
「「あ…」」
「また、扉か…えー、何々?」
その扉には。
『琥珀の姫、黒豚の娘、止められぬ金色、大喰らいの娘、銀の鍵を引き連れよ。』
そう、記されていた。
「…何か、めっちゃケンカ売られてへんこれ…」
「ま、まあまあ…兎に角戻りましょ!」
拠点に戻り、該当者を探す。
「…というわけなんやけど…」
「《影の王》…外法認定して良いですかね、グラハム卿。良いですよね…?うふふふふふふふ…」
「ちょ、落ち着いてやリオちゃん!?」
という壊れ気味な人もいたが。
拠点から、ケビン、カリン、リオ、メル、リース、そしてアルシェムが扉の前に立った。
「…何このハーレム。」
その呟きに。リースがケビンを睨む。
「…ケビン…鼻の下伸びてる。」
「言いがかりやし!?」
扉を開くと、そこには…
「…やあ、久しぶりだねケビン。」
「何やっとんのワジ!?」
《蒼の聖典》、ことワジ・ヘミスフィアがいた。
「ストレイ卿も、あの時以来かな?」
「そーだね。今は確かクロスベルにいるんだっけ?」
「ああ、うん。この後こっちに来る予定らしいね?何て呼べば良いんだい?」
何て呼ぶって。
「アルシェム・シエル。そう名乗る予定だよ。まあ、クロスベルでどう動くかは決めてねーけど。」
「そうなんだ、楽しみにしてるよ。」
「あっそ。で…ここにいるってことは倒されに来てるんだよね?」
顔が引き攣るが、まあ概ねそうらしい。
「ま、まあね…お手柔らかに頼むよ。流石にこのメンツに勝てると思うほど慢心してはいないつもりだ。」
「まあ、無理でしょ。」
「む…じゃあ、始めようか。」
そして、ワジは戦闘態勢を取り…
「寸勁♪」
「え、ちょぐぁ!?」
アルシェムに吹っ飛ばされた。
「ヒーナ♪」
「はい。…食らいなさい、インフィニティ・ニードル!」
「その技禁止だって!凶悪すぎるって総長に言われただろう!?」
今は関係ない。
「それじゃあ、これも一緒に。インフィニティ・ホーク!」
「だからぁぁぁぁ!?」
そう言いながらも避けているのはどこの誰ですか。
「止まって下さいね、ヘミスフィア卿…虚無の弾丸!」
「くっ、何で熱くないものが飛んできてるのに火傷するんだ!?」
「最早グラールロケットをつけてない人に言われたくはありませんよね。」
虚無の弾丸。
凶悪なことに、ランダムで状態異常を付与する法術だ。
対処法は、グラールロケットしかない。
即死とか有り得るし。
「負けてはいられない…!インフィニティ・スパロー!」
「おっしゃ、仕上げや!ゴルゴンアロー!」
「ちょ、何でそんなに兇悪な技ばっかり使うんだい!?」
皆鬱憤が溜まっているからです。
「ああもう!」
そう言って、ワジは…
「我が深淵にて輝く蒼金の刻印よ…」
聖痕を露わにした。
「まあ、させねーけどね。」
「え。」
「シュトゥルムランツァー♪」
アルシェムに技を中断され、バランスを崩したワジは…
「さてとぉ。ヘミスフィア卿…覚悟は良いですよね?」
リオの法術で固定されて。
「七曜の鉄槌を受けてっ!セレスティ・ホーク!」
全力でぶっ倒された。
「あべし!?」
「ふう、すっきりした♪」
「…や、やるね…」
プルプル震えながら、ワジは消えて行った。
「なあ、何か可哀想やって…」
「別に良いじゃん。ワジだし。」
「あのなあ…」
そうこうしているうちに、眼前に映像が浮かび上がってきた。
【七耀暦1200年夏、アルテリア法国、七耀教会総本山】
アルテリアに着いたアルシェムは、七耀教会の奥に秘密裏に連れて行かれた。
「漸く来たな。待ちくたびれたぞ?」
「仕方ねーでしょ…」
アルシェムとアインが再会したのは、既に夜だった。
「しかし…記憶が云々という話だったが。あるじゃないか。アルシェムというのは偽名か?シエル。」
瞬間、自らの名を思い出した。
わたしは…
アルシェム・シエル。
そんな名前だった。
けれど、そんな名をどこで聞いたかは思い出せなかった。
聞いたことがないはずなのに、なぜか自分の名だと分かった。
「…シエル…が、わたしの名前…か。」
「ふむ…つくづくお前は化物並だな。…まあいい。とっとと就任式を終わらせるぞ。」
そういってアインはアルシェムを引き摺っていった。
何が何やら分からぬままに着替えさせられ、大聖堂に連れて行かれる。
そして、目の前に1人の女が現れた。
「初めまして、守護騎士エル・ストレイ。私は法王エリザベト・ウリエルです。以後お見知り置き下さいね。」
「御意。」
そのとき、アルシェムは何となく既視感を感じた。
けれど、有り得ない。
法王なんぞに、アルシェムは会ったことはないはずだから。
なのに…
この、超絶美人をどこかで見たことがある気がした。
考え事をしている内に法王エリザベトが話しだす。
「では守護騎士エル・ストレイ。
1、その魂は空なる女神に、血肉は七耀に捧げるべし。
1、秘蹟の守護者たるべし。
1、法なる王への忠誠を誓うべし。
1、封聖は威儀をもって行うべし。
1、三界の秩序と安寧を保つべし。
1、外法、滅すべし。
この6の項目を守ることを誓いますか?」
「…誓います。」
そしてアルシェムは守護騎士専用の部屋に連れて行かれ、従騎士となる3人と引き合わされた。
経緯。
もしくは、記憶。
あるいは、必然。
では、また。