雪の軌跡   作:玻璃

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壁を超えるには、代償を支払わなければならない。

それは、信頼であり、心であり、自身でもあった。

では、どうぞ。


カシウス・ブライトという名の壁

皆が覚悟を決め、3階まで上がってきた。

階段はどうしたって?

辛うじて残っていました。

「…来たか。」

「「父さん…」」

ハモるな、そこの夫婦。

「やっぱりオッサンか。」

「フフ…まさか、まだ異変が終わっていなかったとはな…騎士団の方では予見出来ていたか?」

カシウスが、ケビンに話しかけた。

「いえ…まあ、封聖省のお偉方が何処まで知っとったんかは分からんですけどね。」

「ふむ、そうか…まあ良い、どうせ前座ではあるが後ろは茶番だしな。」

また後ろがあるのか。

まあ、誰であろうと茶番にはなるだろうが。

「カシウスさんに比べりゃ、誰だって茶番でしょーに。」

まあ、本気のレグナートやアイン・セルナートが出てくれば別だが。

「買いかぶりすぎだぞ、アルシェム。しかし…旅先のお前たちまで巻き込まれているとはな、エステル、ヨシュア。手紙は読んでいるが、正直に言って元気にしているのか?」

それに、元気にエステルが答える。

「あはは、当たり前でしょ?」

苦笑いしながら、エステルが答える。

それに、ヨシュアも追随した。

「父さんこそ、元気そうで安心したよ。」

だって、健康優良児ですもん。

父娘共に。

「そうか。…いい機会だ、修行の成果を見せてもらうぞ?アガット。」

次はアガット。

「ここで会ったが百年目だぜ、オッサン。今日こそ超えてみせる…!」

燃えているのは良いが、それが空回りにならないことを願おう。

「良いだろう。」

そこで、カシウスはレンがじっと見つめているのに気付いた。

「ん、どうした?」

警戒など出来ないような笑み。

だが、レンはそれを見抜いた。

「あなた、ただ物じゃないわね…実力が掴み切れない…どういうこと?」

滅多に見ない本気の目。

それを、レンはカシウスに向けていた。

「それがカシウスさんだから。」

それがカシウスクオリティ。

「お前ねえ。まあ、それは兎も角…そのうち、そこのバカ娘とエステル達と一緒にロレントの家に遊びに来ると良い。楽しみにしているぞ?」

アルシェムは絶賛首を振ったが。

「…言っておくけど。レンはエステル達には捕まったりしないんだから!」

「ほう?なら、アルシェムになら捕まるか?」

レンは、一瞬だけ躊躇って、そして…

「…そ、そんなことどうでも良いでしょ!?」

という何ともツンデレな答えを返して下さった。

「フフ、まあ、悩むと良い。」

「意地悪ー。」

「まあ、そこまで時間があるわけでもないだろう。良いじゃないか別に。」

お黙り、チート親父。

「さて…それでは、始めるとしようか。悪いが今の俺は手加減が出来ない。だから…」

「カシウスさん。…勝ってみせます。」

待て、リシャール。

お前だけでは無理だから。

「よくぞ言った。では、始めるぞ…!」

そう言って、カシウスは棒術具を構えた。

何も召喚しないのだけが救いか。

「行くぞ、ふん!」

って待てぇ。

高速で突き出される棒術具。

原理的には分かるが、その速度はアリアンロード並み。

ふざけるな。

「相殺は任せて、シュトゥルムランツァー!」

相殺はし切れない。

分かっている。

けれど…

それでも、他人に被害が行くことだけは防げる。

そう信じて、アルシェムは捌き続けた。

そこに…

「シエル!」

レンの叫びが聞こえて。

気配を感じてアルシェムは咄嗟にしゃがみ込んだ。

「え、ちょ、おぅふ!?」

首筋ぎりぎりにレンの鎌が飛んでくる。

待って、死ぬから。

まあ、避けるのだが。

「ふむ、軽い軽い!」

いや、カシウスさんや。

弾き返してくれるのは良いが、そんなに軽々と出来るもんですかね。

そこに、ヨシュアが突っ込んでくる。

「絶影!」

それも軽く止めて、挑発までかますカシウス。

「どうした、本気を出せヨシュア。」

「今はこれが限界だからね、父さん!?」

軽々避けるなっての。

そういう突っ込みすら無視して。

「洸波斬!」

リシャールがカシウスに吶喊した。

「…来たか、リシャール!だが甘い!」

剣を、棒術具で捌く、捌く、捌く。

「…くっ!?」

避けさせないようにするには…

逃げ道をふさぐしかない。

だが、このメンツで出来るか…

そう、アルシェムは考えて。

ふと、気付いた。

「ケビン!」

気付くと同時に叫んでいた。

「何やアルちゃん!珍しく名前呼びしてくれて!ホーリーブレス!」

ケビンは、味方を回復しながら答えた。

「悪い、聖痕…出来る!?」

出来る。

単独で出来る奴がいた。

まあ、無茶ぶりなのだが。

「もうちょい待ってや!アレ、いっとう気合入れな出来ひんねんって!」

「とっとと気合入れろやゴルァ。」

そうしなければ、勝てない。

「ちょ、キャラ変わってへんアルちゃん!?」

つまりは、時間稼ぎが必要だ。

それも、特大級の。

「ってことは、ヨシュアー!」

それが出来そうなのは、ヨシュアか。

「おおおっ!…何だい、アル!?今ちょっと忙しい!」

そう叫んだヨシュアは、必死でカシウスから逃げていた。

まあ、忙しいだろう。

魔眼系は効かないってのに。

「はあっ!金剛撃!」

エステルがカシウスに棒術具を叩きつけている隙に、叫ぶ。

「秘技(笑)出来る!?」

「え…あ、ああ!」

気付くのが遅いだろう。

流石に避けられないはずだ。

分身ヨシュアは。

「洸波斬!洸波斬!洸波斬!」

動きを妨害すべくリシャールが攻撃を繰り出すが…

「ずっと大佐のターンやめぃ。」

「ふんっ!」

それも、カシウスの…

え、ちょ、地面割るなあああ!?

な攻撃で止められる。

「…くっ!」

「きゃあ!?」

それは、エステルを巻き添えにした。

それが、頭に来たようだ。

「…もう、頭来たんだから!」

と、宣言して。

割れた地面を避けて、エステルが走る。

 

「はっ!やあああああっ!奥義、太極無双撃!」

 

回りすぎだろう、エステル。

それを軽々と受け止めて吹き飛ばすカシウスもカシウスだが。

「ティアラ!」

一応回復はしておくが、まあ足りない。

突っ込みもそこそこに、ネギがクラフトを発動する。

「今助けたる、ホーリーブレス!」

そのクラフトを受けて、エステルはまだ立ち上がる。

それを見届けて、ヨシュアが駆けだした。

「いくよ、父さん!」

「来い、ヨシュア!」

回復もそこそこに、ヨシュアが走る。

 

「僕はもう逃げない…!」

いや、そことっても危ないから逃げて下さい。

 

「そらそら、受け切れるかな?」

カシウスさんがハッスルし始めたので逃げて下さい。

全力で嫌な予感がしたので、アルシェムはオーブメントを駆動させ始める。

そして…

 

「秘技、幻影奇襲!」

「ふんっ!奥義、鳳凰烈波!」

 

ヨシュアとカシウスは、相打った。

まあ、ダメージ的にはヨシュア8カシウス2くらいだが。

「くっ…ごめん、皆…」

やっぱり、ヨシュアは戦闘不能になった。

「ええええええ!?予想出来てたけど!…セラス!」

まあ、紙装甲だから仕方がないかも知れないが。

「今助けたる!ホーリーブレス!」

スタンバイしてて良かった!

アルシェムのオーブメントが光り、ヨシュアを癒す。

ついでにネギのクラフトが全体を癒し…

そして。

カシウスは、回復しないままに偉いことをやらかしてくれちゃった。

「ふん!麒麟功!」

アルシェムは内心悲鳴を上げた。

因みにアルシェム、最初以外戦闘にほぼ参加していない。

回復に専念するしかないのだ。

「…流石、カシウスさん。だが…!洸波斬、洸波斬、洸波斬!」

「だから、ずっと大佐のターンはやめぃ!」

他人の攻撃が通らないから。

「ああもう、退きなさい、タマネギさん!」

「誰がタマネギぐわぁ!?」

抗議の声を上げようとしてカシウスに吹き飛ばされるリシャール。

哀れ。

「よそ見している暇があるのか?」

いちいち反応してたら死ぬよ?

「もう、知らないわよ!」

そして、レンは一気に後ろに下がり…

って待てぇ。

「全員下がって!」

それに気付いたアルシェムが叫んだ。

 

「来て、パテル=マテル!」

 

そこに、おなじみパテル=マテルが現れる。

「ちょ、レン!?流石にやりすぎよ!?」

「良いから下がるんだ、エステル!大佐もです!」

地響きを伴って。

マジで虚空から現れたよ。

というか、入り切れてないよ。

 

「レンの敵を薙ぎ払いなさい!ダブルバスターキャノン!」

 

エネルギーの奔流がカシウスを呑みこ…

「な…ぐっ!?何のぉぉぉぉ!」

めなかった。

「え、ちょ、生身で凌げるもんじゃねーから!フィリップさんもだけど!」

パテル=マテルは周囲を破壊して…

そして、消えはしなかった。

「レン、無茶だよ!?」

「大丈夫よ。だって、レンのパテル=マテルだもの。」

「いや…ま、いっか…強力な味方だしね。」

パテル=マテルがいる限り、レンは大丈夫だ。

なら…

「ケビン!まだ!?」

殺気から回復で集中を途切らせざるを得なくなっていたケビンがそろそろ動いてほしいのに。

「もうちょい待ってや!」

まだだというので、アルシェムは回復を一時放棄した。

「…仕方ねーな!」

今度は、アルシェムの番だ。

 

「受け切ってよね、カシウスさん。…わたしは、ただ一人の空をゆく。」

 

大量の銃弾をばらまき、逃げ場をなくす。

「ふ、受け切ってやるさ。可愛い娘の反抗期くらいはな…!」

誰が、娘だ。

 

「誰にも邪魔なんて、させない。…行くよ、アリアンシエル!」

 

全力を込めて、カシウスの動きを止める。

ダメージが入れられるなんて、思っちゃいない。

だから…

これは、布石だ。

そう時間がかからないと踏んだうえでの。

「行くで…!」

「アイサっ!」

ケビンの叫びを聞いて、アルシェムが飛び退く。

 

「祈りも悔悟も果たせぬまま…千の棘を以てその身に絶望を刻み、塵となって無明の闇に消えるが良い!」

 

ネギのための、布石。

流石にそれを避けきることは叶わなかったらしく、膝をつくカシウス。

そこに…

 

「桜花斬月!」

 

リシャールの大技が決まる。

だが…

それでもなお、カシウスは立っていた。

「く、これでもダメか…!」

「まだ諦めないでよね、大佐!諦めたら終わっちゃうわよ!」

「…うむ。」

それからも猛攻を続けるが、勝てる気がしない。

アガットは軽くあしらわれる。

エステルを吹き飛ばすことでヨシュアの動揺を誘う。

レンとパテル=マテルに関しては幾度か大技を決めにかかる始末。

ケビンもアルシェムも、回復に回らざるを得なくなっていた。

「…く、一体どうしたら…」

「はあはあ…勝ち目が見えない…」

「パテル=マテル…」

いくら打撃を入れても、受け切られてしまう。

アルシェムの本気も出せないでいる。

流石に、エステル達の前でカシウスの首を落とすわけにはいかない。

「…滅茶苦茶すぎるで、これ…」

「諦めるな…!諦めたら、出られないのだぞ!?」

「分かっとりますけど…!」

だけど。

 

まだ、取れる手があった。

まだ、出来ることがあった。

 

だが、今ここでは、出来ない。

許可が出ていない。

「…ケビン。」

「何や、アルちゃん。」

「…打開出来なかったら、帰れないんだよね。」

それでも。

アルシェムは、その手段を取ろうとしていた。

皆を帰さなければならない。

「ああ…って、まさか!」

「あんまりやりたくは、なかったんだけどね。」

そうするしか、勝つ手段はない。

だから、アルシェムは。

「…アカン!それだけは…!」

ケビンの制止も聞かずに、数秒強く目を閉じる。

「やらなくちゃ帰れないでしょ。…皆には、口止めしてよね。わたし、法術苦手なんだから。」

そうして。

アルシェムは、集中し始めた。

「あと、30秒だけわたしに頂戴、皆。」

「それくらいは頑張るわよ!はあああっ!旋・風・輪!」

エステルがカシウスの接近を拒み、それにヨシュアが追撃を掛ける。

「せいっ、はっ!」

「何を考えているかは知らんが…無茶はするなよ、アルシェム?」

無茶をさせている相手が何を言っているのだか。

だが、それで集中が途切れることはない。

「パテル=マテル、ダブルバスターキャノン!」

レンが決定的にカシウスを跳ね飛ばし…

「今助けたる!ホーリーブレス!」

そして、30秒が経過した。

 

「…我が深淵にて煌めく蒼銀の刻印よ。」

 

呟くように詠うアルシェム。

その言葉で、数人の顔が引き攣る。

「え…!?」

「シエル…!?」

「まさか、お前…!」

それを気に留めることなく、詠唱を続けるアルシェム。

 

「その力を解き放ち、愚かなる者に裁きを与えよ…」

 

ばきりばきりと、カシウスの周りに生える氷の檻。

ここまででかなり体力を削られていたカシウスには、最早、避けることすら叶わず。

その氷の檻に捕らわれた。

そして。

 

「…収束。…発射!」

 

アルシェムの前に収束した空気中の水分は、アルシェムの聖痕にあてられて氷と化し。

そして、まっすぐにカシウスへと突き刺さった。

「な…ぐっ!?」

ぐらり、と傾ぐ体。

それは、アルシェムの身体であり、カシウスの身体でもあった。

それに、鞭打って。

「…大佐、決めて!」

アルシェムは叫んだ。

「…ああ!」

そして…

 

「桜花斬月!」

 

カシウスは、膝を付いた。

「…ふぅ…」

溜息を吐いて。

ゆっくりと立ち上がり、そして…

こう、のたまった。

「…まさか、アルシェム…お前は…」

「それ以上言わないで貰えませんか。」

思ったよりも、硬い返事になってしまった。

その後の言葉を言わせないために。

「…そう、か。それがお前の選んだ道なら何も言わん。」

選んだのではなく、選ばされたのだと。

「あら、冷たいのね?天下の《剣聖》さんは。」

レンが揶揄するように言えば、カシウスは顔を歪めた。

「アルシェムには、もう何も言えないからな。俺はアルシェムの親にはなれなかったようだから。」

誰も、アルシェムの親になんてなれない。

物理的にも、精神的にも。

「…そう。あ、言っておくけれど…レンは、まだ負けてなんかないんだからね。」

「ほう?」

カシウスの揶揄するような声に、レンは傲然と胸を張って応えた。

「だって、シエルはレンのお姉さんなのよ?レンは…シエルの家族だもの。そういう意味では、レンの勝ちでしょう?」

「レン…」

まあ、ある意味合ってはいるが。

「フフ、そうかも知れないな。」

微かに笑うカシウス。

そこに、ボロボロのエステルが口を挟んだ。

「…にしても…父さん、やりすぎよ…」

「そうか?どの道、俺という壁を越えねばならん日が来たはずだ。それがこんな特異な場所で叶うとも思ってはいなかったがな。」

誰も思ってはいなかったはずだ。

というか、考えたくもなかったはずだ。

「…リシャール。迷いは、晴れたか?」

「ええ。漸く…己の選んだ道を胸を張って進もうと思えるようになりました。」

「そうか…やれやれ、折角お前が戻ってきたら全部押し付けて隠居してやろうと思っていたんだがな…」

隠居って。

色々と無理があるような気がしてならない。

一同はそう思ったとか。

「父さん、その表現だと年喰ったジジイみたいだよ…」

「う、うるさい!」

「まーまー。父さんがジジイになる前にはちゃんとリベールには帰るから。」

いや、もっと前に帰ってやれよ。

「む…アルシェムと、そこのレンという御嬢さんも一緒にな。」

「「だからないって言ってる(よね/でしょ)!?」」

「うん、そうさせて貰うわね♪」

人の話を聞け。

「さて…そろそろ時間のようだ。ケビン神父、もう気付いただろう?」

「ええ…まあ。多分、次の領域で確信出来る思います。」

「そうか…これだけは忘れるな。…人は、どう望もうが…真の意味で、孤独ではいられないということを…」

そして、カシウスは消えた。




…あるぇー。
何で6000字超えてんのこれ。
加筆しすぎた?
分けるべき?
でも、分ける場所ないよ?

では、また。

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